塩漬け
『金融資産崩壊 ― なぜ「大恐慌」は繰り返されるのか』という本を出しました(詳しくは『こちら』)。
都心の本屋さんにはもう既に並んでいますが、一部の書店では1~2日遅れるかもしれません。
この本の『はじめに』と『末尾』の部分から抜粋してみます。
* * *
株などの金融資産を、塩漬けにしたままでいいのだろうか。
2008年の金融恐慌により、多くの個人投資家が傷ついた。
売るに売れず、多大な含み損を抱えたまま、持ち株や投資信託を塩漬けにしている人が多い。
「とりあえず、このままにしておこう。いずれは上がるだろうから」。
半ばあきらめの気持ちで放置しているのだろう。
しかし、本当に塩漬けにしたままでいいのだろうか。
本当にいずれは上がるのだろうか。
これから先、株の値段がもっと下がり、今の5分の1になってしまうとしたら・・。
そして元の値段に回復するまで、この先25年間もかかるとしたら・・。
今から80年前の世界大恐慌のとき。
株価は1929年10月の「暗黒の木曜日」以降、3週間かけて35%下落したが、実はその後、半年間かけて回復し、ほとんど元の水準まで戻している。
株価がよりいっそう悲惨な形でじりじりと下落を続けていくのは、翌年以降だ。
1930年から32年までの間に、大恐慌はより深刻なものになっていった。
3年の月日をかけて、株価はついには90%近く下落してしまう。
元のレベルに戻るのは1954年。その間に世界は、総数6,000万人もの死者を出したとされる第二次世界大戦を経験している。
1929年から数えると、戦争を挟んで、株価回復には25年間もかかってしまった。
塩漬けなどせずに、さっさと売ってしまったほうがずっと良かったのだ。
* * *
もちろん、80年前に起きたことと同じことがいま起きるとは限らない。人類はより賢くなっているに違いないからだ。
こんなジョークをアメリカの友人が教えてくれた。 ニューヨークで流行(はや)っているそうだ。
「金融恐慌から身を守るために、できることは3つある。
まず、スポーツジムの会員になること。次にコストコ(会員制の倉庫型店舗)の会員になること。次に、今のうちにローンを組んでクルマを手に入れること。
そうすれば最低限の生活はできる。ジムでシャワーを毎日無料で利用できて、体が洗える。コストコの試供品で腹が満たせる。
家を失っても、自動車があれば寝ぐらになる。金がなくても大丈夫さ」。
人間は「学習する動物」であるから、歴史に学んでいるはずだ。
しかし残念なことに、世界大恐慌のときと同じような光景が、今日の世界でも急速に広がり始めた。
アメリカでは、ホームレスの収容施設が、郊外の新興住宅地の周辺に広がりつつある。
「テントシティー(tent city)」と呼ばれるもので、そこには金網で囲まれた中にテントが立ち並んでいる。域内の掲示板には、ボランティアが行なう炊き出しの予定表と、教会への集会参加を呼びかけるビラが貼られている。
東京では2008年の暮れ、日比谷公園に「年越し派遣村」が出現した。
「テントシティー」も「派遣村」も、大恐慌のときのホームレスたちの光景とそっくりだ。
* * *
人類は80年前の大恐慌のような悲劇に突入していくのだろうか。
あるいはオバマ大統領の大胆な経済政策が奏功し危機は収斂していくのか。
オバマが行おうとしている多大な財政支出を伴う「手術」にアメリカ経済という「生体」が耐えられるかどうか。
今後の明暗はその一点にかかっている。
大規模な財政支出がドルに対する信認喪失に繋がってしまえば、いったんは回復したかに見える株価も、次のより大きな暴落へと繋がっていってしまうリスクがあるのだ。
何とかドルへの信認を維持させながら経済建て直しの施策を講じていけば、次のより大きな暴落に繋がることなく危機はやがて修復に向かうだろう。
そのどちらの道をたどるのか。
2009年が今後の歴史の分岐点となる。
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