2017年3月25日 (土)

行動科学

最近「決定木」という言葉をよく耳にします。

ウィキペディアを引くと、

「決定木(けっていぎ、decision tree)は、(リスクマネジメントなどの)決定理論の分野において、 決定を行う為のグラフ」

とあり、

「機械学習の分野においては決定木は予測モデルであり、ある事項に対する観察結果から、その事項の目標値に関する結論を導く」

「決定木学習はデータマイニングで良く用いられる方法でもある」

などと説明されています。

ちょっと分かりづらいかもしれませんが、その基本コンセプトは実は簡単なことです。

その昔、スタンフォードのビジネススクールで、「行動科学(Decision Sciences)」という科目がありました。

以下は当時のコース概要書にあるこのクラスの説明です。

Decision_sciences

このクラスの中で、学生は決定木(けっていぎ、decision tree)を学ぶのですが、これは物事を科学的(scientific)に考える上で役に立ちます。

我々の人生は幾つかある選択肢のなかで判断を求められることの連続です。

「設備投資を行うか、否か」

「この製品を上市するか、どうか」

「出版社から依頼のあった本の執筆を受けるか、どうか」

「転職の誘いが来たが、とりあえず話だけでも聞いてみるか、どうか」

こうしたとき、ただ漠然と考えるのではなくて、確率と期待値に落とし込んでみると、的確な判断を下すうえでの一助となります。

Dt_2

上は、決定木をゴルフを例に説明したもの(『拙著』の183~188頁参照)。

パー4のホールで、最初の ショットを林のなかに打ち込んでしまったとします。

林からいったんフェアウェイに出して、安全策を取って3オンを狙う(A案)のか、林のあいだを抜けて2打目でグリー ンに乗せることを狙う(B案)のか。

それぞれのケースでどう確率を評価するかで答えは違ってきます(上は一例に過ぎません)。

ポイントは、幾つかの選択肢を選ぶとき、そして重要な判断をくだすときに、この種の場合わけと確率評価をきちんとして判断の一助としていくこと。

人工知能の場合、こうした決定木的なアプローチを繰り返し、的確な判断を瞬時に下し、間違っていたとしたら確率評価などに修正を加え、どんどん賢くなっていきます。

経験と勘による判断も重要ですが、この種のアプローチを併せて行うことで、考えが整理されていくことにも繋がります。

私自身の人生をふり返ってみても、「転職するか、しないか」など多くの判断をしてきましたが、その際、こうした decision tree に書き起こすことをしてきました(さすがにゴルフ場で decision tree を書くことはしてきませんでしたが)。

みなさんも利用されてみては如何でしょう。

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2017年3月23日 (木)

ドル高を覆う霧

昨日のニューヨークでは110円台を付けていた為替。

いままた111円台に戻していますが・・

さて、21日(火)に放映され、昨晩再放送された日経ヴェリタストークですが、『こちら』でもご覧になれます。

昨年11月以降、マーケットでは日米の金利差が意識され、これが為替を決める大きな要因となってきました。

市場で誰もがそう思う時には、その要因で市場が動いてしまうのですが、もう少し長いスパンで見ると、これまでには、金利差と全く逆の動きを市場が示してきたこともあります。

そもそも

1)金利が高い→その国の通貨が高くなる

の側面に目を向けるのか

あるいは

2)金利が高い→その国はそもそもインフレだ→インフレ国の通貨は相対的に価値が低い

の側面に目を向けるのか

で、答えはまったく別になってしまいます。

番組に後の方ではその辺を中心にお話ししました。

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2017年3月22日 (水)

昨年9月以来最大の下げ

昨晩このブログでトランプ・リスク(支持率37%)について書いたのですが、

その後のNY市場では、オバマケア(医療保険制度改革)の代替法案について可決が危ぶまれることが報じられ、

トランプ政権の政策運営が停滞するとの見方が強く意識されるようになりました。

その結果、数週間前は2.6%をつけていた長期金利(10年もののUS Treasury Note)は、2.41%にまで下落。

日米金利差は縮小し、為替は111円台へ。 

イールドカーブの傾斜が緩み(フラット化の方向に進む)、金融株が下落。

これと共に他の株も下げて、米国株式は昨年9月来、最大の下落となりました(『こちら』)。

米国株下落と円高のダブル・パンチが本日の日本株市場を襲います。

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2017年3月21日 (火)

為替相場を読み解く

今晩は日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』に出演しました。

トピックスは「ドル高を覆う霧」。

     Nv

ドナルド・トランプが米国の大統領選挙に当選した後、円安が進んで、12月15日には1ドル118円台前半まで円が売られました。

しかし、その後は一転して円高が進み、2月6日には111円台後半まで円が上昇していきます。

こうした中、米国のFRBは、先週、 政策金利を3ヶ月ぶりに 0.25%引き上げることを決めました。

また、米FOMCのメンバーは、今回を含めて年内に3回の利上げを予想していることも明らかになりました。

日銀が緩和的な金融政策を続けていることから、 日米の金利差は広がっていく方向にありますが、 こうした状況にもかかわらず、今年に入ってからは円安が進んでいません。

いったい何が起きているのでしょうか。

* * * *

まず昨年11月~12月にかけての為替相場ですが、円安に振れた背景には、米国の長期金利の急騰があります。

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   (上記チャートはInvesting.com より)

11月9日、1.858%でスタートした米国10年債(Treasury Notes)利回りは、12月15日には2.606%にまで急上昇。

日米の金利差が意識され、為替も一気に円安に振れました。

しかし米国の長期金利急騰の動きが止まり、トランプ大統領の「我々の通貨は強すぎる」といった発言が報じられるに及んで、為替は一転して円高気味に推移。

先週のFOMC後には「米国の利上げは、今年は4回ではなく3回が濃厚」と報じられました。

このニュースは、日米の金利差は(利上げが年4回ではなく3回だとすると)「当初想定していたほどには拡大しない」と解釈されました。

その結果、先週初めには114円台後半だった為替は一気に112円台へと突入してしまいました。

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   (過去1年間の為替レート推移、Yahoo! Finance より)

さてこれから先、為替はどういった動きを示すのでしょうか。

現在のマーケットで意識されているのはやはり「日米の金利差」です。

これをベースとする限り、これから先、金利差は拡大していく傾向にあり、この面だけから考えると、もう少し円安ドル高に振れていきそうです。

しかし為替相場を決定するのは日米の金利差だけではありません。

過去の相場では、日米の金利差の動きとは為替がまったく逆の動きを示したこともあり、(いまは日米の金利差が重要視されているにせよ)これから先のことを考えると、もう少し多面的に見ておいた方が安全かもしれません。

以前のブログにも書いたのですが、2014年12月~15年前半の円安ドル高を受け、15年4月の米国主要企業(P&G、デュポンなど)による決算説明会のプレゼンは「このようなドル高の為替では良い決算を出せない」といった悲鳴に近いような内容が相次ぎました。

つまり120円を超えるようなドル高が続くと米国の産業界は悲鳴を上げる・・。

米国の中西部や南部の労働者の支持を得て当選したトランプはこうした産業界の声を無視できないと思います。

一方で、トランプ政権の中枢にいるウォール街出身者は、ドル高を好む傾向にあります(ドル高であれば海外資金を米国に呼び込みやすい。国や企業の資金調達も有利に行え、ウォール街も潤う)。

こうしたことから、私は基本的には現在の110円~115円のレンジ相場が米国の産業界、金融界、政策当事者の各々にとって、それなりに居心地のよい相場であり、日本としてもこのレベルであればまずまずといったところではないかと思えてしまうのですが、如何でしょうか。

ちなみに先般新しく発売されたトヨタのプリウス・プラグイン・ハイブリット(グレードS)の国内の税抜価格は302万円(『こちら』)。

米国では27,100ドル(『こちら』)。

両者は微妙に違うのかもしれませんが、この2つを均等させる為替レートは111円44銭です。

もっともこれから先、いろいろなことが起こってきます。

たとえば:

①フランスの大統領選挙の結果がどうなるか

②37%と歴史的に低い支持率(『こちら』)にトランプ政権が耐え続けることが出来るのか

③トランプ政権は先週末フロリダで北朝鮮を集中討議したとのことだが、今後どうなるのか

そういった意味では不透明感が漂い続けることになりそうです。

なお詳しくは番組をご覧になって頂ければ幸いです(明日、夜9時30分より再放送)。

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2017年3月18日 (土)

クイズ

昨日発売となった 『文系が20年後も生き残るためにいますべきこと』 の174頁から。

* * * * *

『ここでクイズをひとつ。

●次の人物に共通するものは何か、答えなさい。

①ピーター・ドラッカー(経営学者)

②アンネ・フランク(『アンネの日記』の著者)

③ジョージ・クルーニー(アカデミー賞受賞の男優)

④ジェフ・ベゾス(アマゾンの創業者)

⑤ラリー・ペイジ(グーグルの共同創業者)

⑥サーゲイ・ブリン(グーグルの共同創業者)

      *

答えは全員ユダヤ人かって? 

否、たとえば、ジョージ・クルーニーはユダヤ人ではない。

彼の祖先はアイルランド系、ドイツ系、イングランド系で、厳格なローマ・カトリックに育てられた。

答えは、全員が幼少時にモンテッソーリ教育を受けたこと』

* * * * *

米国に住むフランス人のAさんは子供をモンテッソーリの幼稚園に通わせているのですが、悩みの種は学費が高いこと。

年間200万円くらいかかると言っていました。

もちろん米国の中でも地域によって違いがあるのでしょうが・・・。

なお日本でもモンテッソーリ教育を行っているところがあります。

ところで、グーグルのラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンが自分たちの受けたモンテッソーリ教育について語っているYouTubeの動画があります(『こちら』)。

2人とも親が大学教授で nursery school はモンテッソーリ教育のところへ通ったといった具合に共通点が多かったようです・・・。

ご関心のある方は上記動画(たった1分28秒で終わります)を見るなり、上記の拙著を本屋さんで覘いてみてください。

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2017年3月17日 (金)

書店に並びました

    Shinjyuku_3

          (紀伊國屋書店新宿本店)

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       (文教堂書店赤坂店)

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2017年3月11日 (土)

日本が学ぶべきシリコンバレーの精神

ほぼ月に1回のペースで日経ヴェリタス紙に「Money Never Sleep」という名のコラムを書いています。

明日発売の日経ヴェリタスに掲載される「Money Never Sleep」のタイトルは、「日本が学ぶべきシリコンバレーの精神」。

シリコンバレーの日本人起業家の話です。

冒頭はこんな感じで始まります。

「シリコンバレーで起業する日本人が増えてきている。 

そんな起業家の先駆けとも言える坂本明男さん(70)が日本に帰国した際に東京で会った。 

坂本さんは1968年にNECに入社後、96年に退社して、シリコンバレーでホロンテック社(ネットワーク負荷分散装置の開発)を設立。 

この会社はすぐに世界9ヶ国に拠点を有し、従業員数も200名を超えるようになった。  

その後、2001年にはネット・マーケティング・ツールの開発を手掛けるオーラライン社を、 

そして2002年にはデータベース・セキュリティ開発のアイピーロック社を立ち上げるといった具合に、 

20年間にわたって次から次へと会社を創業し、成長させて、大企業などに売却してきた」  

* * * * * * *

坂本さんは現在、日米双方の複数の会社の役員を務めています。

シリコンバレーから車で40分ほど行ったところにある海辺の町アプトスと東京の双方に自宅を有し、1年の半分は日本、残り半分は米国といった生活を送っているとのことです。

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   (アプトスの海岸;From Wikipedia;By Prg - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26165299)

そんな坂本さんの話には日本の我々にとってヒントになることがたくさんありました。

例えば(以下再びコラムからの引用):

「シリコンバレーの人たちは、これから先、2年から5年間で成功が見えない会社はさっさと諦めて、新しい会社を起こしたり、別な会社に入社したりする。 

『自分がいま勤めている会社は成功できない』(持っているストックオプションの価値がなくなる) 

―こう判断した場合には、新しい職場に移ることが当たり前で、それが出来ない人はいない。 

もちろん逆に、会社が突然破産するとか、会社を首になることもある。 

このため多くの人が必死に就職活動をするといった経験をしているが、『みんなそれをたいしたリスクとは思わない』と言う」

* * * * * * *

実際に坂本さんと会って話したり、メールのやり取りをするだけでも、彼が大変なアイデアマンであることが分かります(日米合わせて50件ほどの特許を取得してきたとのことです)。

現在でも特許になる可能性の高い新製品のアイデアやビジネス・プロセスが浮かんでくるとのことで、次のように言います。

「日本人の多くは、調査会社で調べたらビジネスにならないと言われたとか、他の人に聞いたら、そのようなマーケットは存在しない、そんなの流行らないと言われたとか…。

自分の意思が弱すぎると思います。

私は、調査会社は自分が教育する。

他人に聞いて、10人中6人以上が面白いというアイデアはむしろ陳腐で遅すぎる。

10人中1人か2人しか面白いと言わないアイデアでも、世界中ではすでに20人くらいが同じアイデアを創造して、会社を起こすか、製品開発を始めようとしている。

こう考えて、私はこれまで会社を創業してきました」

* * * * * * *

まだまだ興味深い話が多い(例えば捨てる経営とスピード経営について)のですが、ここでご紹介させて頂くのはコラム全体の半分くらいにさせてください。

全文については是非とも日経ヴェリタス(明日発売)の紙面にてご覧になって頂ければと思います。

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2017年3月 6日 (月)

リスクシナリオを頭の片隅に入れておく

今朝、北朝鮮がミサイルを発射したかもしれないとのニュースが報じられています(『こちら』)。

真偽のほどは分かりませんが、北朝鮮については米国が軍事作戦を考えているとのニュースも伝わってきています(『こちら』)。

またフランスでルペンが大統領に選ばれることになれば、ユーロは瓦解へと向かって動き出します。

個人投資家の方は、こういったリスクシナリオもあり得ると「頭の片隅に入れておく」ことが必要です。

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2017年3月 5日 (日)

知性の磨き方

齋藤孝『知性の磨き方』

今年の初めに出版社から献本して頂き一度読みました。

その時の感想は「いい本だな。感想を書いてみたい」というものでしたが、奥行きの深い本だけに簡単には書くことが出来ず、今日に至ってしまいました。

結局2度読みに近い形になってしまいましたが、2度読みの価値はあると思います。

どんな人に向いているかというと、多分悩んでいる人に向いているのではないかと思います。

     Photo  

著者によれば、

「知性とは、困難な問題や厳しい現実に直面したときに、その原因が何であるかを見極める力であり、取りうる現実的選択肢を探る力、そして実際に行動を起こし、対処するための力に他ならない」(本書4-5頁)。

知性は必ずしも知識とは一致しない・・「論語読みの論語知らず」という言葉があるように

「どれだけたくさんの本を読み、膨大な知識を蓄えていても、単にレジュメ風、つまり何年何月にどんなできごとがあり、誰々という偉人がこのようなことをいった、などの事実を羅列式に知っているだけなら、それは雑学」(本書5頁)

でしかないとのことです。

と、ここまで述べた上で、本書は知性を磨くためにも先人たちの思考の過程を追体験してみようと、漱石(第1章)、福澤(第2章)、西郷隆盛(第3章)、西田幾多郎(第4章)などの足跡をたどっていきます。

この中でも圧巻は(少なくとも私にとっては)第1章の漱石の話。

以下、第1章のなかから参考になるかもしれない文章を抜粋していきます。

「当時の日本には、1日でも早く列強に追いつかなければ国が滅んでしまう、くらいの危機感がありましたから、西洋の社会制度や技術、文化・芸術に至るまでたとえ猿真似と呼ばれようと必死に真似していく以外の道はなかったのです。

しかしそれが非常に辛いこと、特に知識人にとっては耐え難い痛みを伴うことを、漱石はよくよく理解していました。

いま西洋から日本に押し寄せている大きな潮流は、決して逆向きに流れることはないし、その波に晒されることによって、日本という国家と日本人は、今後自分を見失いがちになるのは避けられないだろう。

そしてその中で『滑るまい』、つまり自己同一性を保とうとするなら、もはや神経衰弱に掛からざるをえないだろう、というのです」(本書32頁)

「漱石は、〈私には名案も何もない。ただできるだけ神経衰弱に罹らない程度において、内発的に変化して行くが好かろう〉とも述べています。

しかし、聴衆にそう語りかけている漱石自身、実はこのときすでに神経衰弱を相当にこじらせているのです」(本書33頁)

「漱石の懸念した潮流に対し、『だったらこちらも西洋流の生活をすればいいだけだ』と開き直る人もいましたし、逆に『世の中がどれだけ西洋風になろうとも自分はすべて日本式で通す』と意固地になる人もいたはずです。

このようにどちらか一方の極に簡単に振り切れる人の場合は、複雑な現実を見ていないぶん、神経衰弱になることはなかったはずです。

しかし漱石は、そのような単純な考えを持つにはあまり知性が高く、また現実が見えすぎていました」(本書33頁)

「漱石は、日本ではエリートであるはずの自分が、英国の社会においては『日本人である』というだけで軽く見られる経験を留学中に何度かしています。

おそらくはその影響もあり、彼はやがて当時の国際社会における日本の弱い立場を自分自身の劣等感として抱え込むようになりました」(本書35頁)

「やがて漱石は大学へ聴講に行くこともやめてひたすら下宿で英書を読みふけるようになり、ついには精神に変調をきたすようになりました」(本書36頁)

「『こゝろ』という1つの作品だけをとっても実に多くのテーマが読み取れる構造になっています。

エゴと誠実さ。友情と恋愛。近代的自我。罪と罰。真面目に生きるとは。夫婦とは何なのか。師弟関係とは。あるいは殉死の是非、明治とはいかなる時代だったのか等々―。

これだけ多くのテーマを内包すればこそ、読む人が時代を超えて『これは自分の問題だ』と感じさせることができるのであり、同じ1人の読者でも、数年経ってその人の立場や心境に変化が生じると、以前読んだときとはまったく違う印象を受けたりするのです」(本書44-45頁)

「戦後を代表する評論家の1人である江藤淳は、学生時代に『三田文学』で発表し絶賛された論文『夏目漱石』で次のように書いています。

『しかしぼくらが漱石を偉大という時、それは決して右のような理由によってではない。

彼は問題を解決しなかったから偉大なのであり、一生を通じて彼の精神を苦しめていた問題に結局忠実だったから偉大なのである』

『彼が「明暗」に「救済」の結末を書いたとしたら、それは最後のどたん場で自らの問題を放棄したことになる。(中略)そして生半可な救済の可能性を夢想するには、漱石はあまりに聡明な頭脳を持ちすぎていたのである』」(本書45頁)

漱石のこうした悩みぬく姿を紹介しつつ、本書の著者の齋藤孝さんは読者に対してこう語りかけます。

「そもそも現代においては、普通に会社勤めをし、毎日仕事をこなしていくだけでも肉体的・精神的に相当タフであることが求められます。

20~30代くらいの年代だと、自分のキャパシティ以上の要求を多方面から同時に受けていっぱいいっぱいだ、という人も多いでしょう。

しかしそんな溺れてしまいそうな状況にあっても、ほんのひと呼吸ができる足場のようなものが自分の中にあれば、そこで呼吸を整え、自分のペースを取り戻すことはそれほど難しいことではありません。

読者の皆さんには漱石から、そういう場所をもつための方法論も学んでほしいと私は思います」(本書55頁)

* * * * *

悩むことから逃げずに辛くとも正面から向き合う。

何にも悩んでいないように見える人も意外なところで悩んでいたりします。

自分だけではないと知ることでも少しは楽になります。

その昔、『こゝろ』を読んだ時に、暗くて重い陰のようなもの、出来れば「見ないですませたいもの」を、見させられた印象を持ちました。

逃げずに一生悩み続けた漱石であるがゆえの作品だったのだと改めて思います。

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2017年3月 1日 (水)

未来に対する働きかけ

以下は、2週間後くらいに発売になる予定の 『文系が20年後も生き残るためにいますべきこと』 からの1節です(本書136-7頁、145-6頁)。

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■リスクを取らなければ、もっと大きなリスクがやってくる

「明日は必ず来る。

そして、明日は今日とは違う。

そのとき、今日最強の企業といえども、未来に対する働きかけを行っていなければ、苦境に陥る。

個性を失い、リーダーシップを失う。

(中略) 起こっていることを理解できなければ、未来に対する働きかけはできない。

その結果、新しいことを起こすというリスクを避けたために、起こったことに驚かされるというはるかに大きなリスクを負うことになる」  

これは、経済界に最も影響を与えたといわれる経営学者、ピーター・ドラッカーの言葉だ。

彼が言うように、確実に訪れる未来にたいして何の準備もしていなければ、企業であれ一人の人間であれ、苦境に陥ってしまうのは間違いない。  

たしかに新しいことを始めるのには、リスクが伴う。

失敗する可能性もある。

たとえば、あなたがいま、古い体質の企業で働いていたとする。

上司のご機嫌を伺いながらムダな業務に時間をとられ、きちんとスキルを磨く環境もない。

転職をしようと考えるが、転職にもリスクが伴う。

もしかして転職した企業がすぐに潰れるかもしれない、転職したらいままでと比べて給料が下がってしまうかもしれない、転職先で人間関係をうまく築けないかもしれない、そもそも転職先が見つかるかどうかもわからない…… 考え出せばキリがない。

転職しない理由をあげるのは簡単だ。

いまいる企業も簡単には潰れなさそうだし、このままここにいた方がきっと安定しているだろう……、そうやってリスクを回避しているうちに時が過ぎ、あなたは45歳になった。

「やっぱりこの会社に残ってよかった、なんとか定年まで勤められるかな」  

なんて考えていたある日、突然会社が倒産してしまう。

あるいは外国企業に買収されてしまう。

もしくは深刻な業況不振に陥り大規模なリストラが行われる。

しかし、あなたは会社の外で通用するようなスキルなど持っていない。

そのときはじめて、自分の犯した間違いの大きさに驚いてももう遅い。

ドラッカーのいう通り、新しいことを起こすリスクを回避したがために、もっと大きなリスクに見舞われてしまったのだ。

……ピーター・ドラッカーはこうも述べている。

「明日を築く土台となるビジョンは、不確実たらざるを得ない。

それが実現したとき、どのような姿になるかは、誰にもわからない。

成功するかもしれないが、失敗するかもしれない。

もし、不確実でもなく、リスクを伴うものでないならば、そもそも未来のビジョンとして現実的ではない。

なぜならば、未来それ自体が不確実であって、リスクを伴うものだからである」  

ドラッカーによれば、そもそも未来とは不確実なものだ。

正解はない。

たとえばあなたが転職や起業を考えていたとして、ひとつも失敗の要素がないとしたら、それはドラッカーが言うように未来への選択肢として間違ったものである可能性が高い。  

よく考えてみると、私たちの周りに確実である事実などほとんどないのかもしれない。

今日あるものが突然明日消えていることなど珍しいことではない。

確実なことがあるとしたら、いま生きていて、いつか死ぬということくらいだ。

そして死を迎えるその日まで、未来は続いていく。  

朝起きたら、終身雇用が終わりを迎えているなんてこととは、比べ物にならないほどの天変地異が起こるかもしれない。

そのとき、あなたはどうするだろうか。

どう生きたいだろうか。

正解のない不確実な未来を生きるためには、まず必要なものはなんだろうか。  

ビジネスの世界で生き抜くためのスキルや知識はもちろん大切なものだ。

だが、それも時代によって変化していくものだ。絶対的なものではない。  

では何もかもが不確実な世の中において、必要なものは何か?  

それはあなたの「こうしたい」「こう生きていきたい」という強い意志だ。

現実がどう変化しようと、あなたの「こうしたい」という強い意志があれば、それに合わせて情報を収集したりスキルを向上させたりすればいい。

逆にいえば、いくら高度なスキルを持っていたとしても「こうしたい」という意志がなければ、他人に振り回され利用されるばかりの人生になってしまう。

あなたはいまなぜ働いているのだろうか。

なぜ学校に行っているのだろうか。

そしてこれからどんな人生を歩んでいきたいと考えているのだろうか。

未来が不確実で不安であるからこそ、強い意志を持つことが人生の羅針盤になる。

* * * * * * * *

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極度の心配性の人間だけが変化に適応できる

これはインテルのアンディ・グローブの言葉です。

1996年に彼が著した本のタイトル 『Only the Paranoid Survive』 を訳したものなのですが、

日本では『パラノイアだけが生き残れる』との言葉で広まっているかもしれません。

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一昨日のテレビ (『こちら』) で、

「企業は高いマーケットシェアと利益率を取っていれば安心なのか」

といった趣旨の質問がありました。

私は「そんなことはない」と答え、それを説明する為に、思わず頭に浮かんだのが、このアンディ・グローブの言葉でした。

パラノイア(偏執病)とも形容しうるような極度の心配性。

これをもってしてインテルの経営にあたっていたグローブのことを思うにつけ、

それとは対照的に、例えば東芝の経営陣は、

何であっさりと安直に米国のCB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)を買収してしまったのか、

不思議でなりません。

アンディ・グローブはスタンフォードのビジネススクールで教鞭をとることもしていました(『こちら』 および 『こちら』)。

彼から直接教えを受けたという日本人も多いと思います。

インテルの執行役員だった板越正彦氏はネット上に 『こんな記事』 を残しています。

早いものでアンディ・グローブが亡くなってからほぼ1年になります。

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2017年2月28日 (火)

インベスターの眼力

昨晩は日経CNBCテレビ、日経ヴェリタストークに出演しました。

タイトルは『インベスターの眼力』(再放送は、明晩9時30分から)。

なおパソコン、スマホでもご覧になれます(『こちら』をクリックしてください)。

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