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2017年5月 6日 (土)

高等教育の無償化と憲法改正

高等教育を無償化するには憲法改正が必要か。

この問題は憲法 第八十九条との関連で議論になることが多い。

まず 第八十九条を見てみよう。

【第89条】 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

* * *

前段はいいとして、後段の「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業」に対して、公金その他の公の財産を支出することは憲法上、認められない ― このことに留意が必要だ。

* * *

つまり「公立高校」の無償化は問題ないとしても、私学の場合は 第八十九条に言う「公の支配に属しない・・教育」との関連で議論になりうる。

これに対して例えば小嶋和司・大石眞「憲法概観」(有斐閣双書)は次のように述べる。

『この点において、学校法人等の「経常的経費」への助成措置を定めている私立学校法(昭24法270)、とくに私立学校振興助成法(昭50法61)の合憲性が、しばしば問題とされる。

これについては安易な包括的支出を抑止するための具体的措置が講じられている限り、違憲とはいえないと考えられる』(241-242頁)

清宮四朗「法律学全集3 憲法Ⅰ」(有斐閣)はもう少し慎重に次のように述べる。

『もっとも問題になるのは、「公の支配に属さない事業」とは何を意味するかである。

種々の説が行なわれているが、国又は地方公共団体の監督・指導によって、組織・運営の自主性が失われていない私の事業と解すべきであろう。

これに対し、人事、予算、事業の執行などについて、自主性を失うとみられるほどの強い監督を受けるものは「公の支配に属する事業」である。

現行法の例によると、私立学校法は、学校法人に対し補助金等の助成をなすのに関連して、所轄庁は、業務または会計に関し報告を徴すること、助成の目的に照らして不適当であると認める予算の変更を勧告すること、違法の行為をした役員の解職を勧告することができるとしている(私立学校法59条)。

また、社会福祉事業法(56条)、児童福祉法(56条の2)などにも同じような規定がある。

しかし、この程度の監督では、事業はなお自主性をもち、公の支配に属するものとはみられないから、助成との関係からみて、憲法上の疑義が残される。

憲法の規定は、公的な財政的援助に伴い、私的事業の自主性を害することを嫌って設けられたものであろうが、援助をする以上は事業の自主性は認めず、事業の自主性を認める以上は援助はしないと割り切っている憲法の態度そのものが、立法論としては、問題である。

わが国の私立学校等の経営の実情はこれに対する反省材料与えている。

慈善、教育、博愛等の事業は、事業としては、公共性の強いものであり、性質上国家も尽力すべきものである。

私人がそれを行う場合は、国家の力不足補う意味がある。

したがって、国家がそれに財政的援助を与えるのはむしろ当然であり、望ましいことである。

にもかかわらず、事業の自主性にこだわって、援助をしぶるのは、憲法自身の矛盾とみなされる』(265-266頁)

阪田雅裕編著「政府の憲法解釈」(有斐閣)には、この問題に関する国会での政府の答弁、答弁書などが収められている(237-242頁)。

長くなるので全文を記すことは控えるが、要は次の文章に要約される。

『政府は、国等が民法の規定(平成18年法第50号による改正前)に基づき設立される公益法人に対する程度の監督権限、すなわち法人設立の認可権や一般的な監督権限を有するのみでは「公の支配に属」するとはいいがたいとして、慈善・博愛の事業については社会福祉事業法などを、教育事業については私立学校法等を特別に制定し、これらの法律に基づいて国等が法人の人事や財務に対しても一定の権限を持つことが、第89条の下での公的な助成が許容されるための要件であるとしてきた』(238頁)

* * *

以上、現行憲法の下でも「公立」の高等教育無償化は問題ないし、私学であっても(解釈上疑義は残り得るものの)問題なく対応可能であると言い得る。

斯かる状況下で、高等教育無償化を実現する為に憲法を改正するというのは、国民には理解されにくいのではないか。

ほんとうにこれを実現したいのであれば、まずは「公立」の高等教育無償化を「予算措置を講じ法律で定める」のが第1歩だと思う。

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