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2007年3月15日 (木)

足で書く調書

興銀の審査部に5年間在籍していた時、私は全部で80社くらいの会社(プロジェクト会社を含む)を審査しました。

当時(1987年~1991年)の興銀の審査部では、審査担当者が対象会社(プロジェクト)のことを一ヶ月位かけて徹底的に調べ上げます。

こうした審査の結果、審査担当者がイエスの結論を出せば、営業部店は審査対象会社に貸出を行えるようになりますし、ノーの結論であれば、会社に対しての貸出は難しくなります。

いわば企業の命運を決めることにもなるだけに責任は重大で、余りの重圧の為、審査担当者が社宅のベランダから夜、突然、紙飛行機を幾つも、幾つも、飛ばし始めたとか、あるいは、ある日、突然、審査担当者が会社の人事部幹部に直通電話を入れ、英語で話し始めたとか、本当かどうかは分かりませんが、審査部ではいろいろな逸話が語り継がれていました。

ところで実際に審査を行うに際しては、一つ一つの事実の積み上げ、分析が重要ですが、ある程度、審査という仕事に慣れてきますと、『会社の空気』というものを感じることが出来るようになります。

ある医者が『患者が診察室に入って来た時に、その患者の顔色や喋り方で、患者がどの位、重い病気にかかっているのかを判断する材料の一つにする』と言っていましたが、これに通じるところがあります。

良い会社では、工場や会社の執務室に入った瞬間に、ピンとピアノ線を張ったような緊張感が伝わってきます。一方、駄目な会社からはそういった緊張感や従業員の方々の覇気が伝わってきません。

興銀の審査部では『調書は足で書け』と教えられてきましたが、数字ばかり見ていないで現場に足を運びますと、その数字の裏にある『現実』が見えてきます。そして『現場の空気』を肌で感じることが出来るようになります。

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コメント

岩崎先生、こんばんわ。

普通の会社員にとって身近な「調書」は、TDBの信用調査報告書だと思います。

この信用調査報告書の精度が実際に、いかほどのものか、実は僕には良く分からないのですが、大抵の場合、この記述をベースにして取引の可否を決裁しているケースが多いと思います。

僕は興銀の審査部の書いた調書を読んだことは無いのですが、調書が「商品」ではないので、かなりシビアな内容なのだと思います。

>いわば企業の命運を決める

命が絶たれるかもしれない、当該の企業に所属する「家計全体」のことを思うと、心の優しい担当者ほど葛藤するのでしょうね。

「逸話」が、まことしやかに語り伝えられるのは、裏返すと、実情に全くそぐわない、頭デッカチな調書は作成しまいという、当時の興銀審査部の心意気を彷彿させるかのようです。

投稿: まさくん | 2007年3月17日 (土) 00時25分

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