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2008年1月18日 (金)

冬来たりなば春遠からじ

最近の株価下落を受けて、仕事関係でご一緒している方などからメールや電話などで質問を頂戴することが多くなってきました。

『株価はどこまで下落するのでしょうか』

『いっそのこと全部売ってしまおうと思いますが、どう思われますか』

『目をつぶって、今、買いに入るべきでしょうか』

『アメリカの株式市場以上に何ゆえ日本が大幅に下げなければならないのでしょうか』

株価がここまで安くなってきているのであれば、誰かが借金をしてでも株価の安い会社を買収して傘下に収め、その会社から上がるキャッシュフローで借金を返済する―――

本来であればM&Aがこのように機能して株価は下げ止まるようになります。

もう少し分かりやすく説明しましょう。

例えばあなたがアパートを経営していて、毎月10万円の家賃収入があるとします。

(簡便化のため税金や建物劣化などのコスト要因をここでは捨象して考えることにします。)

金利を2%と想定すると、このアパートの価値は:

(10万円×12ヶ月)÷0.02=6千万円

ということになります。

6千万円を定期預金や国債で運用しても毎月10万円の利息が得られますので、(アパート経営に内在する事業リスク等を捨象して考えれば)投資家にとってみれば、6千万円でアパートを購入して家賃収入を得ても、預金に置いて利息収入を得ても「同じ」ということになります。

さてここで景気の悪化が予想されるようになり、家賃収入が月10万円ではなく(10万円ではもはや借りてくれる人がいなくなり)、月9万円になったとします。

アパートの価値は:

(9万円×12ヶ月)÷0.02=5千4百万円

となります。

毎月の家賃は10%(10万円→9万円)減価し、アパートの価値も同じように10%減価(6千万円→5千4百万円)しました。

減価の率はどちらも10%で同じです。

さてここからが本題です。

日本の株式市場で現在起きていることはどういうことでしょうか。

それは、『毎月予想される家賃収入の減価以上に、アパートの価値が減価してしまった』ということです。

5千4百万円ではなくてアパートは3千万円になってしまった。

もうお分かりですね。

この場合、Aさんはたとえ無一文だとしても、借金をしてでも、このアパートを3千万円で購入すれば良いのです。そして毎月上がる家賃収入9万円で借金3千万円の金利(2%で、年60万円)を返済していき、更に余った金(月9万円マイナス月5万円)で元本を返済していけば良いのです。

(エクセルのスプレッド・シートで計算してみれば分かりますが、借金は徐々に減っていき10年後には3千万円の借金は2千5百万円以下にまでなります。)

すなわち予想されるキャッシュフロー(毎月の家賃収入9万円)から割り出される評価額(5千4百万円)以上にアパートが減価してしまった場合、誰かが借金をしてでもこのアパートを買収すれば、いずれ借金も全て返済できて、アパートは労せずしてこの『誰か』のものになります。

M&Aには、このようにマーケットが理論的に算出される株価以上に割り込んだ場合、(会社全体の買収が行われることによって)、株価を下支えする効果があります(別言すれば株価は、予想キャッシュフローによって理論的に算出される株価へと、『いずれは』 収斂していきます。)

しかし会社が買収されることを望まない日本、特に敵対的買収に対して拒絶反応を示す日本では、必ずしもこのような形でマーケットが機能しません。

スティール対ブルドックの判決が示すように、株主平等の原則も守られず、日本独自の資本主義のロジックが幅を効かせてしまっています。

欧米や中近東の投資家の目からすれば如何に日本株が理論株価から乖離して割安に評価されていたとしても、やはり敬遠しておいた方が無難だと映ってしまうのでしょうか。

もっとも海外の投資家も結局のところ儲かりさえすれば良いのです。すなわち日本市場に独自の障壁があろうと無かろうと、要は日本株が十分に割安になり投資家が儲かると思えば資金は流入してくるし、儲からないと思えば資金は逃げていきます。

『冬来たりなば春遠からじ』です。

日本独自の市場慣行はただ単に春が来るのを遅らせてしまっているだけです。

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コメント

その話、実感してます。
買収防衛策を導入している企業には、株価が一株あたりの現預金を下回っている黒字企業ですら、おいそれと買えません。

投稿: | 2008年1月19日 (土) 11時50分

岩崎先生、こんばんわ。

>メールや電話などで質問を頂戴することが多

お問合せが多いみたいで、大変なご様子のようですね。
今後の金融機関のサブプライムローンの損失、バーナンキ議長は最大で5千億ドルほど拡大する見通しを示しており、これからも記録的な大幅な株安がありそうです。
ですが、こういう時期でも、有力な新薬候補を多数揃えている製薬会社の株式を中心に保有していると、気分的に安心できます。
個人的には、医療、食糧、環境、文化がキー・ワードになるかな?等と思っています。
ところで、次世代DVD規格、BDに統一されつつあるようですね。
個人的には、現行のDVDと技術的に類似性の高いHD DVDが主流になれば良いのに…と希望していましたが、なにぶん、記録メディアの品揃えでBDとの差が有りすぎます。
ハードの安売よりも、記録容量30GBのHD DVDの記録メディアが、1枚200円ほどで販売されるよう、HD DVD陣営に頑張って欲しいと思います。

投稿: まさくん | 2008年1月19日 (土) 23時03分

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