サプライズ介入の効果
9月15日に政府・日銀が6年半ぶりに為替市場で介入を行い、相場は1ドル83円から85円強まで2円強ほど動きました。
「今後の見通しは?」ということで、今週発売された日経ヴェリタスでは、みずほの上野さん、JPモルガンの佐々木さんなど10名にアンケート調査をしています。
このうち「年内は84円を切るような円高はもうない」と予想したのは2名(深谷氏84~90円、森田氏85~90円)。
逆に「80円割れの円高があり得る」と予想したのは、3名。
私は8月30日のテレビで 「80円割れの円高もあり得る」 と話しました(『こちら』)が、政府・日銀の介入が行われた後も、この見方を変えていません。
理由は:
1)「介入の原資は全部で30兆円強~40兆円。一方で、9月15日一日の介入額は2兆円」 と当局がすべて手の内をさらしてしまっていること
2)マスコミのインタビューに答えて、かつての財務官経験者たち(多くの場合、金融関係の機関や会社に天下り)が、
「今度の介入は上手く行った。サプライズ・アタックだ」
と 「自画自賛」 していること。
「市場に対峙するとき、恐れ(恐怖)を知り、謙虚な気持ちになる」-こう発言したのはあるヘッジファンドのヘッドです。
マーケットにいた人間であればマーケットの怖さを思う存分に味わっています。
「怖さを知り謙虚な気持ちになれるものだけが生き残る」のが市場です。
3)そもそも 「日本がデフレにある」 という問題の本質への解決策には全く手がつけられていないこと。
8月30日のブログで私は次のように書きました。
「リーマンショック後の世界的不況のなかでも、日銀のバランスシートはほとんど膨らんでいません( 『こちら』 )。
むしろ量的緩和政策を行っていた2006年までのほうがバランスシートは膨らんでいたのです( 『こちら』 )。
一方、FRBの方は、リーマンショック後、バランスシートを3倍近くにまで膨らませてきています(下記グラフ参照)。」
先進国各国の中央銀行がどれだけバランスシートを拡大(要は政府が発行する国債や企業が発行する社債などの購入を通じて市場に資金を放出)してきたかについては、こちらのグラフの方が分かりやすいかもしれません。
誤解しないで頂きたいのですが、日銀のバランスシートが疲弊していないということは通貨の健全性からすれば望ましいことなのです。
日銀の見方からすれば、
「欧州や米国の中央銀行はこんなに何でも買い取ってしまって通貨の健全性をどう保つのか。ドルやポンド、ユーロの信認が低下してしまって暴落したらどうするつもりなのか」
ということなのでしょう。
それだけ 「円は健全である」 ということは、
「円が他の通貨に比して強い(円高)ということであり、モノに対しても強い(デフレ)」
ということにつながっていきます。
多くの識者が指摘するように一国の中央銀行が健全であり通貨が強いということは本来望ましいことです。
しかしここになんらかのパラドックスがあるように思えてくるわけです。
9月14日アンカラ発のロイター電です(詳しくは『こちら』。太字・下線は筆者による)。
「経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長は14日、世界経済の回復は減速しているものの、先進国においては日本以外で景気が二番底に陥る恐れはないとの見通しを示した。
同事務総長はアンカラでロイターのインタビューに応え「回復は減速しているが、景気の二番底はない。単なる回復の減速だ」と述べた。
その一方で「日本は例外だ。日本は10年間にわたりデフレと格闘しており、状況が異なる」とし、日本以外の国で「景気が二番底に陥ることは予想していない」と語った。
ただ、世界経済の回復はぜい弱との見方を示し「家計部門は将来に対して完全に信頼感を持っているわけではない」とし「OECD加盟国は依然として5000万人の失業者を抱えている」と指摘した。
国別では、ドイツ経済は第2・四半期に2.2%の成長率を達成した後、第3・四半期には減速すると予想。「ドイツの第2・四半期(成長率)はかなり良かったが、他の国と同様に第3・四半期には減速する」と述べた」
* * * * *
(追)「今後のマーケット」という観点からすると目を離せないのが米国の中間選挙(11月2日)でしょう。
米国でも問題になっているのは世代間の貧富の格差。
20代、30代の若い層は職が無く、一方、50代、60代の世代は逃げ切りの体制・・・と日本と似たような状況が起きています。
これが選挙結果や政策にどう跳ね返ってくるか、今年の残りもあと3ヶ月ちょっとですが、マーケットはまだまだ波乱の様相を呈するように思います。
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コメント
日銀のBSについて、最近の白川総裁の基礎講演より。(25枚目)
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1009c.pdf
たしかに時間軸をリーマン以後に絞るとあまり拡大していないのですが、少し時間軸を長めにとるとまた違ったインサイトが得られる気がします。
おっしゃるようにもう少し機動的な対策をとった方が良いと思いますが。。。
投稿: わらくん | 2010年9月21日 (火) 00時36分
わらくん様
貴重なコメントありがとうございます。
たしかに2001年から2006年にかけて日銀が量的緩和政策を取っていた時期には、日銀のバランスシートはもっと膨張していました
https://hidetoshi-iwasaki.cocolog-nifty.com/1/2010/08/post-5559.html
そしてこの間も日本はデフレだったわけで、量的緩和政策の効果は『実はあまりない』との議論もあると思います。
しかしたとえばFRBが米国債を購入しているように日銀が(現行の上限ルールを超えて)日本国債を買ったらどうなるのかとか、今の日本は、平常時には邪道と思われ劇薬かもしれない施策を検討せざるをえない段階に来ているように思います。
もちろん他国の中央銀行が危険な劇薬を飲んでいるからといって、「日銀も飲んだ方が良い」という短絡的な発想からではなく、中央銀行として『どうやってデフレを止めるのか』、日銀の考えをマーケットにもっとよく伝えてほしいと思うのです。
ご案内のようにバーナンキは幾度となく米議会に呼ばれ発言させられています。
投稿: 岩崎 | 2010年9月21日 (火) 15時39分