ゼロ金利下での毎月分配型投資信託
『金融恐慌後のサバイバルマネー術』という本を新しく出しました。
世の中には数多くの『マネー本』が出ており、そういった本を読まれている読者からは、この本は批判を受けるかもしれません。
はっきりとした結論が書いていないからです。
この本を書くにあたっては私も『マネー本』を30冊くらい買って読みました(実にたくさん出ています。)
今、出ているマネー本は4種類ぐらいに分類されます。
(1)恐慌です。金(ゴールド)を買いなさい。商品(コモディティ)に投資しなさい。
(2)日本企業の潜在力は凄い。今こそ日本株です。
(3)長期投資です。地域的にも分散投資して長期保有しなさい。
(4)インデックス投資です。株価指数連動型のETFを買いなさい。
本を読む人にとっては答えを言ってもらえると安心出来ます。
しかしガイトナー財務長官が策定した不良資産買取策が上手く機能しなかったらどうなるんだろう。。。アメリカは議員達がAIGの幹部たちに対して、「辞めるか、自殺しろ」と公然と言うような政治風土にあります。理論やロジックが常に優先するわけではありません。
長期投資の神様、ウォーレン・バフェットでさえ昨年1年間で個人資産を4割も減らしています。
それにあなたが今もし60歳で、株式市場が回復するのに何年もかかるとしたら、長期投資にどれだけの意味があるのでしょうか。
インデックス投資についても全く同じことが言えます。現金に投資するよりも、インデックスの方が有利と断言できるのかどうか。株価が回復しなければ(今後下落するのであれば)、インデックス投資など(今のタイミングで)しない方がよいと言えます。
そんなことをいろいろ考えていくと、安直な答えは見つからなくなってしまいます。したがって上記の本は、マニュアル本のような手引き書でもなく、答えが書いてあるわけでもありません。
その代わり、我々が見落としてしまっているかもしれない、「投資を考える上でのポイント」を出来るだけたくさん盛り込みました。
例えば、日本で最も多く売れている投資信託といえば、毎月分配型のグローバル・ソブリン・オープン(通称「グロソブ」)です。
このファンドが商品設計された1997年頃は、日本はバブル崩壊後の劣悪な経済環境下にあり、99年、速水日銀総裁は、短期金利の指標である無担保コール翌日物金利について「ゼロでもよい」と発言。一方、世界の主要先進国の金利は当時それほどまでには下がっていませんでした。
つまりグロソブは、金利と為替の裁定(下記注参照)が、現実の世界では理論どおり完全には働いていない(為替を決めるのは金利差だけではない)という状況下にあって、日本と海外との金利差を利用して、より高い運用パフォーマンスを上げることを狙った商品でした。
それが今ではどうでしょう。
アメリカは実質ゼロ金利、イギリスは0.5%です。
海外先進諸国も日本と同じようにゼロ金利近くになってしまった状況下で、どうやって毎月の分配金を捻出するのでしょうか。。。
(私はグロソブを批判しているわけではありません。むしろグロソブはファンド・オブ・ザ・イヤー2008(モーニングスター社)に選ばれたことからも分かるように、この分野では評価の高いファンドだと思います。
ただやはり海外先進諸国も日本と同じようにゼロ金利近くになってしまった現況下で、
1.3%を超える信託報酬を毎年取られた上で、どうやって毎月分配の原資を捻出し続けるのか―その辺のところが不明です。
仮に自分で自分の尻尾を食べるとした場合、毎月の分配金に税金がかかる人にはその税金の分と、更に加えて毎年の信託報酬の分だけ損します。)
本書は、こういった、現時点で運用や投資を考える上での幾つかの「ポイント」を集めてみたものです。
英語で言う 「Food for thought」。
もっとも出来上がった本を読み返してみますと、同じ Food for thought を提供するにしても、「日本の会席料理やフランス料理のように、もう少し体系立てて提示した方が分かりやすかったのかな」というのが反省点です。
(しかし体系や体裁にこだわってしまうと時間がたって内容がどんどん陳腐化してしまいます。それだけ今という時代が激動の渦にあるものですので・・。)
【注:金利と為替の裁定】
ドル金利が年5%、円金利が年0%だとして、現時点で1ドルが100円の場合、仮に金利差だけで1年後の為替が決まる場合には、次に示すように1年後には1ドル=95.24円となる。
(ドルで運用)
100円=1ドル 《1年後》 1.05ドル
(円で運用)
100円 《1年後》 100円
《1年後の為替レート》
1.05ドル=100円
1ドル=95.24円
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2007年1月に 『円キャリートレード』 と題して下記4つの記事を書きました。これらも参考になるかもしれません。