2017年3月25日 (土)

行動科学

最近「決定木」という言葉をよく耳にします。

ウィキペディアを引くと、

「決定木(けっていぎ、decision tree)は、(リスクマネジメントなどの)決定理論の分野において、 決定を行う為のグラフ」

とあり、

「機械学習の分野においては決定木は予測モデルであり、ある事項に対する観察結果から、その事項の目標値に関する結論を導く」

「決定木学習はデータマイニングで良く用いられる方法でもある」

などと説明されています。

ちょっと分かりづらいかもしれませんが、その基本コンセプトは実は簡単なことです。

その昔、スタンフォードのビジネススクールで、「行動科学(Decision Sciences)」という科目がありました。

以下は当時のコース概要書にあるこのクラスの説明です。

Decision_sciences

このクラスの中で、学生は決定木(けっていぎ、decision tree)を学ぶのですが、これは物事を科学的(scientific)に考える上で役に立ちます。

我々の人生は幾つかある選択肢のなかで判断を求められることの連続です。

「設備投資を行うか、否か」

「この製品を上市するか、どうか」

「出版社から依頼のあった本の執筆を受けるか、どうか」

「転職の誘いが来たが、とりあえず話だけでも聞いてみるか、どうか」

こうしたとき、ただ漠然と考えるのではなくて、確率と期待値に落とし込んでみると、的確な判断を下すうえでの一助となります。

Dt_2

上は、決定木をゴルフを例に説明したもの(『拙著』の183~188頁参照)。

パー4のホールで、最初の ショットを林のなかに打ち込んでしまったとします。

林からいったんフェアウェイに出して、安全策を取って3オンを狙う(A案)のか、林のあいだを抜けて2打目でグリー ンに乗せることを狙う(B案)のか。

それぞれのケースでどう確率を評価するかで答えは違ってきます(上は一例に過ぎません)。

ポイントは、幾つかの選択肢を選ぶとき、そして重要な判断をくだすときに、この種の場合わけと確率評価をきちんとして判断の一助としていくこと。

人工知能の場合、こうした決定木的なアプローチを繰り返し、的確な判断を瞬時に下し、間違っていたとしたら確率評価などに修正を加え、どんどん賢くなっていきます。

経験と勘による判断も重要ですが、この種のアプローチを併せて行うことで、考えが整理されていくことにも繋がります。

私自身の人生をふり返ってみても、「転職するか、しないか」など多くの判断をしてきましたが、その際、こうした decision tree に書き起こすことをしてきました(さすがにゴルフ場で decision tree を書くことはしてきませんでしたが)。

みなさんも利用されてみては如何でしょう。

| | コメント (0)

2017年3月18日 (土)

クイズ

昨日発売となった 『文系が20年後も生き残るためにいますべきこと』 の174頁から。

* * * * *

『ここでクイズをひとつ。

●次の人物に共通するものは何か、答えなさい。

①ピーター・ドラッカー(経営学者)

②アンネ・フランク(『アンネの日記』の著者)

③ジョージ・クルーニー(アカデミー賞受賞の男優)

④ジェフ・ベゾス(アマゾンの創業者)

⑤ラリー・ペイジ(グーグルの共同創業者)

⑥サーゲイ・ブリン(グーグルの共同創業者)

      *

答えは全員ユダヤ人かって? 

否、たとえば、ジョージ・クルーニーはユダヤ人ではない。

彼の祖先はアイルランド系、ドイツ系、イングランド系で、厳格なローマ・カトリックに育てられた。

答えは、全員が幼少時にモンテッソーリ教育を受けたこと』

* * * * *

米国に住むフランス人のAさんは子供をモンテッソーリの幼稚園に通わせているのですが、悩みの種は学費が高いこと。

年間200万円くらいかかると言っていました。

もちろん米国の中でも地域によって違いがあるのでしょうが・・・。

なお日本でもモンテッソーリ教育を行っているところがあります。

ところで、グーグルのラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンが自分たちの受けたモンテッソーリ教育について語っているYouTubeの動画があります(『こちら』)。

2人とも親が大学教授で nursery school はモンテッソーリ教育のところへ通ったといった具合に共通点が多かったようです・・・。

ご関心のある方は上記動画(たった1分28秒で終わります)を見るなり、上記の拙著を本屋さんで覘いてみてください。

| | コメント (0)

2017年3月17日 (金)

書店に並びました

    Shinjyuku_3

          (紀伊國屋書店新宿本店)

Akasaka2

       (文教堂書店赤坂店)

| | コメント (2)

2017年3月 5日 (日)

知性の磨き方

齋藤孝『知性の磨き方』

今年の初めに出版社から献本して頂き一度読みました。

その時の感想は「いい本だな。感想を書いてみたい」というものでしたが、奥行きの深い本だけに簡単には書くことが出来ず、今日に至ってしまいました。

結局2度読みに近い形になってしまいましたが、2度読みの価値はあると思います。

どんな人に向いているかというと、多分悩んでいる人に向いているのではないかと思います。

     Photo  

著者によれば、

「知性とは、困難な問題や厳しい現実に直面したときに、その原因が何であるかを見極める力であり、取りうる現実的選択肢を探る力、そして実際に行動を起こし、対処するための力に他ならない」(本書4-5頁)。

知性は必ずしも知識とは一致しない・・「論語読みの論語知らず」という言葉があるように

「どれだけたくさんの本を読み、膨大な知識を蓄えていても、単にレジュメ風、つまり何年何月にどんなできごとがあり、誰々という偉人がこのようなことをいった、などの事実を羅列式に知っているだけなら、それは雑学」(本書5頁)

でしかないとのことです。

と、ここまで述べた上で、本書は知性を磨くためにも先人たちの思考の過程を追体験してみようと、漱石(第1章)、福澤(第2章)、西郷隆盛(第3章)、西田幾多郎(第4章)などの足跡をたどっていきます。

この中でも圧巻は(少なくとも私にとっては)第1章の漱石の話。

以下、第1章のなかから参考になるかもしれない文章を抜粋していきます。

「当時の日本には、1日でも早く列強に追いつかなければ国が滅んでしまう、くらいの危機感がありましたから、西洋の社会制度や技術、文化・芸術に至るまでたとえ猿真似と呼ばれようと必死に真似していく以外の道はなかったのです。

しかしそれが非常に辛いこと、特に知識人にとっては耐え難い痛みを伴うことを、漱石はよくよく理解していました。

いま西洋から日本に押し寄せている大きな潮流は、決して逆向きに流れることはないし、その波に晒されることによって、日本という国家と日本人は、今後自分を見失いがちになるのは避けられないだろう。

そしてその中で『滑るまい』、つまり自己同一性を保とうとするなら、もはや神経衰弱に掛からざるをえないだろう、というのです」(本書32頁)

「漱石は、〈私には名案も何もない。ただできるだけ神経衰弱に罹らない程度において、内発的に変化して行くが好かろう〉とも述べています。

しかし、聴衆にそう語りかけている漱石自身、実はこのときすでに神経衰弱を相当にこじらせているのです」(本書33頁)

「漱石の懸念した潮流に対し、『だったらこちらも西洋流の生活をすればいいだけだ』と開き直る人もいましたし、逆に『世の中がどれだけ西洋風になろうとも自分はすべて日本式で通す』と意固地になる人もいたはずです。

このようにどちらか一方の極に簡単に振り切れる人の場合は、複雑な現実を見ていないぶん、神経衰弱になることはなかったはずです。

しかし漱石は、そのような単純な考えを持つにはあまり知性が高く、また現実が見えすぎていました」(本書33頁)

「漱石は、日本ではエリートであるはずの自分が、英国の社会においては『日本人である』というだけで軽く見られる経験を留学中に何度かしています。

おそらくはその影響もあり、彼はやがて当時の国際社会における日本の弱い立場を自分自身の劣等感として抱え込むようになりました」(本書35頁)

「やがて漱石は大学へ聴講に行くこともやめてひたすら下宿で英書を読みふけるようになり、ついには精神に変調をきたすようになりました」(本書36頁)

「『こゝろ』という1つの作品だけをとっても実に多くのテーマが読み取れる構造になっています。

エゴと誠実さ。友情と恋愛。近代的自我。罪と罰。真面目に生きるとは。夫婦とは何なのか。師弟関係とは。あるいは殉死の是非、明治とはいかなる時代だったのか等々―。

これだけ多くのテーマを内包すればこそ、読む人が時代を超えて『これは自分の問題だ』と感じさせることができるのであり、同じ1人の読者でも、数年経ってその人の立場や心境に変化が生じると、以前読んだときとはまったく違う印象を受けたりするのです」(本書44-45頁)

「戦後を代表する評論家の1人である江藤淳は、学生時代に『三田文学』で発表し絶賛された論文『夏目漱石』で次のように書いています。

『しかしぼくらが漱石を偉大という時、それは決して右のような理由によってではない。

彼は問題を解決しなかったから偉大なのであり、一生を通じて彼の精神を苦しめていた問題に結局忠実だったから偉大なのである』

『彼が「明暗」に「救済」の結末を書いたとしたら、それは最後のどたん場で自らの問題を放棄したことになる。(中略)そして生半可な救済の可能性を夢想するには、漱石はあまりに聡明な頭脳を持ちすぎていたのである』」(本書45頁)

漱石のこうした悩みぬく姿を紹介しつつ、本書の著者の齋藤孝さんは読者に対してこう語りかけます。

「そもそも現代においては、普通に会社勤めをし、毎日仕事をこなしていくだけでも肉体的・精神的に相当タフであることが求められます。

20~30代くらいの年代だと、自分のキャパシティ以上の要求を多方面から同時に受けていっぱいいっぱいだ、という人も多いでしょう。

しかしそんな溺れてしまいそうな状況にあっても、ほんのひと呼吸ができる足場のようなものが自分の中にあれば、そこで呼吸を整え、自分のペースを取り戻すことはそれほど難しいことではありません。

読者の皆さんには漱石から、そういう場所をもつための方法論も学んでほしいと私は思います」(本書55頁)

* * * * *

悩むことから逃げずに辛くとも正面から向き合う。

何にも悩んでいないように見える人も意外なところで悩んでいたりします。

自分だけではないと知ることでも少しは楽になります。

その昔、『こゝろ』を読んだ時に、暗くて重い陰のようなもの、出来れば「見ないですませたいもの」を、見させられた印象を持ちました。

逃げずに一生悩み続けた漱石であるがゆえの作品だったのだと改めて思います。

| | コメント (0)

2017年3月 1日 (水)

未来に対する働きかけ

以下は、2週間後くらいに発売になる予定の 『文系が20年後も生き残るためにいますべきこと』 からの1節です(本書136-7頁、145-6頁)。

       Photo_2

■リスクを取らなければ、もっと大きなリスクがやってくる

「明日は必ず来る。

そして、明日は今日とは違う。

そのとき、今日最強の企業といえども、未来に対する働きかけを行っていなければ、苦境に陥る。

個性を失い、リーダーシップを失う。

(中略) 起こっていることを理解できなければ、未来に対する働きかけはできない。

その結果、新しいことを起こすというリスクを避けたために、起こったことに驚かされるというはるかに大きなリスクを負うことになる」  

これは、経済界に最も影響を与えたといわれる経営学者、ピーター・ドラッカーの言葉だ。

彼が言うように、確実に訪れる未来にたいして何の準備もしていなければ、企業であれ一人の人間であれ、苦境に陥ってしまうのは間違いない。  

たしかに新しいことを始めるのには、リスクが伴う。

失敗する可能性もある。

たとえば、あなたがいま、古い体質の企業で働いていたとする。

上司のご機嫌を伺いながらムダな業務に時間をとられ、きちんとスキルを磨く環境もない。

転職をしようと考えるが、転職にもリスクが伴う。

もしかして転職した企業がすぐに潰れるかもしれない、転職したらいままでと比べて給料が下がってしまうかもしれない、転職先で人間関係をうまく築けないかもしれない、そもそも転職先が見つかるかどうかもわからない…… 考え出せばキリがない。

転職しない理由をあげるのは簡単だ。

いまいる企業も簡単には潰れなさそうだし、このままここにいた方がきっと安定しているだろう……、そうやってリスクを回避しているうちに時が過ぎ、あなたは45歳になった。

「やっぱりこの会社に残ってよかった、なんとか定年まで勤められるかな」  

なんて考えていたある日、突然会社が倒産してしまう。

あるいは外国企業に買収されてしまう。

もしくは深刻な業況不振に陥り大規模なリストラが行われる。

しかし、あなたは会社の外で通用するようなスキルなど持っていない。

そのときはじめて、自分の犯した間違いの大きさに驚いてももう遅い。

ドラッカーのいう通り、新しいことを起こすリスクを回避したがために、もっと大きなリスクに見舞われてしまったのだ。

……ピーター・ドラッカーはこうも述べている。

「明日を築く土台となるビジョンは、不確実たらざるを得ない。

それが実現したとき、どのような姿になるかは、誰にもわからない。

成功するかもしれないが、失敗するかもしれない。

もし、不確実でもなく、リスクを伴うものでないならば、そもそも未来のビジョンとして現実的ではない。

なぜならば、未来それ自体が不確実であって、リスクを伴うものだからである」  

ドラッカーによれば、そもそも未来とは不確実なものだ。

正解はない。

たとえばあなたが転職や起業を考えていたとして、ひとつも失敗の要素がないとしたら、それはドラッカーが言うように未来への選択肢として間違ったものである可能性が高い。  

よく考えてみると、私たちの周りに確実である事実などほとんどないのかもしれない。

今日あるものが突然明日消えていることなど珍しいことではない。

確実なことがあるとしたら、いま生きていて、いつか死ぬということくらいだ。

そして死を迎えるその日まで、未来は続いていく。  

朝起きたら、終身雇用が終わりを迎えているなんてこととは、比べ物にならないほどの天変地異が起こるかもしれない。

そのとき、あなたはどうするだろうか。

どう生きたいだろうか。

正解のない不確実な未来を生きるためには、まず必要なものはなんだろうか。  

ビジネスの世界で生き抜くためのスキルや知識はもちろん大切なものだ。

だが、それも時代によって変化していくものだ。絶対的なものではない。  

では何もかもが不確実な世の中において、必要なものは何か?  

それはあなたの「こうしたい」「こう生きていきたい」という強い意志だ。

現実がどう変化しようと、あなたの「こうしたい」という強い意志があれば、それに合わせて情報を収集したりスキルを向上させたりすればいい。

逆にいえば、いくら高度なスキルを持っていたとしても「こうしたい」という意志がなければ、他人に振り回され利用されるばかりの人生になってしまう。

あなたはいまなぜ働いているのだろうか。

なぜ学校に行っているのだろうか。

そしてこれからどんな人生を歩んでいきたいと考えているのだろうか。

未来が不確実で不安であるからこそ、強い意志を持つことが人生の羅針盤になる。

* * * * * * * *

アマゾンのサイト(『こちら』)から予約注文できます。

| | コメント (2)

2016年11月20日 (日)

「持たざる国」からの脱却

このところ読んだ本で幾冊か印象に残ったものを若干の感想と共に紹介。

【1】「持たざる国」からの脱却

スタンフォード大学ビジネススクールで一緒だった松元崇さんの最新作。

松元さんの著作は「大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清」(2009年)をはじめとしこれまで全て読んできています。

その中でおそらくこの本がいちばん今日的意味合いを持って読めます。とくに20~50代の現役世代の方々にお勧め。

Photo_3

高橋是清、山縣有朋など戦前の財政史を研究してきた松元さんの目からすると、現在の日本の状況は日露戦争後の日本に似ている・・。

当時の日本は日露戦争後に行うべきだった改革を実施できず、昭和に入って農村部が疲弊、本来「持たざる国」などではなかったにもかかわらず、自ら「持たざる国」へと落ち込んでいき、戦争への道を歩んでしまった・・。

これまでの松元さんの著作同様、この本もこういった問題意識のもとに書かれていますが、今回の著作ではとくに日本人の働き方がIT( Information Technology)の進んだ現況に合っていない、このことにメスを入れています。

新卒一括採用、終身雇用といった日本独特の雇用慣行。こうした慣行の下では企業はひとたび正社員を雇ってしまうとこれを減らすことは相当難しい。いきおい投資に対して臆病になってしまう・・。

「日本を車にたとえれば、それは雇用調整というブレーキが備わっていない車のようなものです。(略)高度成長の時代には(略)せいぜい景気後退時に企業内失業というエンジン・ブレーキを使うくらいで(略)高度成長を続けていった」(本書81-82頁)

ところが「今日、雇用調整というブレーキが利かない車では怖くてスピードを出せなくなっている」(本書82頁)

松元さんは、人生の途中で職を変わることが当たり前にならなければならない、そうでなければ人的資源がじゅうぶんに活用できないと説き、ドイツとスウェーデンの復活事例を紹介しています。

話は逸れてしまいますが、先日の新聞に香川俊介さん(財務省で松元さんの後輩にあたります)が主計官だったときに米軍へ直接面会に行き「思いやり予算」を切り込み削減することに結びつけた話が出ていました。

我々一人ひとりが自分たちの持ち場で目の前にある必要な「改革」に取り組まなければ、日本はほんとうに「持たざる国」へと落ち込んでしまう、これがこの本を読んだ私の感想です。

【2】教養としての「昭和史」集中講義

この本は版元から献本して頂きました。

「集中講義」という名の本はこれまで何冊か読んだことがあります(光文社新書が多かったと記憶しています)。しかし読んで印象に残ったものはほとんどありません。

「集中講義」本の多くは、大学の先生や大学で教える金融の実務家たちなどが日ごろの講義内容を本としてまとめたもの。読者目線で書かれておらず、大学の講義録のようなものが多かったのです。

ですから本書も献本されなければ、本屋で見かけても題名だけで敬遠、素通りしていたと思います。

しかしこの本には良い意味で期待を裏切られました。

著者が話した内容を原稿にまとめたというライターの腕と編集者の力量によるのでしょう。

読み物としてひじょうに読みやすかったと思います。

Photo_4

「日本とアメリカが戦争をする可能性はきわめて低かった・・。実際、よくいわれているように、アメリカは原爆を日本ではなくドイツに落とすために開発していた」(本書157-158頁)。

「もし日本が真珠湾を攻撃しなければ、アメリカは第二次欧州大戦のみに専念し、一方でアジア・太平洋ではイギリスやオランダと日本が植民地をめぐって戦争を繰り広げる状態が続いていたのではないかと思われます」(本書159頁)。

これは至極まっとうな指摘なのでしょうが、であればなぜ真珠湾攻撃などという無鉄砲なことをしてしまったのでしょうか・・。

この本は当時「海軍が戦争をせざるをえない状況に陥っていった」(185頁)と説き、ちまたで言われている「海軍善玉論」は、研究者レベルでの議論ではないと切って捨てています。

それでは陸軍出身の東條はなぜ開戦の決定をしたのか、本書はその辺のところも追及していきます。

【3】住友銀行秘史

著者の國重さんの名前は、板倉雄一郎さんの「社長失格」という本の中で住友銀行日本橋支店長の肩書と共に実名で出てきていたので知っていました(ちなみに「社長失格」も実名でいろんな人が登場し、読んで面白い本です)。

話は戻って、「住友銀行秘史」。

この本は新聞でも大々的に広告され、話題になっていたので買ってみました。

しかし読んで後味の悪い本。

Photo_7   

出てくる登場人物が全員が全員、社内政治のみに奔走しており、「社会に対して価値を創造する」という志や気概がまったくない・・。

住友銀行幹部ともなれば高い年収を手にしていたのでしょうが、それは本来は価値を創造することの対価のはず。

そもそも平和相互を合併し、いたずらに店舗網を増やすことが、住友銀行の企業価値、株主価値の向上につながると考えていたのでしょうか。

若い読者にはこの本を読んで誤解をしないで頂きたいのですが、ここに出てくる話は銀行という規制業種において一時期に見られた特殊な世界での話。

競争原理が働く普通の業界で、この本にあるように経営陣が社内政治のみに奔走すれば、その会社はすぐに淘汰されてしまうのではないでしょうか。

もちろん最近の東芝などの事例をみれば明らかのように、多くの大企業でもこの本と似たような状況がある程度は散見されるのかもしれません。

しかしこんなことをしていては日本は世界からどんどん置いていかれてしまいます(というのが、本書を読んだ私の感想)。

人生は長いようで短い。はたして本書の登場人物たちは、こういった社内政治に明け暮れる人生を送ってきて、ほんとうに後悔しなかったのでしょうか。

【4】国家とハイエナ

黒木亮さんの最新作。

80年代初め、私は興銀の外国部でユーゴスラビアなどの東欧諸国の債務リスケジューリングの仕事をしていたことがあります。

そのため本作に出てくる国際金融の場面はそれなりに馴染みがあり興味深く読めましたが、新興国の債務問題に無縁の人には本書は取っ付きにくいかもしれません。

Photo_9

この本に書かれていることはこれまで日本のメディア(新聞、雑誌、出版)でほとんど報じられたことがありませんでした。

そういった意味で価値ある本であり、多くの人は知らない世界を本書を通じて垣間見ることが出来ると思います。

| | コメント (0)

2016年7月30日 (土)

検証

今年2月に 『不透明な10年後見据えて、それでも投資する人が手に入れるもの』 という本を出しました。

その中で 「GoogleかアマゾンかアップルかFacebookの何れか、またはその4社すべてに投資する」 ことについて書きました(86-88頁)。

と同時に、ダウ平均株価指数に投資することについても書きました(126頁)。

はたしてその結果は?

まだ5か月しか経っていないのですが、本が出版された日(2月26日)と現時点(7月29日)で比較してみましょう。

  1

4社すべて上昇しましたが、中でもアマゾンやFacebookの上昇が際立っています。

ところで、この間、円高に振れました。

2月26日の為替レート(TTM 113.02円)で円をドルに換えて米国株に投資し、7月29日の為替レート(TTM 104.42円)で(売却した米国株を)円に戻したらどうなっていたでしょうか。

    2

円ベースでみても、やはりアマゾンが際立っています。

アマゾンのベゾスはウォーレン・バフェットを抜いて世界第3位の金持ちになったのだとか(『こちら』 および 『こちら』)。

シアトルの建設中のアマゾンの新しいコーポレート・オフィスは再来年(2018年)完成の予定です。

    Amzon_s_2

Amazon_seattle_5

| | コメント (0)

2016年4月21日 (木)

下流中年

スタートアップ企業への投資の仕事をしている関係上、毎週のようにベンチャー起業家と会います。

半分くらいは私の会社に訪れてくる人たち。

逆にこちらから訪問するケースも多くあります(むしろ訪問したくなるような会社の方が有望な先が多いような気がします)。

なぜ起業することにしたのですか、という定番の質問をすると実にいろいろな答えが返ってきます。

これまでにいちばん印象に残った答えは

「たくさんの人を正規社員で雇って少しでも社会貢献したい」(A社長)。

* * * *

「下流老人」ということが言われて久しいですが、最近では 「下流中年」 がもっと大きな問題なのだとか・・・。

たまたま先日、出版社の方がまさにどんぴしゃりの タイトルの本 を送ってくれました。

              Karyuu

こうした本に対しては必ずと言っていいほど「下流中年になってしまうのは自己責任でしょ」といった批判的な書評が寄せられます。

しかし48歳の正規で働いていた人が老親に介護が必要になり、いったん会社を辞めるというのは自己責任でしょうか。

老親も息子もそれまでじゅうぶんにお金を稼ぎ、結構手厚い保護を受けられる民間の介護付き老人ホームに入れれば、確かに息子の方は会社を辞めて介護にあたる必要はないかもしれません。

しかし、別の例ですが、自分が働いていた会社が不幸にして倒産してしまったら・・・。

あるいは新しくやってきた社長がきわめて理不尽な人で、ブラック企業的にあなたを追い詰めたら・・・。

本書(123頁)にあるようにセクハラ、マタハラなど「いじめによる自主退職が転落の最初の要因になる」ことも少なくありません。

本書の最終章(137~237頁)には12人の人たちの例が出てきますが、これを読んで無縁と言えるかどうか・・。

厚労省が2015年11月に公表した「平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、全労働者に占める非正規労働者の割合は約40%に達します(本書138頁;オリジナルデータは『こちら』)。

ポイントはこの約40%の非正規で働く人たちの生活が多くの場合、いつ転落してもおかしくないというギリギリの水準にあることです。

40代でいったん会社を辞めたら、次は正規ではなかなか雇ってもらえないというおかしな状況が日本にはあるのです。

また一方で年金をもらう世帯は給与所得者に比べ税制的に優遇されるケースが多いとか、世代間の不公平さの現実もあります。

以下は本書52頁に出てくる萱野稔人氏の発言。

(萱野)

「今の日本では、特別会計も含めれば社会保障費のうち100兆円が高齢者福祉に費やされています。

ところが、同じその日本で、預金総額が毎年30兆円ずつ増加しているという現実もある。

・・なぜこんなに増えているのかといえば、年金を貰っても使わない高齢者がたくさんいるからです。

今の日本には・・老後も毎月40万円以上の年金を貰えるような高齢者がいます。

・・結果的に年金は使われず、貯蓄に回されています」

* * * *

冒頭ご紹介したA社長が経営するような会社が競争社会を勝ち進み、たくさんの正規社員を雇ってくれるようになるのを期待したいところです。

(と同時に何か社会の仕組みを改善しないといけないところまで来ているような気もします)。

| | コメント (0)

2016年4月 1日 (金)

ノルウェーでは現在毎月10万円を国民に配る制度が開始されようとしている

最近読んだ本から幾つかを選び感想を載せてみました。

今回の表題は、昨日読んだ『City Journal』の記事の内容をコンパクトにまとめたもの。下記(4)の本の感想を書く際に思い出しました。

表題に関心ある方は途中を飛ばして一気に(4)まで進んでください。

(1)『サイロ・エフェクト』     

著者のジリアン・テットが東京駐在だったときに何度か取材を受けました。

投資銀行、とくにM&Aを担当する部署はマスコミを極端に警戒します。

したがってマスコミの取材に応じることは基本的にあり得なかったのですが、私の上司が英国人で、Financial Times 東京駐在員だったジリアン(同じく英国出身)とは仲が良く、上司から頼まれ、やむなく取材に応じるというケースが多かったのです。

   51fcuh3fwml__sx341_bo1204203200__2

聡明で、パワー溢れるジリアンが文化人類学者としての視点から、縦割りの会社経営の問題に切り込んだのが本書。

ソニー、ニューヨーク市庁、UBS銀行など、いろいろな組織が登場しますが、どれも示唆に富む内容で興味深く、あっという間に読めてしまいます。

(2)『人生一度きり!50歳からの転身力』

本書の編集に携わった方から送って頂きました。

50歳、60歳から起業する人が少しずつ増えています(少なくとも私の周りでは)。

   51ddlzqjx3l__sx339_bo1204203200_

本書ではシニア起業をした人たちの事例が豊富に取り上げられていています。

「森林インストラクター」など、この本で初めて知る職業がたくさんありました。

気楽に、どのページからでも読めるといった構成になっています。

(3)『東芝不正会計』

東芝事件をコンパクトにまとめています。

何が起きたのか、五月雨式のマスコミ報道ではなく、まとまった形で読んで理解するには便利な本です。

別の見方からすると、新聞や雑誌を丹念に読んできた方は、本書に特に新たな情報があるわけでなく不満に思うかもしれません。

    51q63u9afnl__sx328_bo1204203200_

せっかく本にするんでしたら、不正会計「前」の財務諸表と、「後」のそれを各年ごとにどう違ってくるのか、表にしてまとめて分析しても面白かったかもしれません。

(4)『自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう会議』

編集者から送って頂きました。

図や表、データ類が豊富な本です。

    1_2

こうした本を読んで、ファクト(事実関係)を幾つか押さえておくと、接待などの席上で、

「これは、こういうことなんですよ」

と説得力ある議論を展開できるかもしれません。

対談形式の本ですが、個人的には真っ向から違う意見の人が論じる本の方が(論点が鮮明になって)好きです。

年金の世代間格差のところはやや切り込み不足。政治の問題だと指摘しつつも、時代が変わったのだからどうしようもないと論じてみたり・・。これでは若い世代は納得しないように思いました。

もっと抜本的な解決策を論じて欲しかったというのが正直な感想。

例えば現在の「賦課方式」から「積み立て方式」に移行するとか、あるいはノルウェーでは現在毎月10万円を国民に配る制度が開始されようとしています(詳しくは『こちら』)。

ベーシックインカムの考えを実際に実現しようという試みなのですが、ノルウェーではこれにより社会福祉に関する官僚主義的な無駄を排したい(shut down its welfare bureaucracy)としています。

(5)『浜松ピアノ物語』 

ピアノの製造に関する話がたくさん出てきます。

明治の時代、国産ピアノを作るのが如何にたいへんだったのか、なぜ浜松にピアノメーカーが集まったのか・・。

1985年のショパンコンクールでヤマハと河合が公式採用されたときの新聞記事なども掲載されていて、ピアノ好きには面白い本となっています。

     51dpcknkxhl__sx311_bo1204203200_

ただし70頁~129頁は浜松地域のピアノ関連メーカーを50音順に列挙しただけなので、(浜松とは関係ない)一般の読者にとっては、あまり意味の無い頁が続く形になっています(その分、本書の値段は476円と安いので、まぁ良しとしようといった感じでしょうか・・)。

それにしてもヤマハの株価。

今年に入って日経平均(下図の赤線)が約1割下落する中、逆に2割も上げています(下図の青線)。

Photo

関心ある方は『こちら』の記事をどうぞ。

| | コメント (0)

2016年3月29日 (火)

メルマガ

「まぐまぐ」を通じてメルマガを配信することになりました。

創刊号(3月26日付)は『こちら』をクリックし、「サンプル」のタブを開いていただければ、無料でご覧になれます。

  Mm_2

(別途『購読する』をクリックし読者登録された方には、第2号(4月25日発行予定)以降の各号が有料にて届きます。購読はいつでも『取り止める』ことが出来ます)。

| | コメント (0)

より以前の記事一覧