EU大統領の選出
明日9日にはベルリンで、ベルリンの壁崩壊20周年記念式典が開かれます。
この式典にはEU首脳が集まり、そこでEU大統領の人選について踏み込んだ議論がなされる見込みとのことです。
今日の朝日新聞は、英国のブレア前首相が選ばれる可能性は無くなったと報じ、日経もファンロンパウ・ベルギー首相ら中小国からの起用が有力と述べています(『こちら』)。
このEU大統領というのは、正式には欧州理事会常任議長と言って、EU(欧州連合)の新しい基本条約(リスボン条約)で新設されるポストです。
リスボン条約は、これまでEU加盟国で唯一、チェコだけが未批准でした。
しかし11月3日、チェコのクラウス大統領が批准書に署名、新条約は12月1日に発効します。
これに先立ち、今週中(10日か12日)に、EU臨時首脳会議が開催され、大統領が選出される予定です。
リスボン条約によって、EUの機能は大幅に強化されます。
今日発売された日経ヴェリタスには、ドラロジェール元IMF専務理事とのインタビューが載っていますが、氏は次のように述べています。
『リスボン条約はEUの運営で大きな進展だ。
全員一致ではなく過半数で決定できる事項が増え、意思決定は迅速になるだろう。
EU議長の仕組みももっと安定する。
将来を展望すると、中欧などでさらに多くの国がユーロに参加するだろう』
現在EUの参加国は27ヶ国(ベルリンの壁崩壊時は12ヶ国でした)。
一方、統一通貨ユーロの加盟国は16ヶ国(発足当初は11ヶ国)。
で、そのユーロですが、リーマン・ショック後、価値が下落しましたが、最近また盛り返してきています(上が対円、下が対ドルのグラフ)。
いまや世界各国の外貨準備に占めるユーロの比率は27%。一方、ドルは99年には7割を超えましたが、いまは63%にまで低下してきたといいます(日経ヴェリタス紙)。
* * *
ところで、話はそれますが、ユーロ誕生を巡る欧州各国の駆け引きが面白く記されているのが、滝田洋一著『通貨を読む』。
この本によると、90年3月の東独人民議会選挙でコール首相は1対1の交換比率での東西マルク統一を約束し、東独市民の圧倒的支持を集めたといいます。
『東西のマルクの実勢は4対1または5対1とされていた・・だけに、東独市民が保有財産の目減りを回避できたことを喜んだのはうなずける』(『通貨を読む』149頁)
このときドイツ統一を警戒したのは英国のサッチャー首相で、 『コールは「フランスによるドイツ統一支持」を求める見返りに、「マルクを捨てユーロに加わる」ことを呑んだ』(『通貨を読む』150頁)とのことです。
滝田さんの『通貨を読む』を読むと、ヨーロッパ各国にしろ、米国にしろ、中国にしろ、非常に戦略的に考えて通貨政策を取ってきたことが分かります。
それに引き換え、日本は財務省(大蔵省)の財務官や日銀が確たる国家戦略なしにその場しのぎの対応をしてきた(あるいはサマーズの電話一つでAMF構想を諦めるという対応をしてきた)・・・滝田さんはジャーナリストとしてこれからも財務省、日銀から取材をせざるをない立場なのでしょうから、このようにはっきりとは書いていませんが、この本を読むと、どうしてもそのような感想を持ってしまいます。
過去20年間が日本にとって失われた20年であったというのも、通貨政策やBIS規制などの面で、『欧米にいいようにやられてしまったからだ』と思えてくるのです。
EU大統領選出の話から随分とそれてしまいましたが、今、日本に求められるのは、国際政治や経済の舞台で欧米を相手に通用する『したたかな国家戦略』であるように思います。
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