『死ぬ前にどう生きるか』 (その5)
Steve Jobs のスピーチ。 前回からの続き(第5回)です。
* * *
主治医は私に、家に帰ってやるべきことをきちんと片付けるよう、助言した。
これは医師の世界では「死への支度をしろ」という意味の言葉だ。
それは自分の子どもたちに今後10年間の間に言っておこうと思っていたことを、今後たった数ヶ月間で全て伝えきるということだ。
それは自分の家族が出来るだけ楽になるよう全てを整えるということだ。
そしてそれは「さよなら」を言うということだ。
私はその診断結果をまる一日抱えて過ごした。
その日の晩、私は生体組織検査を受けた。喉から内視鏡を入れて胃を通過させて腸内に入り込ませた。そしてすい臓に針を入れ、腫瘍から細胞を幾つか採取したんだ。
私は鎮静剤を与えられていたのだが、妻はその場にいて、後でその時の状況を私に話してくれた。医師たちが顕微鏡で採取した細胞をのぞいたとき彼らは泣き出したという。
私の癌は、すい臓癌としては極めて稀なタイプのもので手術で治せるものだ、そう分かったからだ。
私は手術を受け、今はこうして元気でいる。
これは私が生きてきた中で最も死に近づいた出来事だ。そしてあと数十年は、この時の出来事こそが最も死に近づいた出来事だ、そういう状態であり続けて欲しい。
以前の私にとって死は役に立つ概念ではあったが頭の中での概念に過ぎなかった。しかし実際に死に近づくことを経験したからこそ、私は確信を持ってこう言える。
誰も死にたくはない。
天国に行きたいと願っている人ですら、そこに行くために死にたいとは思わない。
しかし死は我々誰もが共有する終着点だ。
そこから逃れられた人はこれまでに誰一人としていない。
そしてそれは、そうあるべきことなのだ。
というのは死はおそらく生が生んだ唯一の最高の発明品だからだ。
それは生の変更代理人(チェンジ・エージェント)だ。
それは古いものを一掃して新しいものが登場するための道を作ってくれる。
今、新しいものと言ったら、それはこのスピーチを聞いているあなたたち卒業生のことだ。
しかしいつか遠くない将来、あなたたちもやがて年を取り、一掃されることになる。
劇的な話で申し訳ないが、これが事実なんだ。
* * *
続きは次回にします。
【注】Jobs のこのスピーチは、2005年のものです。前年の2004年にすい臓癌を患い手術をした後、2006年8月、アップル社主催の世界ソフトウェア開発者会議に Steve Jobs は、げっそりとやせた姿で現れました。そして彼の健康問題に関して数々の憶測が飛びかいました(詳しくは『こちら』)。
2009年1月、Jobs は、6ヶ月間会社を休み健康問題に専念すると発表。同年4月彼は肝臓移植の手術を受け、同年6月にアップルのCEOとして会社に復帰。同年9月、ニューヨーク・タイムス紙は復帰後のJobs とのインタビュー記事を報道しました(詳しくは『こちら』)。
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