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2007年10月29日 (月)

MSオプション(その2)

10月23日の記事の続きです。

MSオプションを購入した投資家は、これを発行した企業に対して(例えば)株価400円で(例えば)1千万株の新株を発行させてこれを引き受けることが出来る『選択権』を手に入れることが出来ます。

この会社の株価が500円ならばオプションを購入した投資家は:

(500-400)×1千万株=10億円の儲け。

株価が300円ならばオプションは行使されません。

選択権ですから、オプションを行使するかしないかは、オプションを購入した投資家の自由です。

更にここで言う MSオプション とは、Moving Strike Option のこと。 上の例で言うと行使価額である『株価400円』という価額自体が動いていってしまうタイプのオプションのことでした。

ここまでが前回の復習。

ところで行使価額が『動いていってしまう』ってどういうことでしょう。

前回の松坂投手の例で、ストライク・ゾーンが動いてしまうと説明したところです。

例えば、『過去1ヵ月間の最低価格(株価)の110%を行使価額とする』といった具合に決めるのです。

(この辺は、『3日間の平均株価の90%とする』といった具合にいろいろな決め方があります。)

そうすると上記の例で言う400円という行使価額は、このオプションを発行した企業の株価が動くに従って、動いていってしまうのです。

ここまで読んできて、読者の方の中にはMSCBを思い出した方もあるかもしれません。

ホリエモン率いるライブドアがリーマンブラザーズを引き受け先として発行した転換社債です。

これとMSオプションとの違いは何でしょう。

実は違いはあまり無く、MSオプションに社債をくっつけたのがMSCBなのです。

MSオプションは、この外にいろいろな使われ方をしていて、最近時の私の『小説』の中にも少しだけ出てきますが、ECL (Equity Commitment Line) もMSオプションの一変形です。

そのほかにもいろいろな金融商品の名前になって登場しますが、要は、オプションの行使価額が動くことに特徴があります。

MSCBについては、その商品性について一時ニッポン放送やフジテレビサイドがこれを批判し話題になりました(しかしフジテレビ自身が、実はライブドアがMSCBで資金調達を行なう少し前に、大和證券を相手に同じようなMSCBを出していたことが分かり、これまた話題になったりしました。)

最後に重要なポイントを一つ。

MSCBであろうと、ECLであろうと、MSオプションで資金調達を図る企業には、極めて大雑把に言うことを許してもらえれば、2通りの企業があるということです。

① 資金使途がポジティブで明確な企業(例えば日本板硝子がピルキントン買収資金調達の為にMSオプションを利用しました)と、② 赤字資金補填の為にMSオプションを利用する企業です。

これは私の著書『サバイバルとしての金融』の中でも触れましたが、前者①の場合にはMSオプションの利用に然程の弊害は見受けられませんが、後者②は株価をスパイラル的に下げてしまうリスクがあります。

MSオプションを利用する赤字企業の中には、『MSCBはジャスダックで指導が入るなどいろいろ問題があるようだが、ECLは行使価額に下限が設定されているなどの理由からして株価下落のリスクが小さい』などと説明しているところもあります。

例えば10月21日付けブログの記事で説明したA社。株価をピーク時の0.59%に下落(1万円が59円になる)させたA社がECLを行なった時にこれと似たような説明を投資家に対してしていました。

しかし下限が設定されているがゆえに、第1回のECLで資金が調達できずに、2回、3回と下限価額を修正しながらECLの再設定を繰り返していく企業も少なくありません(結果として株価はスパイラル的に下落します。)

NOVAの例は、Moving Strike タイプではありませんでしたが、いずれにしても、赤字資金の補填の為に、オプションを利用して新株を発行するというのは、血を垂れ流す瀕死の患者にモルヒネやカフェインを投与するのと似たような面もあることに留意しなければいけません。

企業が赤字で瀕死の状態にある場合は、何でそうなったのか原因を明らかにしてその根本原因を治療することをしないことには、企業は本当の意味では再生していきません。

人間でも企業でも病人の治療には似たようなところがあります。

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