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2006年2月19日 (日)

市場主義と二極化社会

市場主義、資本主義が発達していくと貧富の差が拡大して社会が二極化してしまうことを危惧する人がいます。

ライブドア前社長の逮捕・起訴を例に挙げて、これが市場主義の行き着く先だと警鐘を鳴らす人もいます。

「昔の日本はもっと良かった。日本人はこれに気づくべきだ」と。

日本が本格的に市場主義に則って経済を運営させていこうとした、まさにその矢先にライブドア事件が起きたのは非常に不幸なことでした。

われわれはここで冷静にわれわれの国の進むべき方向を考えなければなりません。

官僚や大銀行が中心となって、経済のどの分野を成長させ、どういった形で富を分配させるかを決めてきたのが従来の日本のビジネスモデルでした。

少数の権威者がお金をいったん吸い上げて「どこに何を作るか、誰が作るか」を決めてきたのです。

その結果、多くの無駄な道路やダムが出来て、官僚の天下り先である公社・公団・独立行政法人が乱立しました。

年金制度は破綻し、国の借金は国民一人当たり七百万円に達しています。

官僚OBたちが暗躍して、業者が銀座で接待し談合を行う。

こういったところからは残念ながら新たな価値は創造されません。

こういった旧来のやり方に限界を感じ、これまで少数の権威者や既得権者たちがはたしてきた機能を「市場」という場にゆだねる。

そしてそこに参加する消費者やユーザー、一般投資家たちに、市場のメカニズムを通じて「どこに何を作るか、誰がどう作るか」を決めてもらう。

これが「小さくて効率的な政府」の目指す方向であったはずです。

資本主義、市場主義がきちんと機能することによりヒト・モノ・カネが市場を通じて効率的に配分されるようになり社会全体がより一層豊かになるという考え方です。

過去16年間で日本とアメリカとでは金融資産の価値に10倍もの差がついてしまいました。日経平均株価が4割に下落する一方でニューヨークのダウ平均株価は4倍にもなったのです。

この16年間、日本でもトヨタやキヤノンのように国際競争にもまれ、価値あるモノやサービスを提供してきた会社は、米国のダウ平均株価並みに企業価値を高めてきました。

しかしながら談合を繰り返してきた建設会社などは価値を創造することが出来ず、銀行に債権放棄を求めたり破綻を余儀なくさせたりしてきています。

日本人はもっと豊かになれたはずですし、これからももっと豊かになれるはずです。

マクロの問題は、結局はミクロの問題の積み上げです。われわれ一人一人が価値あるモノやサービスの提供に努めることで、われわれの社会はもっと豊かになっていきます。

ところで社会全体がもっと豊かになることと分配の問題は別の問題です。

私は「社会が二極化し貧富の差が拡大していけば、結局のところ金持ちの人たちも幸せにはなれない」と思います。

サバイバルとしての金融』という本の中でも書きましたが、中南米やアジアの国の一部の金持ちたちの中には、金融資産の大半を自国ではなくアメリカやスイスに移してしまっている人たちもいます。

彼らは、護衛やセキュリティ・カメラで囲まれた家に住み、守衛(ガード)を乗せた車で移動するような生活を強いられています。金があるからといって、こういった人たちははたして幸せなのでしょうか。

かつてケネディ大統領が就任演説で述べたように「自由社会が貧しい多くの人々を救えないなら、それは富める少数の人々も救えない」のです。

私は、分配の問題に関しては所得税の累進性を強化するとか、資産課税を導入する、あるいは相続税をもっと重くするといった方策によって是正・解決を図って行くべきだと考えています。

ただもう一度繰り返しますが、社会が二極化しないよう分配面で配慮することと、市場主義のメカニズムを利用して社会全体のレベルを底上げさせることとは、二者択一の関係ではなく、両立できるものです。

市場の役割を否定して、かつて陥った非効率な道へと逆戻りしてしまってはいけません。

ヒト、モノ、カネが市場を通じて効率的に配分されるようになる。そして日本の企業が価値を創造することに重きを置くようになる。

そういった社会が出現していくことを希望してやみません。

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コメント

はじめまして。毎回ブログを楽しみに読ませて戴いている学生です。
私なりに感じることがあり、率直にコメントさせていただきます。

ライブドアの成長過程で社会責任を無視するようなことがあったのは事実です。
企業として存続しがたい条件はそろっていますが、未だライブドアは会社は存続しています。
また、堀江氏が行ったことは全てが悪いことではなく、個人投資家に人数を増やし、日本ではなじまなかったM&Aという考え方を世間に認知させました。
不祥事前はみんなが彼の功績を称え、彼やライブドアへの危惧を訴える人も疑う人もいませんでした。
私も気がつけなかった一人です。

先生がおっしゃっている、企業の価値の創造の見極めはどうすればよいのでしょうか?

会社の代表の言っていることが全てなのでしょうか?何をもって知ることができますか?

私は投資はしてはいませんが、社会の一員として正しい見方ができるようになればよいと考えています。

投稿: TOMOYA | 2006年2月20日 (月) 00時15分

コメントならびにご質問ありがとうございます。

教科書的に言いますと、消費者やユーザーが価値あると思う製品やサービスを提供している会社が価値を創造している会社です。

たとえば、「アップルのiPodによって通学時間が少し楽しくなった」といったように、企業は価値を創造できるからこそ株価も上がり、投資家は潤うのですね。

ただ、ご指摘の問題はもっと深い面も有していると思います。

私自身が、立ち上げて間もないインターネット関連の会社に出資し役員もやっているから分かるのですが、インターネットの世界では、出会い系サイトのような世界に手を染めれば直ぐに収益を上げることが出来ます。

人々がそれを望んでいるから、ある種の価値を創造しているのだとは思うのですが、やはり経済原則を超える「何か」が企業には必要だと、私は思います(倫理ということかもしれません)。

ということで、立ち上げて間もない会社ですが、私が出資し役員を務めている会社は、出会い系とかアダルトとかは一切無縁です。

会社として業務を行っている以上、会社のホームページに問い合わせなどもあり、その方面からのいろいろなアプローチもあるのですが、全部遮断しています。

ライブドア以外にも、いまネットベンチャーとして注目を浴びている人たちの中には、実は起業して間もない頃、ダイヤルQ2を行っていたけれど、上場に際して邪魔になるから全部売却したとか、そういった方たちが沢山います。

外国の例になりますが、例えばロシアでは、同国で最大クラスの企業が実はマフィアにコントロールされているといったニュースが伝わってきたこともあります。

日本もロシアほどではありませんが、裏社会が存在するのは事実で、企業はそういった方面からの誘惑なり脅しに屈することなく、自らの行動指針を高いところに設定する必要があると思います。

投稿: 岩崎 | 2006年2月20日 (月) 07時39分

お忙しい中、お返事ありがとうござます。
優良な企業の見極めは大変難しいと感じます。IT関連でみれば、ご指摘のとおり、分りよい側面をもっていますが、一般的な企業については、分りにくいと思います。
私自身、まだまだ、勉強不足なのかもしれませんが・・・。
今後、企業価値を高めるために努力している会社を探してゆきたいと思います。

投稿: TOMOYA | 2006年2月20日 (月) 13時06分

はじめまして。
「間違いだらけの株えらび」を購入し、
ここの存在を知りました。

以前、企業価値算定の勉強会に参加したのですが、
あの素晴らしい考え方を、
惜しみなく公開されており、非常に感動しました。

二極化の結果、
かえって金持ちが不幸せになるというのには同感です。
無邪気に子供が外で遊べない社会ほど
不幸な社会はないと思うからです。

ルールの抜け穴を探して、富を得る、
何でも適法か違法かで判断する、
そんな風潮が、今の状況を生み出しているのではないでしょうか。


古き良き日本の旧体制に戻る事は、断固反対ですが、
適切な情報を公開し、
それを元に適切な知識を身につけ、
その上で、日本人のもつ、
しっとりさ(ギスギスさの反対語です)を
取り戻せるように、日本人が変わる時期だと思います。

ちょっと御著書の感想が混じりましたが、
さっそくブックマークさせていただきました。

投稿: りょうま | 2006年3月 3日 (金) 09時39分

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