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2007年10月23日 (火)

MSオプション

MSオプションのMSは、

Moving Strike (ムービング・ストライク)の略です。

これは 『どういうことか』 と言いますと、ストライクが動いてしまうこと。

だから、Moving Strike (ムービング・ストライク)なのです。

松坂大輔投手が米大リーグで投球していて、投げているうちにストライクゾーンが、あれよあれよと動いてしまう。

大リーグでは、実際にはそんなことはないでしょうが、まあ、仮にそういったようなことが起こりうるとしての、Moving Strike です。(後でもう少し説明します。)

一方で、オプション。

あなたが新車を買いにトヨタのディーラーに行くとします。

『このクルマは、AM/FM ラジオは標準装備ですが、カーナビはオプションです』

と言われます。

カーナビを、『付けるか、付けないか』 の 『選択権』 は、あなたにある訳です。

さて、ここまで述べた上で、株の話に置き換えます。

ある企業(A社とします)が投資銀行を相手に、選択権を与えます。これがオプションです。

投資銀行は、この選択権をA社からタダで貰うわけにはいきませんから、その代金をA社に支払います。(カーナビの例では、カーナビが付いても付かなくても、どちらの仕様にでも対応出来るようになっている分、すなわち消費者がこの選択権を持っている場合、実は新車価格はその分、若干上乗せされています。)

さてそれでは、投資銀行はどんな選択権を手に入れるのでしょうか。

今、問題にしているMSオプションの場合。

この選択権とは、A社に新しく株式を発行させて、これをこの投資銀行が引き受ける(購入する)という選択権です。

選択権ですから、これを行使するかどうかは、この投資銀行の勝手です。(新車を買う時にカーナビを付けるか付けないかを決めるのは消費者のあなたであるのと同じです。)

そして選択権は、これを行使しなければ、その選択権を購入する為に払った金は無駄になります(払い損です)。

ちょっと待って下さい。

カーナビを付けるか、付けないかという、その『選択権』。カーナビが幾らかにもよりますよね。

3,000円のカーナビなら付けてもいいけど、50万円なら遠慮しますよね。

それと同様に、今、A社の株価が500円だとして、仮に、A社に対して株価400円で新しく株式を発行させてこれを引き受ける権利を投資銀行が取得するとした場合、投資銀行は喜んでこれを実行に移しますよね(もし株価が500円のままで 『変わらなければ』 の話ですが・・)。

なぜならば、投資銀行は400円で選択権を行使して(この400円を『行使価格』と言います)((注)より厳密には行使価額と言う)、A社に株を新しく400円で発行させます。

そうして、この投資銀行がこれを引き受ける(購入する)。次に、これを市場で500円で売れば、100円儲けることが出来るからです。

一方で、このA社のほうも、1株発行する度に400円の現金が入ってきます。

仮にA社が、資金繰りに窮して倒産しそうな会社の場合、これは助かります。

1千万株発行できれば、40億円のニューマネーが入ってきますから。

ここで頭の良いあなたは気がついたはずです。

そんなにたくさん株を新たに発行して、投資銀行が引き受けては市場でどんどん売っていけば、株価が500円のままでいるわけないでしょ。

そうです。

それでは先ほどの松坂大輔の話ではありませんが、ストライク・ゾーンをどんどん下げてしまったら・・。

要は、A社に対して株式を発行させる時の行使価格をどんどん引き下げるような仕組みにしてしまう。

さきほどの行使価格400円がどんどん下がっていくような仕組みです。

そうすれば仮にA社の株価が500円から250円に下がっても、行使価格(これをストライク・プライスと呼んでいるのです)が200円に下がれば、投資銀行はA社に対して、この価格で株を発行させて引き受け儲けることが出来ます。

これがMSオプションの非常に大雑把な仕組みです。

実際には第三者に対する有利発行にならないようにするとか、いろんな制約があるためもう少し緻密に設計されていますが、あえて簡略化して説明すると、上記のようになります。

このことと新興市場の株価低迷とは、どう結び付くのでしょうか。

次回ご説明します。

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コメント

岩崎先生、こんばんわ。
「MSオプション」というと、何やら難しそうに思いましたが、原理は案外と単純なものなのですね。
既存の株主に損をさせて、投資銀行を儲けさせるための黒魔術のように見えないことも無いです。
サブプライムローン問題が取り沙汰されてから、最近の株式市場はパッとせず、トヨタの株価も6千円を切るなど、つい、数ヶ月前までは思いも寄らなかったことが起きています。
MSオプションのような資金調達の手法が、当たり前のように企業で導入されると、ますます、個人マネーが株式市場から流出しそうです。
ところで、岩崎先生の「プロジェクト・コード」、今日、書店で入手しました。
「ECL」という用語が出てきますが、これもMSオプションに関係することみたいですね。
まだ、読み始めたばかりですが、本書を読了した頃には、投資銀行の内面について詳しくなれそうです。

投稿: まさくん | 2007年10月25日 (木) 23時14分

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