『23andMe』というの名の会社があります(『こちら』をクリックしてください)。
日本語に訳すと『23と私』となりますが、なぜ『23』なのでしょうか。
実は23というのはヒトの染色体の対の数なんですね。
米国のタイムという雑誌は毎年その年で最も優れた発明(Time's Best Invention)を発表していますが、2008年度でトップ(詳しくは『こちら』)に選ばれたのが、この会社が提供するサービスです。
(ちなみにこの年の2位はテスラの電気自動車で、第3位がNASAの月探査衛星Lunar Reconnaissance Orbiter でした)。
さて『23andMe』という会社は何をする会社なのでしょうか。
ひとことで言うと、オンライン上の遺伝子診断サービス会社です。
自分の遺伝子情報を知りたいと思う人は、この会社のサイトに行きクリックをすることでサービスを申し込みます(料金は399ドル。日本円で約4万円です)。
(注)現在この会社はアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、中近東(イスラエル)、アジア(シンガポール)など世界50数カ国からの申し込みを受け付けていますが、日本からの申し込みはまだ受け付けていません。
オンライン上での申し込みが終了すると間もなくして会社から診断キットが送られてきます。中には試験管が同封されていますので、試験管に唾液を入れて会社に送り返します。すると数週間後に遺伝子の診断結果が送り返されてくるといった流れになります。
実際にサービスを受けた人の日本語のブログがあります(↓)ので覘いてみてください(但し少し前のブログなので価格が1000ドルの時のものです。今では399ドルです)。
『DNA検査結果のブログ』(←こちら)
具体的にどの程度のことを診断してくれて、何が分かるのかについては、上記のタイム誌が1ページの大きなイラスト図にまとめていますので、『こちら』をご覧下さい。
例えば、あなたはアルコールを飲むと顔が赤くなりやすいとか、逆に赤くなりにくいといった情報のほか、30歳ぐらいで頭の毛が薄くなる傾向があるとか、50歳ぐらいで糖尿病になる確率、癌にかかるとしたら、どこの部位に気をつけなくてはならないか、などなど・・。
2008年11月10日のタイム誌の記事によると、記者が23andMeの創業者(共同創業者の一人)Anne Wojcickiにインタビューした時、彼女は妊娠中で年末にも出産の予定でした。
『私のまだ生れていない息子はパーキンソン病になる高い危険性を50%の確率で遺伝的に受け継ぐことになります』
このように創業者のAnne Wojcickiは記者に語りました。
実は遺伝子情報を調べて知らせてくれる会社は他にもあります(日本でも一部のクリニックで同様のサービスを受けられるといった話を耳にしました。)
しかし23andMeのように、安価に、手軽に、そして広範な範囲にわたって、信頼性の高いテスト結果を提供してくれる会社は他にはなかなか見当たりません。
さて、この会社はまだ未上場で財務データなど明らかではないため、これから先は私の推測になります。
おそらく当社は399ドルの診断料で儲けようとしているのではない・・399ドルというのはほぼコストに見合う金額なのではないでしょうか。このように私には思えるのです。
極めて安価にこのサービスを提供することにより、会社はたくさんの人々から遺伝子情報をまず集めてしまう。
一人ひとりの遺伝子情報はプライバシーに係わるデータですが、たくさんの人々のマス(大数)としての遺伝子情報データはプライバシーの制約から外れ、これを例えば新薬の開発、薬の副作用の研究などに利用したいという全世界の製薬会社に売却することが出来るかもしれません。
グーグルが最初に登場したとき、彼らは極めて質の高い検索サービスを無料で提供しました。これまでは有料であったメール・ソフト、表計算ソフト、文章作成ソフトなども無料化しました。そして多くの人々にグーグルのサービスを利用させることにより、(その先で)例えば検索結果に基づくターゲット広告の分野で、収益を得るビジネスを確立しました。
いろいろな人にまず利用してもらって、多くの人のデータを集めて、それを収益化することを考える。
23andMeのアプローチはなんとなくグーグル的です。
実はこの会社の資本金は約8億9千万円($8.9million)。このうち約半分を出資しているのはグーグルです。
23andMeの創業者(の内の一人)Anne Wojcickiは、エール大学(Yale Univ.)で生物学を学んだ後、バイオテクノロジーの会社などを対象としたベンチャーキャピタル投資の業務に10年間従事しました。そして23andMeをもう一人の創業者Linda Aveyと共に立ち上げたのです。
そう言えば、グーグルを立ち上げたのも2人の共同創業者(セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ)でした。
もうひとつ。
23andMeの創業者Anne Wojcickiはグーグルの創業者セルゲイ・ブリンと結婚していて、二人は夫婦の関係にあります。
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話は少し変わりますがリーマンショックのあった2008年1年間を通じて日経平均は4割下落し、ダウ平均は3割下落しました。
実は1973年10月から翌年1974年10月までの1年間でダウ平均株価は4割下落しています(オイル・ショックです)。
そしてこの時の不況のなかで新しいビジネスの胎動が起きました (1975年マイクロソフト創業、1976年アップル創業)。
いままたアメリカで 23andMe のような会社が羽ばたこうとしています。日本もがんばらないと・・・。