NPV と IRR
いよいよ北京オリンピックも終わりに近づいてきました。
私が最初に中国を訪問したのは今から17年前の1991年。
天安門事件(1989年)後で、鄧小平による南巡講話(1992年)前の中国でした。
当時、中国石油天然気総公司(China National Petroleum Corporation)が同社の幹部約200名を対象に『国際石油シンポジウム』を行うというので、その講師として招待されたのです。
無錫で行われたシンポジウムには、私のほかに石油メジャー『エクソン』の元幹部、世界銀行の人などが講師として招かれていました。
その時の私は興銀の審査部に在籍していて世界中の資源開発プロジェクトの審査を担当していました。当然中国石油天然気総公司の依頼も、『銀行がどのような観点で石油・天然ガスの資源開発プロジェクトを審査するかについて話して欲しい』というものでした。
私は単なるスピーチでは面白くないと思い、ケーススタディ形式にして実際のキャッシュフロー展開表を使って、NPV Coverage Ratio(下記注1)、Annual Debt Service Coverage Ratio(下記注2) などについて説明しましたが、シンポジウムに参加していた約200名の方々の真剣な眼差しと必死にノートを取る姿が今でも鮮明に脳裏に焼きついています。
その時参加者から出た質問。
『あなたのお話はプロジェクトにカネを貸し付ける立場からの審査の仕方であり、それはそれで参考になったが、実際にプロジェクトを行う立場である我々からすると、例えばIRRを使ってプロジェクトを評価すべきか、あるいはNPVを使うべきか、よく議論になる。その点はどう考えたら良いか。』
答え:『IRRはプロジェクトから上がるキャッシュ・フローが、そのIRRと同じレートで再投資されることが前提となっている。
年: 0 1 2 3
A: -155.22 100 0 100.00
B: -155.22 0 0 221.00
上記の例でプロジェクトAはIRR14%、Bは12.5%だが、プロジェクトAで1年目に得られる100のキャッシュは14%で再投資されることが前提となっている。プロジェクトのrequired rate of returnが10%未満の時はプロジェクトBのNPVがAのNPVを上回ることになる。』
このような質問と答えのやりとりが幾つか行われたことが今でも思い出されます。
なお中国石油天然気総公司はその後1998年、中国石油天然気集団公司となり現在では民営化されたぺトロチャイナの株式を90%保有。
ペトロチャイナと言えば昨年末の時点で時価総額が世界最大であった企業。中国株が下落した今も時価総額は約26兆円。今年6月13日に野村證券が発表したランキング表ではエクソン・モービル(4688億ドル)に続いて世界2位(3788億ドル)でした。
【注1】NPV Coverage Ratio:プロジェクトから毎年上がるキャッシュフローのうちローンの元利払いに充当可能なキャッシュフローを現在価値に割戻し、その合計値がローンの金額の何倍になっているかを見る。 NPV Coverage Ratioが1.0を切る場合はプロジェクトのキャッシュフローでローンを返済することは出来ず、かかるプロジェクトに対して銀行は融資を行うことは出来ない。
【注2】Annual Debt Service Coverage Ratio:プロジェクトから毎年上がるキャッシュフローのうちローンの元利払いに充当可能な各年ごとのキャッシュフローが各年ごとに必要とされるローンの元利払い金額の何倍になっているかを見る。たとえ1年でも1.0を切ることがあれば、その時にローンの元利払いが滞る。NPV Coverage Ratioの数値が良くても(例:2.0以上であっても)、1年でもAnnual Debt Service Coverage Ratioが1.0を切る年が予想されればプロジェクトに対する融資は難しくなる(返済計画を吟味し直す必要性が生じる)。
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