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2010年7月28日 (水)

夏休みの読書

このところ、土、日は、ある独立行政法人の契約審議委員会や選定委員会の委員の仕事で、膨大な量の提案書を読むことになったり、

あるいは大阪経済大学の講義で大阪を往復したりで、何かとせわしかったのですが、ようやく先週末あたりから腰を据えて本を読めるようになりました。

* * *

ヘッジホッグ―アブない金融錬金術師たち 

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著者のバートン・ビッグスは1973年にモルガンスタンレーのパートナーとして迎い入れられ、同社の持分3%を30万ドルで与えられます(ビッグスはモルスタに30万ドルを支払ってモルスタの3%を保有するパートナーとなる)。

この時のビッグスは40歳。

当時のモルガンスタンレーはパートナー27名、社員255人、資本金1000万ドルの会社でした。

翌74年にはパートナーであっても海外出張時の航空券は格安のツーリストチケットを使うことが決められます。

そんな時代を生き抜いて、ビッグスはモルガンスタンレーのチーフ・ストラジストとなり、その後、名声を欲しいままにします。

2003年までモルスタに在籍していたので、このブログの読者の方の中には「彼と会った」という方もいると思います。

彼は Instituional Investor 誌の "All-American Research Team" に10回選ばれ、1996年から2000年まで同誌の"Investor Global Research Team Poll"で、トップ・グローバル・ストラジストに選出されました。

CNBCテレビにも数多く出演してきた著名人である彼は、自らも巨万の富を築き、英国の元首相サッチャー夫人とともにタイガー・マネジメントの取締役に名を連ねるなど、社会的にも尊敬される地位にありました。

彼には、通常でいけば引退後は「悠々自適」、と言うよりは、それ以上にはるかに「優雅な生活」が約束されていました。

にもかかわらず、彼は70歳にしてモルガンスタンレーを退社して、自らヘッジファンドを立ち上げることを決意します。

そして全米各地の機関投資家を足しげく回り、自分の孫のような年の担当者を相手に、来る日も来る日もプレゼンをして、資金集めに奔走します。何人もの機関投資家や富裕層に断られながら・・。

2003年6月、必死の努力をしてかき集めた2億7000万ドルと、モルガンスタンレーの出資、そしてビッグス自身の資金を足し合わせて、総額3億9000万ドルでファンドはスタートします。

「オフィスはワン・ロックフェラー・プラザの4階の仮住まいである。友だちのジョン・レヴィンから借りた。

薄暗く、薄汚く、粗末で古い空間だ。会議室の絨毯がかび臭くて、行くたびに咳が出た。しかし・・・窓はちゃんと開けられて、広場で演奏するバンドの音楽や歌手の歌声が聞こえてくる。

高層ビルの密閉された無菌のオフィス環境で長年過ごした身には、新鮮な空気と通りの騒音がとても気持ちよかった」

ファンド立ち上げからまだ1年も立っていない2004年5月。

彼は1バレル40ドルで原油を空売りします。

複雑な原油価格回帰モデルを構築し、適正価格を32.48ドルと算出。彼は原油価格は下落していくだろうと考えたのです。そして約1ヵ月後の 6月30日には原油価格は36ドルまで下落するのですが、その約2ヵ月後の8月19日には原油価格は48ドルとなります。

ニューヨークタイムズは、ビッグスの写真を載せて、彼のファンドが石油の空売りで大損しているとの記事を掲載します。

はたして彼は30年もかけて築いてきた富と名声、社会的地位を、70歳で始めたヘッジファンドという「新たな冒険」で失ってしまうのでしょうか。(本書をお読みになればその後のいきさつが分ります)。

なお本書ではビッグス以外の登場人物の多くは名前を変えたり、場所や日付を変えたりして出てきます。そうすることで、かえって「事実を多く書ける」といった意味合いもあるのだと思います。

しかし訳者もあとがきで書いているように、業界関係者であれば、仮名の誰が、現実には誰のことなのか、多くの場合、見当がついてしまうかもしれません。

例えば本書では「ヘッジファンド業界では本物の伝説に残るべき人」と書かれた「ティム」。

著者の描写では次のように書かれています。

「細身で黒い髪、ハンサムで、年は55くらいだろうか・・・ティムは、緑の多いロンドン郊外にあるアンティークの家具とすばらしい東洋の敷物と陶磁器で飾られた、静かで広いオフィスで働いている。他には秘書が一人いるだけだ。

運用資産は10億ドルを超えていると思うが、おそらくそのうち半分は彼自身のものだろう。

ティムのやり口は・・大きなレバレッジをかけ、集中投資を行い、組織は持たない。彼並みのレバレッジを利用としようと思ったら、鋼鉄のワイヤーを紡いだ神経と大きな自信が必要だ。

ティムは・・言っている。『・・パートナーがいても何の助けにもならない。結局、売るか買うかの判断は真夜中に一人でやらないといけないんだから。』」

年齢や髪の毛の色は少々違いますが、この「ティム」が誰なのか、業界の方であれば見当がつくと思います。(私のブログや著書にも登場してくる人物です)。

この本が書かれたのはリーマンショック前の2005年12月。

しかしこの本に登場する「ヴィンス」はこう述べています。

「株式市場はもっと下がるさ。まだぜんぜん高すぎるからな。

アメリカ経済は何年も停滞するだろうよ。債務は多すぎ、貯蓄は少なすぎ、定年後の蓄えは不十分。

次の大災害は住宅用不動産だな。

みんな短期で借りて長期で投資、変動金利の住宅ローンに借り替えているやつが多いだろ。短期金利が上がれば、借金の利払いは上がるわ住宅価格は下がるわってことになる。

資産効果と可処分所得の減少のダブルパンチだ。文明の消滅、衰退の始まり、アメリカ帝国の没落だ」

「ヴィンス」のこの発言は2004年夏。S&P500の株価指数が1070~1110の時でした。

この時、彼はこのようにも発言しています。

「高級不動産はみんな暴落だ。金融バブルがはじけた後は、あらゆる種類の金融資産がみんな消えてなくなるんだ。3年以内にアメリカは不況、S&P500は500ポイントになるぞ」

ヴィンスのこの予言は少しだけ外れて、「3年以内」ではなくて、4年後の2008年9月15日にリーマンブラザーズが破綻。株価は同年11月20日、S&P500が752ポイントにまで落ち込みます。

この本のもうひとつの特徴は著者ビッグスの金融に関する圧倒的な知識や教養を垣間見ることが出来る点です。

例えばビスマルクとブライヒレーダーの話。

1859年、後に鉄血宰相の異名を持つことになるドイツのビスマルク(当時44歳)は、ブライヒレーダーというユダヤ人(37歳)を彼の投資アドバイザーに任じます。

この時ビスマルクはプロイセン国会の下院議員を経て外交官として活躍していました。

19世紀のドイツでは、ビスマルクのようなプロシアの貴族が、ブライヒレーダーのようなユダヤ人を「魔法の道具のようなもの」として雇うのが一般的だったといいます。以下は本書からの引用。

「ビスマルクは、ブライヒレーダーには「投資に対するある種の臆病さ」があると言った・・ブライヒレーダーはお客に、自分は長期的に年4%の実質(つまり物価調整後)リターンを目指す運用をすると言っている・・つまり彼は自重したからこそ大金持ちになったのだ・・

ビスマルクが彼に預けたお金は25年間で年10%の複利リターンを上げ、一方インフレ率は平均で年1%を下回った。

ビスマルクはそんなリターンに完全に満足したが、いつも利益を現金化して土地や森を買った」

本書のもう一つの楽しみ方は、本書が執筆された時は、リーマンショック前の2005年であり、これを読んでいる私は(出版直後に購入しなかったものですから)リーマンショックを経た2010年にいるということ。

例えばフィボナッチ数を株式市場分析に使う「Mr. メイン」が著者を訪問した時の話が本書に出てきます。メインはフィボナッチ数を使って2002年10月と2003年3月の2回とも株式市場の底入れを見事に言い当てていました。

フィボナッチ数から導き出される 0.618 という黄金率は古代のピラミッドやダ・ヴィンチの絵画などにも良く使われている比率です。

メインは著者を訪れ「市場は今、3つの波がともに下落に向う「殺し屋」サイクルにある。S&P500に見られる次の殺し屋下落波動は(現在の波動1050の0.618倍である)650で底入れする」と言います。

これを聞いて著者は「面白いし、カクテル・パーティーの話のネタにはなるだろうけれど、ポートフォリオをそれに賭けるのはやめた方がいい」とコメントします。

この本が書かれた当時、1200以上あったS&P株価指数がそのように過激に下落するとは誰も信じなかったでしょうから、当たり前のコメントなのでしょう。しかし、当時のS&P(2005年9~10月の2ヶ月の平均1217)に 0.618 をかけるとリーマンショック後に記録するS&Pの底値 752(2008年11月20日)にピタリと一致します。(と、それこそカクテル・パーティーの話のようですが、数字はすべて本当です。)

本書の中で集団思考についてビッグスが書いた下りも一読の価値があります。

「運用チームや運用委員会は、とるべき行動について意見が分かれると、お互い気を使いあったり礼儀を重んじたりして、結局麻痺してしまう・・

狂気は、個人では例外的だが集団ではよくあることだと言ったニーチェは鋭い・・

集団内の付き合いが深くなればなるほど・・集団のメンバーでいること自体が極めて大事なので、メンバーはそれぞれ、違う意見を言って村八分や破門になるのを恐れるようになる」

本書は、業界の人だけでなく、株式投資や債券投資を行っている個人投資家、投資信託を購入している人、FXをやっている人など、全ての投資家やトレーダーの方にお勧めできます。これを読むことで、あなたの投資や資産運用に関する理解は圧倒的に深まると思います。

本書の帯には「奈落と絶頂が隣り合わせの苛酷な世界」とありますが、本書はそういった投資や投機の世界をあたかも自分が体験しているかのように錯覚するほどリアルに案内してくれます。非常に価値ある一冊と言えるでしょう。

なお、この本はすでに文庫(ヘッジファンドの懲りない人たち)にもなっています。

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2010年7月24日 (土)

ブラジルとロスチャイルド

前回のブログ記事でご紹介した日経CNBCの『日経ヴェリタス・トーク』

今週のトピックスはアグリビジネスでしたが、番組ではこのほかに「ヴェリタス・ディクショナリー」のコーナーでブラジルについて取り上げました。

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キャスターの方がブラジルについていろいろと質問し、私がそれに答えるというコーナーなのですが、お話していて、ブラジルに仕事で何度か行った時のことを思い出しました。

* * *

そのひとつ。興銀時代の話です。

私のチームに、総合商社から興銀に転職してきたという経歴を持つAさんが配属されてきました。

彼は商社及び興銀時代にブラジル駐在の経験があり、商社時代に築き上げたネットワークと銀行のネットワークの双方をフルに活かし、ブラジルに関するアドバイザリービジネスの情報をよく仕入れてきていました。

中でも目を引いたのは、ブラジル政府が通信の周波数帯の一部を民間に売り出すに際し、ブラジル政府のアドバイザーを求めているという情報。

調べてみると既に欧米の投資銀行や大手商業銀行10数社が手を上げようとしているとのことでした。

「我々も参戦しよう」と、日本からAさんと私とで首都ブラジリアまで出かけていってブラジル政府高官と面談。

政府が相手ですので、所定の様式にそって「金融機関としてどういった民営化アドバイスの経験があるか」などの質問に書面で回答していかなくてはなりません。

厳正な審査の結果、興銀は他の欧米の投資銀行に敗退してしまったのですが、実はその時の経験は、興銀が他のブラジル案件を獲得する上で役に立ったと記憶しています。

* * *

ところで当時、ブラジル政府のアドバイザー案件を数多く獲得していたのはロスチャイルドです。

どうしてなのでしょう。

案件獲得はあくまでも政府による「厳正な審査の結果」なのですが、やはり豊富な情報を持つ投資銀行が有利なのだと思います。

ではなぜロスチャイルドが強いのでしょうか。

知人のロスチャイルド幹部に聞いてみると、「ロスチャイルドとブラジルとの関係は1820年代にまで遡る。ブラジルがポルトガルから独立する際にこれを金融面でサポートしたのはロスチャイルドだから」といった答えが返ってきました。

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ロスチャイルドのウェブサイトを覘くとその辺の記述が出てきます(『こちら』)。

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次のワールドカップ(サッカー)と、次の次のオリンピック(夏期)は、いずれもブラジルで行われます。

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2010年7月20日 (火)

日経ヴェリタス・トーク(農業ビジネス)

今日は、日経CNBCの『日経ヴェリタス・トーク』という番組に出演しました。

今回のトピックスはアグリビジネス。

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再放送は、7月20日(火)の 24:00~、及び7月21日(水) 18:30~、19:06~です。

* * *

この番組の前身となる『日経CNBC:三原・生島のマーケット・トーク』の時代から、私は何度かこの番組に呼んで頂いています。

最初に出演したのは、確か今から 5年前の 2005年9月30日。

番組は、キャスターの質問に答えるインタビュー形式(10分~15分間くらい)で進められます。

出演し始めた最初のころはテレビカメラに慣れなくて、3台あるカメラのどこを見たらいいか分からず、目がキョロキョロして映ってしまったこともありました。

またインタビューに答えながら(テレビカメラは回っています)、自分のスーツの内ポケットに入れたケータイの電源を切っていないことをふと思い出してしまい、「番組中に鳴ったらどうしよう」と冷や汗をかきながら、キャスターの質問に答えていたこともあります(幸い誰からも電話がありませんでした)。

今でも『あと1分』とテレビカメラの後ろで合図された時、「いったいどの位喋れば、あと 1分になるのか」が分からず苦労しています。

* * *

『日経ヴェリタス・トーク』への出演は昨年は確か6回、今年はこれで4回目になります。

毎回さまざまなトピックスのもとで番組を進めていきますので、番組を編成するスタッフの方たちは大変なのでしょうが、視聴者にとっては面白い番組に仕上がっていると思います。

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ところで国内最大手の種苗専業会社というとサカタのタネ。海外にも積極展開しているのですが、株価はいまひとつです。

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一方、米国の農薬大手(遺伝子GM農作物でも有名)のモンサントの株価を上記と同じく 10年間でグラフ化してみると下記のようになります。

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もっとも私は個人的には遺伝子組み換え(GM)農作物というのは何となく敬遠してしまいますが・・・。

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以下は今週の「日経ヴェリタス」と「日経ビジネス」です。

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2010年7月18日 (日)

Better late than never

Better late than never

私が J.P.Morgan にいた時、上司の英国人がよく言っていた言葉です。

「遅れてしまっても全く何もしないよりは良い」というのが、文字通りの意義。

英国人上司は約束の時間に遅れた場合の言い訳としてよく使っていました・・・。

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さて前回のブログ記事に戻りますが、アップルの株価は2007年1月の84ドルから2010年7月の252ドルまで3年半で3倍になりました。

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2007年1月時点のアップルはどんな状況だったのでしょうか。

2007年1月というと、まず第一に上げなければならないのがアップルの社名変更。

もはや単なるコンピューター会社ではないとして、2007年1月9日、アップルはアップルコンピューターからアップルへと社名を変更します。

この時のアップルの製品はどんな感じだったのでしょうか。

iMac は、現在のiMacにかなり近いiMac(Late 2006)が既に発売されていました(2.16GHz Intel Core 2 Duo)。

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   iMac Core Duo 17" (Early 2006)

iPod nano は第二世代が発売されていて、iPod Touch はまだです(その年の9月発売)。

                   Ipod_nano

                    iPod nano(第2世代)

iPhoneは2007年1月9日に発表され、同年6月発売。

つまり iPad を除けば2007年1月の段階で、今日のアップルの製品はかなり姿を見せていたわけです。

「2007年1月の段階でアップルの株を買っておけば良かった」

こう思う人もいるかもしれません。

実は私も「買おう」と思った一人なのですが、

「スティーブ・ジョブズの健康状態はどうなんだろう」

と気になってしまい、買いそびれてしまいました。

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Better late than never 

この言葉ではありませんが、私がアップルの株を買っったのは大分遅れて2010年5月13日。

今から約 2ヶ月前。購入時の株価 、261.68ドル。為替は 92.96円でした(現時点では株価、為替双方で含み損を抱えてしまっていますが・・)。

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2010年7月17日 (土)

時価総額の変化

前回のブログ記事の続きです。

2007年のインタビューの際、司会者は盛んに

「ビルさん、あなたのところ(マイクロソフト)は、スティーブさんの会社(アップル)よりも、ずっと大きいのだけれども・・」

と発言したり、逆にスティーブ・ジョブズに対しては、

「スティーブさん、あなたの会社はマイクロソフトよりずっと小さいけれど、それでも大きな会社だ」

といった発言をしていました。

これに対してスティーブ・ジョブズはニコニコして受け流していましたけれど、当然内心「いつかは逆転してやる」と思っていたに違いありません。

2007年1月から今日まで、両社の時価総額の変化をグラフにしてみました。

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青線がマイクロソフト、赤線がアップルです (グラフは図の上でクリックすると画面いっぱいに大きくなります)。

なるほど 2007年1月の時点ではアップルの時価総額は、740億ドル(7兆円)、これに対してマイクロソフトはこの4倍の2,890億ドル(25兆円)もありました。

それが今では逆転していて、マイクロソフト 2,190億ドル(19兆円)に対して、アップルの時価総額は、2,280億ドル(20兆円)。

わずか3年半でアップルは時価総額を 3.1倍にしたのでした。

今ではエクソン・モービルに次ぐ全米2位の会社です。

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2010年7月15日 (木)

2007年のインタビュー

2007年に、スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの2人に対して行われたインタビュー (『こちら』、なおこのインタビューはYouTubeの上では Part 1~11まで分かれて収録されています)。

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      (スティーブ・ジョブズ(左) と ビル・ゲイツ(右))

司会者の「PCは進化したけど基本的に10年前と同じではないか」との質問に対し、ゲイツは (おそらくは)マイクロソフトのProject Natal (Kinect)を想定して答えています。

一方のジョブズはPCの進化に対しては「例えば自動車のユーザーは4つの車輪に慣れていて車輪が6つあるクルマを望まない」と答えて、radical な変化に対してはやや否定的。

「Post PCでは新たな変化が起こるだろう」と述べるに留まっています。

私の推測ですが、ジョブズにとっては当時既にiPadが視野に入っていただけに、かえって「何も言えなかった」ということなのかもしれません(要するに敢えて煙に巻いた)。

iPad で Apple に先行されたマイクロソフトは、7月12日にこれを追撃すると発表(『こちら』)。

引き続き両社の今後には目を放せません。

なおProject Natal (Kinect)(『こちら』『こちら』)については以前にもこのブログでも紹介しました(『こちら』)。

おそらくは任天堂でもWiiを進化させたこの種の製品開発が進められているのだろうと思います。

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2010年7月13日 (火)

身近な材料

一昨日のブログ記事でトヨタと日産の決算の数字について触れました。

企業価値評価に際しては数字が最も重要であることは確かなのですが、数字以外にも様々な情報を入手して、これを分析・評価、時に自分なりの仮説を立てて検証していくことも重要です。

例えば役員人事。

2009年トヨタの豊田章一郎氏と奥田碩氏が同時に取締役を退任しましたが、その裏に何かストーリーでもあったのだろうかと推測してみたりします。(トヨタに勤める友人がいれば噂話を聞きだしてみても良いでしょう)。

そして例えば、企業が生産する製品の評価。

私は街でタクシーを拾う時には極力個人タクシーを拾うようにしています。運転手さんとクルマについて語り合うためです。

「なぜクラウンを選んだのか」、「今乗っているフーガの調子はどうか」

こういった具合に質問してみます。

個人タクシーの運転手さんは自分が乗っているクルマについて一家言持っている人が多く、クラウン派もフーガ派も、それぞれクルマについて時として延々と話してくれます。

更に海外に出張で行けば、その街でどんなクルマが走っているかをチェックします。

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先月行ったイスタンブールでは、タクシーの8割がヒュンダイ(韓国)、フィアット(イタリア)、ルノー(仏)の何れか、そして残り2割弱がフォルクスワーゲンといった「印象」でした(すみません、正確な数字ではなくて単なる私の「印象」です)。

いずれにせよ日本車は余り多くないように感じました。

数字以外の情報を出来るだけ多く、そして客観的に入手していくことで、数字の持つ意味をより良く知ることが出来るようになります。

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2010年7月11日 (日)

大阪経済大学(2010)

先週末、そして今週末も、大阪経済大学で講義を担当します。

大阪経済大学での講義は、経済評論家の三原淳雄さんのお誘いで2007年から始めたもので、今年で4年目。

「投資戦略論」という講義名で、株式投資を中心に話していますが、この4年の間、2008年にはリーマンショックが有るなど、投資の世界も激変。

先週、イスラエルから来たという方と面談を持った際に、たまたま雑談の中で、

「週末は大阪の大学で株式投資について3時間講義します」

と話したら、

「So, you are going to talk about how to lose money」

(カネを失う(損をする)方法について話すのかい?)

と言われました。

確かに現在のような相場環境の下では、そもそも株式に資金を回すのが良いか、あるいは当面は現金で持っていた方が良いのか、その辺のところから検討していかなくてはなりません。

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ところで先週末の講義ではこんな問いかけもして受講生たちとの間で議論を交わしました。

今年5月に発表された決算短信では、トヨタの今年度の予想営業利益は 2,800億円、日産は3,500億円。一方、時価総額は、トヨタ 10.8兆円、日産 2.9兆円。

これはトヨタの株価が高く評価され過ぎていて、逆に日産が低く評価されていると言えるのかどうか。

別言すれば、トヨタの株は売りで、日産は買いなのか。

こういったことを議論しながら企業評価の考え方について掘り下げていきます・・

私が一方的に喋るのではなく、双方向もしくは多方向(受講生同士による議論)のクラスになるように心がけています。

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そう言えば、先週末の大阪行きにはiPadを持参しました。

Notebook パソコン(ラップトップ)を持ち運ぶのに比べて、軽くて快適。

新幹線の中で、ネットに繋いで調べものをするのに便利でした。

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2010年7月 8日 (木)

ヘッジファンド(その2)

昨日のブログ記事にコメントを頂きました(『こちら』)。

ご質問に対する私の考えを 「昨日の記事コメント欄」に書くことも出来たのですが、こちらの方が書きやすいので、こちらに新しい記事として書かせて下さい。

(1)CDSという比較的小さいマーケットがなぜ国債という膨大なマーケットにこれほど影響を与えることができたのかというご質問ですが、

CDSが国債という膨大なマーケットに影響を与えたのではなくて、

市場が評価する国債の信用リスクが変化したから、CDSの価格が動いたのだと思います。

(NHKの解説では、何となく原因と結果が逆になって伝わってしまうような感じがします)。

(2)放送中の事実はどれほど真実かというご質問ですが、ヘッジファンドを現代の錬金術師と盛んに述べるなど、番組はややセンセーショナルに煽っている感じがします。

「現代の錬金術師であるヘッジファンドがCDSや国債の空売りで多額の利益を上げた」とありますが、マーケットでは、ある人の利益の裏には、必ず反対取引をしている人がいます。

(国債を売っている人がいるということは、その取引の相手方、すなわち買っている人がいる)。

多額の利益を上げたヘッジファンドがいる一方で、損をしたヘッジファンドや投資家、投機家もいることに留意する必要があります。

マネーが「新しく」国債をターゲットにしたとの表現も必ずしも適切でないように思います。

1980年代の初めには、アルゼンチン、ユーゴスラビア、ポーランド、ルーマニアなどの国家財政が破綻(もしくはその危機に瀕し)、私は興銀でこれらの国々に対する貸付債権のリスケジュールに従事しました。

上記、1980年代の初めの東欧、中南米危機のほかにも、1997年のアジア危機など、国家の財政が破綻したり、あるいは破綻の危機にさらされたことは過去にも何度もありました。

これを番組のように「マネーの攻撃」と表現するにはやや無理があります。

国家の財政が破綻の危機に直面するのは、「マネーが新しく国債をターゲットとして攻撃する」からではなくて、まずは放漫財政を作り出す財政当局や政治家の姿勢に問題があるからです。

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2010年7月 7日 (水)

ヘッジファンド

このところ、NHKスペシャル「狙われた国債~ギリシャ発・世界への衝撃」をご覧になった方たちから質問を受けたり、コメントを求められたりしています。

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例えば以下のような質問です(似たような質問なのですが、それぞれ別の方からです)。

(質問1)「ヨーロッパの混乱に乗じてヘッジファンドが巨額の利益を上げているというのは本当ですか」

(質問2)「NHKスペシャルでは、ギリシャ国債の『市場価格を操作し』、巨額の利益を上げたヘッジファンドの実態とその市場操作のメカニズムが紹介されていました。

ギリシャに次いで、スペイン/ポルトガルの危機がささやかれる中、ヘッジファンドは次に、EUの大国、フランスさえも標的にしているという不気味な予告もなされていて驚きました。

NHKスペシャルが報じていることは本当なのですか」

* * *

実は、私はNHKスペシャルを見ていなかったので、これらの質問には「コメント出来ません」とお答えしています。

ヘッジファンドは市場と実態(本質)とが乖離している時に、いずれ市場は実態(本質)に収斂していくだろうと考え、その動きを先取りして収益を上げることがあります。

たとえば、1997年のアジア通貨危機。

当時(通貨危機前)、例えばタイバーツ(タイの通貨)はUSドルにリンクされていました(ドルペッグ制)。

その結果、例えばタイに進出していた日本企業は、

ドルで資金を借り入れて、これを金利の高いタイバーツに代えて運用する→

ドル資金の返済期限が来れば、運用していたタイバーツをドルに戻して(為替レートはタイ当局の政策により同じ)、資金を返済する→

ドルよりも高い金利のタイバーツで運用していた分だけ日本企業は儲かる

といったようなことをしていました。

私はタイに出張した時、「濡れ手に粟的な、こういったことは長くは続かない。火傷しないうちに止めた方が良い」と現地の日本企業にアドバイスしたのを覚えています。

結果はご存知の通り、こういった非合理的な状況がヘッジファンドの目を引き、ヘッジファンドはタイバーツを売り浴びせ、バーツは下落。

この結果、当時日本企業は返済すべき金額が急速に膨らみ(下落したバーツで、高くなったドルを手配する必要が生じた為)、多くの企業が痛手を被りました。

* * *

さて最近のユーロの状況はどうなんでしょうか 。

ユーロが対ドルで、1.20を切り1.19ドル台に突入した時、ソロスは講演でユーロはもっと売り込まれるだろうとの「ニュアンス」の話をしました。

一方、その昔、ソロスと一緒に働き、その後、自分の道を行くことになったジム・ロジャーズは「今のユーロは売られすぎ」とコメントしました。

ここ10日間ほどの動きだけに目をやれば、ユーロは1.26台まで回復したので、取りあえずはジム・ロジャーズの勝ちですね。(これから先は分りませんが・・)

当然のことながらヘッジファンドも市場の動きを読み間違えれば大きく損をします。

少なくとも短期で見れば市場は論理的に動くとは限らない。

ただし、上記のタイバーツの例のように非合理的なこと(例えば日本企業が濡れ手に粟で儲けることが出来た)が、長期にわたって続くことはありえないと思います。

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2010年7月 4日 (日)

iPad と キンドルDX

iPad と キンドルDX、実際に使ってみた感想を書いてみます。

まず、iPad。

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使い始めて1週間くらいになるのですが、まだ「使いこなす域」には、とても到達できていません。

結構便利なのが、iPhoto の機能。

これまで撮った写真をiPhoto のアルバムに入れて整理でき、これを人に見せる時に便利です。

アップルの iTunes はすでに 1億3千万人のクレジットカード情報を持つと言います。

最近ではアマゾンでトイレット・ペーパー、ペットボトルの水など、かさ張るものを買うという人が増えていると言いますが、何れアップルの iTunes が楽天の競争相手になってくるかもしれません。

iPad の欠点は毎月の通信費がかかるということ。

すでにWiFi環境でIT機器を使っている人は、WiFiモデルを買えば、毎月の通信費はかかりません。

しかしケータイ電話のような感覚でiPad を使いたい場合、3G モデルを購入することになり、最初の月は4,725円、2~25ヶ月目までは毎月3,225円、26ヶ月目以降は再び毎月4,725円の通信費がかかります。

また3G モデルでYouTubeなどの動画を再生すると、(マンションなどで 3G電波が入りづらい場合には)、スムーズに動画が再生できない場合もあります。

一方のキンドルDX。

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こちらの方は今年2月に購入(『こちら』)したものです。

キンドルの場合、通信費はアマゾン負担ですので、消費者が負担するのは(ハードウェアである機器のコストと)書籍の購入費だけです。

現状アマゾン・ジャパンは未だ電子書籍販売に対応しておらず、キンドルで購入できるのはアマゾン米国などのサイトで販売されている書籍で「キンドル対応」のものに限られます。

この場合のポイントの一つは値段。

新刊のハードカバーよりキンドルの方が安いのは当然なのですが、Mass Market Paperback Edition を選ぶと、キンドルより安く買えるケースが少なくありません。

電子書籍はリアルな書籍よりも価格設定を安くしないことには、なかなか消費者は「あえて電子書籍の方を選ぶ」ということになりにくいように思います。

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2010年7月 3日 (土)

Slow Dance

私はAFSの第18期生です。

これは、AFSという高校生の交換留学プログラムの第18期生、すなわち1971~72年にかけて高校時代に留学したという意味です(もうずいぶん昔の話になりますね)。

このAFS18期生(日本全体で確か約100人いたと記憶しています)を対象とした『日本人18期同期会』が、今年の9月に初めて開かれる予定です。

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高校生以来初めてということで、約40年ぶりにお会いすることになるわけですが、はたしてどこまで顔と名前が一致するのか・・。

当時はまだ成田空港が開港しておらず羽田空港から飛び立った時代です。(もっともAFS第1期生などは飛行機ではなく船の氷川丸で出港したと言います)。

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(留学時にニクソン大統領私邸の昼食会に招かれた時の写真)

* * *

同期会の出欠を連絡しあうメールの中に、同期の方からの次のような一文がありました。

「今朝、ホストファミリーからメールが送られてきました。

ガンで余命半年と宣告されたある少女の詩(SLOW DANCE)がのっています。

最後までお読みいただき他の方々にも転送いただけましたら大変幸いです」。

* * *

ということで、このブログにも載せさせて頂きます。

こちら(「Slow.doc」をダウンロード)です。

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2010年7月 1日 (木)

リスクの回避

早いものでもう7月。

2010年も半分が過ぎ去り、後2ヶ月もすれば、リーマンショックから2年が経過することになります。

一向に改善しない景気。

昨日の日経平均は年初来最安値を記録。

ウォールストリート・ジャーナルや日経新聞は投資家がリスクを回避し安全資産に向かっていると報じています(『こちら』)。

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      (上図は上記WSJの記事から引用)

以下は日本の個人投資家Aさんの話。

* * *

「生損保などの法人、年金基金、ファンドなどの機関投資家は、1年単位で運用成績を明らかにして、出資者に対する説明責任を果たす。

個人にはそういった“縛り”が無く、もう少し長い目で相場を見ることが出来る。

そういった“個人の目”からしても、今後2~3年を見通すことが極めて難しくなってきている。

企業は本当に切羽詰まってくると無配にするものだ。

そういった意味で例えば東芝には『無配にしてまで、必要とされる半導体投資は行おう』というギリギリの姿勢が感じられた。

一方、リーマンショックでトヨタは創業以来とも言うべき、大赤字を出したが、無配にはしなかった。

この時、多くの投資家は、『トヨタにはまだ余裕がある。V字回復を狙っているのだろう』と感じたはずだ。

仮にトヨタの業績がV字回復するとした場合、これに牽引されて日本企業全体も業績を回復させ、日経平均は2010年度には、12,000円~14,000円のレンジへと回復していくだろう-そんな甘い期待を多くの投資家が持っていたのだ。

これを狂わせたのは、トヨタのリコール問題、中国株の不調(先行き見通しに対する不安)、更には欧州のソヴリン・リスクだ。

特に欧州の問題は世界経済全体に波及しうるだけに、今後どう進展いくのか、懸念している。

中国リスクは懸念材料だが、目先、アジアを中心とする新興国の経済は引き続き調子が良いので、企業業績は全般的には比較的好調に推移するだろう。

しかしそれがなかなか“業績相場”へと向かっていかない。

多くの企業が2010年度の第1四半期決算を発表する2010年8月上旬、あるいは上半期決算を報ずる11月上旬頃までに、欧州の問題が落ち着いてくれば、投資家心理は「素直に企業業績を評価する」方向に向かっていくかもしれない。

しかしそうならない可能性も高く、その場合には今後1~2年は株式相場の低迷を覚悟せざるをえないだろう」

* * *

なお中国に関しては、『Beyond a Boom』と題する記事(『こちら』)をはじめとして、今週のニューズウィーク誌が特集を組んでいます。

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