スティール対ブルドック問題の本質
スティール・パートナーズ対ブルドックソースの攻防。
連日のように新聞紙上を賑わしています。
スティール・パートナーズがブルドックソースの株式を保有していることが最初に判明したのが、2002年12月。その直前のブルドックの株価はほぼ600円。
株式市場は、ブルドックソースの企業価値(ここでは簡略化のため、株主価値=企業価値と置きます。後述するようにブルドックの借入金は殆どありませんので、本件では株主価値=企業価値と置いても特段の問題はありません)を、
600円×19百万株(ブルドックの株数)=114億円
とみていた訳です。
ブルドックの営業利益や経常利益は9~10億円のレベルであったので、DCF (Discounted Cash Flow) で算出しても (あるいは超簡便法で年間の営業利益の10倍という方法をとっても)、まあ、株式市場は、それなりに妥当にブルドックの企業価値を把握していたのだと思います。
一口で言えば、年間9~10億円を稼ぎ出す会社ということです。
ところが、スティール・パートナーズはここで、ブルドックの損益計算書ではなく貸借対照表の方に着目したわけです。
『何やってんだ!この会社は!』
スティール・パートナーズのリヒテンシュタイン氏はおそらく、こう叫んだのではないでしょうか。
2002年3月末のブルドックは、現預金21億円、投資有価証券66億円を保有。合計で、87億円。
一方、借入金はゼロでした。
114億円の企業価値のうち、現預金・有価証券が87億円を占めている。
要は、これだけの資金が無駄にされていて、収益にあまり結び付いていない。
非常に効率の悪い経営をしていたわけです。
(ファイナンスの理論に従えば、資産は収益を生み出す為のコストです。ブルドックの場合、コストを使って、それに見合う収益を生み出していなかったわけです。)
ということで、経営のやり方さえ変えれば株価は上がる筈だと、スティール・パートナーズは考えたのだと思います。
(実際に計算してみれば分かることですが、現預金・有価証券:87億円のうち、57億円を使って、ブルドックが自己株購入・消却にあてれば、収益はほぼそのままで、株数は約半分になるので株価は約2倍に上がります)。
スティールがブルドックの株式を買っているのが判明すると、スティールが目をつけたのと同じことに株式市場も次第に気づくようになります。
そして、ブルドックの株価は、このことを確認するように上がっていきます。(この間、ブルドックの収益はさほどは変化しません。)
そして株価は当時の倍を超える1340円前後まで上昇(今回のTOB直前の1ヶ月間の平均株価)。
この段階で、スティールが18%のプレミアムをのせて、TOBを行うことを発表したという次第です。
もうお分かりですね。
スティールがやったことはファイナンスの教科書通りのことです。
株式市場も教科書通りの反応をしてフォローしてきました。
この問題の本質は、ファイナンスの理論と違った経営を、これまで取ってきたブルドックの経営陣の方にある訳で、多額な現預金と有価証券を抱えながら、これを収益に活かしてこなかった(収益に結び付けてこなかった)。
これが第一の問題です。
次に第二の問題点。
ブルドックの経営陣が行ってきた(あるいは行ってこなかった)資金調達の方法も、ファイナンスの理論に反するものでした。
以下、もう少し、この第二の点につき説明します。
企業価値とは、企業が生み出すキャッシュフローの現在から将来にわたる『総和』(全て足していったもの)です。
このキャッシュフローを生み出す為に、企業は負債と株式の双方を使って、資金を調達します。
この場合、負債と株式とでは、負債の方がコストが安い(詳しくは拙著『サバイバルとしての金融』参照)のですが、安いからと言って、際限無く、負債の比率を高めていくと、倒産確率が高くなり、やがては企業価値を毀損させてしまうことになります。
すなわち企業価値を極大化させるような負債比率がおのずと存在するわけです(『サバイバルとしての金融』参照)。
ブルドックの経営陣は、こうしたファイナンスの理論に反して、コストの安い負債は一切利用せずして、コストの高い株式のみに依存して資金を調達してきたのです。(別言すれば株式市場から必要以上に資金を集めすぎてしまった。)
こうして、ファイナンスの理論に反する経営を行い、必要も無い資金を高コストの株式市場で集めすぎてしまったからこそ、ブルドックは株式市場が期待する収益を上げることが出来ないでいた。
ゆえにブルドックの株価は、本来達成されるべき価値である一株1500~1700円のレベルに達せず、600円のレベルで低迷していたのです。
ブルドックの経営陣は、本来であれば、こうした点を指摘してくれ、株価を旧来の600円から現在の1600円のレベルにまで押し上げてくれた当社の筆頭株主(議決権ベースで約11%保有)であるスティールに感謝すべきなのでしょうが、何を勘違いしたのか、よく訳の分からない買収防衛策を発表。
これについては、昨日の日経金融新聞と14日の日経新聞などに批判する記事が出ていますので、ここでは敢えて触れません。
ただ例えて言うと、こういうことですね。
例えば民主国家で、現政権(=現経営者)である自民党を支持しないという理由で、あなたの一票が、自民党を支持する人に比べて差別されて扱われたらどうでしょうか。
『なんだ、そんな良い方法があるのか。』と、参議院選挙を控えた安倍晋三首相が、ブルドックのアドバイザーになった野村證券と西村・ときわ法律事務所を、自民党のアドバイザーに雇うかもしれません。
冗談はさておき、スティールが主張している『株主平等主義』というのは、当たり前のことだといえます。
経営者の方々は、敵対的買収を防ぎたいのであれば、事前警告型だとか、種々の買収防衛策を弄するよりも、まず第一に、ファイナンスの理論を学ぶことを行うべきです。
(2~3時間、机に座って本を読めば出来ることです。)
かつて『WACCって何のことですか』と質問する、ある日本の経営者の方がいました。
アメリカでは、上場企業の経営者たちが機関投資家を招いて事業説明会を開催するようなことをよく行っています。(例えば Semiconductor Conference には半導体関係の企業のCEOの方々が殆ど参加します。)
私は、こうした会議に何度も出席して、数多くのアメリカ企業のCEOたちが事業見通しや経営戦略を語るのを聞いてきましたが、少なくともWACCとは何のことか分からない経営者は一人もいませんでした。
経営者がファイナンスの考え方の基礎となるWACCを理解するだけでも、多くの企業は敵対的買収から身を守ることが出来ます(WACCを忘れた方は、拙著『サバイバルとしての金融』を参照)。
少なくとも今回のブルドックはこのことがピタリと当てはまるケースでした。
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コメント
外資のファンドが「ハゲタカ」ではない理由。
手に入れた「肉」は生では食べず、ソースをかける。
(ブルドックが欲しかった)
さらに。
手に入れた「肉」は手づかみでは食べず、ナイフで切り分ける。
(鋸製造の最大手にTOBをかけた)
投稿: 神保町 | 2007年6月19日 (火) 10時19分
ブルドックの経営陣は確かに脇が甘かったですね。
ですがブルドックソースの味に惚れた人たちが株主になる。 そんな株主に応えるためにブルドックは優れたソースを作り続ける。 ものづくりだけに専念し、その製品に惚れた人だけが株主になる。 そんなパブリック企業があっちゃいけないでしょうか。 アクティビストが支配できたとしても永続的に年間10億円のキャッシュフローを維持できるのでしょうか。 そもそもブルドックの取引銀行はこういったリスクを事前に指摘しなかったのでしょうか。 ファイナンスの理論だけでは通用しない市場の秩序というものが必要と思います。 Leave them aloneです。
投稿: もの作り推進委員 | 2007年6月20日 (水) 11時27分
はじめて投稿いたします。
長期株式投資を始めてまだ約8ヶ月になる若輩者なのですが、先生の「世界一受けたい株の授業」を購入以来、先生ご推薦の「王道株」投資を実践し、ここに来て年率15パーセントの運用成績を達成いたしました。
そして、先生ご指導通りに、毎年余剰資金から同額を同一の王道株に投資していく方針でおります。
しかし、ひとつ悩んでいることがあります。
それは、①年率15パーセントを達成したら一旦利益を確定するために売却し、その後買い場を探って、その時機が到来したら、初期投資分と売却益と追加資金とを遣って同一の王道株を再購入すべきなのか、それとも、②いくら目標年率を達成しても利益確定売りなどせず、適当な買い場で、追加資金のみで買い増しをすべきなのか、ということです(「6.複利の魔術と株式投資」を読む度にどうすればよいものかと悩んでおります。)。
今回のエントリーとは全く関係ないので非常に恐縮いたしましたが、どうか何卒ご教授をよろしくお願いいたします。
投稿: しんしん | 2007年6月20日 (水) 14時48分
年率15%とは凄いですね。
最近、ある雑誌社から寄稿を依頼され、私は、『読者の方は、がんばって若干高めに目標を設定し年率10%くらいを目ざして株式投資を考えたらどうでしょうか』と書きました。
さてご質問にお答えします。
①の問題点は、再購入しようとする時、自分が売った(利益確定した)値段より、高くなってしまっている可能性が高いということです。
私自身は②の方法を取っています。
したがってトヨタが今年2月に8,350円をつけた時も、売らずに持っていました。
結果論からすれば、あの時、売って、その後、4月に7,080円になった時に買い戻した方が良かったのは確かです。
しかし、私はトレーダーではありません。
今でもトヨタは何れは10,000円を超えると考えており、何もせずに持ち続けています。
ではいつ売るのか?
(a)トヨタの企業風土が変化した時 (驕りが感じられるようになった時、 官僚的になった時、 マーケットを無視して独善的になった時)、(b)新時代への自動車開発(ハイブリット、ディーゼル、燃料電池)で他社より遅れを取った時、(c)予想される決算内容が大きく後退した時などです。
こういった兆候を早く摑むべく、アナリスト・レポートやプレス・リリースには目を通しています。
投稿: 岩崎 | 2007年6月20日 (水) 16時31分
早々にご回答を本当にありがとうございます。
実は年率15パーセントオーバーを達成しましたのは、つい最近の日経平均上昇開始時でして、2月後半の年初来高値をつけた時点では、5パーセント未満でした。
「本当に大丈夫なのかな・・・」と一抹も二抹も不安に駆られていたのですが、そこはぐっと我慢をして耐えておりました(笑)。
そして、あのいわゆる上海発世界同時株安らしい時には、含み損を抱える始末。
もう心が折れそうでした(愚妻からは「だから売ればって言ったのにね。」と責められました(苦笑)。)。
しかし、何のための長期投資なのか、明確な目標がある以上、ここで引き下がれません(なんか根性で投資をしているようで恐縮です。)。
現在、何とか安定して大崩もすることなく、なんとか大台をキープするようになりまして、しみじみ「先生を信じてよかった」と心から思っております。
そして、幾度かの投げ売りの精神的圧力を感じる折には、また、投資上の迷いが生じたり、気持ちが萎えたりした時には、先生のあとがきの、「『自分の原点を見失わ』ず、『自然体』で市場に向き合う」と「投資とは、人類のより豊かな世界を作りたいという向上心を信じることだ」という二つの言葉を反芻咀嚼しております。
今回勇気を出して先生に疑問を素直に投げかけて、本当に良かったと思っており、それに対してご丁寧に回答いただいたことを本当に感謝いたします。
これで100パーセント私の投資法が確立いたしました。
今後は何ら迷いは生じることはないでしょう。
心より御礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
投稿: しんしん | 2007年6月20日 (水) 18時04分
初めまして。金融業界を志す学生です。24日の株主総会でブルドックの買収防衛策が圧倒的多数の支持で可決されましたが、そのような日本の株主に関してはいかがな印象をもたれますか??
また、そのような対応に金融マンやコメンテーターは『「日本市場には障壁がある」と見られ、日本から資金が流出してしまう』と言っていますが、金融の教科書通りではない、日本独自のマーケットの発展の道は存在しないのでしょうか??(敵対的買収を封じるなど)
気が向きましたらお答えいただけると、光栄です。
投稿: 学生 | 2007年7月 6日 (金) 15時41分
3つに分けて私の考えるところを書きます。
① ブルドッグの株主総会で株主が買収防衛策を可決したことについて
『株主が株主としての立場でそう判断した』ということであって、それ以上でも、それ以下でも無いと思います。
スティールは、自分たちの意見を株主にきちんと伝えきれなかった(説得しきれなかった)。
これは、一種の戦いの場であり、ブルドック経営陣、スティールが、公平な場で戦い、スティールが敗れた。
スティールの力不足です。
② 裁判所の判断について
私は、株主平等の原則を尊重すべきと考えており、もし私が裁判官であれば、7対3位の割合で、スティールの言い分を認めたと思いますが、東京地裁はそう判断しませんでした。
新聞に判決文のかなり詳しいところまで載っており、読んでみましたが、『スティールの Exit 戦略が明らかでなく、他の株主にとって、その辺が問題視されうるのも理解できる』といったような趣旨のことが書かれていたと記憶しています。
確かに、そういった指摘は成り立ちうると思います。
かといって、(そういった点を理由に)株主平等の原則に反していいとは結論出来ないと思うのですが。。。
③ 日本市場に障壁があると見られ、日本から資金が流出していってしまうか。
そんなことはありません。極論すれば、障壁があろうと無かろうと、要は、投資家は、儲けさせてもらえれば良いのであり、日本への投資が儲かると思えば、資金は流入し、儲からないと思えば、資金は逃げていきます。
たとえば、日本の自動車産業には、トヨタ、ホンダ、スズキなど国際的に競争力のある企業が多いと思います。
なぜか。
私は、(競争力の源泉として挙げられ得る)一つのポイントは、経営者がある意味で労働者のことを尊敬していることにあると思います。(GM、FORD、クライスラーの経営者は、トヨタの経営者に比較して、労働者のことを尊敬する気持ちに欠けるように思うのです。これは、アメリカ、ドイツ、イタリアといった3つの国の自動車メーカーに勤務した経験のあるカーデザイナーの奥山氏の感想でもあります。)
日本企業が世界の中で競争力を持ち、勝ち進んでいけば、海外の投資家は自ずと、そういった企業に資金を投下したいと思うようになります。
もっとも、そういった『経営力のレベルの高い企業』が、敵対的に買収される恐れは殆ど無く、買収防衛策など本来必要ないのですが。。。
スティールは、単に『経営力のレベル』といった点で、『改善できる余地のある企業』を探して投資しているだけです。
投稿: 岩崎 | 2007年7月 7日 (土) 00時37分
お礼申し上げるのが遅くなりました。丁寧なご解答ありがとうございました。
投稿: 学生 | 2007年7月11日 (水) 22時05分
米のサブプライムローン問題について調べていたら、ここにたどりつきました。
ブルドッグの株主総会で買収防衛策を可決したことについてですが、
そもそも買収防衛策に圧倒的多数が賛成するまでもなく、その圧倒的多数の株主がTOBに応じなければ
よいのでは?
間違ってますか?
投稿: SAKU | 2007年7月14日 (土) 22時36分
SAKU様
仰るとおりですが、ブルドック経営陣はスティールに11%の株式を握られているのが嫌で、何とかしてこの数字を低下させたかったんだと思います。また圧倒的多数がTOBに応じないという確証を持てなかったのかもしれません。
投稿: 岩崎 | 2007年7月15日 (日) 00時24分
そうですね、まったく仰るとおりです。特に、「経営者の方々は、敵対的買収を防ぎたいのであれば、事前警告型だとか、種々の買収防衛策を弄するよりも、まず第一に、ファイナンスの理論を学ぶことを行うべきです。」の下りは、全くその通りだと思います。
私は大手事務所に勤務する弁護士の端くれですが、こんな不合理なことを平気でやる経営陣のアシストなんかしたくないですね。私はM&Aをやっていないので、部外者として呆れながら見ているだけで済みますが、実際にこの手の仕事を担当することになったら、情けない気持ちになると思います。
ところで、ブルドッグがスティールから新株予約権(予約権の行使により発行される新株でしょうか?)を買い取る価格が23億円と報じられていますが、この価格はいつの時点の株価(及びボラティリティ)を基準に算定したものなのでしょうか?発行要項をみていないので、スキームが分かりませんが、要するに今回の「防衛策」は、本質的には株式分割を行い、スティールに割り当てる新株のみを会社が強制的に買入消却する、ということだと思います。そうだとすると、持ち株比率が下がろうが、スティールにとって有利な価格で株を引き取ってもらえれば、スティールとしては勝ち、ということになるのではないでしょうかね。ま、千日手になるという「解説」をしている新聞もあるようですが、やっていることは自社株の強制買入消却ですから、おのずと限度があり、先に音を上げるのは当然ブルドッグでしょうね。
投稿: | 2007年7月16日 (月) 04時18分
補足ですが、株式分割は株の最低取引単位を引き下げる以外には経済実態としては特に意味のない、見せ掛けだけの行為ですね。そうすると、煎じ詰めれば、今回の一連の買収防衛策というのは、「スティールパートナーズが保有する株式の大部分を発行体であるブルドッグが一方的に買い取る行為」以外の何物でもないでしょう。
そう考えれば、あれこれ議論するまでもなく、これは違法に他ならないということになります。
もっとも、違法だとしても、それでスティールが損をするかどうかは別問題です。要は買取価格がスティールとして満足がいく金額であるかどうかということに尽きます。買取価格が適正でありさえすれば、スティールとしては裁判所で「負け」たところで、実はその目的を完全に達しているということになるでしょう。今回の防衛策は自社株消却ですから、自己資本と負債の比率の是正を求めているに過ぎないスティールの要求を完全に満たす行為ということになります(もちろん、ブルドッグがdebtで資金調達を行うという前提ですが)。
ブルドッグのアドバイザーは野村で、彼らはもちろん馬鹿ではありませんから、スティールの求めていることがよく分かっているでしょう。今回の防衛策は子供騙しのようなものですが、買取価格をスティールが満足できる価格に設定しておけば、スティールは立ち去りますから、野村としてはアホなブルドッグのおばちゃんに「当社がご提案申し上げた買収策が首尾よく功を奏し、ハゲタカファンドははるか海の彼方の本国へ敗走しました。おめでとうございます」などと言えるわけで、それで今後ともブルドッグからいろいろな案件を貰えるのでしょう。
結局、今回の一連の騒動は、ファイナンスのfの字も知らないアホな経営者が経営している小さな会社に、ファイナンスの教科書の定石どおり資本比率の是正を求めるファンドがやって来て、事の本質が理解している野村が子供騙しのようなスキームをアホな経営者に売り込み、ファンドに対しては高い買取価格を提示して満足させつつ、会社からは高額のfeeとアホな経営者の盲目的信頼をgetして将来の案件獲得を確実なものにした、というだけのことに思えます。
今後ハッスルしまくった法律学者やら弁護士やらが、ごちゃごちゃ論稿を発表すると思いますが、まったく滑稽な話です。事の本質は、ブルドッグがスティールの保有株を一方的に買い取った、というだけのことですから。
投稿: | 2007年7月16日 (月) 05時24分
ブルドックの買収防衛策は、スティールを含む全株主に1株当たり、3株分の新株発行予約権を付与するというものです。よって、(この部分だけを取り出して考えれば)株数(潜在的なもの)は4倍になり、株価は理論的には4分の1になります。
ここから先が少しややこしくなります。すなわち、この買収防衛策では、スティールのみについては、新株発行予約権を1株あたり396円で買い取るというものです。
この396円という値段は既にいろいろな場で報じられている(6月14日に保田さんhttp://wkwk.tv/chou/
がBusiness Media誠に掲載した記事など)ように、
スティールのTOB価格1584円を4で割ったものに等しく設定されています。
つまり、スティールがTOBで買い取りたいという値段、そのもので、ブルドックはスティールの持分の4分の3の株式を買い取るわけです。
まともに考えれば、スティール以外の他のブルドックの株主は、ブルドックの経営陣に対して怒ると思います(グリーンメーラーから経営陣が株を引き取ることと、本件との本質的な違いはどこにあるのかとの疑問を持った株主も多かったのではないかと思われます)が、
どういうわけか株主は圧倒的多数でブルドックの経営陣を支持しました。
来年の今頃のブルドックの経営状況と株価を見れば、何が正しくて誰が間違っていたのか、自ずと結果が出ていると思います。
投稿: 岩崎 | 2007年7月16日 (月) 08時22分
うわー、1584÷4ですか。あからさまですね。思わず真面目にBS式のことを考えてしまった自分の姿が笑えます。
今回の例は、法形式と経済的実質との間の差という、古くて新しい問題の一例ですね。substance over formで考えれば、「スティールの持ち株の4分の3をスティールのTOB価格で買い取り、しかも他の株主からは一切買い取らない」ということですが、今回のように猫騙しの新株予約権を絡ませた「防衛策」に仕立てた場合と、straight forwardに特定株主のみからの強制自社株買いをした場合との法規制の異同の比較については、暇な法律家に任せておきましょう(笑)。
法形式に着目すると、スティールという特定の株主だけが新株の割当てを受けられず不利益を蒙っているように見える一方、特定株主のみからの自社株買いに過ぎないという実質を踏まえれば、イメージはがらりと一変し、スティール以外の株主は会社の自社株買いに応じる機会が与えられない一方スティールのみは会社から株を買い取ってもらえる、ということになるわけですね。コロンブスの卵みたいな話で、冗談としては面白いですが、真面目な現実社会でこういうことがまかり通るのが、我が日本の摩訶不思議なところだと思います。
岩崎さん、今後とも是非興味深い記事をお書き下さい。楽しみにしています。
投稿: | 2007年7月16日 (月) 12時42分