トヨタ、ホンダ、キヤノン、日産の4社の平成20年3月末決算(キヤノンは平19年12月末)における税引前利益は次の通りです。
トヨタ 24,372億円
ホンダ 8,958億円
キヤノン 7,684億円
日産 7,680億円
議論の単純化のため法人税の実効税率(法人税、法人住民税、法人事業税)を40%として計算すると、4社の税金は
48,694億円×0.4=19,478億円。
一方、平成21年3月期(キヤノンについては平成21年12月期)に各社が予想する税引前利益は、
トヨタ ▲5,000億円
ホンダ 1,350億円
キヤノン 1,600億円
日産 ▲1,900億円
4社から見込まれる税収は、上記と同じ単純化したベースではトヨタ、日産はゼロとなり、ホンダ、キヤノンの合計で、
2,950億円×0.4=1,180億円。
4社だけで
1,180億円-19,478億円= ▲18,298億円となります。
今、騒がれている定額給付金の負担は約2兆円ですので、
4社からの税収減だけで、定額給付金を実行するのにほぼ等しいだけの税金が失われることになります。
更に加えて、例えば自動車会社の場合、彼らに原材料を供給している新日鐵、JFEなどの鉄鋼メーカー、あるいは自動車部品メーカー、プラスチック・メーカー、半導体メーカー、販売会社、輸送会社、船会社なども、自動車会社業況悪化の影響を受けてしまい、これらの会社からの税収減にもつながっていくという「負の波及効果」も無視出来ません。
ところで政府が昨年12月に策定した平成21年度予算では、一般会計の税収減を7.5兆円と見込んでいます。
しかし昨年12月以降に明らかになった企業の減益拡大も多く、はたして7.5兆円の税収減で本当に収まるのかどうかが懸念されます。
このままでは税金を納める側の法人や個人がやせ細ってしまい、財政再建がますます遠のいてしまうことになりかねません。
「豚は太らせて食え。税金を取る際もこの発想が重要だ」との話を聞いたことがあります。
オバマの景気対策で米国の今年度の財政赤字は1.6兆ドルの規模に膨らみ、対GDP比で11%程度に達する見込みであると言います。
日本の平成21年度予算の財政赤字は対GDP比4.0%。
日本の場合、純債務残高(単年度の赤字ではなくこれまでの累積)の対GDP比が諸外国より高く、米国のような思い切った対策は打ちづらい状況にありますが、現在政府が考えている対応策では、豚はますますやせ細ってしまうことが懸念されます。
例えば今論争の的となっている定額給付金。
多くの国民が疑問に思う(あるいは反対する)のは下記のポイントです。
①お金をかけて集めたお金(税金)を、またお金をかけて配るのは、コストがかかるだけ
②10年前に商品券(地域振興券)を貰った時も大したことがなかった
③1人1万2千円では効果がない
④数年後に増税となるのであれば意味が無い
⑤人々は使うのではなく貯蓄(もしくは借金の返済)に回すだろう
⑥やるなら定額減税や消費税減税の形でやって欲しい
要は、何のためにこれをやるのかが国民には分かりづらいということでしょう。
今必要なのは進みつつある「不況から恐慌への負のスパイラル」を止めることです。
その為には、①平成20年度予算1次補正、②2次補正、③平成21年度予算、さらに④追加の1次補正・・といった具合に対策を小出しに出すのではなく、大胆な対策を一気に講じてネガティブな空気を一掃させる必要があります。
例えば具体的な数字についてはいろいろ議論があるでしょうが、一つの案として、平成21年度予算に限ってのみ仮に対GDP比9%くらいの赤字を覚悟するとします(それでも米国の11%よりはずっと低い。)
すると現在の予算案に追加する形で、GDPの5%分、すなわち26兆円の支出(もしくは減税)が可能となります。(もちろん長期金利が上がってしまうといった弊害や、これだけの国債を消化させる方策について、別途考慮する必要が出てきますが。)
26兆円の対策をベースとすると、例えば消費税は全てゼロとすることが出来ます(平成21年度予算案における消費税収入見込みは10兆円)。
平成21年度に限って消費税をゼロとすれば(注:手続き的には大変なのでしょうが)、この機会にマンションを購入したりクルマを買う人も出てくるでしょう。
さらに26兆円-10兆円で、まだ16兆円ありますので、国民1人あたり約13万円。4人家族で約53万円。
これだけの金が実弾として所得税減税(もしくは負の所得税、給付金)の形で国民に行き渡れば、「恐慌への負のスパイラルに歯止めをかける」上で効果を上げるようになると思われます。
(もちろんセーフティ・ネットを充実させるとか年金問題解決への道筋を示すとかして、国民が持つ将来への不安を除去していくことも重要です。そうでないと消費が適切に喚起されません。)
繰り返しますが、税金を納める側にある企業や個人がどんどんやせ細っていく現状を変えない限り、財政再建への道のりさえもますます遠のいてしまいます。
「金融政策の方が効果的だろう」とか、「大きな政府にしてしまっていいのか」という問題は確かにあります。(私は基本的には小さくて賢い政府が良いと思っています。)
しかし今年に限っては、このままではいけない。「何とかしなくては」という現実が目の前に広がり、しかもどんどんと深刻化していっているのです。