親子上場の問題 (その2)
マンガーさんから親子上場の問題に関するコメントを頂きました(『こちら』)ので、ご質問に対する答えを含め、もう少しこの問題を考えてみたいと思います。
親子上場の問題点としては、先ほどのエントリー記事『その1』で記したような例が起こり得ることのほかに、親子間での取引条件が親に有利なように設定されてしまう恐れがあるということが挙げられます(交易条件の変更)。
具体例を挙げてお話します。
10年ほど前の例ですが、東燃という会社がありました(現在の東燃ゼネラル石油)。
この会社の幹部の方に、私は、『上場しているのはおかしいのではないか』と疑問を呈したことがあります。
当時、東燃の業務の中核は、親会社であるエクソン・モービルから原油を輸入して、これを精製する、
そして、その結果得たガソリンやエンジン・オイルを、再び親会社であるエクソン・モービル系のガソリンスタンドに販売するというものでした。
もちろん親会社以外からの原料の調達もあったでしょうし、販売の方も親会社以外に販売するケースもあったと記憶していますが、少なくとも、『原料の調達先と製品の販売先』という上流と下流のかなりの部分を親会社が占めていたのです。
このような状況下で本当にフェアな価格で原料が購入されて、製品が販売されるのか。
子会社である東燃に収益を落とさずに、親会社であるエクソン・モービルに利益が収奪されてしまうようなことがあり得るのではないか。
当時私はこのような疑問を東燃幹部の方に提示したのでした。
一般に親会社と子会社の間では、商取引が行われていることが多く、親子上場の場合には、両社間の商取引がフェアな条件で行われているかどうか、このことが問題となると思います。
次に、海外では親子上場が行われているかどうかですが、少し前までは欧米でも親子上場は結構ありました。
GMが親会社で、子会社のEDS、GMAC、Hughes Aircraftなども上場していたと記憶しています。
しかし今では、東証の斉藤社長によると、親子上場はアメリカでは『かなり少ない。ゼロではありませんけれど、・・余りない』とのこと(詳しくは『こちら』)。
これに対して日本では東証の上場会社のうち上場子会社が13.5%も占めている(平成19年東証『上場制度整備懇談会中間報告』。詳しくは『こちら』)といいます。
ところで、少数株主の利益が十分な形で保護されず大株主にいいようにやられてしまう恐れがあるというのは、何も親子上場に限った話ではありません。
牛角(レックスホールディング)やサンスターなどで行われたMBO。
大株主である創業社長が株価が低くなったところでTOBをかけて、少数株主をSqueeze out しようとしました(minority squeeze out)。
これらの案件では裁判にまでなっていますが、これについては拙著で書いたので、ここでは
『少数株主の利益が侵害されうるのは親子上場に限った話ではない』
と述べるに留めておきます。
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コメント
はじめまして、いつも楽しみにブログを拝見しております。
親子上場の記事を読むと、問題になるのは親子間取引において、利益の配分がどのように行われているかであり、大株主による取引価格の調整等を通じて、少数株主(取引に影響を与えることが困難な立場の者)の不利益に働く可能性があることを指摘されているのだと思います。
ご存知かもしれませんが、本件を別な視点で見ると、移転価格税制が考えられると思います。この税制では、国外にある関連者(出資比率50%以上)との取引が対象であり、親子共に日本国内にあるような場合(※他国の場合は対象となる場合があります)はその対象にはなりませんが、(親子関係を含む)関連者間取引における利益の配分状況が焦点となります。
補足しますと、強い影響力のある側(親会社)がその影響力を用いて、税率の低い国にある会社(子会社等)に利益を集中させることにより、税金の支払いを抑えようとします。税収の減る国の税務当局がこの点を指摘し、当該取引における適正な利益が自国にもたらされるように指導し、場合によっては訴訟に発展する場合もあります。
この行為は、一企業の国単位における利益配分が問題になるものの、資本関係のある企業間における取引という意味では共通点があると思います。また、考えた方によっては、移転価格税制が少数株主の利益を守る可能性があるのではないかと考えます。なぜならば、資本関係上優位にある者の影響力を抑制する形に動くからです。
普段、税務の面から考えることが多いのですが、少数株主という視点が新鮮に感じので、コメントさせて頂きました。
投稿: 船長 | 2009年11月 6日 (金) 02時02分
船長様
コメント有り難うございます。確かに実際には移転価格税制面からの抑制が働いていると思います。
親会社として、上場子会社との間で設定する取引条件には、税務当局から問題視されないよう配慮する必要があり、現実に、この面から公平が図られていることが多いように思います。
特に最近では国税当局は相手が大企業であっても(仮に米国のオイル・メジャーであっても)強い姿勢でこの種の問題に対峙してきているように感じます。
少数株主は3%の株を持たないことには帳簿閲覧権さえないのに比べて、税務当局には調査権がありますので、実際には、より強い抑止になっているものと思われます。
投稿: 岩崎 | 2009年11月 6日 (金) 06時51分
岩崎さん
再び、エントリーを作って回答していただきましてありがとうございます。
私のように知識がない人間にとっては、具体的な企業例がありますと、非常に分かりやすくて助かります。
子会社は親会社にとって本当に都合のいい道具ですね。
東燃の長期チャートを見たのですが、96年から2000年の部分だけをみても株価が6分の1以下になっていますね。
価格の決定権が親側に強いというのは、子会社にとってはマイナスですね。
海外の親子上のデーター15年以上前のデーターでしたが、参考になりました。
ドイツ64.2%、イタリア56.1%とすごい多いんですね。
上場してキャピタルゲインを得てわずか数年で公募価格より低い価格で買い占めて非上場は、初期の投資家はやるせないです。
大企業のサラリーマン社長ならいざ知らず、レックスなんかは創業社長で、社長の人間性を信じて投資したひとも多いでしょうから。少数株主は人の見る目がなかったと諦めて次は気をつけようと諦めるしかないのですかね。
投稿: マンガー | 2009年11月 6日 (金) 10時34分
マンガー様
親子上場の問題はこのほかにもあります。
例えば、親会社の意向で子会社の社長人事が決められてしまう。いわゆる天下りですが、その結果、ベストな人材(たとえば生え抜きの人)が経営に従事できないといったことも起こり得ます。子会社の少数株主の意向はなかなか反映されません。
投稿: 岩崎 | 2009年11月 6日 (金) 13時46分