2023年9月18日 (月)

どの情報を信じるか

8月23日にエヌビディアの決算(23年5-7月期)が発表されましたが、その後、いくつかの噂がマーケット(とくに米国)でささやかれています。

市場にはエヌビディア株を現物で保有している人(longのポジション)もいれば、空売りしている人(short sellers)もいますので、なかには意図的に怪しい噂を流している人もいるかもしれません。

噂は注意して聞いて、真偽を判断する必要があります。

いくつかの噂や流れてきた「情報」と称されるものを検証してみると・・・

【1】CEOが自分の会社の株を売っている

たしかにエヌビディアのジェンスン・フアンCEOは自分の会社の株を(彼が保有している分に比べれば)「僅か」ですが、売っています。

SECのファイリングを見れば分かるのですが、ナスダックによる開示(『こちら』)の方が見やすいかもしれません。

基本的に「Automatic Sell」と称される取引であり、SECのRule 10b5-1(『こちら』)に基づくもの。

過去のある時点で予め届け出たスクジュールに沿って自動的に売却されるものであり、よく見かける通常の取引です。

これを殊更に大々的に強調してSNSで発信し続ける意味が分かりません。

【2】 売上原価が殆ど増えていないのに売上だけが急増している

たしかに四半期ベースで見ると、売上は、

昨年5-7月期 売上 6,704百万ドル

今年5-7月期 売上13,507百万ドル

と急増しています。

一方で、売上原価は、

昨年5-7月期 売上原価 3,789百万ドル

今年5-7月期 売上原価 4,045百万ドル

とあまり変わりません。

これをもって売上を過大に計上しているのではないかと疑う人もいますが、過去の財務諸表を併せて読み解くと理由が分かってきます。

これは過去に中国関連ビジネスに関して米政府の規制が厳しくなった(とくに22年10月から米政府は当社高性能製品の「A100」と「H100」の輸出を禁止した)ことに関連します。

H100

   (NVIDIA H100 Tensor コア GPU) 

規制を受けて、エヌビディアとしては、主として中国向けに用意していた製品在庫に関して22年8-10月期だけで702百万ドルにも及ぶ減損処理を行いました(『こちら』)。

これらは主として中国のデータセンター向けの製品でした。そして前四半期では世界的なレベルで、これらデータセンター向けのGPUの需要が急増したことから、いったんは減損処理したGPUを、23年5-7月期には中国以外の先へ販売した(つまりすでに減損処理され、評価ゼロに近くなっていた在庫を販売した)ーこの結果、売上に比して売上原価は余り上昇しなかったものと考えられます。

【3】CoreWeave社向けの販売がおかしい

CoreWeaveは、かつてヘッジファンドで商品トレーダーをやっていたMichael Intrator(CEO)、Brian Venturo(CTO)、Brannin McBee(Chief Strategy Officer)によって2017年に設立された会社です。

クラウド サービス プロバイダーの会社で、今年4月に2.2億ドルをSeries B として調達した際に、エヌビディアも他の投資家とともに出資しています(出資の内訳はMagnetar Capitalが1.1億ドル、残りの1.1億ドルをエヌビディアと投資家のFriedman氏、Gross氏が分け合う形で出資;『こちら』)。 

なおCoreWeaveは、1か月後の5月に、Magnetar Capital主導により更に2億ドルの資本をSeries B extensionの形で調達しています。

グーグルやアマゾンなどがクラウドサービスを強化している中で、エヌビディアとしてもクラウド関連の会社との接点を強化していこうとの戦略があったものと思われます。

これ自体は普通の取引です。

エヌビディアがCoreWeaveに一部出資している事実を捉えて、CoreWeave向けの販売はエヌビディアによる一種の(子会社、関連会社への)押し込み販売に近いと主張する人たちがいますが、おかしな話です。

CoreWeaveはエヌビディアの子会社ではないし、上場前時価総額は少なくとも20億ドルと推定されていますから、エヌビディアの出資比率は5%にも満たない(恐らくは2%程度)と推定されるので、関連会社とも言いにくいと思います。

なによりもエヌビディアのH100は需要が供給をはるかに上回り、イーロン・マスクがドラッグを入手するよりも難しいと嘆くほど。

いま注文を入れても年内の納入は無理で、来年の第1~2四半期になると言われています。

それをわざわざ押し込み販売するような必要性を感じません。

もう一つ変な噂を流す人たちは、CoreWeaveが8月に行った借入がおかしいと言います。。

CoreWeaveはBlackstone と Magnetar Capital を主幹事としたシンジケート・ローンで23億ドルを調達しました。これはエヌビディアの半導体を担保にして実行されたものです(『こちら』および『こちら』)。

これをもって、『半導体を担保にとは、オカシイ』と声高に言う人がいますが、価値あるGPUを担保にローンを供与すること自体は特に問題とも思えません。

【4】TSMCの動向からして半導体市場の先行きが気がかり

これはロイターが先週金曜日(15日)に報じたもので、半導体の受託生産大手、台湾積体電路製造(TSMC)が主要サプライヤーに最先端半導体向け製造装置の納入を遅らせるよう求めたとのこと(『こちら』)。

リンクで貼ったロイターの記事以上のことは分かりませんが、たぶんロイターとしてはきちんとした取材をベースにこの情報を報道したのだと思います(つまり【1】~【3】とは違う)。

ロイターはこの情報の真偽をTSMCに確かめていて、TSMCは「市場での噂にはコメントしない」とのコメント。

このTSMCの発言も上記記事の中に入れて、報道しています。

このニュースにはマーケットは率直に反応、エヌビディアだけでなく半導体各社の株価は15日(金曜日)の米国市場で軒並み下落しました。

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2023年9月 3日 (日)

労働参加率

本日の日経新聞にもありますが、米国の労働参加率(下記注参照)が上がってきて、62.8%となっています。

2000年以降の労働参加率は下記のような形で推移。

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             (上記はセントルイス連銀より『こちら』

新型コロナの影響で米国では55歳以上のアーリーリタイア層が増加したと言われています。

この層による労働市場への回帰は引き続き鈍いようですが、最近になって若年層の労働参加率が回復傾向にあると報じられています。

労働需給逼迫の緩和は「賃金上げ圧力を弱め、インフレ鈍化につながる」(上記日経記事)とのことですが、さて・・。

なお上記のグラフを鳥瞰図的に見ると、大きな傾向としては、労働参加率は減少傾向にあります。

この辺を論じた記事は幾つかあるのですが、例えば『こちら』などをご参照ください。

(注)労働参加率とは:

The labor force participation rate represents the number of people in the labor force as a percentage of the civilian noninstitutional population. In other words, the participation rate is the percentage of the population that is either working or actively looking for work.(米労働省)

要は、実際に働いている人と、働く意志があって職を探している人とを足し合わせた人たちの割合です。

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2023年8月25日 (金)

エヌビディア、なぜ急成長できたのか

エヌビディアの決算が良くて騒がれていたが、

そもそも何故、今年に入って株価が143ドル→471ドルと、3.3倍にもなったのか。

Nvd-tsm

なぜこの会社はAI時代を牽引すると言われるのか。

GPUとはどういう仕組みのものなのか。

知っていそうで、実は知らない(?)エヌビディアについてまとめてみた。

日経新聞(電子版)『こちら』です。

27日の日経ヴェリタス紙にも(紙の)記事となって掲載されます。

 

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2023年8月24日 (木)

中国の不動産について

【1】中国不動産市場の状況

中国の不動産市場は2020年以降、ずっと悪い。

中国政府が不動産バブルの問題に対処しようとして、不動産融資に関する規制を強化したからだ(同年8月に三道紅線(3つのレッドライン)政策を導入)。

この結果、21年に恒大集団のデフォルト問題が発生した(注: 同年12月に恒大はドル建て債をdefaultさせた)。

この時の債務再編交渉がまだ決着せず、今回の米国破産法15条申請へと繋がっている。

問題は恒大集団だけでなく最大手のカントリー・ガーデン(碧桂園)など、他の不動産会社もリスクを抱えていることで、今後の見通しは暗い。

【2】手付金に手を付けて他の新規案件に流用

日本では新築マンションを買う時に、通常1割の手付金を払って9割の残金はマンションが完成して引き渡される際に払う。

しかもこの1割の手付金は不動産信用保証会社が保証してくれるケースが多く安心。

中国では、この手付金の割合が多い場合は80%(北京で2つめのマンションを買う時)。

地方都市でも2~4割のところがある。

それも日本のように手付金の保全機関がない。

本来、手付金はその物件の完成の為の建築資金に使われるべきなのに、

それが次の別の都市での新規P/Jの為に使われたりする。

ある意味、次から次へと自転車操業となってきたところもあるようだ。

結果、未完成の物件が各地に出回るようになった。

【3】バブル崩壊時の日本に似ているのか? 

米モルガン・スタンレーは

Debt(債務)、

Demographics(人口動態=少子高齢化)、

Deflation(デフレ)の「3D問題」で

現代の中国と1990年の日本には多くの類似点があると指摘する。

はたして、現代の中国は日本のバブル崩壊のような軌跡をたどるのだろうか。

この点、中国の関係者は「日本のバブルの崩壊について徹底的に研究した。だから日本のようにはならない」と言う。

しかしマンション購入者から多い時は80%もの手付金を取って、それを他の不動産開発プロジェクトに充ててしまうなど、ある意味、日本のバブル以上のことが行われている。

少子高齢化も、一人っ子政策がやっと無くなったのは、今から7年前。

それまで(2016年まで)40年近くもの間、一人っ子政策が続けられてきたツケが回ってきている。

更に驚くことに中国では、現在でも子どもはMax.3人までしか認められていない。

将来、日本以上に深刻な影響をもたらす可能性もある。

ただ日本と違って、中国では、貧富の差が大きく、かつまた、競争が厳しい。

若い人は猛烈に働くなり勉強せざるをえない。

清華大学や北京大学は世界のランキングでも日本勢よりはるかに上位にランクされている。

飴とムチが徹底されていて、なま温い日本とは違う面もある。

【4】一部の日本企業による中国市場からの撤退や生産の国内回帰の動き

 平成の時代には、日本企業は安い労働力を求めて中国に進出。

しかし最近は中国の賃金もかなり上がってきた。

また円安の影響もあって日本の賃金もドルベースで見ると安くなって、

対中国との関係でも、ある程度の競争力を持つようになってきた(中国のどの地域と比較するかで、違ってくるが)。

だから生産拠点の国内回帰は、(業種によるが)企業によってはメイクセンスするようになってきた。

また経済安全保障の観点とか、先月実施された先端半導体の製造装置の輸出禁止規制など、

米国が中国への規制を強める中で、日本にも同調を求めていくといった動きも無視できない。

【5】日本企業はどのようなスタンスで中国と向き合うべきか

好むと好まざるとにかかわらず、世界は分断化の傾向を強めている。

つまり「民主主義国家(米、欧、日) vs. 権威主義国家(ロシア、中国など)」の分断化だ。

ただ日本にとって中国は地理的にも近いし、

何よりも、現状、中国は日本の最大の貿易相手国である。

輸出も輸入も相手国としては、断トツに中国が1位なのだ。

・輸出:中国が1位で22%、2位の米国は18%、
・輸入:中国が1位で24%、2位の米国は11%

つまり日本としては米国の顔を立てつつも、果実はしっかり取りに行くといった「したたかさ」が求められる。

ある意味、政治と経済は別。

ただ一方で、日本企業としては、中国に偏り過ぎると危険もあるので、リスク分散などの管理はきちんとしておきたい。

【6】日本の個人投資家としては中国株投資をどう考えたらよいか

指数でみると、上海総合指数は21年初めに比べて、2年半で▲8%の下落、

IT銘柄が多い香港ハンセン指数は21年初めに比べて▲32%下落してきている。

今後の長期見通しも油断できない。

習近平政権が掲げる共同富裕(21年8月から大々的に宣言)は格差是正を重んじる余り、出る杭は打つ的な側面を持つようになった。

アリババのアントは20年11月に上場延期。

ほぼ3年間で、アリババの株価は▲72%も下落(20年10月319ドル→88ドル)。

テンセントは▲45%下落した。

とくにIT、学習塾、ゲーム、不動産の業界に規制強化の網がかかり、狙いうちされている。

もちろん米国型の資本主義も1%の富裕層が国全体の富の3割以上を握る(『こちら』)といった問題を抱えている。

しかし中国では共同富裕の結果として、起業家精神や経営者のアニマル・スピリットが失われ、共産党の顔色を伺うようになった。

かつての中国には「金持ちになりたい」という人たちが多く、熱気が感じられた。

もちろん今でもそうした熱気は感じられるのだが、最近では「寝そべり族」と称する人たちも増えて社会問題化している。

日本の個人投資家が中国株に投資する場合、そういった投資環境の変化を把握しておく必要がある。

* * *

なお21日(月)に出演した日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』では、こういった中国の不動産問題について議論しました。

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2023年8月11日 (金)

論文数

文部科学省『科学技術・学術政策研究所』は、8月8日、『科学技術指標2023』を公表しました。

これは日本の科学技術や学術研究の活動を把握する資料として有用なものです。

報告書は本文だけでも200頁以上にわたる大部なものですが、

この中でも特に『論文数ランキング』がマスコミ各社によって報じられました。

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   (出所:上図は東京新聞のサイトより)

これによると注目論文数のランキングで、日本はイランにも抜かれ世界13位になってしまったことが分かります。

新聞やテレビでの報道では一般の読者、視聴者にも分かりやすくするため、『注目論文数』と記していますが、

これはいったいどういうことなのでしょうか。

上記報告書を読むと、ここで言っている『注目論文数』とは、Top10%補正論文数のことであると分かります。

Top10%補正論文数とは、論文の被引用数が各年各分野(22分野)の上位10%に入る論文を抽出後、実数で論文数の1/10となるように補正を加えた論文数を指します(上記の『科学技術指標2023』<報告書全文、132頁>)。

上記報告書には、Top10%補正論文数のランキング推移だけでなく、Top1%補正論文数推移も記されています。

(Top1%補正論文数とは、論文の被引用数が各年各分野の上位1%に入る論文を抽出後、実数で論文数の1/100となるように補正を加えた論文数のこと)。

Top10%だけでなくTop1%も示した表が、上記『科学技術指標2023』の統計集、189頁に記載されています(下図;クリックすると大きくなって読めるようになります)。

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Top10%でなく、Top1%で見ると、日本はまだイランに勝っています(だからといって、特にどうと言うことはないのですが)。

そもそも表の一番左(1999年―2001年)では、日本はTop10%、Top1%、何れにおいても世界4位でした。

ちなみに下図は人口100万人当たりの学士号取得者(『科学技術指標2023』118頁>。

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各国を比較すると、英国(6,520 人)、韓国(6,363 人)が、学士号取得者が多く、米国(6,229 人)が続きます。

日本はドイツ、フランス、中国などよりも上位。 

それが修士になると、日本は急に低くなります(下図;同119頁)。

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つまり大学院に行く人が他国に比べて少ないのです。

博士号取得者についても同様のことが言えます(下図;同120頁)。

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なお日本の企業及び大学部門の研究開発費は18.1兆円で、米国、中国に次いで、世界3位となっています(上記『科学技術指標2023』1~2頁)。

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2023年8月 1日 (火)

100年前

日本株も米国株も堅調な相場が続いています。

良いニュースには率直に反応し、悪いニュースには一旦は下落を示すも、それをすぐに乗り越えていく。

相場の中心にいる現在のトレーダーたちはリーマンショックを経験していない人も多く、怖いもの知らずで相場に立ち向かっていると言います。

そしてそれが結果的に上手くいっている・・。

ポイントは、いつまで続くかです。

ところで今の状況を「100年前のようだ」という話もよく耳にします。

100年前。

1918年3月から始まったスペイン風邪は第1波(1918年3月~)、第2波(1918年8月~)、第3波(1919年1月~)と続き、その後、収束に向かっていきました(日本は少し遅れて、1920年1月から第3波に見舞われました)。

米国では、スペイン風邪が終わった後、好景気が続くようになります。

『Roaring twenties(狂乱の20年代)』と言われた時代の到来です。

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上図(クリックすると大きくなります)は、1910年から1932年のダウ平均株価。

赤の矢印で示した「始」と「終」はスペイン風邪の時期(米国)。

スペイン風邪前の10年間はほとんど大きな動きを見せなかったダウ平均株価ですが、

1921年頃から猛烈な勢いで上がり始めます(緑の矢印)。

ただ、その先に待っていたのは、ご存知の通り、1929年の大恐慌。

株価が元の水準(1929年9月3日、381.2ドル)に戻るのに25年もかかってしまいました(1954年11月23日、382.7ドル)。

もちろん大凡100年前に起きたことが、現在の状況に少しだけ似ているからといって、これから先、どうなるかを示唆するものではありません。

当時と現在とでは違っていることがたくさんありますし、実際のところ、この先のことはよく分かりません。

ただ株だけでなく、港区など東京の中央部の不動産なども異常に上がっています。

下記は先週末の新聞折り込み広告。

広さが37㎡で価格は1億円超えなのだとか(もちろん売れていないからこそ折り込み広告を出しているでしょうが)。

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フロー(個人などの収入など)に比してストック(株や不動産)の価格が高くなり過ぎているのでは・・?

こうした傾向がこの先も続いていくとは、とても思えないのですが、さて・・。

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2023年7月14日 (金)

欧米投資家が注目する核融合の現実性

核融合が実現すれば、電力は安すぎてメーターで計るに値しなくなるだろう、と言われてきた。

しかし過去70年の歴史が示す通り、核融合は思った以上に難しかった。

それが最近の人工知能の発達でブレークスルーに近づきつつあるのかもしれない。

日経新聞に寄稿しました(『こちら』です)。

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2023年6月24日 (土)

人口の減少

6/13「こども未来戦略方針」が閣議決定されました(『こちら』)。

一部を引用してみます。

『2022 年に生まれたこどもの数は 77 万 747 人となり、統計を開始した 1899 年以来、最低の数字となった。

1949 年に生まれたこどもの数は約 270 万人だったことを考えると、こどもの数はピークの3分の1以下にまで減少した。

また、2022 年の合計特殊出生率は、1.26 と過去最低となっている。

しかも、最近、少子化のスピードが加速している。出生数が初めて 100 万人を割り込んだのは 2016 年だったが、2019 年に 90 万人、2022 年に 80 万人を割り込んだ。

このトレンドが続けば、2060 年近くには 50 万人を割り込んでしまうことが予想されている』

* * *

ところで、以下の文章は、6/4付の日経新聞の春秋欄から。

1974年にはむしろ『子どもを産まないように』と、今とは逆の訴えがなされていたことが分かります。

『「子どもは2人まで」。

1974年7月4日、東京で開かれていた日本人口会議は中国の産児制限を思わせるような大会宣言を採択した。

増え続ける人口を支えるための住宅や工場、公共施設、農地などを

「この狭い国土のどこにどう割り込ませたらよいのか」ー。

民間の主催だったが、当時の厚生省がバックアップし、会議には著名人が顔をそろえた。

ところが、この時期に第2次ベビーブームは天井を打った。

75年の合計特殊出生率は2.0を下回り、出生数も減りはじめる』

* * *

日本人口会議のことはこの新聞記事で知りましたが、

人口会議大会宣言採択後の状況をグラフにしてみました。

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これからどうなるのでしょうか。

下図は、国連の予測です。

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この図は、2000年を100とした場合の、2100年までの人口推移予測図で、 

日本も韓国も、そして中国も、人口は半分から65%程度に減ってしまう(一方、米国は伸び続ける)との予測になっています。 

冒頭の閣議決定にもありましたが、去年1年間で生まれた赤ちゃんの数は77万747人。

ということは、20年後の2043年。

この年の年齢20歳の人は(移民を前提としない限り)、78万人を超えることはありません。

このように、未来の人口推移は比較的正確に予測できるものと考えられています。

* * *

先ほどの閣議決定を読み込むと政府の危機感が伝わってきます。

もう10年くらい前になるのでしょうか。

少子化対策というと、必ずと言っていいほど、国や自治体が予算をつけて行う『出会いのための合コンやお見合いパーティー』のことが報道されてきました。

今回の閣議決定はこういった以前の対策とは違って、問題の本質にグッと迫る、より踏み込んだものになっているように思います。 

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2023年6月20日 (火)

234ドル

本日の日経平均は33,388円で取引を終えました。

為替は142.23円(TTM)ですから、234.75ドル。

 

日経平均が最高値だったバブル時の1989年末は、38,915円。

このときの為替は143.45円。

ドル建てで271.28ドル。

 

ドル建てでも現在の水準はバブル時の水準の86%のところまで来ました。

 

しかし、2年前。

2021年2月16日の日経平均は30,467円、

為替レート105.49円

ドル建て日経平均288.81ドル。

 

ドルベースで見ると、現在の日経平均は2年前よりも▲19%ほど低い水準にあります。

 

別の見方をすると、2年前のドルベース日経平均はすでにバブル時の最高値を優に上回っています。

 

それにしても現在の為替レート、名目値で見る限り、日本がバブルの頂点だった1989年末とほとんど同じ142~143円です。

偶然の一致で、それ以上の意味はないのでしょうが・・。

 

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2023年6月18日 (日)

半導体を制するものは世界を制する? (その2)

今から7時間ほど前ですが、ブリンケン米国務長官が中国の首都、北京に到着。

降機した際に、レッドカーペットはなく、中国政府の正式な出迎えもありませんでした(No red carpet, no greeting party)。

Blinken

米国務長官の訪中は5年ぶりとのことです。

* * *

「台湾有事」が懸念されています。

中国は軍事衝突まで起こして、台湾を完全支配しようとするのでしょうか。

中国は、香港では影響力を駆使して政権トップに中国の中央(北京)政府寄りの人がつくようにしました。

そして少しずつ香港を内側から中国中央政府寄りに変えて、具体的には、独立派と称する人たちを逮捕するなどして、

中国共産党の支配を確立していきました。

私は、中国は台湾に関しても、この香港方式を取るのではないかと思っていましたが、

それが(もしかすると)そうでもないらしい?

理由は半導体です。

2022年10月7日。

米国政府は中国に対して異次元の厳しい輸出規制を課すことを発表しました。

前回のブログで紹介した湯之上隆氏によれば、この「10.7」規制は、

『米国が中国に放った“目に見えない弾道ミサイル”』

とのことです。

なぜこれは“目に見えない弾道ミサイル”なのか。

湯之上さんの著述に書かれています。

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湯之上隆著『半導体有事』(『こちら』)。

今年読んだ本の中でいちばん勉強になった本でした。

お気づきになれた方も多いと思いますが、前回のブログでご紹介した湯之上さんの国会での参考人発言、YouTube動画もこの本で知ったものです。

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2023年6月13日 (火)

半導体を制するものは世界を制する?

第204回国会 衆議院『科学技術・イノベーション推進特別委員会』( 2021年06月01日)議事録

(少々長いですが、議事録をそのまま掲載します)

* * * * *

(以下、湯之上隆参考人の発言)

ここにパソコンがあります。皆さん日々パソコンを使われると思うんですが、ここに様々な半導体が搭載されています。

まず、プロセッサー。

これは、シェア1位はインテルなんですが、半導体の微細化、10ナノあたりで失敗してしまって、TSMCに生産委託しようとしています。

2位はAMDなんですが、これは完全にTSMCに生産委託して、インテルのシェアを脅かしています。

それから、パソコン通信ができるということは、通信半導体が入っています。

これは、主にアメリカのファブレスのクアルコムが設計して、台湾のTSMCが製造しています。

これらをまとめてロジック半導体と呼びますが、ここがTSMCが非常に強いところです。

それから、パソコン通信をするとき、自分の画像が向こうに見えるわけです。

ここに、画像センサー、CMOCセンサーというもの、これも半導体が入っています。

これはソニーが出荷額では世界シェア1位なんですけれども、

そのロジック部分は、自分で作らなくてTSMCに生産委託しています。

だから、ソニーもTSMCなしにはあり得ない事態になっています。

それから、NANDフラッシュメモリー。

これは、データをたくさん蓄えておくメモリーです。

電源を切ってもデータがなくなりません。

1位はサムスンで、2位はキオクシア、元東芝メモリですね。

さらに、電源アダプター。

ACアダプターだけではないんですけれども、いろいろなところにパワー半導体というのが搭載されています。

ここにはですね、このパワー半導体は、全部じゃないですけれども、一部TSMCが製造しています。

さらに、もう一つメモリーがありまして、DRAMというもの。

これは、プロセッサーと一緒になってワークを行う、ワーキングメモリーともいいます。

1位はサムスン、2位はハイニックス、3位はアメリカのマイクロン。

かつてここは非常に日本が強くて、過去、1980年代の中旬には80%を独占していた時代がありました。

ここに行ってみたいと思います。

これが、DRAMの地域別シェアを示しています。

80年代中旬、本当に80%を占めていたんです。

非常に強かった。

産業の米という言葉はここで生まれました。

このピークだった頃に、ちょうど僕は、日立製作所に1987年に入社して、半導体技術者になりました。

最初は、中央研究所。

ここでは、微細加工装置の研究開発を8年ほどやりました。

次は、半導体事業部。

ここは、DRAM工場、DRAMの生産技術に5年ほど携わりました。

さらには、デバイス開発センタ。

次世代のDRAMの開発をせよということで、次世代開発をやった。

この頃になりますと、2000年近くになりますと、日本のシェアはこんなに下がってしまって、

韓国に抜かれて、日本は次々と撤退していきます。

日立は、NECとの合弁会社、エルピーダというのを設立しました。

2000年の頃です。

NECから400人、日立から400人、出向社員800人で形成された合弁会社です。

僕は、ここに手を挙げて出向を志願しました。

微細加工グループの課長として赴任しました。

日本のDRAMを何とかしようと思ったわけです。

ところが、ここで行われたのは、NECと日立の壮絶なバトルです。

技術覇権争いです。

僕は、そのバトルに敗れて半年で課長を降格となり、部下も仕事も取り上げられて、いられなくなっちゃった。

次に行った行き先は、セリート。セリートというのは、つくばにできた半導体メーカー13社が集ったコンソーシアムです。

今もスーパークリーンルームというのが残っているんですけれども、ここで1年半、国家プロジェクトあすかに従って微細加工をやることになった。

合計すると16年ぐらい、半導体の微細加工、半導体の最も重要な技術に関わってきたわけです。

ところが、2000年にITバブルがあって、2001年に崩壊した。

日立は、10万人の社員のうち2万人の首を切りました。

そのとき、40歳課長職以上は全員辞めてくれ、こういう退職勧告がなされました。

課長職以上になると組合から脱退するので、切りやすいんですよ。

僕は、たまたま40歳課長で、エルピーダとかセリートの出向中の身なんですね。

本社から見ると、顔が見えない切りやすい社員。

何回も退職勧告を受けて、もう辞めざるを得ない状態になって辞めました。

といっても、早期退職制度は使えなかったんです。

次の行き先を探していたら早期退職制度を一週間過ぎちゃって、

辞表を出しに行ったら、撤回はなしだよと、もぎ取られてしまって、

自己都合退職になっちゃって、本当は3000万円ぐらいもらえるはずの退職金が、たった100万円になっちゃいまして、

ちょっと今でも女房に怒られておるんですけれども、そういうのがあってですね。

このように僕はDRAMの凋落とともに技術者人生を歩んじゃったんですよ、意図せずして。

次に行った行き先は、同志社大学の経営学の研究センター。

同志社大学に経営学の研究センターが新設されて、

何で半導体がこんなになっちゃったの、かつて最強だったんじゃないの、

これを研究してほしいというポストができて、

推薦してくれる人がいたのでここに行きました。

5年の任期付特任教授だったので、5年間研究をして、

2008年、また舞い戻ってきて、

現在、2008年以降はコンサルタントとかジャーナリストとして今に至っています。

問題はここですね。

何でこうなっちゃったの、過去、最強だったじゃない、

それが何でこんなになっちゃうのと。

結論を簡単に言うと、次のようになります。

これがDRAMのシェアです。

この辺り(岩崎注:1986年前後)が非常に強かった。

もう一つグラフを出します。

これは何かといいますと、日本のコンピューターの出荷額です。

パソコンとメインフレーム、大型コンピューターですね、こういうもの。

日本のDRAMというのは何用に使われていたのかというと、強かった頃はこのメインフレーム用だったんです。

パソコンはまだそんなに世間に普及していなかった。

このメインフレームメーカーはDRAMメーカーに何を要求したかというと、

一切壊れないものを持ってこい、25年の長期保証だと。

よく、DRAMというのはアメリカのインテルが発明したメモリーで、

日本がそれを追い越したのはコストなんだ、安価だからだ

ということが言われますけれども、違います。

超高品質DRAMを日本は作っちゃったんですよ、

本当に作っちゃったんです。

だから、これは技術の勝利なんです。

それは何でできちゃったのというと、

例えば、トヨタ流の言葉で言えばカイゼンの積み重ね、

経営学用語で言えば持続的イノベーションの積み重ね、

こういうもので本当に作っちゃったんですよ。

それで、世界を制覇したんです。

この時代が長く続けば、僕は日立を辞めることはなかったと思います。

ところが、時代は変わるんですよ。

コンピューター業界にパラダイムシフトが起きた。

メインフレームの時代は終わりを告げて、パソコンの時代がやってくるんですよ。

パラダイムシフトが起きたわけですね。

パソコンの伸びとともに急成長してきたのが、韓国です、サムスン電子です。

サムスンはどういうふうにDRAMを作ったかというと、

少なくとも25年保証なんて要らないよね、

パソコンはよく使って10年、まあ5年だよね、3年もてばいいんじゃないの、

ほどほどの品質保証でいいと。それよりも、パソコンは大量に要るんだと。

大量に要る。しかも、メインフレームのように何千万円で売るわけにいかないんだ、せいぜい何10万円なんだと。

このとき、メインフレーム用のDRAMというのは一個10万円とか20万円したんですよ。

でも、パソコン用だったら何100円じゃないといけないよね、

だから安価に大量生産することが必要なんだと、

サムスンはそのようにしたわけです。

一方、このとき、本当に僕はDRAM工場にいたわけですよ。

パソコンが出てきたことを知らなかったわけじゃないです。

サムスンがシェアを上げてきたのも知っていました。

僕も日本中のDRAMメーカーの技術者も知っていたんですよ。

知っていて、なおかつ、相変わらず25年保証のこてこての超高品質DRAMを作り続けちゃったんです。

それで、サムスンに敗れたわけです。

これは、経営学用語で言うと、サムスンの破壊的技術に敗北したんです。

技術の敗北なんです。

ちょっとこれはなかなか説明するのは難しいんですけれども、

DRAMというのはこんなような構造をしています。

ウェハー上に、トランジスタがあって、キャパシターがあって、配線がある、

こういうものを作るんですけれども、

縦軸は何かというと、マスク枚数と書いてありますが、

これは微細加工の回数だと思ってください。

何回、微細加工をやってこういう構造を作るんですか。

当然、少なければ少ないほどコストはかからないんですよ。

多ければ多いほど高価な微細加工装置を大量に必要とするんです。

日立は29枚。東芝は28枚。NECは26枚。

ところが、韓国勢は軒並み20枚。

アメリカのマイクロンに至っては15枚、半分。

これは明らかに技術の敗北なんですよ。

こんなふうにして作っていたから、利益が出なくて、

大赤字になって撤退せざるを得なくなったんです。

技術の敗北なんです。

これをまとめると、次のようになります。

80年代中旬は、メインフレーム用のDRAMを超高品質で作ることによって、

日本は世界一になった。

これは正しかった。

でも、このときに、日本の開発センターや工場に、

極限技術を追求する、超高品質を追求するという技術文化が定着していきます。

でも、これは正義だったんです、

これで世界一位になったわけだから。

でも、定着しちゃうんです。

90年代になって、パソコンの時代にパラダイムシフトが起きた。

このとき必要だったDRAMの競争力は低コストなんです。

このとき日本は作り方が全く変わらなかったんです。

結果的に、そうすると、過剰技術で過剰品質を続けることになっちゃったんです。

大赤字になって撤退するわけです。

一方、サムスンは、適正品質のDRAMを低価格で大量生産して、

トップになっていきました。

安く大量生産する破壊的技術、これで日本を駆逐した。

ここにはマーケティングなんというのもあったんですけれども。

(それで)このエルピーダができたんですが、

エルピーダは、超高品質の、こういう病気がもっとひどくなって重篤化して、

倒産しちゃいました。

日本は、軒並みSOC、ロジック半導体にかじを切ったわけです。

製品変われど、病気も一切変わらなかった、治らなかった。

半導体全体を見ても、こんな感じです。

これは半導体全体のシェアを示しています。

やはり1980年代に50%のピークがあります。

これが、どんどんどんどんシェアが下がっていくわけです。

いろいろ、これを対策しようと、あれこれやったんですよ。

ちょっとこれはおいておいて、ここの辺りからですね。

何かもう一つ一つ読むのも嫌なんですけれども、山のように対策したんですよ。

国プロ(岩崎注:国家プロジェクト)、コンソーシアム、合弁会社、経産省が主導して、

何かもう数え切れないほどやったんです。

実際、僕が所属したのは、このエルピーダとか、セリートとか、

セリートを核としたあすかプロジェクトとか。

これは実際、僕が自分でそこに在籍して経験したわけですけれども、

何一つ成功しなかった。

何一つシェアの浮上にはつながらなかったんです。

大失敗。

何でこうなっちゃうのと。

全部失敗したんですけれども。

最後のまとめに入りますが、日本半導体産業は病気です。

もはや重病で、死者も出たくらいです(岩崎注:倒産したエルピーダ)。

これまで、各社のトップ、産業界、経産省、政府などが病気の診断を行って、

まあ人間は、何か熱があるな、せきがあるなといったら病院に行くわけですよ。

コロナですか、インフルエンザですか、風邪ですかという診断を受けて、

それに伴った処方箋を出してもらうわけですよ。

実際、処方したわけですけれども、

その処方箋、国プロ、コンソーシアム、合弁は全部失敗です。

一つも成功していない。

つまり、これは何でこうなるかというと、診断が間違っていたんですよ。

病気の診断が間違っていたんです。

だから、診断が間違っていたから、その処方箋も的を射ていなかったんです。

これが歴史的な結果です。

病気は治らず、より悪化して、エルピーダのような死者も出た。

じゃ、日本の半導体に何か望みはないのか、将来に光はないのかというと、

日本半導体、デバイスについては挽回不能です。

無理。

だけれども、希望の光もあるんです。

今から述べます。

まず、半導体を作るには様々な製造装置が必要です。

10数種類あります。

この中で、全部とは言いません、

5種類から7種類ぐらいは市場を独占している装置があります。

ここは非常に強力です。

それから、日本の装置でなくても、

アメリカ製であってもヨーロッパ製であっても、

それぞれの装置が3000点から5000点の部品で構成されています、

その部品の6割から8割が日本製なんです。

知られていない中小零細企業がここに何千社といるんです。

これがひょっとしたら日本の競争力かもしれない。

さらには、もう一つある。

ウェハーとかレジストとかスラリーとか薬液とか、

半導体材料というもの、これはもっと強力なんです。

これを具体的に示したいと思います。

これを作るのに一週間以上かかってしまった。

これは一つ一つ説明できないんですけれども、いろいろな材料が必要なんですよ。

実はこの3倍ぐらい半導体材料はあるんです。

1週間では3分の1しか調べられなかった。

しかも、各社のシェアというのは、

ちょっと、ねえねえ、教えてよと電話をかけまくって、

悪用しないからさ、国会で報告するから

ちょっと教えてよというのを一週間やって、

この図を作ったんです。

Photo_20230613142101

そうすると、見てください、

右側に、日本のシェアと書いたんですけれども、

90%とか70%とか、

過半を超えるものが多数あるわけですよ。

これが一つ欠けても半導体は作れないんですよ。

一つ欠けても駄目なんですよ。

ここにまず、日本の第一の競争力があります。

それから、製造装置に行きます。

製造装置も、これは前工程だけなので、

後工程というのはちょっとまとめる時間がなかったんですけれども、

前工程だけで10種類ぐらいあります。

それで、例えばこの東京エレクトロンというのは、

コーター・デベロッパー、詳しく説明しませんよ、

でも、9割ぐらいのシェアを持っているわけですよ。

熱処理装置も、東京エレクトロンと国際電気を合わせて

9割ぐらいのシェアを持っているんですよ。

このように、ここにまた数字、日本のシェアを書きましたけれども、

5種類から7種類ぐらいにかけては、

日本が独占している装置があるんです。

これは日本の競争力なんです。

更に言うと、例えばヨーロッパ、ASML、オランダの装置メーカーで、

露光装置をほぼ独占しているんですけれども、

この部品の6割は日本製なんです。

緑色がアメリカ製の製造装置なんですけれども、

この6割から8割が日本製の部品なんです。

ここに日本の競争力があります。

アジアを俯瞰すると、こういうふうになっています。

まず、韓国は、サムスンとかSKハイニックスを擁して、

半導体メモリー大国となりました。

今、ファウンドリーも強化しようとしています。

なかなかうまくいっていませんが。

台湾。TSMCがファウンドリーでチャンピオンです。

どこも追いつくことができません。

これはもう世界の半導体のインフラと言ってもいいでしょう。

もうここを使わないとできないんですよ。

日本に来るかという話がありますが、

必要ならば質疑のところで説明しますが、

少なくとも工場は一切来ません。断言しましょう。

来ない(岩崎注:この部分の予測は外れた)。

中国。

これは世界の半導体の35%以上を吸収して、

鴻海、鴻海というもの自体は国籍は台湾なんですけれども、

中国に大工場群を持っていて、

世界の電子機器の9割とか8割を組み立てているわけですね。

世界の工場なんですよ。

それが、アメリカからの制裁を受けて、自国でも半導体を作ろうと強化に動いてはいますが。

それで、日本なんですよ。

日本は、装置と材料を世界へ供給している。

台湾、韓国、まあ中国は、ちょっと、いろいろな問題があってちゅうちょしています。

何か、ここ、いろいろ、アメリカのエンティティーリストに載っちゃったような会社がありますので、

ここに出してもいいのかというのはちゅうちょしているところがありますが。

欧米にも出している。

こういう役割分担がアジアで完全に確立されています。

問題はいろいろあります。

ここですね。

装置と材料は強いんです。

でも、材料の競争力を維持するには問題があるんです。

例えば東京エレクトロンのような大企業だったら、大規模なR&D費も充てることはできるんですけれども、

その部品メーカー、3000社とか1万社ある部品メーカーには中小零細企業があって、

そういうところは最先端の開発というのはなかなか大変なんです。

こういう中小零細の部品メーカーが

本当の競争力、世界の製造装置のデファクトを持っていたりするんですよ。

こういうところの強化が必要なのかなと思っています。

TSMCが注目されます。

TSMCには1000社以上のファブレスが殺到している。

最先端プロセスだけで500社ぐらいが来ている。

もうキャパはぱんぱんだと。

そこに、最先端の製造装置とか最先端の材料が使われているわけですよ。

製造装置のうちの半分近くは日本製です。

部品まで入れると6割から8割までが日本です。

製造材料でいうと、ざっくり言って7割から8割が日本なんです。

ここが強いところなんです。

まとめます。

1980年代中旬に、日本はメインフレーム用に超高品質DRAMを製造して、

世界シェア80%を独占しました。

一方、1990年代にパソコンの時代が訪れても、

相変わらず超高品質DRAMを作り続けて、

韓国の安く大量生産する破壊的技術に敗北しました。

日本半導体全体も、1980年代中旬でピークアウトしました。

シェアの低下を止めようとして、国プロ、コンソーシアム、合弁をやり続けました。

しかし、病気の診断と処方が間違っていた。

したがって、全部失敗した。

日本半導体は挽回不能です、

残念ながら。もう無理。

ここに税金をつぎ込むのは無駄だと思っています。

歴史的に、歴史的にですよ、経産省、革新機構、政策銀が出てきた時点でアウトなんです。

これは歴史的な事実です。

じゃ、希望の光はないのか。

あります。

今でも競争力が高い5種類から7種類の製造装置、あるいは、

日本製でなくても、欧米製であっても、その部品の多数が日本製です。

さらに、製造材料については日本が圧倒的な競争力を持っています。

したがいまして、強いものをより強くする、

これを政策の第一に掲げるべきだと私は思います。

以上で発表を終わります。(拍手)

*  *  *

議事録の原文は衆議院のサイト『こちら』でご覧いただけます。

なお国会での湯之上隆参考人による上記発言の模様はユーチューブでもご覧いただけます。

23分間。『こちら』です。

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2023年6月10日 (土)

ダグ

もう40年以上も前のことだが、1980年にスタンフォードのビジネススクールを卒業した。

当時のクラスメート(同年度の卒業生、Class of 1980)は今よりも少なくて一学年370人くらい。

日本人が10人いた。

クラスメートのうち名前と顔が一致したのは精々50人くらいだったろうか。

会って話をしたことのある米国人はもっと少なく20人くらいだったかもしれない。

とくに大学院1年生の時は、私は授業についていくのに必死だった。

米国人クラスメートたちは週末にパーティなどを開いていたが参加する余裕がなかなかなかった。

キャンパスで会って談笑したりする米国人はあまり多くなかったが、先方から話しかけてきてくれる人が4~5人いた。

ダグはそのうちの1人だった。

18年前の卒業25周年記念の同窓会(Reunion)の時も、ダグは私を見つけて話しかけてきてくれた。

5年前。

ナデラさん(マイクロソフトのCEO)が書いた『本』を読んでいると、ダグのことが出てきた。

『私(岩崎注:ナデラさんのこと)はその頃 Microsoft Dynamics(マイクロソフト・ダイナミクス)の新規事業を運営していた。

その仕事は、(中略)ダグ・バーガムから引き継いだ。

ダグは部下を激励するのがうまく、私がより優れたリーダーになれるよう指導してくれた。

また、ビジネスや仕事を社会や生活と切り離して考えるのではなく、より幅広い社会機構の一部、人生の中核として考えるべきだと教えてくれた。

ダグから学んだ教訓の一部は今でも自分がどんなリーダーであるべきかを判断する重要な要素となっている』(上記書72頁)。

スタンフォードの場合、同窓生の動向は年に数回自宅に送られてくる雑誌で知ることが出来る。

2016年、ダグがノースダコダ州知事になったのを知ったのは、この雑誌でだった。

      Governor_doug_burgum

       (州知事の公式ポートレート)

そして今回、彼は米大統領選への出馬を表明した。

州知事として歳出削減や減税の実績を強調。

『米国でも同じことが出来る』と訴えた(朝日新聞6/8)という。

共和党指名候補者はこれまでのところ、トランプ前大統領、ペンス前副大統領、デサンティスフロリダ州知事、ニッキー・ヘイリー元米国国際連合大使などたくさんいる。つまり競争相手が多い。

でも頑張って欲しい。

ダグの立候補演説は『こちら』から。

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