2024年9月15日 (日)

米中対立 浮かぶ「第三極」

先週月曜日(9/9)は日経CNBC『日経ヴェリタストーク』に出演しました。

トッピクスは、『米中対立 浮かぶ「第三極」』。

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アメリカ大統領選で重要なテーマの一つになっているのが「対中政策」。

トランプ氏は中国産品への一律60%の関税を公約として打ち出しています。

さらに、中国がイランと貿易を続ければ関税を100%以上に引き上げるとの発言も。

対するハリス氏もバイデン政権の方針を引き継ぎ、関税強化などの締め付け策を取るとみられています。

米中の分断が進む中、その恩恵を受ける「第三極」はどこなのでしょうか。

それを踏まえての「今後の有望な投資先を考える」というのが番組のテーマでした。

以下、キャスターの曾根さんからの質問と私のコメントです。

【1】関税引き上げなどは米国株にどう影響するか

米国株は当然ながらマイナスの影響を受ける。

もっともバイデン政権のもとでも、例えば先端の技術を搭載した半導体であるGPUなどの一部製品について、中国への輸出が幾度となく禁止され、その規制が発動される度にエヌビディアの株価は下落してきた。

しかし、こうした禁止措置が講じられるたびに、エヌビディアは政府の規制に抵触しない中国向けのGPUを新たに開発、規制の網をすり抜けるようなことをしてきた。そしてその度に政府は再度、より厳しい規制を制定するなど、ある意味、イタチごっこを繰り返してきた。

もう1つの例は、たとえばアップルはiPhoneの生産をこれまでの中国(台湾ホンハイの中国工場)中心から、インドへとシフトさせてきており、昨年1年間で生産されたiPhoneのうち14%がインドで組み立てられたもの。

そして来年中にはインドの比率を25%まで引き上げるという。

つまり米中対立で米国株は影響を受けるが、米国の会社もいろいろ解決策を講じているということで、個人的にはさほどは心配していない。

【2】米中対立の結果、インドやベトナムは恩恵を受けるとされています。インド、ベトナム株への投資で注意すべき点は?

やはり現地の規制をチェックする必要がある。

例えば日本の個人投資家はインドの株式市場で個別銘柄に投資することが出来ない。

従ってインド株に投資するには、投資信託を買うか、個別株の場合は米国の預託証券(ADR)を買うしかない。

ベトナム株は日本から購入できるが、日本の証券会社を使った場合、法的な規制によって有償増資の払い込みが出来ない。

各国によって、こうした規制があるのには注意する必要がある。

もう1つ留意すべき点をあげると、例えば、インド、ベトナム、インドネシアといった国々がこれから先、成長するにしても、必ずしも現地の企業だけがこの成長の果実を享受できる訳ではない。

こうした国に進出している日本企業なり米国企業が、こうした新興国の成長の恩恵に浴するといった面もある。

だから現地の会社の投資信託を買えば、それでよいとは、一概には言えない。

【3】米中対立は、日本で生産する日本の製造業にもプラスに働くという声がある。これを機に「貿易立国に返り咲く」ことを期待する向きもあるようだが・・。

日本は貿易立国か、あるいは海外で工場建設などを行い、その収益で外貨を稼ぐ「投資立国」か、という議論だが、現状は、貿易収支は未だ赤字だ。所得収支はプラスで、つまり国際収支統計から見る限り、投資立国の側面が強い。

ただこれは為替レートに影響される部分が大きいと思う。

1ドル75円といったような円高の時には、日本で作って海外に輸出するというのでは、なかなか採算が取れなかった。

それが今では1ドル140円とか150円になり、日本で作って海外に輸出することでも、じゅうぶんに採算が取れる品目も出現してきている。

【4】半導体の分野では、パワー半導体などを中心に日本国内での投資が活発だ。半導体関連以外に米中対立で浮かび上がってくる日本勢の業種や分野にはどういったものがあるか。

たとえば海底ケーブルやデータセンターなど。

海底ケーブルはデータ通信に欠かせず、従来は米国とアジアを結ぶデータ通信の中継地として、中国や香港も選ばれていた。

しかし2020年以降、中国、香港が選ばれなくなり、シンガポール、日本、フィリピン、グアムなどが選ばれるようになった。

【5】台湾TSMCの熊本工場建設などの動きをどう見るか

こうした動きは日本だけではない。

日、米、欧の各国は、これまでは台湾のTSMCなどに半導体の生産を委託することが多かったが、だんだんと台湾有事のことも考えざるをえなくなってきた。

その結果、日本だけでなく、米国や欧州でも、経済安全保障の観点から自国の半導体生産を強化しようとして、政府による支援が行われている。

米国はインテルが投資を行うに際して政府が約3兆円を支援すると決定したほか、TSMCがアリゾナ州に工場を建設するに際して、約1兆円の助成を行う。

EUもTSMCのドイツでの工場建設に際して、約8000億円の支援措置を講ずる。

こうした動きもあり、日本もTSMCの熊本第1工場(2月完成)、第2工場(2027年完成)、合せて1.2兆円を政府が支援する。

【6】米中対立と、その結果浮かぶ「第三極」に着目して投資する場合、個人投資家としての留意点は?

個別株については、ある程度、自分が知っている株、あるいは、よく勉強して中身を理解している株でないと難しいと思う。

投資信託については、かならずベンチマークと比較すること。

たとえば、米国のアクティブ系ファンドで、インフラファンドとか、サイバーセキュリティのファンドとか、たくさんのファンドが設定されている。

証券会社のセールスの人の話を聞くと、例えば「このファンドは、設定されて以来、2倍になっている」といった話が出てくる。

それならば、と思って調べてみると、同じ期間で、円ベースのS&P500は、3倍になっているといったことも多い。

これまで米国株は全体として上げてきているので、その平均であるベンチマークのS&P500と比べてみないと、いけない。

投資信託の基準価額が2倍になったとしても、同じ期間にベンチマークであるS&P500が3倍になっていれば、やはり平均的な投資対象であるS&P500に投資した方が良かったということになる。

* * *

なお番組はビデオ・オン・デマンドで『こちら』からご覧いただけます。全編を見るには有料会員登録が必要です。

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2024年9月13日 (金)

他人事ではない劇場型詐欺 「地面師たち」にご用心

「私の田舎の茨城県には桜の綺麗な場所があるのです。ちょうどこれからが見ごろになるので、たまには田舎に帰ってあの桜が見たいな」。

積水ハウスの事件では、ある不動産会社が、なりすまし役の女とかわした何気ない会話が被害を未然に防いだと言います。

実際に起きた事件を追うと、ネットフリックスには登場しない、ほんとうの「地面師たち」の姿が見えてきます。

積水ハウス、アパ、そして丸紅を舞台にした詐欺事件など、劇場型詐欺の実態とは・・。

日経新聞電子版に寄稿しました。『こちら』です。

明後日の日経ヴェリタス紙にも掲載されます。

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2024年8月 5日 (月)

話している間にも・・

本日は、日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』に出演しました。

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また本日はマーケットが著しく下落する歴史的な一日でもありました。

番組は生放送で、画面の下に相場のテロップが流れるのですが、番組内で話している間も、相場下落の数字が目に入ってくる・・そんな状況でした。

もっとも番組のトピックスは、急落するマーケットの話ではなくて、(日経ヴェリタス新聞の特集記事に合わせる形で)利上げの中でも注目出来る銘柄を探るというものでした。

以下、キャスターの曾根さんからの質問と私のコメントです。

【1】先日の日銀の決定について、どう思うか

それまで為替が結構、円安になっていたので、日銀としては動かざるをえなかった。

9月まで待つと自民党の総裁選挙もあるので、7月末のこの段階でと考えたのだろう。

しかし、いま起きていることがもし見通せたとしたら、やらなかったと思う。

利上げ発表後の記者会見で総裁の発言がかなりタカ派的と受け止められたこともあって、よけいに市場が神経質なったということもあると思う。

いずれにせよ、今の状況からして、更なる追加利上げは当面は考えにくいと思う。

【2】利払い増加による企業業績への影響をどう見るか

大企業はそれほどは影響を受けないと思うが、中小企業にとっては利払い増加はひじょうに厳しい。

もう一つは、個人。

現在の日本で勤労者世帯の42%が住宅ローンを抱えている。

変動金利で借りている世帯も多く、この人たちが経済的に苦しくなる可能性があり、個人消費が弱くなる懸念がある。

そうすれば、企業業績にも跳ね返ってくる可能性がある。

【3】銀行株は足元では大幅安だが、どう選別していけばいいか

今までは超低金利で、伝統的な貸出業務では、なかなか利ザヤが得られなかった。

それが一転、利上げにより、金利がきちんと付いてくるようになると、こうした状況が是正され、銀行にとってフォローの風が吹いてくるようにも見える。

ただ今まで超低金利下で銀行がどうしていたかというと、集めた預金を(貸出しは難しいからと言って)国債や外債に投資してきた面もある。

こうした有価証券投資に関しては金利が上昇してくると評価損の問題が生じてくる。

米国のシリコンバレー銀行は、これが原因で破綻したし、農林中央金庫は1兆7000億円の有価証券評価損を抱えるようになった。

日本の地銀でも、有価証券の評価損や売却損で、赤字に転落するところが出て来ている。

【4】日銀による利上げの背景には個人所得の増加などがあった。小売りなど個人消費関連についてどう見るか

経営の現場では値上げについては一般的に、もの凄い神経質で、恐るおそるやっているのが実情。

お客さんは値段に敏感なので、価格で競争相手に負けると、客は競合に行ってしまう。

そういった意味で小売業にとっては、価格競争力が一番大事だが、それ以外の点では、如何にしてテクノロジーを取り入れて顧客の利便性を高めるかがポイントになってきている。

たとえば、これまでのセルフレジは、お店にとっては人員削減のメリットがあったが、顧客にはメリットが無かった。

それをトライアルのスマートカート(Skip Cart)や、イオンのレジゴーでは、

顧客が商品をショッピングカートに入れるときにスキャンさせ、レジ待ちの時間を解消させた(トライアルではそもそもレジに立ち寄る必要が無くなった)。

買い物しながら途中で合計金額を確認することもできる。

スキャンしないままカートのカゴに入れるとそれを検知して注意を促す仕組みもある。  

トライアルではこのカートを他のスーパーなどに外販しているという。

【5】不動産についてはどう見るか

 一般論としては、金利が上がれば、不動産価格は下落する方向に働き、金利上昇は、不動産会社にとってはアゲンストな風となる。

 米国ではFRBが金利を上げた結果、米国の商業用不動産が下落、商業用不動産全体で21%、オフィス用不動産に限ると37%もピーク時に比して下落してきている。

【6】株価は、今はこのように急落してるが、ここから先をどう見るか

日本はどうしても米国の状況の影響を受ける。

米国の市場が回復してこないと、日本のマーケットは厳しいかもしれない。

先週1週間は、米国の市場では景気関連指標が軒並み悪い数字が続いて、金曜日の雇用統計でトドメを刺したといった状況。

1週間の間に、米国の2年債利回りは52 bpも低下。10年債も40 bp低下。これは2008年以降、最大の下げ幅。 

債券市場のこうした状況(利回り低下、価格急騰)が株式市場にも影響した。

こうした状況はしばらく続くかもしれない。

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2024年7月 8日 (月)

バフェットの「堀」とは

本日は、日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』に出演しました。

トピックは、バフェットの堀について。

ウォーレン・バフェットは幾度となく「堀」について話したり書いたりしてきています。

たとえば、2008年2月、株主への手紙では、

A truly great business must have an enduring “moat” that protects excellent returns on invested capital.

(真に優れたビジネスには、投下資本に対する優れたリターンを守る永続的な「堀」がなければならない)

と記しています。

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彼の言う moat (モート)とは城の周りの「お堀」を意味する言葉ですが、例えば「強力なブランド力」は、鉄壁な「堀」として機能します。

アメリカン・エクスプレスやコカ・コーラなどが良い例でしょう。

競合相手は堀を超えて、城に進出してくることが容易には出来ません。

もう少し別の角度から説明しましょう。 

ウォーレン・バフェットは、長い年月にわたってキャッシュフローを出し続ける会社の株を、長期に亘って保有し続けることで、世界一位の投資家の地位を築いてきました。

その際に役立ったのが、moat を持つ会社への投資です。

例えばアメリカン・エクスプレスについては、彼は1964年にこの株を買って、60年間、ずっと保有し続けています。

コカ・コーラは1988年に買って、36年間、持ち続けています。

どちらの会社も圧倒的なブランド力を持っていて、バフェットはこれを moat という言葉で表したのでした。

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よく誤解されるのですが、たんに現在の世界シェアが高いだけでは、moat を持っていることにはなりません。

10年後、20年後もその高いシェアを維持できるかがポイントです。

そういった会社は日本にあるのでしょうか。

あります。たとえば、ファスナーのYKK。

非上場の会社ですが、YKKのブランド力は圧倒的です。

高級スーツを着込んで重要な商談に臨んだとしても、ファスナーが壊れたりすると一瞬にして台無しになってしまいます。

ファスナーに必要なのは、絶対的な信頼性。

こうしたことからYKKのファスナーが使われるようになってきたのですが、現在、国内シェア95%、世界シェア50%。

この会社が持つ moat は、簡単には浸食できません。

なお moat について、もっと勉強してみたいという方にお勧めなのが、パット・ドーシーが書いた『千年投資の公理』

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その中で、『小さな池の大きな魚でいる方が、大きな池の小さな魚よりずっといい』という一節があります。

これは、グローバルニッチトップ企業という概念に繋がりますが、例えば自動車のワイパーのゴムを製造しているフコク(本社:埼玉県)。

国内自動車メーカーのワイパーの90%がフコク製。

世界のOEMシェアでも40%以上を占めていると言われています。

YKKと同じように一見したところでは、簡単な製品のようですが、圧倒的な技術力がその裏にあります。

海外でレンタカーをした時などに、雨が降ってワイパーを作動させると、時として、ガラスを擦るような音をたてたり、きちんと雨水が拭き取り切れなかったりすることがあります。

しかしフコクのワイパーは、音をたてず、滑るように、なめらかに作動して、しかもきちんと雨水だけをふき取ってくれます。

グローバルニッチトップ企業という視点も投資を考える上で面白いかもしれません。 

なお本日の日経ヴェリタストークですが、 10日(水曜) 12:10~と、21:00~の2回に亘って再放送されます。

また『こちら』のVOD(ビデオ・オン・デマンド)でもご覧になれます。

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2024年6月28日 (金)

債務者監獄

チャールズ・ディケンズの小説というと、「クリスマス・キャロル」(1843年)や「オリバー・ツイスト」(1837年~39年)が有名です。

もう少し後の時代。

ディケンズが43歳~45歳のとき(1855年から57年)に執筆されたのが、「リトル・ドリット」です。

この小説はチャイコフスキー(読書家として知られる)やカフカによっても高く評価されました。

舞台はお金を借りて返せなかった人が入れられる債務者監獄。

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ディケンズの父親もこの債務者監獄に入れられたことが、実話として伝わっています。

債務者監獄とはいったいどんなものだったのでしょうか。

現代を生きる私たちはこうした過去から何を学ぶことが出来るのでしょうか。

そんなことを考えながら文章を書き、日経新聞(電子版)に寄稿しました。『こちら』です。

なお明後日発売になる日経ヴェリタスにも寄稿されます。

ところで「リトル・ドリット」ですが、BBCがドラマ化していて、全8話。

アマゾン・プライム会員の方は無料で見れます(『こちら』)。

私は8話とも見ましたが、主人公を演じた役者さんも上手で面白かったです。

なによりも小説の設定では、リトル・ドリットは債務者監獄で生まれたことになっているのですが、「監獄で赤ん坊が生まれるとはどういうことなのだろうか」と疑問に思いながら、小説を読みました。

こうした疑問が、映像で観ると解き明かされ、作品をよりよく理解することが出来ました。

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2024年5月18日 (土)

フォーム13F

米国の場合、運用資産が1億ドル以上ある機関投資家などは、SECに対してフォーム13Fを提出しなければなりません。

これは機関投資家が保有している株式を一覧表にしたものです。

提出期限は暦年の各四半期末から45日以内なので、3月末現在の数字は一昨日(5月15日)に提出されました。

今回、ウォーレン・バフェットがCEOを務めるバークシャー・ハサウェイが提出したフォーム13Fは『こちら』(注:その後、一部、修正も出されています。『こちら』など)。

バークシャーは昨年9月末と12月末、2四半期連続で、保有株式の1銘柄以上を一時的に非公開とすることの許可をSECから得ていました(『こちら』)。

市場では、この銘柄はどこなのかと、噂や憶測が飛びかっていました。

今回はついに、この「秘密の株式」が開示され、それが保険会社のCHUBBであることが分かりました。

このニュースが伝わるや、CHUBBの株価は一時8%ほど上昇(253ドル→274ドル)。

しかしその後は落ち着いています。

Chubb

バークシャーのCHUBBへの投資額は時価ベースで70億ドルほどなのですが、CHUBBの時価総額は1085億ドルほどあるため、バークシャーの投資はCHUBB全体の6%ほどに過ぎません。

* * *

ところで昨日、日経新聞(電子版)にバフェット関連の記事を寄稿しました(『こちら』)。

同じ記事が5月19日(日曜日)の日経ヴェリタス紙にも掲載されます。

なおこの記事は5月15日より以前に書いた為、バークシャーの最新のフォーム13Fは反映されていません。

この記事には、実はバフェット氏とFRB議長のパウエル氏との間には意外な接点があることも載っています(ご存知でしたか?)。

パウエル氏の人となりを知る上でも結構この辺の情報は重要だと個人的には思いました(あくまでも個人の感想ですが・・)。

なにせ、その言動で世界の金融が動いてしまう人ですから・・。

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2024年5月13日 (月)

宇宙ビジネスの現状と今後

本日は日経CNBCテレビの「日経ヴェリタストーク」に出演しました。

トピックスは宇宙ビジネスについて。

詳しくは『こちら』をご覧頂きたいのですが、以下、概要を簡単に記しておきます。

【1】日本の宇宙ビジネスの現況

今般、日本政府は宇宙戦略基金(10年で1兆円)を立ち上げた。

斯様に宇宙ビジネスは現在注目を集めている分野と言える。

ただ昨年1年間のロケット打ち上げ回数で見ると、アメリカが108回、中国68回、これに対して日本は2回。

残念ながら、現状、米、中、露が第1グループを走っているのに対して、日本と欧州は第2グループ。

ただ宇宙ビジネスのマーケットは大きく、しかも急速に伸びているので、幾つかの分野では、日本勢でもじゅうぶんに勝てるチャンスはあると思う。

【2】注目分野:①合成開口レーダー(SAR)

衛星から地球を観察する場合、普通の光学画像だと上空に雲がかかると撮影できない。

これに対して、電波は雲のような障害物を透過できる。

つまり衛星から電波を送り、跳ね返ってくる電波を受信することで、地表を観測できる。

ただこの場合に難点があって、宇宙のような遠いところから電波を当てても、ビーム角が広くなり解像度が落ちてしまう。

これを解決したのが合成開口レーダー(SAR)。

時系列に電波を照射して受信した結果をつなぎ合わせるという技術。

九州大学発のベンチャー、QPS研究所などがこの分野で活躍している。

【3】注目分野:②宇宙デブリ(ゴミ)除去

デブリ除去の方法としては、デブリを捕獲したり、レーザーを当てたりして、デブリを大気圏に突入させ燃やすことなどが考えられている。

しかしデブリは地球の周りを秒速7~8キロで周回している。これはライフルの弾丸の8倍のスピード。

これを捕獲するか、レーザー光線を当てるかと言っても、技術的ハードルはかなり高い。

この業界のリーダー格であるアストロスケールも当初は接着剤を使ってデブリを捕獲することを考えていたが、宇宙空間で粘着剤が劣化してしまうことが分かり、磁石に切り替えた。

現状はまだいろいろなやり方が考えられている段階と言えるかもしれない。

なおデブリについては積極的デブリ除去(Active Debris Removal, ADR)のみならず、デブリをこれ以上出さないことも重要。

つまりこれから打ち上げられる人工衛星は、寿命が来たら大気圏に再突入するための装置を搭載するといったことが重要になってくる。

【4】宇宙ビジネスはイノベーションに寄与するか

1961年にケネディ大統領が「10年以内に人間を月に到達させる」と宣言して、アポロ計画がスタートした。

それまで宇宙船の飛行ルートの計算は「手計算」で行われていたが、アポロ計画においてはコンピューターが導入された。

ソーラーパネルなどもアポロ計画で開発された。

経営学の分野では、ある目的があって、それに向かって組織として努力することで、イノベーションが生まれるという「目的工学」の考え方もあるが、宇宙ビジネスとイノベーションはこのように密接に関係していると言える。

たとえばアルテミス計画で要求される月面探査車は月の環境に耐える必要がある。

月面では、重力は地球の1/6、温度はマイナス170℃~プラス120℃、真空、強い放射線、そして昼が2週間続き、次に夜が2週間続く。

こうした環境に耐える車を開発することがイノベーションに繋がる。

もう一つ、別の視点だが、例えば、衛星を使ったリモート・センシングの機能は、人類が新しい測定の技術を入手したことに繋がる訳で、いろいろな分野に応用可能。

こうした新機能を応用していく、その結果、その先で新しいイノベーションが生まれるという側面もあるかもしれない。

【5】産学官の連携と政府の舵取り

国による「宇宙戦略基金」(10年間で1兆円)がスタートしている。

基本的な発想は、米国などと同じく「官から民へ」というもの。

官が中心だと、国民の税金を使うということで失敗が許されにくい。

どうしても慎重になり、スピード感に欠ける。

これに対して、民の力を上手く使うことで、スピード感ある開発が行えるのではないかという考え方である。

「宇宙戦略基金」のもう一つのポイントは、JAXAに関する法律を改正して、この1兆円基金がJAXAに設置されたこと。

JAXAのこれまでの機能は、宇宙科学や宇宙航空に関する研究・開発、並びに人工衛星等の開発、打上げ、追跡及び 運用等の業務を行うことだったが、これに加えて基金がJAXAに設置され、JAXAが、民間・大学が行う研究開発に対して助成を行うようになる。

JAXAによる民間や大学に対する支援が、こうした宇宙ベンチャーに対する民間資金の呼び水となることが期待される。

更に、今後の方向性としては、米国のNASAが行ったように、JAXA自身が宇宙関連スタートアップの製品やサービスを積極的に購入するようになることも期待したい。

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2024年4月15日 (月)

踊るインド株 巨象の実像

2016年11月8日、午後8時にインドのモディ首相がテレビに出演し、演説をしました。

「今から4時間後の真夜中0時以降、現在使われているお札のうち、500ルピー札(当時の為替で約800円)と1000ルピー札(約1600円)が使えなくなります」。

これはインドで使われていた紙幣の約86%にあたります。

日本で言うと、「1万円札と千円札が今日の夜から使えなくなる」と首相が宣言するようなもの。

インド中が大騒ぎになりました。

500ルピー札と1000ルピー札は通常の取引では使用禁止になりましたが、

銀行に持って行けば、(1)新紙幣と交換したり、(2)銀行に預金することは出来る、とのことでした。

しかしそれも年内まで。

さらに銀行から引き出せる新札の額にも制限がつけられたりしました(そもそも新札の印刷が間に合わなかった)。

「こんなことをしたら国中が大混乱に陥る」

とばかり、米国のローレンス・サマーズ(元財務長官、ハーバード教授)などが警鐘を鳴らしました。

銀行には長い列が出来ましたが、モディ首相の強力なリーダーシップの下で、インドはこの政策を断行しました。

目的は大きく言って、2つ。

1つはブラックマネーの炙り出し。

もう1つは、国民に銀行口座を持ってもらうことにありました。

それまでインドでは国民の約50%は銀行口座を持っていませんでしたが、この政策の結果、今では約8割の人が銀行口座を持つようになりました。

これは一例ですが、インドのサッチャーとも称されるモディ首相は、10年前に政権を握ってから、数々の経済改革を進めてきました。

おかげでインドのGDP(名目ドルベース)は10年間でほぼ2倍に・・。

さて、今週金曜日(19日)から、インドでは総選挙が行われます。

全国を7つの選挙区に分けて順次投票していくので、全ての投票が終わるのが6月1日。

開票は全国一斉に6月4日に行われます。

人民党 vs. 国民会議派の構図ですが、与党である人民党が勝利し、モディ氏が3期目に入ると予想されています。

今日の日経ヴェリタストークでは、そんなインドの状況について話し合いました。

上記のような政治の話よりも、むしろ自動車産業、金融機関など経済の話が中心です。

インド株への投資(具体的には投信、ETF)を考えている方は是非ともご覧になってみてください。

『こちら』です。

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なおインドについてお勧めしたいのが、鈴木真弥さんの『カーストとは何か』

学びの多い本でした。

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2024年4月12日 (金)

「複利」のすごさと怖さ 数%で資産形成に大差

複利のことなど今さら聞かなくても分かっている―という人がほとんどだと思います。

では、「100円(100万円ではない!。たったの100円)を年10%で複利運用したら100年で幾らになるか?」

これをイメージできる人はそんな多くないかもしれません。

答えは138万円!。

日経新聞(電子版)と日経ヴェリタス(4/14号)に寄稿しました。(『こちら』です)。

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2024年3月24日 (日)

NVIDIA GTC

3月18日~21日に開催されたNVIDIA のGTC(GPU Technology Conference)。

ファン会長の 基調講演(key note)だけでも見ておきたいと思っていたのですが、今日やっと時間が取れて最初から最後までを見ることが出来ました。 

2時間を超えるプレゼンですが、英文の字幕もあり、一見の価値ありだと思います(『こちら』)。

忙しい方は最初の3分間の動画だけでもご覧になってみてください。

下図は昨年10月のNVIDIAのプレゼン資料で、今後のプロダクト・ロールアウト(製品投入計画)を示したものです。

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H-200は今年の4-6月期にshipmentが始まる(『こちら』)とのこと。

現在のH100およびこれから出てくるH200はいずれも頭文字はHで、このHはGrace Hopper(1906~1992年。1959年にプログラミング言語COBOLを開発)から来ています。

Hの一世代前はA(Ampere)、さらにその前はV(Volta)といった開発コードネームがつけられていました。

さて今回のGTCでは、Hopperの次の世代、Blackwellが発表されました(下図)。

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これは数学者のDavid Blackwellから取ったもの。

新しいGPUは、B100、GB200といった具合に、数字の前にBlackwellのBが付くことになります。

GPUの性能は、このようにどんどんと良くなりますが、NVIDIAの凄いところは、顧客と一緒になって、エコシステムを創り出しているところ。

TSMCは半導体のファンドリー(顧客が設計する半導体を製造する工場。製造専門の会社)として有名ですが、ファン会長は『NVIDIAはAIのファンドリーを目指す』と力説していました。

社内にはハードのエンジニアよりもソフトのエンジニアの方が多いといった声も聞こえてきます。

未来はもうすぐ、そこまで来ている・・。

動画の最初の3分間を見ただけでも、それを感じることが出来ると思います。

音楽はAI、AIVAが作曲したものです。

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2024年3月23日 (土)

建築家とゼネコン

先月24日に発行されたバークシャーのアニュアルレポート(2023年)。

表紙と目次のすぐ後に、バフェットによるマンガーへの弔辞が掲載されています(下の写真)。

題して『チャーリー・マンガ―:「バークシャー・ハサウェイのアーキテクト(建築家)」(The Architect of Berkshire Hathaway)』

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この中でバフェットは次のように書きました。

『チャーリーは現在のバークシャーの "設計者 "であり、私は "ゼネコン"として彼のビジョンを日々建設していった。』

(Charlie was the “architect” of the present Berkshire, and I acted as the “general contractor” to carry out the day-by-day construction of his vision.)  

昨年11月28日に99歳で他界したマンガー。

あと33日で100歳の誕生日を迎えるところでした。

チャーリー・マンガ―と言えば、歯に衣着せぬ発言で有名でした。

私はそんなマンガーのコメントをバークシャーの株主総会で聞くのが好きでした。

たとえばバフェットは2006年にようやくコカ・コーラの役員を退任したのですが、

マンガーによれば「もっと早く取締役を辞めていればコカ・コーラ株を売れたはずだ」(バフェットの公認伝記「The Snowball」原書681頁)。

昨年5月のバークシャー株主総会にはマンガー(当時99歳)は車椅子に乗って登壇しましたが、

今年の総会では残念ながら彼の姿を見ることが出来ません。

ご冥福をお祈りします。

* * *

話は変わりますが、先週末(3/15)時点で、バークシャーの時価総額は8,883億ドルでした。

これを分解してみると、

保有有価証券(上場株式)の時価が3,660億ドル。

現金および現金同等物が1,676億ドルです。

この2つを足し合わせると、5,336億ドル。

これとバークシャーの時価総額との差(3,547億ドル)が、ざっくり言って、バークシャーの事業会社(保険会社、エネルギー会社、鉄道、キャンデー、家具など)の価値ということになります。

(本当は、現金および現金同等物の中には、事業会社が事業を行っていく上で必要なものも含まれている為、上記計算は正確ではありません)。

保有有価証券(上場株式)の時価(3,660億ドル)の中身を見てみましょう。

全体の74%をアップルなど、たった5社への集中投資が占めています。

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しかもこの上位5社の顔触れですが、10年前(下図)と比べると大きく変わっていることが分かります。

Bkr10yrs-ago

10前の上位5銘柄で残ったのは、コカ・コーラとアメックスだけでした。

350万もの虚偽口座が作られたウェルズ・ファーゴについては、バークシャーは、22年第1四半期に全株の売却を完了。

IBM株については、17年にほぼ全て売却。

17年8月のCNBCによるインタビューの中で、バフェットは次のように発言しました。

"I was wrong on IBM.  I made a mistake." 

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2024年3月 6日 (水)

一万円出しても読みたい本

最近読んで面白かった本を2つ。

【1】清原達郎著 『わが投資術 市場は誰に微笑むか』

間違いなく今年読んだ本でいちばん面白かった本です。

        Tk_

生きるか死ぬかの市場を生き抜いて、最終的には抜群のパフォーマンスを手にした著者の言葉はさすがに重さが違います。

アマゾンの書評欄に『一万円出しても読みたい本』と載っていましたが、私も全く同じ感想。

この本が世に出たことを感謝したい、そんな読後感を持ちました。

きっと1回だけでなく、何回か、読み返す本になりそうです。

【2】ビル・パーキンス著『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』

先日、日経新聞の方が来社され、この本の話が出てきたので、買って読んでみました。

       Dwz_

本書のエッセンスをひとことで言うと、

「多くの人はお金を残して死ぬ。

お金よりも人を幸せにするのは"経験"なので、その為にお金を使いなさい」

という内容の本。

これだけ書くと、大したことのないようです(やはり私はとても書評家にはなれない)。

しかし本書には寿命時計とか、目から鱗の話が幾つか出てきます。

(私も早速自分のスマホに寿命時計を入れてみました。すると結構、緊張するものです。「あと〇〇年」とか出てきますので)。

多くの人が老後の為とばかり、資産を増やすことに邁進している現在の日本。

そんな中で、著者の主張は新鮮です。

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