利益相反
日本航空の増資について、投資家保護の観点から問題だと、あちらこちらで語られています。
『自信をもって(投資家に)購入を勧められない』(8月3日付け日経新聞)と言って、日興シティグループが土壇場で引き受けシ団から離脱するほどの疑問の多い増資案件でした。
ただ私は、今回の日航の増資についての最大の問題は、これほどの疑問の多い増資を、『利益相反を疑われかねないような状況下で』一部の金融機関が引き受け主幹事として引き受けたということだと思います。
これは本来であれば、実は、ホリエモン事件や村上ファンド事件にも匹敵する大問題にもなりうる事案だと私は思います。
日経金融新聞の8月1日号に、前田昌孝編集委員が書いている文を以下に、そのまま転載します。
ここで指摘されている金融機関(みずほ証券)は斯様な指摘に答える責務があると思います。
『・・・赤字企業の巨額増資というただでさえ難しい案件なのに、なぜみずほ証券が主幹事を務めたのか。
親会社のみずほコーポレイト銀行は日航に対して424億円の債権を持っている。その保全も念頭に置きながら証券子会社を通じて株式を発行させることは、証券取引法の精神に違反する。』
このブログをご覧になっている方々の中には、外資の投資銀行に勤めておられる方も多いと思います。
外資の投資銀行で証券の引き受け主幹事に入ることを決断する場合、ニューヨークやヨーロッパの本社の相当厳しいコミティー(コンプライアンス・コミティー、引き受けコミティーなど)のチェックを受けます。
仮に上記のみずほ証券のようなシチュエーションに外資の投資銀行が置かれていたとした場合、私の経験からすれば、まずコミティーの決裁を受けることは出来ません。(『投資家に疑われるような状況下に自らを置かない』というのが外資の投資銀行のスタンスです。)
金融に詳しくない読者の方々の為に、もう少し、説明してみましょう。
日本航空は最近時決算で、年に500億円近い赤字を挙げている問題会社です。過去4年間の数字でも赤字が2回。4年間の合計数字が黒字の期と赤字の期をプラス、マイナスさせると、差引で940億円の赤字。無配です。
こういった問題会社に対して、400億円を超える巨額な債権を保有してしまっているみずほフィナンシャル・グループとしては、当然のこととして、その債権保全に全力を上げようとします。(そうして欲しいと、みずほの株主も思っています。)
当然増資が成功裡に終われば、債権者にとって債権保全上、ずいぶん助かるということになります。
しかし、金融機関(証券会社)が、増資を引き受け、それを投資家に販売するという行為は、本来は、投資家の利益を考えて行われなければなりません。
ここに利益相反の問題が出てくるわけなのです。
問題会社に対し巨額の債権を有する債権者としての利益と、投資家のために株式を販売する証券会社としての利益は、真っ向から衝突します。
したがって、外資の投資銀行であれば、このような場合、『コンプライアンス上、問題あり』と判題して、少なくとも引き受け主幹事入りは見送ることにするわけです。
『投資家に疑われないようにする。自らをレプテイション・リスクにさらすわけにはいかない』と、投資銀行は判断するのです。
みずほのコンプライアンスは一体どうなっているのでしょうか。
単に軽率だったのでしょうか。
それとも、日経の前田編集委員が(それとなく上記の記事で)指摘しているように、もっと悪質で、実はみずほは確信犯だったのでしょうか。
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コメント
「日本航空」よりも「JAL」の方が、僕にとっては馴染み深いです。
「JET STREAM」のメインスポンサーとして、JALは知名度が高いですよね!
http://www.tfm.co.jp/jetstream/
「重いものが落ちるのは当たり前!」っていうのは重々承知なので、飛行機に乗るのは、僕にとっては大きな覚悟の要る行為です。
「もしも、落っこちたらコワイな!」と搭乗するたびに思うのですが、夜間のフライでは、都市の夜景の美しさに、ついつい、見とれてしまいます。
このように、乗客がフライトを楽しむことが出来るのも、旅客機のセキュリティ・チェックが万全であればこそですよね。
「JALの翼」として、慣れ親しんできた会社が、現在、「問題会社」として叩かれていることに寂しさと、一抹の不安を覚えます。
投稿: まさくん | 2006年8月 4日 (金) 21時36分
私自身地銀へ勤務しておりますが、日本の金融機関は依然古い体質のままです。
過剰ノルマは当たり前、顧客利益よりも名目としての自社成績を伸ばすことが正義とされています。
実際に何が誰のための利益となるのか、経営者は「商売」をしている以上真剣に考えなくてはならないと思います。
日本航空の件についても、信用失墜の本位を分かってくれる日本の金融機関は少ないのではないでしょうか。
投稿: ponpon | 2006年8月 8日 (火) 04時56分
数年前、お仕事でいろいろとお世話になった(というかご迷惑をかけてばかりいた?)Sと申します。BLOG、毎回楽しみにしています!
自分が思っていた以上に岩崎さんは倫理観が高いこと(もちろん初対面で誠実な方だということはわかっていたのですが)、そして意外だったのですが自動車に興味を持っておられたこと、など新しい発見もありました。
さて、JALについてコメントさせてください。
同社の不誠実な増資案件については岩崎さんに100%同意します。 市場をバカにしていますね。 業績悪化、役員間の権力闘争、そし度重なる飛行機のトラブル・・・市場を見下している企業はお客と従業員をも粗末に扱っているいるのではないかと疑念をいだかざるを得ません。
私事で恐縮ですが、実は先月JAL国際便でちょっとした事故に遭遇しまいました。 乱気流で機体が急降下し、何人かの乗客が宙に舞い、同じく宙に舞った食事運搬の台車(あの重たい箱!)が座っていた私の肩に落下したのです。
幸い少量の出血と打撲で済み、JALからは期待していなかったのですが、多額の見舞金(!)も頂戴してしまいました。
その一方で搭乗便の機長、添乗員、グラウンド・クルー(というのでしたっけ?)の対応に憤りを感じた点がいくつかあります。 安全面で基礎的なミスもいくつか犯しているため、万が一大きな事故が起きてしまっていたら、と考えると一抹の不安を覚えます。 あと彼らの英語力、なんとかならないですかね。
いずれにしてもいろいろな意味でJALはヤバイ、ということを改めて認識したフライトでした。
「御巣鷹山」、「逆噴射」など、これまで自社の責めで千人以上もの乗客の命を奪ってきた企業です。
特に不祥事が多い昨今ではこのままでは大惨事が起きてしまいそうでとても危惧しております。 他にケガをした乗客も軽傷で済んだご様子ですし、特定の従業員をここでつるし上げる気は毛頭ありません。 ただ、悲惨な事故が起きないために自分に何ができるか、あの事故以来自問自答しております。
投稿: 幸村 | 2006年8月 9日 (水) 22時41分