シジフォス
私が興銀から外資系投資銀行に転職(1998年)して最初に実感したのは手数料商売の厳しさでした。
投資銀行の投資銀行部門はM&A、株式や社債の引受などで手数料を得ることが主業務です。
毎年目標があって一年間必死で働き何とか目標を達成。
すると次の年はまたゼロからの出発です。
そして年の初めからまた少しづつ手数料収入を積み上げていく。
ギリシャ神話に登場するシジフォスは尖った山の頂に岩を上げるようゼウスに命じられますが、上げても上げても岩は下に転げ落ちる。
手数料ビジネスにはこれと似たようなところがあります。(常に翌年はゼロからスタートして、また手数料収入を積み上げて行かなければなりません。)
一方、興銀の場合は商業銀行でした。
貸出資産(貸付金)と預金(債券)との金利差で収益が上がります。これは一年が終わっても資産(と負債)が相当部分残っていますのでゼロから出発するのとは根本的に違います。
手数料ビジネスとアセット(資産)ビジネスの違いです。
このように見ていくと投資銀行がアセット(資産)を持ちたがるのは自明の理であったのかもしれません。
シジフォスのように手数料収入を積み上げてもまた翌年からゼロでスタートする必要が無くなるからです。
しかもそのアセットを自らの資本ではなくて負債で見合わせる ― すなわちレバレッジを掛ければ、大きな収益が上がる。
その結果、多くの投資銀行はショッピングセンターを持ったり、ウィークリーマンションやゴルフ場を保有して経営するようになりました。
苦しくてもアセット(資産)に頼ることなくして手数料ビジネスに特化していれば名門リーマンブラザーズが破綻の危機に瀕するようになることはありませんでした。
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コメント
岩崎先生、こんばんわ。
>名門リーマンブラザーズが破綻の危機
僕は、(LTCMの例がありますが)有数の投資銀行には、数理経済学や金融工学に通暁した優れた人材を多数擁し、さながら『不沈戦艦』のようなイメージを持っていました。
しかし、実際に投資銀行に勤務している方がおっしゃるように、たとえ高価な汎用大型コンピュータと金融データベースを駆使しても、正確な経済予測など、神様でも無い限り、連続して言い当てることなど、出来ないみたいですね。
就職先の第一候補として、投資銀行を選択する学生が増えているようですが、この度のベアスターンズ、そして、リーマンブラザーズの事態から、投資銀行の人気が落ちそうです。
理工系で優秀な人は、大企業のメーカーで、開発業務に専念するのが、地味ですが堅実な生き方かもしれませんね。
投稿: まさくん | 2008年9月15日 (月) 00時02分