2009年9月29日 (火)

The Buck Stops Here

「責任の付回しはしない。責任はここで取る」という意味の英語で、the buck stops here と言います。

元々はポーカーのゲームから来た言葉で、かつてアメリカ大統領の机の上に、この言葉のプレートがあったとのこと(詳しくは『こちら』)。

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私は興銀の審査部に5年間勤務していました。

審査部では1つの会社を1ヶ月くらいかけて審査します。

相手が中小企業であったりすると、1ヶ月間のうち、10日間くらい毎日のように社長の下を訪れて時間を共有し、いろいろと話を聞きだすようなこともしました。

1ヶ月後、結論を出さなくてはなりません。

貸して良いか、貸しては駄目か。マルかバツか。

正にバック・ストップス・ヒアの状況です。

どんなに立派な分析をして、どんなに大量のレポートにしてまとめても、重要なのは、結論だけです。マルかバツか。

私は、マルかバツかをはっきりさせることのみが審査部の使命と考えていましたから、(当たり前のことですが)結論だけは常に明白に分かるように調書を書きました。

当然、マルと結論していて、取引先が倒産したりすると、その審査の調書を書いた人は責任を問われます(逆にバツと結論して、他行がその会社に融資を行い、後にその会社が良い会社になっていってもやはりその審査の調書を書いた人は責任を問われます)。

当時興銀の審査部には首都圏審査室も含め、50人ほどの審査部員(サポートの一般職は除く)がいたと記憶していますが、中には、結論がはっきりしない調書、すなわち『こうなったら、こうなる』式の調書を書く人も出てきました。(例えば『不動産市況が順調に推移すれば、当社も何とかやっていけるだろう』といった、実は結論になっていない調書)。

その結果、銀行全体としては融資が甘くなっていってしまいます。

私が興銀の審査部にいたのは1987年から92年。バブルがピークに上り詰め、崩壊し始めた頃です。

自分の保身を考えるとサラリーマンが、the buck stops here を徹底させることには、なかなか辛いものがあります。しかし、そのポジションにある人が、the buck stops here を果たさないと、組織は自壊し、保身したつもりが(組織は倒産するとか他と合併させられて)結局は保身になっていなかったということになりかねません。

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2009年9月23日 (水)

一代一業 (トヨタの借入金 その6)

『トヨタの借入金』と題して6月から折に触れて書いてきました(第1回は6月12日)。

今回で6回目になりますが、この辺で終わりたいと思っています。

私が6回にも及ぶブログで言いたかったのは、2点です。

一つはトヨタの借入金が余りに膨大であること(連結ベース:12兆6000億円。保有する現預金を相殺させた後で得られるネットデットのベースでも借入金は10兆1000億円を超える)

もう一つは、トヨタは自動車事業に専念して、それ以外の事業は、自動車を売る上で必要な範囲に留めた方がいいということです。

6月19日のブログにも書きましたが、小説『レッドゾーン』(真山仁著)で、主人公の鷲津がこう発言する場面があります。

『ハゲタカからのご忠告です。本業以外のビジネスに手を出した企業は、必ず潰れます』

* * *

ところでトヨタには一代一業という考え方があるといいます。

一代一業とはファミリーの一代で、一つの(別の)事業を興すという家訓。

豊田佐吉が自動織機を発明し、佐吉の長男の喜一郎がトヨタ自動車を創業しました。

喜一郎の長男、章一郎は大学院を出た後、様々な仕事を経て、コンクリート製プレハブメーカーに入りました。

章一郎は喜一郎の急逝に伴い、トヨタの取締役になりますが、住宅事業に対する思い入れも強いといいいます。

* * *

一代一業を唱えるファミリーは豊田家だけではありません。

例えば北野建設の北野家などのように、ほかのファミリーでも散見されます。

欧米にもあります。

起業家精神、チャレンジ精神を継承させたいとの思いがその根底にあるのでしょう。

ところでこの「一代一業」と「経営資源の本業への集中」とは、相容れない考え方でしょうか。

本来、一代一業が意味するところは、一代一業を進めた結果、本業とは関連性に乏しい新規事業が立ち上がったとしたならば、

その事業は早く独り立ちさせるということでしょう。

豊田自動織機製作所からトヨタ自動車が独立し、(一代一業とは少し違いますが)富士電機から富士通が生れ、さらにファナックが生れたように、

新しく立ち上がった事業は独立させていけばいいのです。

いかに一代一業といっても、いつまで経っても独り立ち出来ない事業を自社内に留めておけば経営が拡散してしまいます。

かつて株式会社豊田自動織機製作所の内部に自動車部が設置(1933年)された後、トヨタ自動車が上場する(1949年)までには、16年を要しました。

トヨタホームの前身である住宅事業部が、トヨタ自動車内に設置されたのが、1975年。

以降34年を経過しても、トヨタホームはトヨタ自動車の100%子会社のままです。

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2009年9月21日 (月)

欧州復興開発銀行

先週は、欧州復興開発銀行(EBRD) で昨年まで金融機関部門のトップを務めていた ガイガーさん が来日。一緒に幾つかのアポイント先を回りました。

EBRDの金融機関部門はプライベート・エクイティ部門も管轄していて、ガイガーさんは EBRDのEquity Committeeの会長も兼務していました。

復興開発銀行というと、従来は貸付や保証業務が中心でしたが、最近はプライベート・エクイティ業務(注:復興開発銀行が対象国の未公開会社へ直接出資し経営改革にも従事)も重要な役割を担ってきています。

ガイガーさんは、この分野で先駆的な役割を果たし、東欧、中欧、ロシアなどの地域の健全な経済成長に多大な貢献をしてきました。

先週一週間の来日中には、テレビ局でガイガーさんへのインタビュー収録もありました。

ガイガーさんは1970年代に Chase で教育を受けただけあって、一昔前の非常に健全なバンカーです。

「欧州復興開発銀行にも複雑な証券化商品への投資の話が持ち込まれてきたが、“リスクの所在が分からないものには手を出すな”と一切認めなかった」と話していました。

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2009年9月17日 (木)

タダ同然でいい

2008年9月18日。

JPモルガンのダイモンCEOの電話が鳴った。かけてきたのは当時の財務長官ヘンリー・ポールソン。

「投資銀行モルガン・スタンレーを買ってくれないか、タダ同然でいい」

* * *

今週号のニューズ・ウィーク誌(日本版)20頁より抜粋しました。

   Newsweek_2

16頁から29頁までが金融の特集。

読み応えのある記事が多かったです。 

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2009年9月16日 (水)

何合目

リーマンショックから1年を経て、我々は危機をどの位脱出できたのか。何合目目か。2番底はあるか、といった質問をよく受けます。

以下、思いつくまま、書きます(文章が変なところはお許しください)。

* * *

去年の今頃は何が起きたか分からなかった。IMFやFRBはその前年のパリバショックの後、不良資産の合計が、世界全体で10兆円とか15兆円といった数字をあげていた。

投資銀行や商業銀行などが貸借対照表上に上げている Level 3 の資産に、どの程度信憑性があるのか、アナリストたちがいろんな見解を出していた。

トリプルAで評価されていた証券化商品までマーケットで取引が成立しない(誰もQuoteしない)し、相対での取引も成立しない・・

Greenlight Capitalのようなヘッジファンドが金融株をターゲットにどんどん空売りを仕掛けてくる。

いったい、この危機はどこまで広がるのだろうか・・

そんな恐怖が支配していたのが、去年の今頃だ。

それから今年に入って、少しずつ病の全貌が見えてきた。とりあえず医者は処方箋を書き、副作用があるかもしれないけれど、薬を飲み、体は少しずつ回復してきた。

どんな病気か、どれくらいヒドイかさえ分からなかった時に比べれば、一応の病気の原因はつかめ、処方箋もかけるようになった。

それだけでも、5合目くらいは来たと言えないことはない。

それから体は少しは回復してきたから、全体では7~8合目くらいまでは来たか?

ただし、体力レベルの回復度といった点だけに絞れば(要はマイナス100失われた体力が薬によってどの位、回復したか)

まだ回復度は3割程度といったイメージか?

それにしても失業率はひどく今後更に悪化する可能性も大だ・・

これから先、2番底があるか?

薬の副作用がひどくなると、2番底はあり得るんだろう・・ 体力が回復してきたら徐々に弱い薬に移し、最後は止めないと・・

この出口戦略が結構難しい。

治っていないのに勘違いして薬を辞めると、悪化してしまう。しかし、いつまでも副作用のある薬やカフェインに頼るわけにもいかない・・

もちろん世の中には、自然治癒が一番であると信じていて、薬なんか最初から飲まなくても治ると信じている人もいる。

この辺の議論は、それはそれで結構興味深いのだが・・

(何合目という質問がよく寄せられるのは)マーケットで投資している人には、今の体の状況を把握し今後を予想することが重要だ、ということなのだろう。

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2009年9月 6日 (日)

トヨタの借入金(5)(GEを他山の石とする)

先日コメント欄に書いたことを、もう少し詳しく書いてみます(一部、内容がだぶります)。

GE(ゼネラル・エレクトリック社)は、電球を発明したトーマス・エジソンが1878年に設立した会社。

「天才は1%のひらめきと99%の汗」という有名な言葉を残した、あのエジソンです。

GEと言えば、超優良会社の代名詞。

かつては世界第一位の時価総額を誇り、時の経営者ジャック・ウェルチ(1981年から2001年までCEO)は、経営の神様と崇められました。

そのGEが今、苦しんでいます。

株価は一時、ピーク時42ドルの7分の1である、6ドル(2009年3月)にまで落ち込みました。

GEが好調であった時は、GEは会社の利益の36%を金融で稼ぎ出していました。

それが今では金融部門の収益が対前年比で3割強も落ち込み、会社全体の足を引っ張る形となっています。

GEの金融部門の歴史は古く、もともとはGE製品を販売する際に、金融を付けることで始められたビジネスです。

そのうちにGEの他の部門とは離れて、独自に消費者金融、不動産といった具合に事業を拡大していきます。

1986年には投資銀行の名門キダー・ピーボディ社を買収し、投資銀行業務も手がけました(GEはキダーを1994年にペイン・ウェーバーに売却)。

「史上最強の経営」を標榜し、金融部門についても専業の他社に引けを取らないノウハウを蓄積していったGEでさえ、今回の金融危機では傷つきました。

2008年7月、GEは、GEキャピタルをGEの4つの事業部門の一つと位置づけ、GEとの一体性を強化。

同時に金融事業の見直し・スリム化(streamline)に着手しました(日本の個人向け金融サービス事業は新生銀行に売却)。

「まずは安全性を確保する」(Safety first)とGEキャピタルのマイケル・ニールCEOは述べています。

ここ数年、急激な勢いで金融業に入り込んでいったトヨタは、GEの一連の動きを他山の石として参考にすべきだと思います。

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2009年9月 4日 (金)

選択と集中 (コングロマリット・ディスカウント と ピュア・プレイ その2)

日立がコングロマリット・プレミアムを標榜した2005年12月。

この頃、米国のウェスティング・ハウスが売りに出ました。

そして翌年2月。東芝による買収が決定。

東芝の社長、西田氏はこれより半年前の2005年6月に社長に就任していました。

日立とは違って、西田社長は『選択と集中』の経営を徹底させていきます。(コングロマリットではなくなる道を選んだのです)。

日立と東芝、どちらが株主価値を高めたか?

両社の時価総額の推移をグラフにしてみました。

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2009年9月 3日 (木)

コングロマリット・ディスカウント と ピュア・プレイ

本日は『トヨタの借入金(その5)』を書く予定でしたが、チョッと脱線して、昨日のブログの続きを書きます。

昨日はGMの多角化経営とコングロマリット・ディスカウントについて書き、トヨタの持ち株会社構想に触れました。

実はコングロマリット・ディスカウントとピュア・プレイについては、4年ほど前にも記事を書いたことがあります。

昨日の記事では分かりづらいと思われた方は、是非『こちら』(4年前の記事)もご覧になってみてください。

ところで、日本では

『コングロマリット・ディスカウントなんて言うのは存在しない。アメリカが勝手に言っているだけだ。我々はコングロマリット・プレミアムを目指す』

と言う経営者が時おり出てきます。

そういう記事が出ると、私は経営者の発言内容をじっくりと読むようにしています。

たしかにビジネススクールで教えていることが正しいとは限らない。。

常識を疑ってみることも必要です。

そして考えます。

この経営者はどこまで分かって発言しているのか・・。

更に・・

それでは、この会社の株は売るべきか、買い増しすべきか。

私は『こちら』の記事を読んだ時は、その会社の株を売りました。

その後の株価の動きです。

  Photo_2

もちろんリーマンショックで下落した部分が大きいのですが、

記事が出たとき(2005/12/15)の株価(始値)は804円。

今は324円、6割の下落です。

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2009年9月 2日 (水)

トヨタの借入金(4)(コングロマリット・ディスカウントと持ち株会社)

本業以外に手を出して破綻した企業の代表格は、GM(ゼネラルモーターズ)でしょう。

1984年、GMはコンピューター・ソフト(ITサービス)大手のEDS社を買収、翌年には航空宇宙産業・軍事大手のヒューズ・エアロクラフトを傘下に収めました。

こうしたコングロマリット経営の結果、本業の自動車製造・販売が疎(おろそ)かになってしまったのは、その後の歴史が示す通りです。

そもそも株式市場では、一つの事業を行なう会社、いわゆる「ピュアプレイ」(pure play)の方が好まれ、複数の事業を行なう会社は、価値が低く評価される傾向にあります(コングロマリット・ディスカウント)。

市場には、例えば自動車とITサービスの会社の株を、6対4の比率で持ちたい投資家もいれば、9対1の比率で保有したい投資家もいます。

各々の投資家のニーズは株式市場を通じて、株式のポートフォリオの比率を変えることによって実現させた方が効率的です。

GMという、一つの会社が自らの中で自動車とITサービスとを併せ持つことで、種々の投資家のニーズを満たすという発想には無理があるのです。

トヨタはGMとは違うはずだ。

このように我々は誰もが思ってきたのですが、今般トヨタが71年ぶりに営業赤字に陥ったことで、最近のトヨタ社内で何が起きていたか、その内幕がいろいろと報道され始めました。

その中の一つとして、トヨタ社内では数年前から「持ち株会社構想」が検討されていた、との話が一部マスコミから漏れ伝わってきました。

真偽のほどは分かりませんが、もし仮に事実だとしますと、それはトヨタのGM化に繋がりかねない危険性を持つといえるでしょう。

一部のマスコミ情報によれば、幸いこの案は豊田家が潰したとのこと。

トヨタに集まるヒト、モノ、カネの経営資源は、トヨタが最も得意とする自動車の事業に集中投下するべきです。

「持ち株会社化」は経営資源を拡散させてしまいかねません。

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2009年9月 1日 (火)

グリーン・ニューディール

昨日の日経CNBC『日経ヴェリタストーク』で、オバマのグリーン・ニューディール政策の補助金を獲得した企業のお話をしましたが、具体的には『この会社』のことを話したものです。

この会社(EnerG2)による日本語のプレスリリースが『こちら』で見られますので、ご関心のある方はご覧になってみて下さい。

先週来日していた、この会社のCEOの話では、当社が補助金を申請したときには、相当な量のプレゼン資料を連邦政府に提出したとのこと。

テクノロジーが優れているだけでは駄目で、米国での雇用増に結び付くことも重要なポイントだったとのことです。

それにしても米国政府のカネで最新の工場が作れてしまうので、ベンチャー企業にとっては有りがたい話です。

なお『日経ヴェリタストーク』は、9月1日火曜日0時00分~、午前2時03分~、 午後5時15分~、午後7時06分~の時間帯で再放送されますので、宜しかったらご覧になってみて下さい。

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