杞憂か (EPS Dilutive なディールをどう見るか)
杞憂とは、『昔、中国の杞の国の人が天地が崩れて落ちていくのを憂えた』という故事に基づく言葉です。
広辞苑によりますと、将来のことについてあれこれと無用の心配をすること。杞人の憂い。
三角合併について、いろいろ騒がれてきましたが、実は、杞憂と思われるものも少なくありません。
これを説明する前に、まず、『三角合併とは何ぞや?』について簡単に説明しましょう。
日本の英字新聞を読みますと、時折、 triangle mergers なる言葉が出てきますが、これだけでは通じにくいのでしょう。英字紙では、クォーテーション・マークを付けて、この言葉を紹介し、必ず次に説明書きを付けています。
確かに triangle mergers というのは、海外では余り使われていない言葉のように思えます。
ただここ一ヶ月くらいの間、日本のマスコミを随分と賑わせてきた言葉でした。
一言で言うと、三角合併とは、『海外企業との間で株式交換を使って合併すること』 を言います。
なぜ三角なのか?
たとえば、海外の会社が日本企業との間で合併する場合、海外の会社の在日子会社を(日本企業の)直接の合併相手とするため、この関係を絵に描くと三角形のように図示されるからのようです。
ところで、三角合併については
①日本企業が吸収合併される場合、株主総会の同意が必要だとか
②Flow-back(海外企業の株をもらった日本企業の株主がこの海外企業の株をマーケットで売ること)の問題があるといった理由で、
『余り使われないだろう』とか、特に、『敵対的買収には使われないだろう』 といったことが言われています。(このほかに税の問題もよく取り上げられています。)
ただもっと基本的な問題として、例えば日本企業を米国企業が株式交換で買収する場合、
殆どのディールが、EPS Dilutive になってしまうといった、より本質的な問題があります。
(これは多くの場合、日本企業の一株当たりの収益性を株価で割ったもの(EPS÷Price per Share)が米国企業に比して小さいといった事情によります。)
やはり買収する方としては、EPS Accretive な方 (買収側のEPSを上昇させる企業買収)が、(買収する側の)株主に対して説得しやすいというわけです。
この辺は、ファイナンスをかじったことのない方には少し理解しづらいかもしれません(すみません)。
私が書いた『投資銀行』という本の90頁 『GEはなぜソニーを買収しないか』というタイトルの下に、この辺を論じていますので、ご関心のある方はご覧になってみて下さい。
いずれにしても三角合併を巡る議論で、外資がどんどん日本企業を買収するというのは、こと相手が米国企業の場合には、杞憂である可能性が高いと思います。
もっともこれが、時価総額が高くて、しかも、必ずしも米国的な考え方に捉われないインドや韓国をオリジンとする会社だったらどうでしょうか?
(『全てのM&Aは実は、経営者の野心から発していて、株価に関する理論は投資銀行が後付で行っているに過ぎない』と言った米国の投資銀行家がいました。)
(また現実の世界ではEPS Accretive なディールだけでなく、EPS Dilutive なディールも行われていますし、
『EPS Dilutive なディールを行った企業の方が、一般的に信じられている理論に反して、実は、後で株価を上げている』といった実証研究も米国では発表されています。)
更にまた、規模による利益の拡大の効果が、一時的な EPS のDilution を打ち消して、なおかつ余りあるメリット(EPS増の効果)があると見通せるとしたらどうでしょうか。
(昨晩のNHKスペシャル『敵対的買収を防げ。新日鉄トップの決断』をご覧になった方も多いかと思います。)
ちなみにArcelor Mittal の時価総額は今や約10兆円(新日鉄は6兆円)、サムスン電子の時価総額は約11兆円(日立3兆、ソニー6兆)です。
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