米中対立 浮かぶ「第三極」
先週月曜日(9/9)は日経CNBC『日経ヴェリタストーク』に出演しました。
トッピクスは、『米中対立 浮かぶ「第三極」』。
アメリカ大統領選で重要なテーマの一つになっているのが「対中政策」。
トランプ氏は中国産品への一律60%の関税を公約として打ち出しています。
さらに、中国がイランと貿易を続ければ関税を100%以上に引き上げるとの発言も。
対するハリス氏もバイデン政権の方針を引き継ぎ、関税強化などの締め付け策を取るとみられています。
米中の分断が進む中、その恩恵を受ける「第三極」はどこなのでしょうか。
それを踏まえての「今後の有望な投資先を考える」というのが番組のテーマでした。
以下、キャスターの曾根さんからの質問と私のコメントです。
【1】関税引き上げなどは米国株にどう影響するか
米国株は当然ながらマイナスの影響を受ける。
もっともバイデン政権のもとでも、例えば先端の技術を搭載した半導体であるGPUなどの一部製品について、中国への輸出が幾度となく禁止され、その規制が発動される度にエヌビディアの株価は下落してきた。
しかし、こうした禁止措置が講じられるたびに、エヌビディアは政府の規制に抵触しない中国向けのGPUを新たに開発、規制の網をすり抜けるようなことをしてきた。そしてその度に政府は再度、より厳しい規制を制定するなど、ある意味、イタチごっこを繰り返してきた。
もう1つの例は、たとえばアップルはiPhoneの生産をこれまでの中国(台湾ホンハイの中国工場)中心から、インドへとシフトさせてきており、昨年1年間で生産されたiPhoneのうち14%がインドで組み立てられたもの。
そして来年中にはインドの比率を25%まで引き上げるという。
つまり米中対立で米国株は影響を受けるが、米国の会社もいろいろ解決策を講じているということで、個人的にはさほどは心配していない。
【2】米中対立の結果、インドやベトナムは恩恵を受けるとされています。インド、ベトナム株への投資で注意すべき点は?
やはり現地の規制をチェックする必要がある。
例えば日本の個人投資家はインドの株式市場で個別銘柄に投資することが出来ない。
従ってインド株に投資するには、投資信託を買うか、個別株の場合は米国の預託証券(ADR)を買うしかない。
ベトナム株は日本から購入できるが、日本の証券会社を使った場合、法的な規制によって有償増資の払い込みが出来ない。
各国によって、こうした規制があるのには注意する必要がある。
もう1つ留意すべき点をあげると、例えば、インド、ベトナム、インドネシアといった国々がこれから先、成長するにしても、必ずしも現地の企業だけがこの成長の果実を享受できる訳ではない。
こうした国に進出している日本企業なり米国企業が、こうした新興国の成長の恩恵に浴するといった面もある。
だから現地の会社の投資信託を買えば、それでよいとは、一概には言えない。
【3】米中対立は、日本で生産する日本の製造業にもプラスに働くという声がある。これを機に「貿易立国に返り咲く」ことを期待する向きもあるようだが・・。
日本は貿易立国か、あるいは海外で工場建設などを行い、その収益で外貨を稼ぐ「投資立国」か、という議論だが、現状は、貿易収支は未だ赤字だ。所得収支はプラスで、つまり国際収支統計から見る限り、投資立国の側面が強い。
ただこれは為替レートに影響される部分が大きいと思う。
1ドル75円といったような円高の時には、日本で作って海外に輸出するというのでは、なかなか採算が取れなかった。
それが今では1ドル140円とか150円になり、日本で作って海外に輸出することでも、じゅうぶんに採算が取れる品目も出現してきている。
【4】半導体の分野では、パワー半導体などを中心に日本国内での投資が活発だ。半導体関連以外に米中対立で浮かび上がってくる日本勢の業種や分野にはどういったものがあるか。
たとえば海底ケーブルやデータセンターなど。
海底ケーブルはデータ通信に欠かせず、従来は米国とアジアを結ぶデータ通信の中継地として、中国や香港も選ばれていた。
しかし2020年以降、中国、香港が選ばれなくなり、シンガポール、日本、フィリピン、グアムなどが選ばれるようになった。
【5】台湾TSMCの熊本工場建設などの動きをどう見るか
こうした動きは日本だけではない。
日、米、欧の各国は、これまでは台湾のTSMCなどに半導体の生産を委託することが多かったが、だんだんと台湾有事のことも考えざるをえなくなってきた。
その結果、日本だけでなく、米国や欧州でも、経済安全保障の観点から自国の半導体生産を強化しようとして、政府による支援が行われている。
米国はインテルが投資を行うに際して政府が約3兆円を支援すると決定したほか、TSMCがアリゾナ州に工場を建設するに際して、約1兆円の助成を行う。
EUもTSMCのドイツでの工場建設に際して、約8000億円の支援措置を講ずる。
こうした動きもあり、日本もTSMCの熊本第1工場(2月完成)、第2工場(2027年完成)、合せて1.2兆円を政府が支援する。
【6】米中対立と、その結果浮かぶ「第三極」に着目して投資する場合、個人投資家としての留意点は?
個別株については、ある程度、自分が知っている株、あるいは、よく勉強して中身を理解している株でないと難しいと思う。
投資信託については、かならずベンチマークと比較すること。
たとえば、米国のアクティブ系ファンドで、インフラファンドとか、サイバーセキュリティのファンドとか、たくさんのファンドが設定されている。
証券会社のセールスの人の話を聞くと、例えば「このファンドは、設定されて以来、2倍になっている」といった話が出てくる。
それならば、と思って調べてみると、同じ期間で、円ベースのS&P500は、3倍になっているといったことも多い。
これまで米国株は全体として上げてきているので、その平均であるベンチマークのS&P500と比べてみないと、いけない。
投資信託の基準価額が2倍になったとしても、同じ期間にベンチマークであるS&P500が3倍になっていれば、やはり平均的な投資対象であるS&P500に投資した方が良かったということになる。
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