2024年2月19日 (月)

ETF(Exchange Traded Funds)

本日は日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』に出演しました。

トッピクスはETFについて。

ETFとはExchange Traded Fundsの略。

証券取引所に上場する投資信託のことで、多くは株価指数などの指標への連動を目指します。

世界のETFの運用残高は1800兆円。

ETFは、金融商品の中で「20世紀最大の発明」とも言われます(日経ヴェリタス2/18号、第1面)。

これはどのように開発されたのでしょうか。

【1】ブラックマンデーに遡る

1987年10月19日のブラックマンデー。

米国市場はたった1日で22.6%も下落しました。

これは1日の記録としては、今日に至るまで歴史上最大の下落率です。

どうしたら、こういった下落は防ぎ得たのでしょうか。

事後検証や研究の結果、「市場にもっと流動性があれば、過度な暴落を防げたはず」との結論に辿り着きました。

当時は、先物やオプションの市場では、マーケット全体を取引出来ましたが、

現物市場(Cash Equityの市場)では、マーケット全体を売買できる単一の有価証券がなかったのです。

「この種の単一の有価証券があれば、市場の流動性が高まる」ー こう考えられて、開発されたのが、ETFです。

第1号となったのは、S&P 500の指数に連動するETFで、1993年に誕生しました。

SPDR(スパイダー;Standard & Poor's Depository Receipts の略)の名がつけられ、

「SPY」のティッカー・シンボルで取引されました。

現在、SPDRのSPY 1本だけで、日本円に換算して、74兆円の純資産総額(4,917億ドル)を有しています。

日本全体のETF残高(日銀保有分も含めて)が75兆円と言われていますので、SPY 1本で、日本全体にほぼ匹敵することになります。

【2】ETFには2つの市場がある

ETFには、「流通市場」と「発行市場」の2つの市場があります。 

これについては『こちら』の記事によくまとめられていますので、ご覧になってみてください。

【3】ETFには3つの価格がある

もう一つ。

ETFには、「取引所価格」と「基準価額」、そして「インディカティブNAV(推定一口あたり純資産価格)」の3つの価格があります(『こちら』)。

2つの市場と3つの価格。

少しややこしいですが、これが分かるようになると、ETFの仕組みが理解できるようになります。

【4】日本の個人投資家がETFを買う時の注意点

いろいろな種類のETFが誕生してきていますが、個人投資家が実際に買う時には注意も必要です。

ひと言で言うと(すべての金融商品の評価に共通するポイントでありますが)流動性がきちんとあるか、

つまり売りたいときに、きちんとした価格で売れるか

という点に留意する必要があります。

具体的なチェック・ポイントは3つ。

(1)出来高(1日当たりの出来高)

(2)純資産残高

(3)基準価額と市場価格の乖離率

純資産残高について言えば、SPYは残高4,917億ドル(74兆円)です。

一方、日本では317本のETFが東証に上場されていますが、純資産残高30億円未満のものも少なくありません。

(3)の基準価額と市場価格の乖離の問題は、2018年に東証がマーケットメイク制度を導入したことで大分改善されました。

【5】日本のETFマーケットの特殊性

日本全体で、ETFの残高が75兆円と言われていますが、

日銀保有分を除けば、12兆~13兆円です。

一方、米国のETF市場は、1,100~1,200兆円と言われていますので、サイズで見ると、米国の100分の1です。

ただし本数で見ると、米国3,100 本 vs. 日本317本。

つまりサイズでは、米・日の比率が100対1でしたが、本数になると10対1となります。

これは1本あたりの運用資産残高が小さいものが日本には多くあることによるものです。

【6】投信を買うか、ETFを買うか

昔はETFの方が、コスト(信託報酬など)が安かったので、ETFの方がお勧めでした。

しかし最近は、eMAXIS Slimなど低コストの投信が出てきたので、どちらを選んでも大差ありません。

新NISAで「つみたて投資枠」を利用する場合は、ETFは使えません。つまり投信を選ぶしか手がありません。

新NISAには「つみたて投資枠」以外に「成長投資枠」もありますが、これについては投信でもETFでも利用できます。

投信は口数を設定して、何口買いたいと注文しても、幾らの単価で買えたのか、翌日もしくは翌々日になるまで分かりません。

一方、ETFは、スクリーンを見ながら、指値などでも購入出来ます。

こういったことから、ETFの方が好きだという人も多くいます。

この辺は人それぞれだと思います。

【7】日銀が保有するETF

日銀が持つETFは、昨年9月末で簿価37兆円に対して、時価61兆円。

つまり含み益が24兆円もあります(現在では含み益はもっと膨らんでいるはずです)。

この含み益は日銀にとっては有り難い数字だと思います。

というのも、9月末時点で、保有国債(586兆円)の含み損が10兆円あったからです。

いずれにせよ日銀はいずれ金融を正常化していくことになるものと思われ、ETFについても、

何らかの処置が必要になります。

ネットの世界ではいろいろな案が語られていますが、

たとえばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に、若干のディスカウントで、毎年少しずつ引き取ってもらうといった案も考えられうるかもしれません。

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なお日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』は『こちら』でご覧になれます。

(未契約ですと最初の1分半ほどで切れてしまいますが・・)

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2024年1月27日 (土)

生涯現役、定年後は「好き」を仕事に

私ごとで恐縮ですが、40年以上も前のことです。

当時、興銀に勤めていて、まだ20代でした。

人事部から電話があり、「何事か」と思って行ってみると、「米国シカゴに赴任して欲しい」と言われました。

この後5年近くをシカゴで過ごすことになるのですが、もちろん希望していた訳ではありません。

事前に何の話もなく、まさに晴天の霹靂でした。

そしてシカゴは冬が寒くてたいへんでした。

ウィンディ・シティと呼ばれ、風が強くて、体感温度はマイナス10℃にも20℃にもなります。

会社勤めをするということは、どこに住むのか、どういった仕事をするのかについて、多くの場合、自分でコントロール出来ません。

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      (写真は日経新聞電子版の当該記事サムネ)

もっとも最近の若い人は、こうした滅私奉公的な、昭和的価値観から少しずつ距離を置いてきているように思います。

中には、FIRE(Financial Independence, Retire Early;経済的な自立による早期リタイア)を目指す人も多いと聞きます。

会社から離れて、早く自由になりたいということなのでしょう。

ところで話は変わりますが、日本で60歳以上で仕事をしている人に聞くと、44%の人が「75歳を超えても働いていたい」と回答しています(内閣府「高齢社会白書」)。

FIREを目指している若者からすると、「何で?」といった感想になるのかもしれません。

なお米国で何歳まで働くつもりかを聞くと、54%の人が65歳以下と答えています(下図;出所は『こちら』)。

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こうした統計の数字を並べてみても、あまり意味ないのかもしれません。

「働く」ということに対しての捉え方が、人それぞれで違うからです。

そんなことを考えながら記事を書き、日経新聞に寄稿しました。

『こちら』です。

明日発売の日経ヴェリタス紙にも掲載されます。

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2024年1月 9日 (火)

今年から始まった新NISAについて

本日は日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』に出演するため、昼間、大手町の日経本社ビルに行きました。

本日の日経平均は取引開始後10分ほどで(9:10 AM)33,990円をつけ、34,000円台に迫る勢い。

そんなこともあってか、ここで働く人たちも、いつにも増して明るく感じました(気のせいかもしれませんが)。

番組のトッピクスは今年から始まった新NISAについて。

【1】新NISAはどう評価できるか

これまでのNISAは、たとえば5年経ったらロールオーバーが必要になるケースもあるといった具合に煩雑さが目立ちました。

新NISAはそういった今までのNISAの弱点がかなり改善され使い勝手が良くなっています。

資産形成を図る上で役に立つと思われます。使ってみることをお勧めします。

この制度を作る上で推進役の1人となった内閣府副大臣(当時)が、昨年雑誌のインタビューで次のように発言していました。

『つみたてNISAの導入に向けて関係者をどう説得しようかと考えていたとき、誰かから「米国ではごく普通の仕事をしている、普通の人がミリオネアだ」という話を聞いたの。』

 『「つみたてをしているアメリカ人はザラに1億持っているんだ」って、自民党の会議で言いふらしましたよ。ザラにじゃないかもしれないけれど』

2019年に出した拙著(『こちら』にも、こんな一節があります。

『米国で世帯主が65歳以上の平均所得は月57万円、年収にして680万円』

この数字は現在(2022年の数字)で年収1000万円を超えています(『こちら』)。

65歳以上の世帯年収がこれだけ多いということは、米国の401Kという『年金資金積立制度』が有効に機能しているからと思われます(詳しくは上記拙著をご覧ください)。

つまり新NISA(とくに「つみたて投資枠」)は最初から米国の401Kを意識して作られた訳で、「国も漸く国民の資産形成に真剣に取り組みだした」と評価できるように思います。

【2】年齢によってポートフォリオの資産配分を変えるという考え方について

年齢が上がるにしたがって、ポートフォリオの中身をリスクの低いものにしていくというのは、米国の教科書にも載っている考え方です。

昔から米国では、株と債券の資産配分のルールとして、「100マイナス年齢で株を持て」とか「110マイナス年齢で株を持て」と言われてきました。

すなわち25歳の人は100あるいは110から、年齢である25を引いて、80前後が株式の比率になり、残りは債券の比率になります。

ただ日本の場合は、債券がまだ金利がほとんどつかないといった特殊な事情にあります。

10年ものの個人向け変動国債の金利は税引き後で現状年0.37%。

100万円預けて、3,700円しか金利がつきません。

そういった面では米国の考え方をそのまま今の日本に当てはめることについては違和感を持つ人もいるかもしれません。

(ちなみに米国ではiPhoneに出てくるアップルの定期預金で税引き前4.3%つきます)。

なお債券と言っても、リスクの高いものもあります。

昨年はクレディスイスのAT-1債が全損になりました。

仕組債で大やけどをした人もいます。

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    (写真はキプロスの銀行)

更にもう1点。

個別の債券はNISAの対象外です。

【3】NISAで投資して、相場が下落したら、どうするか

株式投資をしていると、相場が大きく下落することもあります。

ウォーレン・バフェットも資産が半分になったことが、これまでに4回あると話していました。

株式投資をする以上、ときに自分の資産が半分になるリスクは覚悟する必要があるように思います。

そんな時、どうするのがいいでしょうか。

個別株ではなくて、S&P500などのインデックス投資の場合は、たとえ半分になったとしても、持ち続けることです。

最悪なのは半分になった時点で狼狽売りをすること。

リーマンショックの時は、米国の株価は半分(正確には46%)になりましたが、5年半で元の水準に戻りました。

1929年の大恐慌の時は、株価は9分の1になりました。

元の水準に戻るのに25年かかりましたが、この間、半年に1回株を買うという積立投資をしていれば(安くなった時に買えるので)、6年で元に戻りました。

多くの人は暴落の相場が続くと、怖くなって降りてしまいますが、下がった時に売らずに、市場に参加し続けていることがポイントです。(繰り返しますが、個別株ではなくて、S&P500などのインデックス投資の場合の話です)。

【4】新制度を機に、初めて投資を始めようという人も多い。基本的なことから教えて欲しい。

まずNISAの口座の開設は銀行がいいか、証券会社がいいかですが、銀行だと株式やETFが買えません。よって証券会社の方を考えるべきです。

とくにネット証券は手数料が割安なのでお勧めです。

次にNISAには(1)つみたて投資と(2)成長投資があります。両方いっぺんにスタートさせてもいいのですが、資金的にあまり余裕のない人や初心者は、つみたて投資から始めるべきです。

たとえば「毎月3万円ずつ投資信託を買っていく」という方式で、これが一番資産形成に向いています。

金額を一定にして購入していく「つみたて投資」方式は、相場が安い時に、より多くの投資信託を買えるという利点があるのです。

なお投資信託にはインデックスとアクティブとがありますが、どちらかというとインデックスの方がお勧め(『こちら』の記事参照)。

信託報酬などの手数料もインデックスの方が安価です。

ネット証券の大手3社を対象に、『ある雑誌』が、『昨年1月から11月末まで、つみたてNISAで、どの銘柄の買い付けが多かったか』を調査しました。

結果は、どの会社でも米国のS&P500に投資するインデックスファンドが第1位でした。

個人投資家の方々はよく勉強していて、ちゃんと分かっているなと思いました。

【5】リタイヤ後の運用について。また全世代を通して新NISAへの向き合い方など

一般的には、さすがに70代になれば、資産を取り崩すのが一般的と考えられていますが、『金融庁の調べ』によると、これまでにNISAで買い付けられた金額のうち25%以上が70代以上によるものとなっています。

なかには80歳以上になっても、つみたてNISAを使って、定期的に積み立てている人もいます。

実際のところ、いまの80代、90代の人と話すと、無駄使いはせずに無理のない範囲で資産を増やせるなら増やして、(自分で使い切るというより)子や孫の世代に残したいという人が結構多いように思います。

つまりどの世代であっても、NISAのつみたて投資枠と成長投資枠は使えると思います。

ただし、NISAにはマイナス面もあります。

損を出した時、NISAでなく一般の株式投資であれば他の利益を出している金融資産と、税務上、損益通算できます。

しかしNISAでは損を出しても、何の救いもありません。

つまりNISAでは損を出さないことが、より一層重要になります。

そういった意味では、個別株よりもインデックス投信、なかでもS&P500とかオルカンと言われるオールカントリー・インデックスが向いていると思います。

ちなみS&P500は30年前と比べると、ちょうど10倍になっています。

なお本日の番組の冒頭部分は『こちら』でご覧になれます。

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2024年1月 1日 (月)

明けましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします。

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                            (元旦の朝の富士)

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2023年12月16日 (土)

投信とETF

10年以上も前に著した本の中で「投資信託の手数料は苛酷である」と書いたことがあります。

当時、投信の主流は販売手数料1.0~3.0%。

その他に、信託報酬が年2%前後。

100のものが、買った途端に97になり(注:販売手数料3.0%の場合)、しかも20年持てば(信託報酬が年2.0%の場合)更に約20%減価し、結果、77前後になります(注:運用成績がプラス、マイナス、ゼロの場合)。

しかしながら・・。

10年以上の年月の結果、時代はずいぶんと変わりました。

現在では、ネット証券を使えば、販売手数料ゼロの投信が増え、しかも信託報酬も例えばeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の場合、年0.05775%。

ところで、いま日本の投資信託の世界で起きていることは、eMAXIS Slim シリーズのように、強いものがますます強くなるという現象です。

運用会社が投資信託を運用する上では一定のコストがかかりますが、多くの運用資金を集めていれば、コストは薄められます。

その結果、こうした投信が競争優位となり、ますます資金を集めやすくなるといった好循環に。

逆にじゅうぶんな運用資産を集めることが出来ない弱小投資信託の中には、コストを吸収しきれないところも出てきています。

現在もっとも多くの運用資産を集めているのが、eMAXIS Slim米国株S&P500で、純資産総額は、なんと2.95兆円。

いずれにせよ信託報酬がここまで低くなってくると、ETFとの差が少なくなってきます。

そんなことを考えながら、日経新聞(電子版)に寄稿しました。

『こちら』です。

明日の日経ヴェリタス紙にも掲載されます。

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(注:図はSMBC日興証券のサイトより)

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2023年11月17日 (金)

道場

今週月曜日に放映された日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』は、EV(電気自動車)について。

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EVは環境にやさしいと言われてきましたが、実は(電池の材料となる)リチウムやコバルトなどを鉱物資源から取り出し

『製錬』する過程で、硫酸が使われることも多く、環境汚染の問題も指摘されてきています。

『現在は中国のような環境規制が緩い国で、環境負荷に目をつぶってリチウムを増産している』状況(週刊エコノミスト23年10/10・17合併号、31頁)。

もっとも上記TV番組が放映された後のことですが、米国時間の13日、米エクソンモービルが、環境負荷の低い直接リチウム抽出法(DLE)により米国でリチウムを生産することを発表(『こちら』)しており、今後が期待されています。

ところで番組ではEVとは直接関係ないのですが、Dojoについても触れました。

Dojoとは日本語の道場から来たもので、マトリックス・レザレクションズにも出てきます。

マトリックス好きで知られるイーロン・マスクは、開発中のテスラのスーパーコンピューターにこの名前を付けたのです。

スパコンに膨大なデータを与えて、徹底的に鍛え上げるーこうした趣旨での命名だったのかもしれません。

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(上の画像は道場で格闘技で競うネオとモーフィアス。The Matrix Resurrections の Official Trailer より)

さて、いまなぜテスラのDojoが注目を集めるのでしょうか。

EVだろうとガソリン車だろうと自動運転機能はクルマの頭脳に当たる部分。

これを制する者が自動車を制すると言われてきました。

しかしながらレベル4と言われる完全な自動運転車はなかなか実現に至りません(米国アリゾナ州の幾つかの都市、および加州のサンフランシスコ、さらには中国の幾つかの都市ではすでに自動運転タクシーが出てきてはいますが)。

レベル2にせよ3にせよ、これまでの自動運転車では、ソフトのみならずハードが重要な役割を果たしてきました。

カメラや、ミリ波レーダー、そしてライダーです。

自動車メーカー各社は、自動運転に近づけるべく、最新鋭のミリ波レーダーやライダーを装備することに注力。

遠隔地からソフトウェアのアップデートでクルマの性能を引き上げるだけでは事足らず、より優秀なハードを求めてきたのです。

しかしイーロン・マスクは2021年に開発中のテスラ車からレーダーを取り払うことを決断します。

車に備え付けるのは8個のカメラのみとし、後はソフトウェアを進化させることで、完全自動運転に近づこうと方向変換したのです。

この辺は、ウォルター・アイザクソンの『イーロン・マスク』(下巻、130~131頁)に詳しいのですが、

直接的な契機はコロナ禍でマイクロチップが不足し、レーダーの部品が足らなくなったことでした。

これを機にマスクはそもそもレーダーなど要らないと主張し始めました。

当然ながらテスラの技術開発部隊はマスクのこの考えに大反対。

カメラや人の目で確認しづらい物体もレーダーなら検出できると主張します。

しかし、結局、マスクは開発部門の言うことを聞かず、2021年1月22日、電子メールで社内に向け最終通達を出します。

『今後、レーダーは切ること。

松葉づえなんぞはなくす。

伊達や酔狂で言っているわけじゃない。

カメラのみでちゃんと運転できるのはまちがいない』。

このメールを受け、多くの技術陣はショックを受け、何人かは退社しました。

一方でイーロン・マスクは

『人間だって目で見ているだけ、それだけで運転できる』

との持論を崩しません。

要は、ソフトが支配する世界への方向転換です。

ハードに縛られることなく、ソフトウェアをアップデートさせていくことによって完全自動運転へ近づいていく・・。

マスクはこうした方向に舵を切ったのでした。

もう一つ。

マスクの凄いところは、このソフトウェア進化の手法も、根本から変えたことにあります。

これまでは『赤信号なら止まれ』、『青信号なら進め』といった具合に、ルールを定め、それをコンピューターに学習させてきました。

しかしマスクは、そうしたルールベースではなく、実際に人間がどう運転しているのかを、ニューラルネットワークのシステムで学習させることにしたのです。

それには膨大な量のデータと、これを学習、処理する高性能コンピューターが必要になります。

そこで登場したのが、スーパーコンピューターのDojo(道場)なのです。

道場はスーパーコンピューターのランキングで一時、世界5位にランクインしたほどの優れもの。

さらに学習(鍛錬)に必要なデータ量ですが、これもグーグルのように自社開発のクルマをマウンテンビュー(Mountain View、シリコンバレーの町)で走らせてデータを集める、といった作業はもはや必要ありません。

と言うのも、テスラ車の累積生産台数はすでに4.5百万台(23年7月)を超えています。

少なく見積もっても2百万台から刻一刻のデータが集まると言われており、膨大なデータ量がDojoの下に集められてきています。

これを超高性能のスーパーコンピューターで学習させ、人間の脳に近づける(あるいは超える)作業が実際に始まっているのです。

Dojoには当初NVIDIAの高性能チップA-100が使われていましたが、マスクはこれでは十分ではないとし、自社で高性能のAIチップ『D1』を開発。これは、TSMC が製造を受託し、7ナノの技術で製品化しています。

D1チップの導入によって、DojoはそれまでNVIDIA社製で1か月かかった訓練を1日で終わらせることが出来るようになったと言います。 

AIの時代は、『Winner takes all 』(勝ったものが独占できる)の時代。

モルガンスタンレーのアナリストはDojo(道場)だけで75兆円の価値があると評価。

つまりトヨタの時価総額の1.7倍の価値があると試算したのです。

いずれDojoが世界の自動車市場を制覇する時代が来るのか、それとも幻(まぼろし)に終わるのか。

あと数年するとその結末が視野に入ってくるかもしれません。

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2023年11月10日 (金)

超速の時代を勝ち抜く変革者たち

どうすればイノベーションを起こせるのか。

四半世紀以上も前の1997年、スティーブ・ジョブズは

“Think Different”

と題するCMでその答えに迫ってみせました。

更にイーロン・マスク、NVIDIA創業者らに共通の資質とは・・?

日経(電子版)に寄稿しました(『こちら』)。

明後日発売の日経ヴェリタス紙にも掲載されます。

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(写真は上記記載の日経新聞記事。上記をクリックしてご覧になってください)

 

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2023年10月10日 (火)

資産運用立国への道

2015年のことですが、米国のモーニングスター社が世界25か国の投信市場を評価しました(『こちら』)。

A:米国、韓国

A-:台湾

B+:英国

B:スウェーデン

B-:豪、スイス

C+:カナダ、ドイツ、タイ

C:南アフリカ、スペイン、シンガポール、香港

C-:日本

D+:中国

以来、日本は時として「運用後進国」と言われるようになってしまったのですが、

今週の日経ヴェリタス紙は、

『運用後進国 返上なるか』と題しての特集です。

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以下、記事の内容とは離れますが、

『運用後進国 返上なるか』に関する、私の個人的見解を述べます。

【1】ファンドの数が多すぎる

昔から言われてきていることですが、日本の投信業界では、販売会社の力が強いのが特徴です。

この結果、たとえば「新時代を切り開くAI銘柄の投信」といった具合に、

販売会社が売りやすいテーマに沿った投信が直ぐに組成される傾向にあります。

金融庁のレポート(『こちら』)によると、

日本で設定されているファンドの数(14,297本)は米国(10,237本)よりも多くあります。

結果として、1ファンド当たりの運用資産額(日本143百万ドル)は米国(2,793百万ドル)の20分の1しかありません。

運用会社は、規模の小さなファンドをたくさん抱えるということで、ある意味、自分で自分の首を絞めてしまっています。

『規模が小さいがゆえに信託報酬などのコストもしっかりと徴求せざるをえない』
       ↓
『結果、資金が集まらず、規模が大きくなっていかない』

といった負のサイクルに陥ってしまっています。

【2】運用会社は弱肉強食の時代

先月、三菱UFJアセットは、eMaxis Slimの全世界株式(オール・カントリー;通称オルカン)の信託報酬を0.0525%に引き下げました。

これだけ信託報酬が安くなれば、個人の資金は益々こうしたファンドに集中していきます。

ちなみに三菱UFJアセットは、eMaxis SlimのオルカンとS&P500の2本だけで純資産4兆円超を集めています。

これだけで、野村アセット(700本以上の投信を抱える)の3分の1の運用資産に達するわけですから『eMaxis Slim 強し』です。

このように 現在の投信業界では、信託報酬の引き下げ競争が起きているのですが、信託報酬が安いと益々そこに資金が集まる・・。

つまり言い方を変えると、強いところはますます強くなる(信託報酬を下げてもやっていける)。

業界はまさに弱肉強食の時代に突入していると見ることも出来ます。

【3】新NISA時代の独立系運用会社

日本の場合は独立系のシェアが極端に低い(日経ヴェリタス紙3面のグラフによれば6社で全体の1.5%程度)のが特徴です。

三菱UFJアセットや野村など非独立系が販売面で圧倒的パワーを持つのに対して、独立系は彼らほどの販売力がなく、量を集めることに限界があります。

よって非独立系との間で信託報酬引き下げの競争に陥ると勝ち目がなく、独立系がインデックス型を扱うのは得策ではありません。

独立系は、アクティブ系で圧倒的なパフォーマンスを上げることでシェアを獲得していくことを目指すべきだと思います。

たとえば米国でキャシー・ウッド率いるARKは一時3兆円を超える資金を集めました。

今ではARKのパフォーマンスが急落(よって資金も流出)していますが、3年前には世界的な注目を集めました。

なおNISAは1人1口座のみで、独立系がNISA口座を獲得するのは簡単ではありません。

しかし新NISAでも所詮、運用できるのはMax.で年360万円まで。

これを超えて課税口で運用している人は沢山いる筈で、独立系が高いパフォーマンスを上げれば、資金はおのずと集まってくると思います。

【4】海外勢の参入

 海外勢の運用会社が参入してくることで、良い意味での国際化が進むことが期待されます。

金融庁のレポート(『こちら』)によると日本の場合、ファンドの運用担当者の氏名が開示されているのは、全体の2%だけ。

一方で、米国の場合は100%運用担当者の名前が開示されています。

たとえばフィデリティの米国株ファンドではPM(ポートフォリオ・マネージャー)はWilliam Danoff氏。

フィデリティによれば『彼はピーターリンチの下でアシスタント運用担当者を務めたこともある』とのことです。

また海外ファンドの場合、資産運用会社がファンドの全保有銘柄を月次または四半期の頻度で開示していますが、日本では年に1~2回の頻度の開示に留まっています(上記金融庁のレポート)。

【5】最後に、個人投資家にとして押さえておきたいポイント

(1)ETFは経費率(コスト)が低く、株式と同じようにリアルタイムで相場を見ながら指値や成行注文が可能。

ダウ平均ならDIA、S&P500ならSPYとティッカーコードを入れるだけで、画面を呼び出せ、注文できます。

日本の投資家はETFをもっと利用しても良いかもしれません。

(2)デフレの時は、円で預金しておけば、お金の価値が上がるので、運用資金が減ることも特にありませんでした。

しかしこれからはインフレの可能性があります(現にインフレが始まっているとも言えます)。

よって円預金に置いておかないで、ぜひとも一部を投資に回してみることをお勧めします。

しかし日本には約14,000ものファンドがあり、どれに投資して良いか分からないという人もいるかと思います。

迷った時は、eMaxis Slimのオルカンや同じくeMaxis SlimのS&P500などの経費率の低い投信、あるいはETFに資金を入れてみては如何でしょう。

慣れてきたら、別のものを検討してみるといったスタンスでも良いかもしれません。

(3)来年1月から新NISAが始まるので、1月になったらすぐNISAを使おうと身構えている人もいるかと思います。

しかし、1月になるや否や、いっぺんに全額NISA枠を使い切るようなかたちで投資をするのはお勧めできません。

時間分散を図るようにしましょう。

* * *

なお本日出演した日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』では、こういった資産運用に係る諸点について議論しました。

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2023年10月 6日 (金)

早いもので

早いもので日経新聞(電子版)と日経ヴェリタス紙に寄稿し始めてから3年半になります。

第37回目の今回はドラッケンミラー氏について書きました。

ジョージ・ソロスのクォンタム・ファンドのリードマネージャー兼チーフトレーダーを12年間に亘って務め、1992年に英国政府とイングランド銀行を相手に大相場を演じた人です。

個人資産は約1兆円。

『こちら』で電子版の記事をご覧いただけます。

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(写真は上記日経新聞電子版より。元の出所はロイター)

紙でお読みになりたい方は8日(日曜日)発売の日経ヴェリタス紙をご覧ください。

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2023年9月18日 (月)

どの情報を信じるか

8月23日にエヌビディアの決算(23年5-7月期)が発表されましたが、その後、いくつかの噂がマーケット(とくに米国)でささやかれています。

市場にはエヌビディア株を現物で保有している人(longのポジション)もいれば、空売りしている人(short sellers)もいますので、なかには意図的に怪しい噂を流している人もいるかもしれません。

噂は注意して聞いて、真偽を判断する必要があります。

いくつかの噂や流れてきた「情報」と称されるものを検証してみると・・・

【1】CEOが自分の会社の株を売っている

たしかにエヌビディアのジェンスン・フアンCEOは自分の会社の株を(彼が保有している分に比べれば)「僅か」ですが、売っています。

SECのファイリングを見れば分かるのですが、ナスダックによる開示(『こちら』)の方が見やすいかもしれません。

基本的に「Automatic Sell」と称される取引であり、SECのRule 10b5-1(『こちら』)に基づくもの。

過去のある時点で予め届け出たスクジュールに沿って自動的に売却されるものであり、よく見かける通常の取引です。

これを殊更に大々的に強調してSNSで発信し続ける意味が分かりません。

【2】 売上原価が殆ど増えていないのに売上だけが急増している

たしかに四半期ベースで見ると、売上は、

昨年5-7月期 売上 6,704百万ドル

今年5-7月期 売上13,507百万ドル

と急増しています。

一方で、売上原価は、

昨年5-7月期 売上原価 3,789百万ドル

今年5-7月期 売上原価 4,045百万ドル

とあまり変わりません。

これをもって売上を過大に計上しているのではないかと疑う人もいますが、過去の財務諸表を併せて読み解くと理由が分かってきます。

これは過去に中国関連ビジネスに関して米政府の規制が厳しくなった(とくに22年10月から米政府は当社高性能製品の「A100」と「H100」の輸出を禁止した)ことに関連します。

H100

   (NVIDIA H100 Tensor コア GPU) 

規制を受けて、エヌビディアとしては、主として中国向けに用意していた製品在庫に関して22年8-10月期だけで702百万ドルにも及ぶ減損処理を行いました(『こちら』)。

これらは主として中国のデータセンター向けの製品でした。そして前四半期では世界的なレベルで、これらデータセンター向けのGPUの需要が急増したことから、いったんは減損処理したGPUを、23年5-7月期には中国以外の先へ販売した(つまりすでに減損処理され、評価ゼロに近くなっていた在庫を販売した)ーこの結果、売上に比して売上原価は余り上昇しなかったものと考えられます。

【3】CoreWeave社向けの販売がおかしい

CoreWeaveは、かつてヘッジファンドで商品トレーダーをやっていたMichael Intrator(CEO)、Brian Venturo(CTO)、Brannin McBee(Chief Strategy Officer)によって2017年に設立された会社です。

クラウド サービス プロバイダーの会社で、今年4月に2.2億ドルをSeries B として調達した際に、エヌビディアも他の投資家とともに出資しています(出資の内訳はMagnetar Capitalが1.1億ドル、残りの1.1億ドルをエヌビディアと投資家のFriedman氏、Gross氏が分け合う形で出資;『こちら』)。 

なおCoreWeaveは、1か月後の5月に、Magnetar Capital主導により更に2億ドルの資本をSeries B extensionの形で調達しています。

グーグルやアマゾンなどがクラウドサービスを強化している中で、エヌビディアとしてもクラウド関連の会社との接点を強化していこうとの戦略があったものと思われます。

これ自体は普通の取引です。

エヌビディアがCoreWeaveに一部出資している事実を捉えて、CoreWeave向けの販売はエヌビディアによる一種の(子会社、関連会社への)押し込み販売に近いと主張する人たちがいますが、おかしな話です。

CoreWeaveはエヌビディアの子会社ではないし、上場前時価総額は少なくとも20億ドルと推定されていますから、エヌビディアの出資比率は5%にも満たない(恐らくは2%程度)と推定されるので、関連会社とも言いにくいと思います。

なによりもエヌビディアのH100は需要が供給をはるかに上回り、イーロン・マスクがドラッグを入手するよりも難しいと嘆くほど。

いま注文を入れても年内の納入は無理で、来年の第1~2四半期になると言われています。

それをわざわざ押し込み販売するような必要性を感じません。

もう一つ変な噂を流す人たちは、CoreWeaveが8月に行った借入がおかしいと言います。。

CoreWeaveはBlackstone と Magnetar Capital を主幹事としたシンジケート・ローンで23億ドルを調達しました。これはエヌビディアの半導体を担保にして実行されたものです(『こちら』および『こちら』)。

これをもって、『半導体を担保にとは、オカシイ』と声高に言う人がいますが、価値あるGPUを担保にローンを供与すること自体は特に問題とも思えません。

【4】TSMCの動向からして半導体市場の先行きが気がかり

これはロイターが先週金曜日(15日)に報じたもので、半導体の受託生産大手、台湾積体電路製造(TSMC)が主要サプライヤーに最先端半導体向け製造装置の納入を遅らせるよう求めたとのこと(『こちら』)。

リンクで貼ったロイターの記事以上のことは分かりませんが、たぶんロイターとしてはきちんとした取材をベースにこの情報を報道したのだと思います(つまり【1】~【3】とは違う)。

ロイターはこの情報の真偽をTSMCに確かめていて、TSMCは「市場での噂にはコメントしない」とのコメント。

このTSMCの発言も上記記事の中に入れて、報道しています。

このニュースにはマーケットは率直に反応、エヌビディアだけでなく半導体各社の株価は15日(金曜日)の米国市場で軒並み下落しました。

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2023年9月 3日 (日)

労働参加率

本日の日経新聞にもありますが、米国の労働参加率(下記注参照)が上がってきて、62.8%となっています。

2000年以降の労働参加率は下記のような形で推移。

Photo_20230903141101

             (上記はセントルイス連銀より『こちら』

新型コロナの影響で米国では55歳以上のアーリーリタイア層が増加したと言われています。

この層による労働市場への回帰は引き続き鈍いようですが、最近になって若年層の労働参加率が回復傾向にあると報じられています。

労働需給逼迫の緩和は「賃金上げ圧力を弱め、インフレ鈍化につながる」(上記日経記事)とのことですが、さて・・。

なお上記のグラフを鳥瞰図的に見ると、大きな傾向としては、労働参加率は減少傾向にあります。

この辺を論じた記事は幾つかあるのですが、例えば『こちら』などをご参照ください。

(注)労働参加率とは:

The labor force participation rate represents the number of people in the labor force as a percentage of the civilian noninstitutional population. In other words, the participation rate is the percentage of the population that is either working or actively looking for work.(米労働省)

要は、実際に働いている人と、働く意志があって職を探している人とを足し合わせた人たちの割合です。

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2023年8月25日 (金)

エヌビディア、なぜ急成長できたのか

エヌビディアの決算が良くて騒がれていたが、

そもそも何故、今年に入って株価が143ドル→471ドルと、3.3倍にもなったのか。

Nvd-tsm

なぜこの会社はAI時代を牽引すると言われるのか。

GPUとはどういう仕組みのものなのか。

知っていそうで、実は知らない(?)エヌビディアについてまとめてみた。

日経新聞(電子版)『こちら』です。

27日の日経ヴェリタス紙にも(紙の)記事となって掲載されます。

 

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