ジャンク債発行企業による超大型増資
企業が発行する社債に関して、どのくらい安全なのか、格付会社が格付けを付与することがあります。
例えば、スタンダード&プアーズ社の格付けは、大きく分けて次の通りです(もっと詳しい情報をお望みの方は『こちら』をご覧下さい。)
AAA
AA
A
BBB
以上の4ランクまでが一般に投資適格があるとされる格付けです。
(簡単に言えば、AAAはまず間違いなく社債は償還されるので、投資家の方は安心して社債を買って頂いて平気です。BBBでもリスクは高くなりますが、発行体が「債務を履行する能力は適切」というものです。)
さて、ここから下が、ジャンク債と言われる格付けです。S&P社の言葉を借りれば、「投機的要素が強い」という表現になります。
BB
B
CCC
CC
ちなみにS&Pによる日本国債の格付けは、上から2番目の AA です(厳密にはAA-/ポジティブ)。
さてジャンク債の中でも BB ならともかくとして、さすがに B となると、かなり投機的要素が強くなります。
S&Pが格付けを公表している日本企業(事業会社)(全部で245社あります)の中でも、Bの格付けのところは、そんなに多くありません。
と言いますか、よく調べてみますと、次の2社だけでした。
日本航空
日本航空インターナショナル
さて、この日本航空について、本日の朝日新聞で町田徹氏がコラム記事を書いています(以下、少しだけ引用します)
(日本航空の)『有価証券報告書にも疑惑が満載だ。自己資本は3月末で1480億円だが、退職金の積み立て不足が2731億円あり、実質的な債務超過にあたるとの疑念がある。・・・
航空機などのリース料(6127億円)は簿外処理だし、「航空券などに交換できるマイレージ・ポイントが計上不足」(ライバル会社)との疑いも濃い。』
ちなみに、この日本航空の監査をしたのは、新日本監査法人で、彼らは『(日航の会計処理は)適正である』との報告書を出しています。
ところで、上述の町田氏も問題としていた日本航空の増資です。
この点について、これまでの私のブログでも触れてきましたが、何が問題なのか、よく分からないという読者の方も多いと思います。
もう一度整理してみましょう。
◆ 引き受け主幹事証券サイドで、利益相反の懸念は無かったかどうかについては、8月3日付けの私のブログに書きました。
◆ 『増資決議の手続きに問題がある』として、日本航空の3名の社外監査役が日航の7月19日の取締役会に書面を提出した記事は『こちら』をご覧下さい。
(上記の日経ビジネスのWebサイトに載っているグラフ(↓)です。)
◆ そして、最大の疑惑は、やはり株主総会(6月28日)の2日後に、発行済み株式の38%(オーバーアロットメントを含むベース)にも及ぶ増資を決議したことでしょう。
会社の根幹を揺るがすような、これだけの大規模な増資は、株主総会後すぐに2日で決めらるような性質のものではなく、現実には、引き受け証券会社数社との事前の詳細なる検討が必要だった筈です。
だとしたら、株主総会では伏せておいて、その後の役員会で決めるというのは、違法ではないものの、株主軽視との批判が噴出するのも当然だと思います。
『十分な説明がなされていない』(安東俊夫・日本証券業協会長)、『納得がいかない』(西室泰三・東京証券取引所社長)といった批判に対して、
日本航空では、ホームページに、『新株発行に関するご質問』というセクションを作り、多くの批判に答えようとしています。
『どうして株主総会で説明しなかったのですか?』との問いに対して、日航のホームページでは、『株主総会の時点では、取締役会での決議がなされておらず、その段階で株主に説明するとインサイダー違反になる』との趣旨の説明がされていますが、答えになっていません。
すでに現実問題として(増資実行の方向性が)決まっていたのであれば、『どうして先に取締役会を開き、増資決議をした上で、株主総会で説明しなかったのか』というのが、質問の趣旨だからです。
日航の大株主はどう思っているのでしょうか。
3月末時点での日航の株主を見ますと、第6位に糸山英太郎氏の名前が見えます。
氏の所有する株式数は、40,100,000株。
これが、3月末308円から、221円(昨日)まで下落したのですから、実に 35億円の損失です。
糸山氏のホームページを覘いてみましょう。
『ここまでの増資を決めるならば取締役総退陣と引き替えであるべきだ。
姑息な手段を用いて既存株主に対する裏切り行為を行なった経営陣を許すことはできない。
経営陣は来春償還予定のCB(転換社債)の為だと開き直っている。
私は何年も前からこのHPでCBの償還に備えよと言ってきた。
しかしそれは公募増資でもなければ借り入れでもない、JALの株価を上げることだとい言ってきたはずだ。
このCBの転換価格440円を時価が上回ればすべて株式に転換されて、社債として償還する必要などなかったのだ。
兼子・新町両氏が私のところに経営報告に来た時に「株価440円」は何度も約束していったJALの絶対到達点だった。』
アメリカのビジネス・スクールでは、株価とか株式市場について、徹底的に教えています。
金儲けの為ばかりではありません。
株価とか株式市場が、資本主義の根幹を成すからです(『サバイバルとしての金融』に詳しく書きました)。
社会主義や共産主義の下では、国や政党が、資源配分を決めます。
昔のソ連のコルフォーズ、ソフォーズ、そして中国の人民公社、国営企業ですね。
一方で、資本主義の下では、株式市場が効率的に機能することにより、ヒト、モノ、カネの資源配分が適切になされていくのです。
日本航空の行った増資は、違法ではありません(すでに新株発行差し止めの仮処分申請が出され、東京地裁は却下しています。)
しかし資本主義の根幹を汚すことにも、繋がりかねない事案であり、大いに批判されるべきものだと思います。
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日航といえば、8/25(金)付けの夕刊フジでも叩かれていました。
記事の概要は、
「企業会計基準委員会が『リース取引に関する会計基準(案)(http://www.asb.or.jp/html/documents/exposure_draft/lease_55/lease_55.php
)』を公表し、ファイナンス・リース取引の会計処理を変更するための新基準を設け、飛行機や車両など、リースで調達した機械設備に対する会計基準を強化しようとしている。
関係者の声を総合すると、この試案が導入されると、ファイナンス・リース取引を活用している企業は、以下のような影響が出るので、リース業界と共に存亡の危機に立たされる。
(1)リース料の「損金」処理が廃止されると、リース料の全額が「損金」算入されるとは限らなくなるため、税負担が増す。
(2)リース資産がB/S上の「資産」として計上されれば、ROAが悪化するので格付けが下がり、資金調達が困難になる。
(3)会計処理が煩雑化する。
平成18年3月末現在、日航は航空機を278機保有しており、うち、ファイナンス・リースなどのリースで調達した航空機は91機である。この試案が導入されると、有利子負債が約2兆2千億円のJALは直撃を受けるであろう。」
というものです。
航空機、自動車、建設機械の会社、要チェックのようですね。。。
「株」といえば、僕は日本板硝子のみ残して、その他の銘柄は利食って整理しておきました。
どうも、近いうちに、日経平均暴落しそうかな?と心配になってきたので。。。
↓の記事によると、ソフトバンクも危ないみたいですよね。。。
http://www.zakzak.co.jp/top/2006_08/t2006082534.html
投稿: まさくん | 2006年8月26日 (土) 20時46分