経営することの面白さ
久しぶりに面白い本を読みました。
読み終わっての感想は、
「この本はテレビドラマ化されるのではないか」。
たとえば堺雅人さんに主人公を演じさせれば、半沢直樹以上のヒットも夢ではないような気がします。
著者の言によれば、この本は「起こった事実をもとにしながらも、一つのフィクション、パラレルワールドの物語として書き連ねた」とのこと。
要は、銀行名など差し障りある箇所を適当に変えたと理解しました。
とは言いつつも、本書に出てくる穂積銀行とは、なんとなくどこの銀行か、想像がつきます。
しかも、三井住友銀行に至っては、実名で登場するし・・。
まぁ、こう書くと、なんだか暴露本のように思われるかもしれませんが、そうではありません。
著者は経営者であって、小説家ではない。
しかし事実が小説よりも面白いので、事実をたんたんと書こうとした。
そうすると迷惑をかける人もいるかもしれないので、一部デフォルメ化した、ということなのでしょう。
結果、本書は、普通の小説とはまったく違ったものに仕上がっています。
単に事実を綴ったものなのですが、そこには圧倒的なリアリティがあり、このリアリティこそが読者を引きつけます。
それゆえ、この本はビジネス書を読むよりも数十倍もためになりそうです。
若い人には学校などでビジネスを学ぶよりもまずは本書を読んでみることをお勧めします。
読み終わって、きっとこう思うはずです。
会社を経営するって、すごく面白そうだ。
そうなのです。
会社を経営するということは、努力をすること、そして何かを成し遂げるということであり、達成感を味わえることなのです。
それも半端でない達成感を味わえます。
さて、この本の舞台は、経営破綻しかけた眼鏡の小売り「オンデーズ」。
これは、実際にある会社で、ウィキペディアによると、現在では、10ヶ国で200店舗以上を展開しているとのこと。
著者は、この本の主人公で、ふとしたことから、この会社をたった(!)3千万円で買うことになります。
30歳の青年社長です。
当時の「オンデーズ」は、日本全国に約60店舗を展開する眼鏡のチェーン店。
しかし赤字で倒産寸前でした。
この本は、著者がこの会社を再生していく過程を綴ったものなのですが、まさにハラハラ、ドキドキの連続。
冒険物語を読むような感じで、小気味よくストーリーが展開していきます。
繰り返しますが、当時の「オンデーズ」は、日本全国に約60店舗を展開する眼鏡のチェーン店。
それをたった3千万円で買収したということなのですが、実は、このとき会社が背負っていた銀行借入金が14億円。
会社を買収したのですから、彼は、この借金もいきなり抱え込むことになります。
つまり、会社の借入金に対して銀行は社長の個人保証を求めてきます。
当然と言えば当然なのですが・・・。
会社が借金を返せなくなれば、著者である30歳の青年社長が保証履行(会社に代って返済)せざるをえず、
しかしそれは絶対に不可能ですから、
彼は自己破産を強いられてしまいます。
しかも14億円の借金はすべて短期の銀行借入金。
このため、毎月の銀行に対する約定返済額は8千万円から1億円。
それなのに買収した会社は営業赤字で、それも、なんと・・・!
毎月2千万円近くの営業赤字額を出している。
要はそれだけキャッシュがどんどん流出している。
案の定、買収してわずか数週間後には1千万円以上もの資金が足りないという、いきなりの緊急事態が発生します。
ということで、物語は冒頭からジェットコースターのような展開を辿ります。
そもそもこの30歳の新任社長が「オンデーズ」と関わることになったのは、初代社長との出会いが発端。
このとき会社の経営権は、当時の実質親会社であったRBS社が送り込んだ2代目社長に移っていました。
著者は、初代社長から「会社の経営権を取り戻したいので手伝ってほしい」と依頼されたのだとか。
しかし詳しく内情を聞いていくうちに、初代社長の我儘な態度や傲慢な自己主張、従業員の気持ちを無視した振る舞いなどに愛想を尽かして、さっさっと方針変換。
自らが買収して再生に乗り出すようになっていきます。
こうして、たった3千万円で買収して新しく社長になった著者は、
年齢30歳。
黒いジャケットに破れたデニム。
スニーカーに茶髪のロン毛。
ここまで書くと滅茶苦茶なようですが、人は外見ではありません。
とにかくこの社長、若いのに、考え方はしっかりしていて、経営の勘どころも押さえている。
破天荒なようで、実は人を見る目がしっかりしている。
そして失敗してもすぐに気づき、修正するという、修正能力にも長けている。
そして、なによりも仕事熱心、勉強熱心。
社長就任後2ヶ月で、全国に点在する店舗をすべて回ろうと決意。
デスクワークの合間を縫っては、私物の軽自動車に乗り込み、カプセルホテルに泊まりながら、北に南にと、全国各地に繰り出していきます。
初代社長も2代目社長も、たった60店舗なのに、自分の会社の店舗を回ることさえしなかったのだとか。
経営者が変わることで、会社はこんなにも変身しうる。
この本には、そんな実例が随所に散りばめられています。
東日本大震災の時の仙台(正確には多賀城市?)のお婆ちゃんとの出会いにちょっと涙腺を刺激され、
商品部の高橋部長のひとことでタバコをきっぱりと止め・・・
といった具合に、
この物語は単なる企業再生の域を超えた人間のドラマに仕上がっています。
これ以上はネタバレになってしまうので、止めますね。
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