2021年1月20日 (水)
2021年1月17日 (日)
アウトライヤーなのか?
アウトライヤー(outlier)とは、統計学でいう「外れ値(はずれち)」。
他の値から大きく外れた値のことを言う。
先週金曜日、Barron's に
『ジェレミー・グランサム氏のバブルに関する予想はアウトライヤーだ。さて彼は正しいのだろうか』
(Jeremy Grantham’s Bubble Forecast Is an Outlier. Is He Right?)
と題する記事が掲載された(全文は『こちら』)。
この記事の著者、Jack Hough氏は言う。
「グランサム氏の『現在はバブル。まもなく破裂する』との見解は、outlier だ」。
「アナリストの多数は、UBS の Keith Parker 氏(chief U.S. stock strategist)のように
『株価は今年の前半で更に 5% 程度上がる』
と考えている」。
* * *
しかしジェレミー・グランサム氏と言えば、
(1)1980年代末期の日本のバブルとその崩壊を事前に指摘
(2)2000年のITバブル崩壊を予想
(3)2008年のリーマンショックについても事前に警鐘を鳴らした
として知られている。
とくに1980年代後半、当時の日本株は株価収益率(PE Ratio)で65倍以上にも達した。
これはおかしいと考えた彼のファンドは、日本株をいっさい組み入れなかった。
実は、彼が日本株バブルを指摘した後も、しばらくは日本株バブルが続いた。
このため、彼のファンドは、他のファンドに比べて、3年間、運用成績が劣後した。
しかし89年末をピークにして、90年初頭から日本株のバブルが崩壊し始める。
結果的に彼のファンドは、投資家に大きなメリットをもたらした。
これは今でも語られる有名な話だ。
* * *
ところで、今回の Barron's の記事は、グランサム氏による今月5日付け寄稿文を受けて書かれたもの。
「 WAITING FOR THE LAST DANCE」
(最後のダンスが近づいている)
と題する寄稿文だ(全文は『こちら』)。
この中で、グランサム氏は、自身がテスラ車に乗っていることに触れながら、
テスラ車の販売台数1台あたりのテスラ時価総額(つまり『テスラの時価総額』を『テスラの年間販売台数』で割った数字)は
125万ドル(1億2900万円)になると指摘。
ちなみにGMの場合は、この数字は9000ドル(93万円)に過ぎないという。
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さて、マーケットの参加者たちはグランサム氏の警鐘をどこまで受け入れるか。
現在ダウの株価収益率(PE Ratio)は25倍。
S&PのPE は、24倍(『こちら』)。
ちなみに日経平均の PE は26倍。
東証一部、28倍(『こちら』)。
株価収益率(PE Ratio)については、歴史的に見て、平均的には14倍程度だったと教えられてきている。
しかし最近の超低金利下では旧来の常識は通じず、20倍を超えることも正当化されてきている。
* * *
バブルの時にはアナリストたちは、何が起きても自分たちの好都合に解釈する。
たとえば、ジョージア州の上院議員投票(1月5日)で、2議席を1対1で共和党、民主党で分け合ったら、共和党が上院の過半を占める。
当初は、その方が株式市場にはプラスに働くと言われていた。
ところが、投票の結果は2議席とも民主党が獲得。
結果、上院は総勢で50対50となり、議案採決に際し可否同数の場合には、議長(=副大統領)が決裁票を投じることになった。
つまり上院でも民主が実質的に過半を占めることになったのだが、このことが判明すると、株価は(当初予想に反して)もう一段上昇した。
グランサム氏は日経ヴェリタス紙(本日付)のインタビューで次のように述べている。
『バブルの本質は究極のプラス思考だ。・・(ジョージアの件では)市場参加者は民主勝利によるネガティブな面を気にしなくなり、ポジティブな面を強調するコメントであふれた』。
グランサム氏の言うように、いまがラストダンスを待っている状況ならば、ダンスが始まるのを待って、一緒になってダンスを踊り、それが終わる直前に全株売却するのが得策だ。
問題は、そうした神わざ的トレードは一般人には出来ないことだ。
19日(火曜日)の市場があまり動かなかったとした場合、大統領選の投票日(11月3日)から大統領の就任日(1月20日)まで株価(S&P500)は13%上がったことになる。
これは1952年以来、最大の上昇率となる。
それまでの記録はJFK(ケネディ大統領)の8.8%だった(『こちら』)。
2021年1月11日 (月)
ホロドモール
ホロドモール。
ウクライナ語で「飢饉(ホロド)」で「苦死(モール)」させることを意味するらしい。
1932年から1933年にかけてウクライナでおきた「人為的な」大飢饉のことで、諸説あるが3百万人から12百万人が死んだという(多数説は3.5百万人)。
「人為的な」というところがポイントで、当時のソ連(スターリン)にとってウクライナの小麦は貴重な外貨獲得手段であった為、厳しい食料徴発が行われた。
また飢餓が発生しても、それを覆い隠し、外に支援を求めることを一切しなかった。
国内パスポート制が導入され、農民達は農奴さながらに村や集団農場に縛り付けられた。
当時、このホロドモールを報じたのが英国人ジャーナリストの Gareth Jones で、このときの様子が映画化されている。
『赤い闇』(原題:Mr. Jones)という映画で、昨年8月に公開された。
ただコロナ禍で映画館に行く気になれず、DVD化されるのを待っていて、ようやく昨晩これを観た。
映画では『動物農場』を書くジョージ オーウェルが冒頭はじめ何箇所で出てくる(映画の最初では何のことか分からなかった)。
静かで淡々と映像を重ねていくことで物語を構築していく手法で、カメラワークにも工夫が凝らされ、良く出来た映画だと思った。
* * *
実は、私は1979年に米国でアレンジされたバスツアーに参加し、当時のソ連をヴィボルグ、レニングラード、ノヴゴロド、カリーニン、モスクワ、スモレンスク、ミンスク、ブレストと旅したことがある。
広大な大地に圧倒されたが、当時のソ連は、モスクワ、レニングラード、スモレンスクなどの都市を一歩出れば、一変して、貧しく、人々の暮らしぶりはたいへんそうだった。
何時間もバスで移動したのだが、トイレ休憩の場所は無く、バスを停めて、男性は道路の右側、女性は左側といった具合に分かれて、草むらで用足しした。
ホテルでは各階に監視の人がいて、我々宿泊客が食事などで部屋を出ている際に、誰か(恐らくは監視の人)が部屋の中に入り、荷物を全部チェックされた。
米国人ガイドはツアー客に対して、前もってソ連に入る前に「聖書を持参するな。持ってきた人は置いていくように」と注意していた。
今ではもちろん状況は全く違ったものになっているのだろう。
ソ連ではなく、もはやロシアになって久しいのだから。
それでも・・
2014年にはウクライナ騒乱が起き、ロシアによるクリミア半島併合が行われたりしている。
2021年1月 3日 (日)
ノールールズ
ネットフリックスは恐ろしい会社だ。
その快進撃ぶりは競合他社にとって脅威でしかない。
株価は上場後18年間で446倍になった。
100万円を投資していれば4億円を超えている。
同じ期間に例えば日テレの株価は▲65%減少している。
しかしそんなことはどうでもいい。
何よりも恐ろしいのはそのカルチャーだ。
ネットフリックスでは最高の人材を採用する。
そこまでは問題ない。
どの会社でもそういったことを謳う。
問題はその次。
圧倒的な成果を挙げられなければ、社員はじゅうぶんな退職金を与えられて捨てられる。
こうしたことを公言してはばからない。
もう一つ。
社員の休暇日数を指定しない。
「休暇日数を指定しない」って、そんなことを公言すれば誰も休暇を取ろうとしなくなるではないか。
ブラック企業のように休暇が取りにくくなるのではないか。
しかしそれがそうでもないらしい。
2018年の調査ではネットフリックスはグーグル(2位)を上回り、最も働きたい会社に選ばれた。
実際、日本の優秀なITエンジニアの間でもネットフリックスに移る動きが見られるらしい。
全米4万5000社で働く500万人以上を対象に行われた調査では、ネットフリックスは社員の幸福度ランキングで第2位に選ばれている。
休暇規程がないばかりか、ネットフリックスには経費規程、出張規程もない。
こうしたことをネット上で公開している「ネットフリックス・カルチャー・デック」と呼ばれる127枚のスライドのうちの1枚には
「服装規程もないが、誰も裸で出社しない」とも書かれている。
たしかに優秀な人材で組織をつくれば、コントロールの大部分は不要になる。
しかしネットフリックスのカルチャーはこれまでのマネジメントの常識を根底から覆すものだ。
詳しくはネットフリックスのCEOとINSEADの教授が共同で著した『NO RULES(ノー・ルールズ)』という著書に記されているが、これを読むとまさに頭をハンマーで殴られたような衝撃。
自分が如何に古い人間であったのかが痛感させられる。
実はネットフリックスについては、これまでいろいろなところで話を聞いてきた。
たとえばテレビのリモコン。
最近のテレビのリモコンはどれも目立つ位置にネットフリックスのボタンがついている。
これはネットフリックスがリモコン製造コストのかなりの部分を負担するから、自社に作らせてくれと話を持ち掛けた結果なのだとか。
しかしこうした幾つかの逸話よりも衝撃的な内容がこの本に綴られている。
・ルールが必要になる社員は雇わない
・承認プロセスは全廃
・社員全員にヘッドハンターからの電話はぜひ受けて欲しいと訴える(実際にヘッドハンターのリストも社員に渡す)
・社員に対しては成果連動型ボーナスの制度を使わない。その原資があれば最初から給与に上乗せする
こうしたカルチャーを構築していかないと超優秀な人材確保の競争に敗れてしまう。
そこまで米国のIT企業はシビアな競争にさらされているのだ。