2017年12月10日 (日)

40代でやっておくべき11のこと

昨日発売になったPHPのビジネス誌、『The 21』(2018年1月号)。

特集記事は「40代でやっておくべき11のこと」。

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私自身の40代をふり返ってみると、40歳の誕生日を興銀の営業第3部課長として迎えました。

そしてその8ヶ月後、村山富市さんが内閣総理大臣になり水俣病問題が政治決着に向けて大きく動き出します。

当時私は水俣病を引き起こしたチッソを担当していました。

水俣病問題の解決のためには患者の方々への補償金の支払いをどうするかがポイントとなります。

すでに当時チッソの債務超過額は1400億円を超しており、実質的に破綻していました。

チッソに対して金融支援を行い、患者に補償金が行くようにしなければなりません。

この支援策策定のために、霞が関(環境庁、大蔵省)や熊本県が中心となって動き、チッソのメイン銀行であった興銀も国や県との協議、他の民間金融機関の意向集約などに忙殺されました。

そして約1年後、「水俣病対策について」の閣議了解、閣議決定となって、この問題が解決に向けて一歩前進します。

この結果を見た後、ほどなくして私は興銀を辞めて、JPモルガンに移り、さらにモルガンからメリルリンチ、リーマン・ブラザーズへと転職し、49歳で独立。いまの会社「インフィニティ」を設立しました。

これが私の40代。

いま思い返すと、職場だけでも5つにもなり、かなりあわただしく動きました。

さて40代をどう過ごすかについて、この雑誌の中で識者の方たちがいろんなアドバイスをしています。

・「40代になったら定年後を視野にモードチェンジをしよう」(楠木新氏)

・「40代になったら社外の人脈を意識して増やす」(柴田励司氏)

しかしどうでしょうか。40代から定年後を視野に入れるというのは私にはチョット違和感があります。

自分自身のことをふり返ってみても、現実に水俣病で苦しんでいる患者の方たちがいる。しかも社会党出身の人が総理になりこの問題の解決の為になんとかしたいと頑張っている。一方で、民間金融機関として出来ることと出来ないことがある(補償金をチッソに貸したって返済原資はありません)。40代の前半はそんなことで悩み続け、また外資に移ってからは企業価値向上のためにどうすべきかを取引先企業に訴え続けました。

常に目の前にあることを解決しようと悩んでいただけで、定年後を視野に入れるとか、あるいは自分の為に人脈を増やすなどという時間もありませんでした。

つまり私の場合はどちらかというと、こうしたアドバイスとはまったく無縁の40代を過ごしていました。

失敗もたくさんしました。

詳しくは 『リーマン恐慌』 という本に書きました(同書29頁)が、メリルリンチへの転職が失敗の最たる例。

しかしそもそも転職自体がリスクを伴うもの。

リスクを取る以上、失敗はつきものです。

ということで、私の40代は失敗もたくさんあり、識者の方々のアドバイスとも無縁のものでした。

* * * * *

ところでこの特集の第3部には私のインタビュー記事も掲載されています。

『40代の未来予想図―これから10年で起きること』

とのタイトル。

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これからの10年。日本の未来は明るくなる・・と言いたいところですが、

興銀の審査部で長いこと未来予測をしていた(プロジェクトファイナンスの審査はときに20年後くらいまでキャッシュフローを引きます)立場からすると、必ずしもそうではありません。

未来を予測する第一歩は過去を知ることです。

未来が変化するためには、なにか明確な要因がなくてはなりません。それがない場合には、未来は過去の延長戦上にあると考えざるをえません。

過去10年で日本はさほど成長せず、産業構造の新陳代謝もあまり進みませんでした。 

たとえばこの10年間で、日経平均株価は48%の上昇に留まったのに対し、米国のダウ平均株価は76%も上昇しました。

GDPも、日本は過去10年間でわずかプラス8%の成長でしたが、米国はプラス34%。

こういった数字を見れば、日本が米国に比べていかに低成長だったかわかります。

さらに大きな問題は、日本は産業構造にも変化が見られないこと。

たとえば、2007年と2017年の「企業の時価総額ランキング」を比較すると、

トップ10の顔ぶれはほぼ変わっていません。

トヨタ自動車、NTTなど、10社のうち6社は10年前と同じ名前が並びます。

加えて、トップのトヨタ自動車の時価総額は、どちらの年も22~23兆円で横ばい。

一方、米国の時価総額ランキングは、ここ10年間で激変。

2006年はエクソンモービルやGE、シティグループなど、製造業やエネルギー、金融が上位でしたが、

2016年はアップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックと、上位5社すべてがインターネット企業で、うち2社は設立後20年もたっていません。

しかも、第1位のアップルはこの10年間で株価が8倍になり、現在の時価総額は約102兆円。

これはトヨタ自動車の4.4倍に相当します。

米国では経済を牽引する企業が次々と台頭し、世界全体に大きなインパクトを与えました。

いまや世界中の人々がiPhoneを持ち、グーグルで検索し、アマゾンで買い物をしています。

こうした変化の潮流は、今後10年間でガラリと変わることはありません。

ゲームチェンジャーとなるような要因がないからです。

米国では今後も新しい企業が出現し、経済を成長させ、世界で変化を創出するでしょう。

それに対し、日本は残念ながら経済はあまり成長せず、世界で変化を創出することも米国に比べれば見劣りしてしまう。

過去を踏まえると、残念ながらそう予測するしかありません。

とインタビューではややネガティブなことを正直に言いましたが、それがほぼそのまま記事になっています。

しかし変化の芽がないわけではありません。

10年前と違って今では日本の多くの若い優秀な人材が起業し、価値の創出にチャレンジしています。

Preferred Networks、メルカリなど世界的に注目される企業も増えてきました。

残念ながらシリコンバレーに比べれば、裾野の広さなどの点でまだまだ見劣りしますが、変化の萌芽は確実に存在するように思います。

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2017年12月 8日 (金)

同級生交歓

本日発売の『文藝春秋』(新年特別号;2018年1月号)。

この雑誌の「同級生交歓」ページに高校時代のクラスメートと共に写真が載りました。

写真のいちばん左が私です。

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早稲田大学高等学院は入学してから卒業までクラスがずっと同じで変わらないシステム。

私が入学したときのクラスはD組で、上記の写真はD組のメンバーです。

余談ですが、私は高校3年の1学期を終えてから1年間AFS留学したものですから、帰国後は1年下のクラスに編入(このときはF組)。

つまり入学はD組、卒業は1年下のF組と、2つの学年、クラスにまたがっていて、同窓会も両方に出席しています。

「今度はF組のメンバーと一緒に同級生交歓ページに出てください」

と文藝春秋の編集者の方に言って頂きましたが、まぁ、たぶんリップサービス。

ところで今月の『文藝春秋』は創刊95周年記念号。

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菊池寛が34歳のとき、1923年(大正12年)1月に私費で創刊した雑誌が『文藝春秋』ですから、来月でちょうど95周年になるというわけです。

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2017年11月20日 (月)

定年バカ

定年本ブームだそうです。

「定年」という言葉がタイトルにつくだけで、本が売れるのだとか。

22万部を超えるヒットとなった『定年後』(楠木新著)。

どうやらこの本がブームの着火点となったようなのですが・・。

お蔭で私が6年前に書いた『本』にも何度か増刷がかかり累計3万部超えに。

こういうのを「おこぼれ頂戴」とでも言うでしょうか。

更に、別の出版社からは「定年後のお金」について何か書いてほしいといった誘いも頂戴するに至りました(とくに新しく書くこともなかったので、お断りしましたが)。

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そんな中、本日ある版元から送られてきた本が『定年バカ』という本。

またかーと思って頁をめくってみたのですが・・。

いやー、この本は面白い!

ついつい夢中になって(実は明日講演があって結構忙しかったのですが)、あっという間に最後まで読んでしまいました。

なんと言ったって、この本、数多くある定年本をバッサ、バッサと痛快に切りまくっています。

タイトルだけ並べてみても想像つくと思います(タイトルの横の括弧内は著者の言っていることを一言でまとめてみたもの)。

  • 定年バカに惑わされるな
  • 定年からがおもしろいという輩 (「定年からがおもしろい」なんて、んな訳ないだろう)
  • 市民講座などにつられない (30歳の大学の先生の「定年」に関する講義を聞いてどうする)
  • 「ライフシフト」なんかどうでもいい (「100年ライフになるから長寿化の恩恵を手にする」って、現在の人生80年でも困難続出なんだが)
  • 退職金や年金の平均額を知っても無意味
  • 「生き生き」定年バカ
  • 社交バカ
  • 「ひとり」がそんなに寂しいか (「昔の友人を探して」というが、なぜいまさら音信不通だった人をわざわざ探すのか)
  • 社会と「つながり」たがるバカ
  • 定年不安バカ
  • 定年の準備などできるわけがない
そして極めつきが、
  • 「地域デビュー」なんかしない方が互いの幸せ

「それまでは挨拶程度だったのに、定年になったからといって、いきなり賑やかな顔と声に変えるのかね。・・・相手がいることだしね。それになんだか功利的な気分もして、気持ちもよくない」

いやー、実に爽快でした。

世に出回る定年本を、バッサ、バッサと、ほぼ全否定。

定年関係の本を何冊か読んで、なんとなくムラムラ感が溜まってしまった・・。そんな人にお勧めの1冊に見事に仕上がりました。

こういった本が出るということは、書籍の分野での定年ブームもそろそろ終わりなのでは・・(たぶんこの本がトドメを刺す?)。

個人的には出版社の誘い(ありがたいことですが)にのらずに「良かった」と思っています。

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2017年11月12日 (日)

世界のミシュラン三ツ星レストランをほぼほぼ食べ尽くした男の過剰なグルメ紀行

『世界のミシュラン三ツ星レストランをほぼほぼ食べ尽くした男の過剰なグルメ紀行』

長いタイトルの本を、製作にかかわった海風社西森純三さんに献本して頂きました。

ちなみに西森さんの名は本書のあとがきにも出てきます。

版元はKKベストセラーズ。

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本の帯には、

『ボクはフツーのサラリーマン。でも、胃袋に落とし込んだ総額6000万円!』

とありますが、どうしてどうして。

とてもフツーのサラリーマンには思えません。

いちおう前書きには満員電車に乗って通勤しているサラリーマンと書いてはありますが。

なにせ著者が幼少の時に毎週日曜日に朝食を食べに行ったというおじいちゃんの家。

この家がタダモノではなくて、住所が白金今里町14番地。

そう、現在のシェラトン都ホテル東京がある場所で、ホテルの敷地全部がおじいちゃんの家でした。

しかもその家を設計したというのが、関西建築家の父と呼ばれる京都帝大教授武田五一とその教え子で国会議事堂の設計に関与した吉武東里の両氏。

邸内にあった茶室はその後、大田区に寄贈され、区内の池上梅園に移築され、聴雨庵になったのだとか・・。

まぁ、そういった家にでも生まれなければ、28年間もかけて世界中にあるミシュラン三ツ星レストランをほぼ制覇するなんてことに至らないのでは。

しかも著者の人がらなんでしょうね、本書を読むと、とくに肩ヒジ張ることもなく、すんなりと素直に著者がその世界に入っていったことが窺えます。

また、この本は単なるグルメ紹介本、食べ歩きの本ではなく、いろんな面白い話が散りばめられていて一気に読み進ませてくれます。

その昔、人気のグループサウンズ、タイガース(沢田研二がボーカル)のドラマー「瞳みのる」が、その後、アイドルをやめて高校の(なんと!)中国語の教師となり、当時高校生だった著者と交流を深めた話とか、ちょっといい話、読んで少しためになる話が随所に散見されます。

そんな著者だけが語れる『日本のミシュランは世界に比べるとおかしいぞ』という話。

本書の最後の方、218~232頁にかけて書かれているのですが、これは一読の価値があります。

いわく

『日本の三ツ星選びに、ミシュランの「哲学」が感じられない!』

『東京版をはじめとした、日本各地の「都市版」の三ツ星の基準は、世界基準ではない』

『日本の三ツ星の基準は、フランス本社の歴史あるミシュランと比較して、基準があまりにも甘く、なおかつ不明瞭』

『軽いと言ってもいい。文化も哲学もあまり感じられない』

詳しくは本書に書かれているので、ここではこれ以上は書きません。

それに文化とか哲学といっても分かりにくいかもしれません。

しかし世界のミシュラン三ツ星レストラン119軒のうち114軒までを制覇した著者のこの本のなかにこそ文化や料理哲学が感じられて、とても楽しい本でした。

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2017年10月29日 (日)

Hidden Figures

直訳すれば、隠れた数字とか、隠された姿とかいった訳になるんだろうと思います。

意訳すれば、それこそ映画のタイトルとなったドリーマー(これは意訳し過ぎだと思いますが)とか、いろいろに訳せるのでしょうが、私がいちばんピッタリくるのは、隠れた才能。

とうぜんFiguresが、数字と人物との掛け言葉になっているんでしょうが・・

ともかく観終わって考え方が前向きになる映画でした。

     Hf

1960年代初頭、キャサリン、ドロシー、メアリーの3人の黒人女性は幾多の人種差別、性差別に見舞われながらも、これにめげず、実力でポジション、仕事を勝ち取っていきます。

当時アメリカとソ連との間では熾烈な宇宙開発競争が展開されていました。

こうした競争の環境こそが、理不尽な差別を後退させ、実力主義を台頭させたのではないでしょうか。

と言うのも、差別の結果、有為な人材を登用できなければ、ソ連との競争に負けてしまう―当時のアメリカはそんな状況にあったのです。

翻って現在の日本。

はたして企業経営は熾烈な競争環境にあるのかどうか。

さまざまな規制や癒着が競争を阻害しているといったことはないでしょうか。

その結果かどうかは知りませんが、たとえば上場企業における女性経営者の割合は諸外国に比しまだまだ遅れをとっています(『こちら』)。

話を映画に戻しますと、私が一番感動した場面は3人の女性の1人、メアリーと、裁判官とのやり取り。

裁判官を説き伏せ、メアリーは白人専用学校で学ぶことを許可されます。

『Only a night class (ただし夜間のクラスだけだぞ)』

裁判官にこう言われ、飛び上がんばかりに裁判所の建物から喜び勇んで出てきた彼女の姿が印象的でした。

学ぶこと、勉強すること、これを許されるために、当時彼女たちは理不尽な差別の壁に立ち向かっていきました。

それに比べ、私も含めて、日本の我々はいまや、①何時でも、②何処でも、③何でも、学べる環境にあります。

にもかかわらず、これを活かそうとしないのだとしたら・・・。

そう、今からでも遅くはありません。

私自身、もっと、もっと勉強しようと思いました。

葛飾北斎が富嶽三十六景を刊行したのは74歳の時。

年齢による制約は幻想に過ぎません。

そんなことも実感させてくれた映画でした。

なおこの映画の原作はキンドルでたった150円で読むことが出来ます(『こちら』)。

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2017年10月28日 (土)

『バカ売れ』、『未来年表』、『ブラックボックス』

最近読んだ本のなかから3冊ほど取り上げてみます。

【1】バカ売れ法則大全

この本は版元(出版社)から献本してもらったので読んでみたものです。しかし、もし書店で手に取った本だったとしても、迷わずレジに向かったと思います。

理由は、知らなかったことがたくさん書いてあったから。

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私は日経新聞や経済系の雑誌も極力目を通すようにしているのですが、それでもこの本に出てくる54事例の多くについて、それがバカ売れしている事実さえ知りませんでした。

この本を著したのは行列研究所。

実は私はいわゆる「行列もの」(行列するほどの人気のお店や商品;行列ができてしまう現象)には関心を持ったことはありません。

と言うのも、一過性の行列は企業経営にとってはあまり意味はなく、投資家にとっても、それに惑わされて投資をすれば間違った結果に結びつきかねないからです。

経営とは一過性ではなく、連続性が要求されるものです。

しかしこの本の著者たちは、(名前に反して)多くの場合(すべてとは言いませんが)、一過性ではなく連続性にも配慮した上で、事例を選び、筆を進めているように感じました。

54事例の1つに、ニンテンドースイッチがあります。

これが発表されたとき(2016年10月20日)、アナリストの評価は分かれました。

そしてどちらかというとネガティブな評価の方が多かったのです。

任天堂の株価も、発表前(2016年10月19日)には26,080円だったものが、発表後には下落基調に転じ、5日後の24日には23,970円に。

しかし発表から5か月後、いざスイッチが発売されると、状況は一転します。

スイッチは発売後4ヶ月で470万台を売上げ、ネットではいまだにメーカー希望小売価格(税込32378円)よりも7,000円以上も高く転売されています。

株価も(スイッチだけの要因ではありませんが)42,980円(2017年10月27日)に。

なぜアナリストの多くは間違い、スイッチはヒット商品となったのでしょうか。

いろいろな要因があるのでしょうが、本書ではさらりとその1つの理由について触れています(なにせ1事例当たりせいぜい6頁の記述なので、あまりぐたぐたと書かれていません。かえってその方が気楽に読めて頭に入りやすいと思いました)。

【2】未来の年表

発売後4ヶ月で、すでに28万部(10月19日)のベストセラーになった本。

多くのレビューワーが指摘するように、これから先の年ごとに、人口減少の日本で何が起こるかを淡々と述べています。

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「少子化」「高齢化」の問題は実はかなり前から分かっていました。

移民の要因を捨象して考えれば、現在20歳の人の数は20年前に生まれた人の数を上回ることは出来ませんし、今から30年後の30歳の人の数は、今年生まれた人の数を上回ることは出来ません。

1990年の段階ですでに、0~4歳の人口は3.3百万人、対して40~44歳の人口は5.3百万人だったのです(『こちら』)。

そして、これがそのまま35年後にスライドすれば、2025年には35~39歳の人口は3.3百万人「以下」(途中で死ぬ人がいるので「以下」となる)、75~79歳の人口は5.3百万人「以下」となることは、1990年当時から分かっていたのです。

つまり30年、40年も前から分かっていた問題に対して、残念ながら当時、抜本的な対策を講じなかった、それが残酷な未来年表となって現在わたしたちの前に露呈してしまった―こんな風に思えてしまいます(国が少子化対策を担当する国務大臣を置き始めたのは2003年)。

【3】ブラックボックス

著者の伊藤詩織さんはTBSワシントン支局長(当時)の山口敬之氏によって同氏が滞在していたシェラトン都ホテル東京に連れていかれます。

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著者は腸が煮えくり返るような怒りを持つに至ったのではないかと思うのですが、意外にも「怒りや増悪の感情」はないと言います。

それはもしかすると、自分の心を守るための防衛本能かもしれません。

いずれにせよ本書では著者の感情を極力抑え、行間ににじませるだけに留めています。

それゆえに事実がきわだち、読者は事実の持つ重みを肌で感じ、圧倒されるようになります。

デートレイプドラッグについても書かれており、これはこうしたものを知らない人たちが被害に遭うことを未然に防ぐことにも繋がる―こうした意味からも本書は広く読まれるべきと思います。

読みやすい文章で、著者のジャーナリスト、文章家としての今後の活躍が期待される一冊になっています。

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2017年10月 8日 (日)

読書好きの経営者

Kazuo Ishiguro ノーベル賞受賞のニュースにすぐさま反応した経営者がいました。

アマゾンのジェフ・ベゾスです。

彼は即座にTwitter(ツイッター)に次のように書き込みました(『こちら』)。

The Remains of the Day--Long my favorite novel. Teaches pain of regret so well you will think you lived it. Congrats, Mr. Ishiguro, so earned!

(『The Remains of the Day』(邦訳:日の名残り)は、何年も前からの私のお気に入りの小説。後悔の痛みをひじょうに良く教えてくれ、あたかも自分が経験したような気になる。おめでとう、イシグロさん、まさに受賞にふさわしい)

もともとベゾスは頻繁にツイートするタイプではなく、先月は2度ツイートしただけ。

自分のお気に入りの小説家がノーベル賞を受賞したことがよほど嬉しかったのでしょう。

実は、かねてからベゾスは『日の名残り』が彼のお気に入りの小説であることを公言していました。

以下は、2012年に来日した際、wired.jpによるインタビューに答えたベゾスの発言の抜粋です(wired.jpによるインタビュー全文は『こちら』)。

『わたしは同じ本を何度も読むタイプなんですね。

いちばん好きなのは、カズオ・イシグロの「日の名残り」ですね。何度も読んでます。素晴らしいです』

『フィクションは、自分が体験しえないことを、体験させてくれるものだとわたしは思っています。つまり、人生について教えてくれるわけです。

「日の名残り」に関して言えば、あれは後悔をめぐるお話なんです。主人と老執事の関係よりも、わたしのフォーカスはむしろ老執事が、かつての同僚だったミス・ケントンに寄せる思いのほうなんです。

人生の終わりを迎えて、自分が愛する人に対して自分は何のアクションもおこさなかった、そのことに対する後悔がポイントなんです。

後悔をするときには、すべてがもう遅すぎるんですね。こういう後悔はしたくないなと身に染みて感じますね』

──『日の名残り』にあるような後悔をご自身でおもちだったりします?

『いまのところ幸いなことに、そこまでの後悔はないですね。

ただ、こういう思い出はあります。

1994年に、オンラインの古書店を始めることを思い立って、そのことを当時勤めていた金融会社の上司に相談したんですね。

「散歩しながら話そう」と言うので公園を歩きながら話したのですが、彼はわたしの話を聞いて、こう言ったんです。

「面白いアイデアだと思うよ。ただし、すでに立派な仕事と肩書きをもっている人がやることかどうかは疑問だな。2日間、よく考えてごらんよ」。

で、考えたんです。妻とも相談しました。

そのときにこう思ったんですね。

自分が80歳になって人生を振り返ってみたとしたら、仮にこの新しい事業に失敗したとしても、さほど後悔はしないだろうと。

けれども、これをやらずにいまのところに勤め続けたらきっと後悔するだろうなって。

つまり、人生の最も深い後悔は、Commissionによって生じるのではなく、Omissionから生じるんだと。

怖がったり、不安がったりして何もしないことが、きっと後悔を生むんじゃないかと』

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2017年10月 1日 (日)

株式投資には「何が正しくて、何が間違い」といったことはない

株式投資には「何が正しくて、何が間違い」といったことはない。

そう私に教えてくれたのはスタンフォード大学のマクドナルド教授。

ウォーレン・バフェットとも親交が深く、バフェットはマクドナルド教授の授業にゲスト・スピーカーとしてよく登壇していました。

「ある人は長期投資が得意かもしれないし、別の人は短期売買の方が収益を上げやすいかもしれない。

ファンダメンタル分析が得意な人もいれば、チャートを参考にする人もいる。

要は自分の勝ちパターンを見つけろ」

教授はそういったようなことを授業で強調していました。

と言いつつも、教授の授業は、長期投資、ファンダメンタル分析が中心で、他の方法には触れませんでしたが・・・。

ところで、いろんな人のやり方を学ぶには本を読むのが手っ取り早いかもしれません。

週刊東洋経済eビジネス新書No.222 Kindle版 『投資本の著者に聞く!勝つための投資法』

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この本は電子書籍で新書版115頁から成り立っています(電子書籍の価格は324円)。

何人かの投資本の著者にインタビュー形式で聞くといった体裁になっていますが、最終章に私へのインタビューが掲載されています(96~108頁)。

           Iwasaki

私のところではなくて、他の投資本著者の章に出てくるんですが、例えばRIZAPグループ(株)。

2006年に上場し、株価は25円(分割調整後のベース)あたりを低迷していたのですが、いまでは1330円前後。

10年強で53倍にもなっているんですね。

投資にいろんなアプローチがあることを改めて実感。

しかしやはり私は私のやり方に固執しようと思います。

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2017年9月 8日 (金)

毎月10日

2年前に母を亡くしました。

94歳でした。

母は自分で風呂に入ることも出来なくなって、介護付き老人ホームに入りました。

そんな母が好んで読んでいたのが月刊『文藝春秋』。

毎月10日前後の発売日になると私はこれを買って、母のところへ届けました。

もっとも最後の1~2年は、届けると喜んでくれるのですが、

実際には読んでいなかったのかもしれません。

いつも新品同様の形で机の上に置かれていました。

もしかすると、雑誌が発売になると息子が来てくれる。

そのことが待ち遠しかったのかもしれません。

実は雑誌に係わりなく、毎週末には必ず母のところへ行っていたのですが・・・。

さて、そんな文蓺春秋に私のインタビュー記事が載りました。

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母が生きている間に見せてあげたかったです。

出版社から送られてきた雑誌をそっと仏壇に供えました。

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2017年9月 3日 (日)

秋の訪れ?

少しずつ秋が訪れてくるのが感じられるこの頃。

米国では明日、月曜日は Labor Day で休日。

シカゴに5年ほど住んだことがありますが、毎年 Labor Day を過ぎるとセーターや上着が必要になったのが思い出されます。

早いものであと1ヶ月もしないうちに今年もノーベル賞受賞者が発表されます(10月2日の医学生理学賞を皮切りに、3日は物理学賞、4日が化学賞といった具合に続いていきます)。

今年の日本人受賞者は誰か?

すでにいろいろなサイトで候補の方々の名前が取り沙汰されています(たとえば『こちら』)。

そのうちの一人が「リチウムイオン二次電池」を開発した旭化成顧問の吉野彰氏(69歳)(『こちら』の記事を参照)。

なおこの辺は私にとって専門外なのでよく分からないのですが、仮にリチウムイオン絡みでノーベル賞が授与されることになるなら、吉野氏のみならずジョン・グッドイナフ教授、水島公一氏などの名前もあがってくるといった報道もあります。

いずれにせよ日本人が中心となって開発したリチウムイオン電池。

それがビジネスの世界ではどうなったかを見てみましょう。

2000年代には、三洋電機とソニーが民生用リチウムイオン二次電池で、それぞれ世界シェア1位、2位を独占していました。

ところが・・・。

2010年以降になると状況が変わってきます。

サムスンSDIなどの韓国勢に追い上げられ、三洋電機はパナソニックの完全子会社となり(2011年)、ソニーの電池事業も先週金曜日(9月1日)に村田製作所に譲渡されました(『こちら』)。

また車載用リチウムイオン電池の分野では、日産自動車が、NECとの合弁会社であるAESC(日産51%、NEC49%)を中国系ファンドの「GSRキャピタル」に売却することを決めました(『こちら』)。

このようにリチウムイオン二次電池は日本人が中心になって開発したものの、その後は韓国勢や中国勢が台頭、厳しい戦いを強いられてきています。

しかし電池を製造する部材(正極材・負極材・セパレーター・電解液など)では、日本のメーカーがまだまだ強い。

例えば負極材では日立化成が推定世界シェア3割と世界首位、セパレーターでも旭化成が世界最大手の地位にあると見られています(いずれも週刊エコノミスト17年2月14日号より)。

ノーベル賞の話からずれてしまいましたが、たとえ技術開発の面で先駆者であったとしても、韓国勢や中国勢に追い上げられてしまうことは、電池のみならず半導体や液晶でも経験したこと。

それを防ぐポイントはいくつかあるのでしょうが、ひとつには常に1歩先を行くべく開発の手を緩めないこと、そして必要な時に必要な設備投資をメリハリをつけて実行すること。

と同時に、「いいものを開発すれば、ユーザーは使い続けてくれる」と楽観視せずに、マーケティングにも力を入れることでしょう。

シリコンバレーで幾つか会社を起業したAさん。来日中に何度か会いましたが、「Marketing is everything」と力説していました。

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