リーマン破綻の内幕
今からほぼ1年前の2009年3月下旬。
テレビ東京報道局のプロデューサーAさんがオフィスに訪ねてきました。
Aさんいわく、
『テレビ東京では「ルビコンの決断」という経済ドキュメンタリー・ドラマを新しく始めます。女優の木村佳乃さんが経済報道番組に初めてレギュラー出演します。シリーズ2回目の放送ではリーマン破綻を扱ったドラマを放映する予定。そこにゲスト出演して頂けませんか』
とのことでした。
私がリーマンに勤めていたのは2003年までで、当時でさえ辞めてから6年も経っていました。
『私よりももっと適任者がいると思います。例えば日本法人の社長だった桂木さんにお願いしてみたらどうですか』
『実は岩崎さんにお願いに来る前に桂木さんに出演の依頼をしました。しかし桂木さんには「日本法人の民事再生手続きがまだ全て完了したわけではない」、ということで断られました』
『私がお断りしたらどうするのですか』
『かつてリーマンに在籍していたBさんにお願いするつもりです』
Bさんが出演するとなると番組は偏ったものになるかもしれない・・・。それでなくても当時のマスコミでは、「世界を潰したのは強欲な投資銀行だ」とか「リーマンは二流だから最近特に焦って危ないビジネスを手がけて失敗した」といった、ある一面だけを強調した、表面的で単純な論調が盛んでした。
『経済報道番組としてフェアに報道して頂けるのであれば出演します。ドラマの脚本を事前に見せて頂き、もし間違ったところがあれば指摘させて頂きますので直してください』
『分りました。桂木さんにも脚本に目を通してもらうつもりです』
* * * *
こうして出来上がった「ルビコンの決断」(リーマン破たん 最後の50時間)は、当時放映されたNHKスペシャルなどの類似番組に比べて、内容的にフェアで偏りのないものであったと思います(NHKスペシャルが相当お粗末だったことは『こちら』に書きました)。
ただ番組で私が語ることが出来たのは投資銀行全般についてであり、破綻時のリーマンの内幕については伝聞をベースとしたものしかお話できませんでした。
私ではなくて桂木さんがゲスト出演出来ていれば、間違いなく、もっと興味深い番組に仕上がっていたはずです。
* * * *
さてその桂木さんがリーマン破綻の内幕を綴った本を出版しました。
当時の経営幹部であったからこそ語れる、そして(恐らくは)今だからこそ語れる、数々の秘話・エピソードが綴られています。
本書は第1章から第8章まで、8つの章で構成されていますが、特に前半部分(第1章から第4章まで)は、非常に読み応えがありました。
実は桂木さんと私とは興銀同期入社。高校時代ともにAFSで留学し(桂木氏は第17期、私は18期)、興銀入社後1年3ヶ月で米国の大学院に留学したのも同じ。
ただ興銀を辞めて外資に転出したのは彼の方が私よりもちょうど10年早く、1988年。(この時、私はまだ興銀の審査部にいました)。
* * * *
リーマンの破綻は世界中の人々の生活に深い傷跡を残しました。
『バーナンキ議長とポールソン財務長官の仕事ぶりに成績をつけるとしたら、バーナンキは A。 間違いなく A (“Solid A”) だ。
一方、ポールソンには、B か B- しか与えられない。なぜなら彼はリーマン破綻に伴うコラテラル・ダメージ(付随する損害)を誤算したからだ』(拙著『リーマン恐慌』5頁)
リーマン破綻を振り返る時、このように語ったスタンフォード大学ウルフソン教授の言葉が改めて思い出されます。
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