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2005年12月23日 (金)

日本の株式市場はバブルか(PERの逆数)

『サバイバルとしての金融』(祥伝社)で私が言いたかったことは、ちょっとした金融の見方さえ身につければ世の中をより賢く見れるようになるというものです。

テレビを見ていましたら、日本でも有数な大学に所属されている教授の方が、いまの日本の株式市場はバブルかどうかについて話していました。

教授の話: 『アメリカのPER(株価収益率)は10倍から15倍程度。ここにきて日本の株式市場はPER22倍まできているから、日本はバブルの可能性が出てきた。』

みなさんは、この教授のコメントをどう思われますか?

PER(株価収益率)とは、分子に株価、分母に一株当たりの会社の利益をもってきて、『分子を分母で割って』(小学校で習いました)得られる数値です。

まず、一株当たり利益を算出します。すなわち、会社が出している利益は、会社が発行している株式一株あたりで見るとどの位の金額になるのかを算出するのです(仮に250円としましょう)。

次に、株価(仮に5000円とします)をこの数値(一株当たり利益)で割って得られる数字がPERです(この場合は20倍になります)。

英語で言うと、PERとは、Price(株価) を Earning Per Share (EPS;一株当たり利益) で割って得られる数字 (Price Earning Ratio)のことです。

確かに1989年のバブルの頃にはPERが60倍を超えるといった状況になったというレポートも出ています。

さて、それでは、この大学の先生の言っている通り、日本の株式市場はいまバブルなのでしょうか?

PERの逆数を見てみます。(分母と分子を逆さまにすることです。1をPERで割ればPERの逆数が得られます。)

PERを逆数にすると、『その株に投資して、何%で回る』と投資家が期待しているか、を示すようになります。

先ほどの例ですと、5000円投資して毎年得られる一株あたり収益が250円とすれば5%の利回りです(議論の簡略化のためEPSは将来も一定としています。またキャッシュ・フローと利益額とを等しいと仮定しています。更に借入れ金額や企業の余剰現金が株価に与える影響も無視しています。詳しくは『サバイバルとしての金融』をご覧下さい。)

日本のPERが仮に先の大学教授の言うように22倍とすると、22倍の逆数は、4.5%となります。 

一方、仮にアメリカのPERを13倍とすると、この逆数は7.7%です。

日本の投資家にとってみれば、リスクの低い10年もの国債に投資しても1.5%のリターンしか得られません。

であれば、ある程度リスクを取っても良いとする投資家は、株式に投資をする。このリスク・プレミアムが4.5マイナス1.5で得られる3.0%ということになります。

一方、アメリカの10年もの国債の利回りは4.4%です。よって、株式投資のリスク・プレミアムは3.3%です。(7.7%マイナス4.4%)

日米のPERの差は日米の金利差に起因するもので、株式投資に対するリスク・プレミアムとしては、投資家は、日本もアメリカも同じように見ていることが分かりました。

即ち、大学教授は『日本のPERの方が、アメリカよりかなり高くなってきているので、日本はバブルだ(よって株は下がるから買うのを止めなさい)』と言っているのですが、

日本のPERがアメリカに比して高いのは金利差に起因するものであり、投資家が株式市場を異常に高く評価していること(バブル)の結果ではないことが分かります。

ただ、だからと言って日本経済は正常であると言っている訳ではありません。

預金者に対して殆ど金利をつけない経済。10年もの国債が1.5%という経済は異常です。

日本経済の現況は、おそらくこんな感じです。『病人(日本経済)にカフェインを飲ませる(量的緩和、ゼロ金利政策)ことをいつまでも続けていたから、病気にもかかわらず、病人はフィーバー的になってきた。』

バブル云々を論ずるよりも経済が量的緩和、ゼロ金利政策を続けていくことの方が異常であることをまず認識する必要があります。

病人に必要なのはいつまでもカフェインを飲ませ続けることではなく治療です。株価が上がってきたからと言って構造改革の手を緩めたら病気は治りません。無駄な支出を削り財政を健全化させる。公共セクターの構造改革はもっとスピードを速める必要があります。それと同時に金融機関を初めとする民間部門ももっと無駄をなくし、効率的経営に努める必要があります。

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