中小企業緊急雇用安定助成金
最近「危機はチャンス」といった論調をよく目にするが、今何が起きているか分かっていない学者や評論家の言葉であることが多い。
日本の経済を下支えしている中堅・中小企業の現場で起きているのは、倒産が目の前に迫って経営者の頭の中に「自殺」という言葉さえよぎるという、壮絶な現実だ。
私は職業柄、経営コンサルタントとして中堅・中小の経営者と日常接している。また最近の金融危機に関し本を書いたこともあって、中小企業の経営者たちが集まる「少人数の勉強会」に呼ばれて意見を交換する機会も多い。
聴衆が100名を超えるような講演会での講師は会話が一方的になるだけなので、私としては講演をお断りしているが、参加者5~6名の勉強会は参加者全員が本音をぶつけ合うので、誘われればスケジュールの都合がつく限り参加している。
守秘義務に反しないように注意しながら1~2社の例を書いてみたい。
いま日本の製造業の現場で何が起きているか、マスコミがあまり報じていないからだ(日経新聞は大企業と役所の話が多く、朝日は派遣切りされた人を社会部の視点で報じることが多い)。
「日本は‘もの作り’が大切だ」と説いている評論家の方にも、いま現場で実際に起きていることを知って頂きたいと思う。以下のA社は世界に誇れる技術をもった会社だ。
(1)中小企業A社社長の話。
「うちの会社の売上は昨年度は前年の21.2億円から15.8億円へと約25%も減少したが、今年度の売上は9億円に届かないかもしれない。売上が従来比6割減となる可能性が高い。
こんなことは、もちろん今までに一度も経験したことが無かった。
昨年11月より単月ベースで、売上利益が赤字となった。
経費削減を徹底的に進め、損益分岐点を月次ベース売上1.2億円から半分の6千万円までに落とすことができたが、売上減少のペースの方が速く、今月の売上は4千万円にも届かない見通し。
従業員数は1年前は103名だったが今は69名。派遣社員は契約期限が満了するたびに更改出来なかったので、今では派遣社員はゼロ。
正社員についても、このまま給料を払い続けることはもはや出来なくなることから、中小企業緊急雇用安定助成金の申請を考えている。
ハローワークに行って詳細を聞いてきた。
提出しなければならない資料は膨大だが、会社として生き残る為には、そんなことは言っていられない。
ハローワークで話を聞いてみると、国としても、この制度の運用については随分柔軟に対応してくれそうなので何とかこれを利用出来そうだ。
ただ申請の殺到が見込まれていて、今すぐ申請してもいつ資金が受給出来るようになるか分からない。場合によっては半年先になるかもしれないとの噂も耳にした。」
(2)中堅企業B社社長の話。
「うちは売上50億円、経常利益1.2億円でやってきた。銀行借り入れは3行から2億弱づつ合計5億円。何れも期間1年の借入れだが、従来は毎月約定弁済を進め、期限に返し終わると、銀行は同額を貸してくれていた。
それが昨年の春頃から銀行の対応が一変した。
借り換えを一切認めてくれなくなった。
経常利益1.2億円の会社である当社が半分税金を払って借金返済に回せるのは年間6千万円。借り換え・折り返しゼロと言われると一気に資金が回らなくなる。
なんとか資金繰りに奔走してきたが昨年秋以降、本業も悪化してきて売上も減り始めた。
銀行はリーマンショックを見越して昨年春先から厳しくなったのだろうか。銀行からの借金は麻薬みたいなものだ。そもそも、うちは無借金でも十分やっていけた。それがいつの間にか銀行に勧められるまま借金をし、必ずしも必要でなかったシステム投資を行い、借金を前提とした資金繰りへと変わってしまった。
メガバンクから借金できるというのは一種のステータスだと、巧みな言葉に乗せられてしまった自分がいけなかった。全て自分の責任だ。悔やんでも悔やみきれない。」
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コメント
毎回、勉強させて頂いております。
先生の綴られている中でも今回は特に衝撃でした。
恐らく、誰しもが認識しているにも拘らず、
この様な具体的な指摘を恐れていたのかも知れません。
評論家以外は指摘と共に打開策を提示する事が、
ある種の義務だと思いますが、
この様な生の声から何を感じれば良いのか。
誰かが誰かの助力になる事は出来るとしても、
根本的な解決に於いては絶望すら感じています。
冒頭、他者の講演会にも振れられておりますが、
先生が講演をされるのであれば、
是非この様なテーマで開催をして頂けましたらと思います。
投稿: AH | 2009年2月21日 (土) 01時15分