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2011年10月19日 (水)

オリンパスによる不可解なM&A (オリンパス その1)

オリンパスが本日付けでプレス発表をしました。以下、このプレスリリースに掲載されていた表を掲げます(表の上でクリックすると大きくなります)。

(なお詳しくは→『こちら』をクリックしてプレスリリースの全文をご覧ください)。

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上表のとおり、2007年~08年にかけて買収した英ジャイラス社買収に際してオリンパスがフィナンシャル・アドバイザー(以下FAと言います)に対して支払った手数料は687億円

(【注】取引が行われた当時の為替レートは107~111円のレベルと推定されますが簡略化のため1ドル=100円として換算しています)。

オリンパスは「取引自体に不正・違法行為は認めらず・・」と発表(詳しくは→『こちら』のプレスリリースをご覧ください)。

しかし2008年3月期の同社有価証券報告書を見る限り、英ジャイラス社の買収金額はせいぜい2,600億円程度。

これに対して687億円の手数料を支払うことは(M&Aの業界では)常識的にあり得ません。

唯一可能性があるとしたら、M&Aの手数料にインセンティブ・フォーミュラを組み入れた場合。

たとえば、英ジャイラス社は本来5,000億円はするはずと誰かが「正当に」評価したとします(【注】当時上場していた英ジャイラス社の時価総額は報道によると1,500億円程度ですので、こういった想定は本来意味の無い想定なのですが100歩譲ってこの種の議論を少し続けます)。

インセンティブ・フォーミュラとは、

「これをFAの特別な働きかけによって 2,600億円で買えれば、差額分2,400億円(5,000億円-2,600億円=2,400億円)の(たとえば)28%である672億円はFAに払います」

といった具合に事前に決めておくやり方です。

こういったインセンティブ・フォーミュラは実は売却案件のアドバイザーに対しては取り入られることがよくあります(例:かつてのイタリア・ピレリ社による通信関連部門売却)。

しかし「買い」案件の場合は本来の価格算定が難しく、この種のインセンティブ・フォーミュラを入れることは実際にはほとんどあり得ません。

そしてオリンパスが発表した上記プレスリリースによっても、今回この種のインセンティブ・フォーミュラが取り入れられていないことは明らかです。

だとすると2,600億円程度の買収に際して687億円の手数料を支払っておいて、なにゆえ当社は「取引自体に不正・違法行為は認めらず・・」と結論できるのでしょう。

そもそも上記プレスリリースにはこれだけの手数料を払った相手先のFAの名前さえありません。

私は日本の銀行(興銀)および米国の投資銀行3社でM&Aの仕事に関与してきました。

その立場で申し上げると、今回のような買収の場合、手数料は基本報酬(Engagement Fee、リティナー・フィーなど)がせいぜい1億円~2億円(【注】500万円~1000万円程度のところもあります)、成功報酬手数料は、5億円~12億円程度。

それが本件では基本報酬(成功の如何にかかわらず)が5億円。そして成功報酬等が682億円(「等」と記したのはFAに買収対象会社の優先株を発行してこれを値上がり後買い戻すという不透明な取引をしているからです。この件はこの件で利益相反の疑義もあり得、通常行われていないことですが、ここではこれ以上、書きません)。

何れにせよFAに支払われたのは、通常の60倍くらいの「ありえない水準」の金額になっています。

なお若干捕捉しますと、投資銀行などではM&Aの手数料テーブル(料率表)を社外秘としているところも少なくありません。すべては顧客との間で交渉して決めることが多いからです。

ところがこれを支払う側の企業からすると、(欧米では)手数料について株主から質問されることも多いため、最初からこれを開示してしまうこともよくあります。

たとえば史上最大の買収合戦と評された世界2位の鉄鋼会社ミタルによる同1位のアルセロールに対する敵対的買収(2006年)。

このときはゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなどの世界中の投資銀行13行が攻守どちらかに雇われました。

そしてこれら13行に対して支払われた手数料が総額で200億円に達したと欧米のマスコミの話題をさらいました。(このときの買収金額は3.3兆円。オリンパスの行ったM&Aの13倍の規模です)。

【注】こういった例を丹念に拾い上げていくと、買収額が1,000億円を超えるようなディールでは投資銀行はなかなかリーマンフォ―ミュラなみの手数料が取れていないことが分かります(拙著『M&A新世紀』参照)。

繰り返しますが、買収金額3.3兆円のM&Aで、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチ、ドイチェ・バンクなど世界のM&Aのトッププレーヤー13行全部に対して支払った手数料の合計総額が200億円です。

オリンパスが支払った687億円の手数料がいかに常識外のものかがお分かり頂けると思います。

なお本日の朝日新聞はオリンパスの記事を経済面ではなく社会面に載せました。

これは適切な判断であったと思います。

この朝日の記事によると、ウッドフォード前社長は「日本の月刊誌にオリンパスの経営やM&Aをめぐる記事が掲載されたことをきっかけに・・事実関係を照会した・・」とあります。

この月刊誌とはおそらく『こちら』の記事のことだと思います。

これは7月下旬に発行されたものですが、その後も同誌はこの問題をフォローし続けています(9月15日付『こちら』、10月10日付『こちら』、10月17日付『こちら』)。

いずれにせよ今回の件については解任されたウッドフォード前社長が17日に英国の捜査当局に関係書類を提出したとのことですので、捜査の進展を見守りたいと思います。

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コメント

岩崎様

今回のM&Aの手数料がいかに常識外れなものなのか、素人の私でも驚きです。

ちなみにご存知かもしれませんが、ネット上でウッドフォード氏から菊川会長への書簡らしきものが出回っているようです。
なぜDear Tomなのでしょう(笑

http://graphics8.nytimes.com/packages/pdf/business/20111018/letter-text.pdf

投稿: コジコジ | 2011年10月19日 (水) 22時27分

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