サブプライムの問題については昨年の6月から、何回か(私の記憶では「その7」の回まで)シリーズにして、このブログで取り上げてきました。
詳しくは『こちら』。
もう1年半ほど前のことです。
ちなみにその時(2007年6月26日)の日経平均株価は、18,066円。
今の2.3倍もありました。
「あの時、売っておけば良かった」
こう思っている読者の方も多いかもしれません。
実はあのブログ記事を書いた私自身も今となっては全く同じ気持ちです。
後悔しています。
* * *
ところでサブプライムに関してよく受ける質問があります。
Q1:サブプライム・ローンはどのくらいあるのですか?残高は?
A:リチャード・クーさんの本には確か100兆円($1=100円で換算)と書いてあったと記憶しています。200兆円と推定する本もあります。だいたい100兆円~200兆円の間であると思われます。
Q2:サブプライム・ローンは全てデフォルトしてしまい、価値ゼロになるのですか?
A:確かに今、本屋さんの店頭に並ぶ『恐慌本』のなかには、そう断定的に書いてあるものもあります。
しかしサブプライムで借りていてもきちんと元利を返済し続けている人がたくさんいます。
日本でも住宅ローンを組む場合、銀行でローンを組めば(他のローン会社などから借りる場合に比べて、一般的には)金利が安くなります(今の住宅ローン金利水準は期間にもよりますが2~4%程度)。
しかし何らかの事情で銀行から借りることが出来ない方もいます。
そういう方でも専門の住宅ローン専門会社からローンを借りることが出来る場合があります。
例えばジャックスやオリックスなどが持つ住宅ローン専門会社です。
一般に住宅ローン専門会社から借りる場合、銀行の住宅ローンに比べれば金利が高くなることが多いのですが、だからといって、こういったローンが全てデフォルトしてしまうはずがありません。
さらにアメリカのサブプライム・ローンについても言えることですが、これらのローンは担保付きローンです。
すなわち貸し手は担保権を行使できますので、万が一の場合にも全額損失してしまうわけではありません。
アメリカの住宅価格が下がったといっても1980年第1四半期を100とすれば、2007年第2四半期は387で、2008年第2四半期は381(下図参照、詳しくはOffice of Fedral Housing Enterprise Oversight)。
もう少し問題を整理してみます。
大胆な仮定ですが、仮にサブプライムが150兆円あると仮定して、そのうちの4割が返済不能になったと仮定します。
150兆円×40%=60兆円。
この人たちは銀行(ローン会社)に住宅の鍵を送りつけてきます。
アメリカの住宅ローンはノン・リコース・ローン(詳しくは下記の本参照)なので、借りた人はこれ以上の責任を問われることはありません。
自己破産する必要がないのです。
次に鍵が送られてきた銀行(ローン会社)は、どうするでしょうか。
当然のことながら担保として取った住宅を売却しようとします。
仮にローン残高の6割で売却出来るとすれば、4割が実損。
60兆円×40%=24兆円。
Q3:チョッと待って下さい。サブプライムの世界の実損はもっとずっと多いはずです。
アメリカだけでもこれまでに160兆円を超えるカネが公的資金注入などの形で政府によって投入されようとしています。
A:証券化によって『サブプライム』と『安全度の高い債権』とが混入され、
結果として混ぜられた証券化商品全体の価格が付かなくなってしまった。
この辺については汚染米の混入を例にして下記の本で説明していますが、簡単に言うとこういうことです。
たとえばここに茶碗一杯の米があるとします。
この中に何粒の米粒があるのか、私には分かりませんが、
仮に茶碗一杯分の米に10粒の汚染米が紛れ込んでいるとしたら、あなたはその米を買いますか?
たった10粒の汚染米が入っていること、そのこと自体で、茶碗一杯の米全体の価格が付かなくなってしまっている。
サブプライムの問題とは簡単にいうと、こういうことです。
更に少し議論を進めましょう。
10粒の汚染米がただ入り込んでいるだけなら、注意深くその10粒を選び出し、除去できるかもしれません。
しかし、10粒の汚染米が粉々に粉砕され、そして他の米(健全な米)も同様に粉々に粉砕されてしまったら、
そして汚染された粉と健全な粉が混ぜられてしまったら・・・
実際、住宅ローン債権は、ABS、CDOと証券化を繰り返すうちに、米が粉砕されて粉になるように、混ぜられてしまった。
いわゆるLook Throughの原則がきかなくなってしまった。
今回の金融危機(というよりも金融恐慌)は、サブプライムの問題よりも、むしろ証券化によって被害が数10倍、あるいは数百倍に拡大してしまったというところに、その本質があります。
市場に参加している人たちが、証券化商品の理論価格を信じて、それで取引していれば問題はありませんでした。
しかし一度、誰かがその理論価格を信じられなくなって、それを売ろうとしたら・・?
理論価格で買ってくれる人がいれば良かったのですが・・。
さらに付け加えますと、この証券化商品を、もとの住宅ローン債権に戻そうとしても、
いわゆる untangle する(解きほぐす)ということですが、
ABS、CDOと証券化が繰り返されて、粉になってしまったものは、米には、なかなか戻りません。
市場参加者がみるみるうちに証券化商品の理論価格を信じなくなった。
価格が付かなくなってパニックになってしまった。
ここまで読んでいて気付きませんか?
信認を失ったのが証券化商品であれば、この程度で済みますが、もしも通貨、貨幣への信認が失われれば・・・・
これは本当に恐ろしいことになります。
各国の中央銀行と政府関係者、政治家は英知を結集して今の難局に取り組まなければなりません。
拙著『リーマン恐慌』にてこの辺をもう少し詳しく説明していますので、ご関心のある方はご覧になってみてください。