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2008年12月31日 (水)

空気の支配

『日本軍の戦略策定が状況変化に適応できなかったのは、組織のなかに論理的な議論ができる制度と風土がなかったことに大きな原因がある。』 『・・・多分に情緒や空気が支配する傾向(があった)』

(戸部良一ほか『失敗の本質』中公文庫 [注]カッコ内は筆者)

*  *  *

麻生総理は 『日本経済は全治3年と診断し、これを建て直すべく平成21年度政府予算案を閣議決定した』 とのことです。(詳しくは『こちら』)。

同時に 『日本が世界で最初に不況を脱出することを目指す』 とも述べています。(詳しくは『こちら』)。

しかしいったいどういう状況認識で全治3年と診断したのかが分かりません。

そもそも何が原因で日本経済が全治3年の病に陥ったのか。

加えて、1929年の大恐慌の時は米国ダウ平均株価が元のレベルに戻るのに25年間もかかりました。

今回の金融危機がたった3年で回復可能であるとする、その論拠はいったい何なのでしょうか。

そしてもし日本が本当に世界で最初に不況を脱出することを目指すのであれば、

経済と産業の構造を輸出主導のものから内需主導のもとへと大きく転換させる必要があります。

輸出に依存する従来の構造のままでは、

『外国の景気が回復→日本からの輸出が伸びる→日本の景気が回復』

といったパターンになります。

よって日本が世界で最初に不況を脱出することは不可能。

もし日本が世界をリードするのであれば、

『日本の内需が拡大→日本への海外からの輸出(=日本の輸入)が増大→他国の景気が回復』

となります。

そのためには第二次世界大戦後支配してきた輸出主導の日本の産業構造を根本的に変える必要があります(為替も、より一層の円高へ・・)。(しかし本当に可能でしょうか。)

*  *  *

『全治3年』とか『世界で最初に不況を脱出』とか言葉は踊りますが、『情緒や空気』の産物であったとしたら国民が不幸になります。

経済危機脱出の為の戦略策定には、確たる状況分析と、目標を実現する為の処方箋が必要です。

霞ヶ関の奮起を期待したいところです。

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2008年12月28日 (日)

年の終わりに

2008年も残りあとわずか。

今年は皆さんにとってどんな年だったでしょうか。

毎年この頃になると思い出すのが、日経新聞1月3日の記事です。

『今年の景気はこうなる、株価はこうなる』と題する例年の特集記事。

経営者や有識者に1年の見通しを質問(アンケート)して、答えを一覧表の形にまとめるというもの。

2008年1月3日。

もう1年前になります。

『今年の日経平均はどうなりますか。高値と安値を記して下さい』というのがその時の質問の1つ。

経営者や有識者の方々が今年の初めどう答えたかですが、全員の回答は以下の範囲に収まりました。

  • 日経平均の下限:14,000円(トヨタ自社長、信越化社長など)~15,300円(オリックス会長)

  • 日経平均の上限:16,500円(しまむら会長)~21,000円(大和証券社長)

21人の経済人のうち、日経平均がたとえ一瞬でも14,000円未満になると予想した人は一人もいませんでした。(一般に経済人、経営者は強気、楽観的ですから・・・。ただその結果年末に大量の派遣切りが実施されるというのにはちょっと考えさせられてしまいます。)

為替は?

為替の方は、株価予想の21人とは別の20人が、2008年6月末と12月末のレートを予想しています。

1ドル100円を切るような円高があり得ると予想していたのは1人だけ。大和総研の田谷禎三特別理事が12月末には95円と予想していました。

今年初めと言うと、サブプライムの問題はすでに顕現化していました。(私のブログでも2007年6月26日から7回にわたってサブプライムについて書いてきました。)

しかし経済情勢がここまで悲惨な状況になるとは、41名の錚々たる経済人や識者をもってしても誰も予想しえなかったということです。

まあ100年に1度と言われる経済危機なのですから当然と言えば当然なのでしょうが・・・。

さて新年(2009年)1月3日も日経新聞は例年通りこの特集をするのでしょうか?

早いもので新年1月3日と言っても今週の土曜日のことです。

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2008年12月26日 (金)

クリスマス・カード

アメリカの友人からネットで送られてくるクリスマス・カードには面白いものが多いのですが、これ(→)「dog_and_snowman.gif」をダウンロード (←クリックしてみて下さい。画像が少し動きます)などは結構笑えます。

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2008年12月25日 (木)

Merry Christmas

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2008年12月23日 (火)

Oh, What a feeling!

11月13日のブログで以下のように書きました。

『投資先の経営陣が発するちょっとした発言(ほとんどの場合、新聞にごく小さな記事となって載るだけなのですが)が会社の中に進行している大企業病を見つける手がかりになったりします。

医者が小さなポリープを見つけて癌になる前に除去するのと同じで、そういった兆候が見られたら株価がどうであっても売ってしまいます。』

実はこう書いた後、私は昨日、文字通り内視鏡によるポリープ除去の手術になってしまい、今日はおとなしくしています。(一週間はアルコール厳禁と言われています。)

ところで、トヨタの社長交代。

一見したところ、日経や読売には見当らず(詳しくは『こちら』)、朝日のスクープなんでしょうね。おそらく。

私自身の株式投資という観点からすると、トヨタについては、ピーク時に比して、すでに4割ほど株式を売却してしまっています。(と言っても、まだ6割も維持しているんですから、トヨタにはがんばってもらわないと困るんですが・・)。

私が最初に『最近のトヨタはおかしいな』と思ったのは、2006年5月のセクハラ事件。詳しくは『こちら』

この種の事件は、日本のマスコミ(トヨタからのCM収入が大きい)は、あまり大きな記事にしません。

が、海外のマスコミは違います。

トヨタがアメリカで以前流していたTVコマーシャル(Oh, What a feeling!)に引っ掛けて、セクハラ報道当時、この言葉が海外の大衆紙のトップを飾りました。

そして、2007年9月14日のJames Press氏の退社

米国トヨタの重要人物で、トヨタ自動車本社の専務取締役を務めていた経営者です。

この方が競合他社に移ったというニュースなのですが、Press氏は、昭和45年から37年間、ずっとトヨタ一筋で働いてきて、日本国籍がないにもかかわらず、本社の専務取締役にまで上り詰めた方です。

トヨタは否定するでしょうが、本当に金銭的な理由だけで彼が競合他社に移ったのかどうか。(もちろん金銭的な要因も大きかったのでしょうが・・。)彼なりにここ数年の間に進行した、トヨタの変化を感じ取っていたのではないでしょうか。

実は私は10年以上も前に(興銀にいたときの話ですが)、トヨタのお手伝いをしたことがあります。

その時、トヨタの人たちと頻繁に接し、彼らの凄さに驚いたのが忘れられません。

その後も何人かのトヨタの方たちと時折お会いしてきましたが、皆さん、常に危機意識を持っていたのが印象的でした。

会社の業績が絶好調の最中にも

『うちはカローラとマークⅡが売れなくなれば倒産ですから・・』

と真顔で話します。

そういったトヨタの凄さ(常に危機意識を持った緊張感)が、2006年あたりから薄れてきた・・のではないでしょうか。

現在どの自動車会社も悲惨な決算になっており、外部環境が最悪なのは言わずもがなです。

しかし新社長には、環境のせいにせずに、ここ数年の間に進行してきた大企業病をこの際、徹底的に退治して欲しいと思います。

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2008年12月19日 (金)

時給6,500円

GM $73 (6,500円)

トヨタ $48 (4,300円)

一般の工場労働者 $32 (2,800円)

これは確かアメリカABCテレビが報じ、その後、各紙(例えば「こちら」)で報道されている工場労働者の時給(ただし、諸手当、退職者年金、健康保険料などを含む)。

今週号のニューズ・ウィーク誌によれば、「込みこみ」の数字は73ドルだが、単純な時給(諸手当など除く)は28ドルとのこと。

              Newsweekcover081224

28ドルが、健康保険料などの諸手当を入れると、最終的に、73ドルになってしまうところが驚きです。

「こちら」のブログも参考になります。

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2008年12月18日 (木)

オバマ政権とスタンフォード

ブッシュ政権ではスタンフォード大学のライス教授が国務長官として活躍しましたが、オバマ政権でも多くのスタンフォードの教授たちが政権をサポートすることになりそうです。

教育学のDarling-Hammond教授、法学(移民法)のMariano-Florentino Cuellar教授、経済政策のGreg Rosston、国際経済のPeter Blair Henry教授、国防を研究してきたElizabeth Sherwood-Randall教授、政治学のMichael McFaul教授など。

詳しくは(英語になりますが)「こちら」をどうぞ。

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2008年12月16日 (火)

バフェットによるゴールドマン、GEへの出資

12月14日(日曜日)のブログの続きです。

金融危機の真っ只中にバフェットが行なったゴールドマン・サックスやGEへの出資については、どう考えれば良いのでしょうか。

昨日のテレビでは時間的制約もあり、十分に説明できなかったことから、以下でもう少し詳しく見ていきます。

バフェットの投資会社バークシャーによるゴールドマンへの出資が発表されたのは今年の9月23日。バークシャーは配当利回り10%の永久優先株50億ドルを購入。さらに今後5年以内にゴールドマンの普通株50億ドルまでを1株115ドルで購入できるワラントも取得。

この発表を受け、ゴールドマンの株価は9月23日、前日比3.5%高の125.05ドルで引けた後、更に時間外で8.5%急伸。

一方のGE。

バークシャーは今年10月1日、GEの永久優先株(配当利回り10%)30億ドルを購入することを発表。バークシャーはさらに今後5年以内にGEの普通株30億ドルまでを1株22.25ドルで購入できるワラントも取得。

GEの方は、この発表にもかかわらず、株価が下落(10月1日:24.50ドル→10月2日:22.15ドル)。

さて、その後の両社の株価の変化ですが、昨日のニューヨーク市場では、ゴールドマンが66.46ドル、GEが16.95ドルで引けています。

バフェットが投資会社バークシャーを通じて行なったゴールドマンやGEへの出資が、仮に、単純な普通株の購入であったと仮定するならば、この時点でのバフェットの損失は、ゴールドマンについては▲23億ドル、GEについては▲9億ドル。

バフェットが投資を決定した後、両社の株価は、それぞれゴールドマン▲47%下落、GE▲31%下落となってしまったのですから、損失額は両社への投資合計で▲32億ドルになってしまったということになります。

しかしながらバフェットが行なった両社への投資は、配当利回り10%が保証される永久優先株。

換言すれば、ゴールドマンやGEがつぶれない限り、そしてゴールドマンについては少なくとも 5億ドル、GEについては3億ドルの税引後利益を上げ続ける限り、バフェットはこの両社から毎年5億ドル(ゴールドマン)と3億ドル(GE)の配当金をもらい続けることが出来ます。

言ってみれば、今後10年で、少なくとも投資元本は回収できるというものです。

しかもこの配当をもらう権利は永遠に続きます。(もっともゴールドマンやGEは10%のプレミアムでこれを買い戻す(償還させる)ことが出来ますが、この場合にもバフェットは「それまでの配当金」に加えて「投資元本+10%」を手にすることができます。)

この種の好条件を引き出しながら両社に投資できたのはバフェットだからです。

両社は、この金融危機のさなかに、バフェットから資金を得たばかりか、「バフェットによって選ばれた」という「信認票」も得たのです。

一般投資家がバフェットの真似をして「バフェットに続け」とばかりに投資を行なっていれば、先ほど見ましたようにゴールドマンについては▲47%下落、GE▲31%下落ですから、今頃、大けがをしていることになります。

「強者が弱者を飲み込むのは、海も人間も同じ」(シェイクスピア)

投資の世界でも、バフェットのような「力」を持てば、普通の投資家に比べてリスクをコントロールしやすくなります。

バフェットの投資哲学はMargin of Safety。失敗しても、簡単には損をしないようにするというもの。

今回のゴールドマンやGEへの投資はまさにその好例だったと言えるでしょう。

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2008年12月14日 (日)

バフェット

今週号の日経ヴェリタスはバフェットを特集しています。

バフェットと私の接点はスタンフォードのビジネススクール。

バフェット自身はコロンビア大学のビジネススクール出身ですが、私が留学していた当時のスタンフォード・ビジネススクール学長、アージェイ・ミラー氏の大の親友でした。(ミラー氏はフォード自動車社長を経て学長に就任。)

1976年、ミラー学長はバフェットをスタンフォードのマクドナルド教授に紹介。

バフェットとマクドナルド教授はすぐに非常に打ち解け合うようになります。

投資に対する考え方が似ていたからです。

当時、スタンフォードには2人のファイナンスの看板教授がいました。

1人はシャープ教授でポートフォリオ理論を発展させ1990年にノーベル賞を受賞。

もう1人がマクドナルド教授でした。

私は授業はマクドナルド教授を取り、2年になってゼミはシャープ教授を取りましたが、どちらの教授とも仲良くして頂き、自宅に招かれたりしました。

さてシャープ教授は株式市場は効率的であるとの考え。サルがダーツを新聞の経済欄に向かって投げて、当った銘柄を買っても、一流のファンドマネージャーが推薦する銘柄を買っても、パフォーマンスは同じだとする考えです。

多くの実証研究がこれを支持しています。(「ウォール街のランダム・ウォーカー」バートン・マルキール著ほか参照)。

ノーベル賞を取ったのは、シャープ、マーコビッツなど、市場は効率的との仮説に基づき、理論を発展させていった学者が多いのですが、マクドナルド教授はダーツを投げるサルに勝てるとの信念を持っていました。

バフェットも全く同じ考えで、バフェットのパフォーマンスこそが、その生き証人というか、サルに勝てた証左ともいえます。

バフェットの投資会社、バークシャーの年次報告書には、毎年、バークシャーのリターンとS&P 500 のリターンが対比されて載っていますが、1965年から2007年にかけて、バークシャー21.1%の年率のリターンに比して、S&Pは10.3%。

年率ベースのこの差は、単純倍率(1964-2007年)にすると、バークシャー 400,863%対S&P 6,840%となります。

マクドナルド教授いわく、

「バフェットは毎年のように私のクラスに(ゲスト・スピーカーとして)来てくれたが、最初に彼が来た時、1976年だったと思うが、バークシャーの株価は60ドルだった。

学生達は言ったもんだ。バークシャーの株は高くなりすぎているってね。」(「サバイバルとしての金融」28頁)

現在、バークシャーの株は、98,390ドル。当時10万円でバークシャーの株を買っていれば、今は1億6千万円を超えています(注:為替レートの影響は捨象して考えています)。

バフェットは決して今回の金融危機を甘く見ているわけではありません。

バークシャーのポートフォリオの中身は、P&G、クラフト・フーズ、ジョンソン&ジョンソンなど不況抵抗力のある会社、ブランド力、価格支配力がある会社が中心であり、仮に金融危機が深刻化しても、マーケットの平均よりは好ポジションにあると言えます。

バフェットの投資スタンスは長期保有が中心ですが、実践的かつ柔軟性もあります。2002年に中国ペトロチャイナの株を買い、2007年には売り抜けていることなどはその好例でしょう。

安全性のマージン(margin of safety)を重視する考えで、十分に安くなってから買いに入る投資哲学。

「5年後、10年後を考えて投資しなさい」

「あなたにとって重要なことまでもリスクにさらしてまで、リスクを取ってはいけない。そんな価値はないから・・」

これらのバフェットの言葉は、仮にこれから先、金融危機がますます深刻化するとしても有用なアドバイスだと思います。

もう一つ、バフェットの言葉。

金について。

「アフリカとか、そういった地域で地面が掘られ、金鉱石が採掘され、溶かされて金になる。その間、人々はガードを雇って、これらが盗まれないようにする。しかし金にはそれほどの価値はない。(It has no utility.)

火星人がいて、火星から地球を見た場合、かれらは頭をかきながら地球人は不思議なことをすると思うに違いない。」

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2008年12月13日 (土)

Job or Calling (仕事なのか、天職なのか)

現在スタンフォードのビジネススクールに留学中のAさん。

今朝そのAさんからメールが送られてきました。

Aさんのメールには、Bloomberg に載った Michael Lewis の Commentary と、それに対する Bloomberg 読者たちからのの反響が転載されていました。

Michael Lewis は Liar's Poker などの著者。

原文(英語)のまま下記に掲載しますのでご興味のある方は是非ご覧になってみてください(下記↓をクリック)。

続きを読む "Job or Calling (仕事なのか、天職なのか)"

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2008年12月12日 (金)

大恐慌の記憶(その7)

1929年10月24日の暗黒の木曜日から始まった大恐慌。

381ドルあったダウ平均株価(1929年9月3日)は、9分の1の

41ドルまで下げました(1932年7月8日)。

それでは、その後、何時の時点で、株価は再び、恐慌前の381ドルに達したのでしょうか?

すなわち恐慌から回復するのに、少なくとも株価に限って言えば、どのくらいの期間が必要だったのでしょうか?

答えは25年間です。

1954年11月23日になって、株価はようやく383ドルをつけます。

長期投資といっても、それは平時に意味をなす考えであり、平時ではない場合、たとえリスクを取って株式投資をしても、仮に25年もかかって元に戻るようでは、あまり意味はありません。

50歳のときに100万円投資して、その後、株価が下落して、漸く75歳の時にもとの100万円に戻ったとして、あなたは満足でしょうか。

ウォーレン・バッフェトは天才的な投資家ですが、大恐慌「後」の、ある意味で『平時』の時代に投資を行なって財を成したと言えるでしょう。

はたして100年に1度の危機と言われる今の状況は

(1)『平時』から『非常時』へ移行しつつある過程と見るのか、

あるいは

(2)今の崖っぷちの状況から、今後、回復していくのでしょうか。

当たり前のことですが、この見極めこそが投資に際してもっとも重要だと思います。

下記は1929年9月3日から1954年11月23日までの

25年間強のダウ平均株価推移です。

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2008年12月10日 (水)

株主優待券

東京、渋谷の街を歩いていますとチケット・ショップで人が列をなしています。

続きを読む "株主優待券"

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2008年12月 8日 (月)

ガルブレイス

麻生首相も最近購入したと一部マスコミで報じられているジョン・K・ガルブレイス著「大暴落1929」(村井章子訳、日経BP社)。

11月8日のブログでもご紹介しましたが、改めて読み直してみますと幾つかのコメントは非常に参考になります。

(以下は、同書からの抜粋です。下線は私が引いたもの。ご関心のある方は是非一度上記著作をお読みになってみてください。)

「最初は値上がりから始まる。

株でも不動産でも美術品でも、何でもいい。

すると世間が注目し、買い手が群がる。

そうなれば価格は一段と上がる。

買う行為そのものが価格を押し上げ、値上がり期待を現実にするわけだ。

これが続くと、市場を楽観視するのが当たり前になる。

そうなれば価格はますます上がる。

そしてある日、終わりがやってくる。

一体なぜなのか、原因を巡って果てしなく議論が続くだろう。

終わりは、つねに始まりよりも突然である。」(7頁)

* * *

「現実に問題なのは、そのいかがわしい資産が日に日に値上がりし、二週間後には売って莫大な利益を手にできるかもしれないということだけだった。

時が経つとともに、値が上がるという事実だけに目を奪われ、なぜ上がるのかを考えようとしなくなるのは、投機のもう一つの特徴である。

それに、理由を考える理由などなかった。」(21頁)

* * *

「株価には企業の業績や収入見通しが反映されている。……だが……現実離れした手がかりにわれもわれもと飛びつくようになったのだ。」(31頁)

* * *

「ブームが熱を帯びてある点まで達すると、手に入れた財産がすぐに値上がりするかどうかだけに目が行き、その財産を持つことに伴う他の要素はすべて目に入らなくなる。

その財産からどれだけ収入が得られるか、あるいはその財産をどれだけ活用できるか。

いや長持ちする価値があるのかどうかさえ、面倒なこととして片付けられてしまう。

……要するに、ブームの渦中にある所有者が財産に求める唯一の見返りは、値上がりだった。」(40頁)

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2008年12月 4日 (木)

汚染米の混入

サブプライムの問題については昨年の6月から、何回か(私の記憶では「その7」の回まで)シリーズにして、このブログで取り上げてきました。

詳しくは『こちら』

もう1年半ほど前のことです。

ちなみにその時(2007年6月26日)の日経平均株価は、18,066円。

今の2.3倍もありました。

「あの時、売っておけば良かった」

こう思っている読者の方も多いかもしれません。

実はあのブログ記事を書いた私自身も今となっては全く同じ気持ちです。

後悔しています。

*  *  *

ところでサブプライムに関してよく受ける質問があります。

Q1:サブプライム・ローンはどのくらいあるのですか?残高は?

A:リチャード・クーさんの本には確か100兆円($1=100円で換算)と書いてあったと記憶しています。200兆円と推定する本もあります。だいたい100兆円~200兆円の間であると思われます。

Q2:サブプライム・ローンは全てデフォルトしてしまい、価値ゼロになるのですか?

A:確かに今、本屋さんの店頭に並ぶ『恐慌本』のなかには、そう断定的に書いてあるものもあります。

しかしサブプライムで借りていてもきちんと元利を返済し続けている人がたくさんいます。

日本でも住宅ローンを組む場合、銀行でローンを組めば(他のローン会社などから借りる場合に比べて、一般的には)金利が安くなります(今の住宅ローン金利水準は期間にもよりますが2~4%程度)。

しかし何らかの事情で銀行から借りることが出来ない方もいます。

そういう方でも専門の住宅ローン専門会社からローンを借りることが出来る場合があります。

例えばジャックスやオリックスなどが持つ住宅ローン専門会社です。

一般に住宅ローン専門会社から借りる場合、銀行の住宅ローンに比べれば金利が高くなることが多いのですが、だからといって、こういったローンが全てデフォルトしてしまうはずがありません。

さらにアメリカのサブプライム・ローンについても言えることですが、これらのローンは担保付きローンです。

すなわち貸し手は担保権を行使できますので、万が一の場合にも全額損失してしまうわけではありません。

アメリカの住宅価格が下がったといっても1980年第1四半期を100とすれば、2007年第2四半期は387で、2008年第2四半期は381(下図参照、詳しくはOffice of Fedral Housing Enterprise Oversight)。

    Housing_price_2

もう少し問題を整理してみます。

大胆な仮定ですが、仮にサブプライムが150兆円あると仮定して、そのうちの4割が返済不能になったと仮定します。

150兆円×40%=60兆円。

この人たちは銀行(ローン会社)に住宅の鍵を送りつけてきます。

アメリカの住宅ローンはノン・リコース・ローン(詳しくは下記の本参照)なので、借りた人はこれ以上の責任を問われることはありません。

自己破産する必要がないのです。

次に鍵が送られてきた銀行(ローン会社)は、どうするでしょうか。

当然のことながら担保として取った住宅を売却しようとします。

仮にローン残高の6割で売却出来るとすれば、4割が実損。

60兆円×40%=24兆円。

Q3:チョッと待って下さい。サブプライムの世界の実損はもっとずっと多いはずです。

アメリカだけでもこれまでに160兆円を超えるカネが公的資金注入などの形で政府によって投入されようとしています。

A:証券化によって『サブプライム』と『安全度の高い債権』とが混入され、

結果として混ぜられた証券化商品全体の価格が付かなくなってしまった。

この辺については汚染米の混入を例にして下記の本で説明していますが、簡単に言うとこういうことです。

たとえばここに茶碗一杯の米があるとします。

この中に何粒の米粒があるのか、私には分かりませんが、

仮に茶碗一杯分の米に10粒の汚染米が紛れ込んでいるとしたら、あなたはその米を買いますか?

たった10粒の汚染米が入っていること、そのこと自体で、茶碗一杯の米全体の価格が付かなくなってしまっている。

サブプライムの問題とは簡単にいうと、こういうことです。

更に少し議論を進めましょう。

10粒の汚染米がただ入り込んでいるだけなら、注意深くその10粒を選び出し、除去できるかもしれません。

しかし、10粒の汚染米が粉々に粉砕され、そして他の米(健全な米)も同様に粉々に粉砕されてしまったら、

そして汚染された粉と健全な粉が混ぜられてしまったら・・・

実際、住宅ローン債権は、ABS、CDOと証券化を繰り返すうちに、米が粉砕されて粉になるように、混ぜられてしまった。

いわゆるLook Throughの原則がきかなくなってしまった。

今回の金融危機(というよりも金融恐慌)は、サブプライムの問題よりも、むしろ証券化によって被害が数10倍、あるいは数百倍に拡大してしまったというところに、その本質があります。

市場に参加している人たちが、証券化商品の理論価格を信じて、それで取引していれば問題はありませんでした。

しかし一度、誰かがその理論価格を信じられなくなって、それを売ろうとしたら・・?

理論価格で買ってくれる人がいれば良かったのですが・・。

さらに付け加えますと、この証券化商品を、もとの住宅ローン債権に戻そうとしても、

いわゆる untangle する(解きほぐす)ということですが、

ABS、CDOと証券化が繰り返されて、粉になってしまったものは、米には、なかなか戻りません。

市場参加者がみるみるうちに証券化商品の理論価格を信じなくなった。

価格が付かなくなってパニックになってしまった。

ここまで読んでいて気付きませんか?

信認を失ったのが証券化商品であれば、この程度で済みますが、もしも通貨、貨幣への信認が失われれば・・・・

これは本当に恐ろしいことになります。

各国の中央銀行と政府関係者、政治家は英知を結集して今の難局に取り組まなければなりません。

拙著『リーマン恐慌』にてこの辺をもう少し詳しく説明していますので、ご関心のある方はご覧になってみてください。   

                                                           Lehman_crisis_4     

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2008年12月 2日 (火)

我々には神聖なものとしてあがめるべき伝統は何もない

昨日スタンフォードのビジネス・スクール学長から送られてきた手紙に、1891年スタンフォード大学設立時の初代学長が授業の初日に話した言葉が載っていました。

"Our university is hallowed by no traditions, it is hampered by none. Its fingerposts all point forward."

-David Starr Jordan, the first president of Stanford University, speaking to the pioneer class on opening day in 1891.

    Fingerpost_2

邦訳すると:

『我々には神聖なものとしてあがめるべき伝統は何もない。

伝統によって妨害されることも一切ない。

我々のFingerposts はいずれも未来を指している。』

Fingerposts とは上図のような行き先・方向を指す道標を言います。

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