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2010年10月29日 (金)

Portola Valley

カリフォルニアの本屋さんでForbes誌(2010年10月11日号)を買いましたら、 たまたまこれが The Richest People in America (トップ400人)の特集でした。

ページをめくると、スタンフォード留学時のクラスメート、ビノッド・コースラ(Vinod Khosla) の大きな写真が目を引きました。

写真と一緒に 「Fast Facts」 と題された簡単な説明文があります。

『 Worth: $1.3 Billion

Indian-born engineeer came to the U.S. to attend grad school at Carnegie Mellon.

Raised $1.1 billion in the summer of 2009, the most by a venture firm in 3 years.

His Three Dog Vineyards, named after his dogs, produces a thousand bottles of cabernet sauvignon a year. 』

とのことでした。

ビノッド(Vinod) はカーネギーの後、スタンフォードのビジネス・スクールにやってきて、同じく我々のクラスメート、スコット・マクネリー(Scott McNealy)らとともに、卒業後サンマイクロシステムズを起業します。

Java言語の開発やワークステーションなどで有名な会社です。

当時スタンフォードの1年上にはマクロソフトのスティーブ・バルマー(現在のCEO)もいました。 

ところで ビノッド・コースラ も、スコット・マクネリーも、どちらもPortola Valley に住んでいます。

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    (Portola Valley)

* * * * * * * * * *

先週スコット・マクネリー(Scott McNealy)の自宅でビジネススクール時代の仲間を招いてパーティーが行われました。

卒業後30年になりますので、パーティー出席者のなかには30年ぶりに会う人もいます。

Portola Valleyの丘をクルマで上っていくとスコットの自宅の住所が書かれた小さな案内板が見つかります。

案内板のあるところから始まる山道(と言ってもクルマは楽にすれ違うことが出来ます)からが彼の敷地内なのでしょう。

そこからクルマで更に行くとやがて4階建て(地下1階、地上3階)の大きな建物が現れてきます・・。

140人ほどのクラスメートが招かれたパーティーでしたので、次から次へとクルマが上ってきましたが、パーキング・アテンダントが4~5人いましたので、出席者はクルマを降りるだけで、すぐに玄関へと繋がる階段状の坂道に向うことが出来ます。

「Toshi !」と呼び止められたので振り返ると、クルマを降りたばかりのRussell Pyne と彼の奥さんでした。

Russell はAtrium Capital を起業したクラスメートで私がリーマンブラザーズにいた際、サンフランシスコで一緒に食事をしたこともあります。

スコットの家は4階建て(地下1階、地上3階)で、家の中にバスケットボールのコート有り、ホッケー場有りで、敷地は家からは(広すぎて)境界線が見えず・・といった感じでした。

バーでワインを受け取り庭に出るとサンフランシスコ湾が一望できました。

スコットによるとこの家は、「こういった家にしたい」という構想を練って、設計し、建て始めてから一応の完成を見るまでに「5年かかった」とのこと。

「3年前に越してきた」とのことですが、まだ最終的には完成されていないようで庭の一部ではアイスホッケー場なのでしょうか、何かを作る工事が進行中でした。

印象に残ったのは、ゴルフ場のクラブハウスのように大きな家であるにもかかわらず、子供たちの勉強スペースがキッチンに隣接されていて、パーティーに来たお客さんたちがぺチャクチャ喋る、そのすぐ脇で子供たちが勉強していたことです。

子供をすぐ目の届くところにおいて置きたいという奥さんのスーザンさん(彼女もスタンフォードビジネススクールの卒業生です)の配慮なのでしょう。

「僕が運転して子供たちを毎朝サンノゼにある学校まで送っていくんだ」

そう語るスコットの顔はかつてビル・ゲーツと並び称されたこともある「起業家」としての顔よりも「父親」の顔そのものでした。

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2010年10月27日 (水)

シリコンバレーの風景

シリコンバレーに行っていて昨日帰りました。

スタンフォード大学の写真です(↓)。

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ビジネススクールは来年より新校舎に移る予定(写真(↓)は現在の校舎)。

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今年は日本から新たに 6人の留学生を迎えています。

アップル本社ビル前の風景(↓)。

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住所は案内板にある通り One Infinite Loop とアップルらしい住所です。

(どの写真もクリックすると大きくなります。上の写真の案内板には上段に Apple Campus 下段に One Infinite Loop と書いてあります)。

普通の企業であれば World Headquarters とでも書くところを Apple Campus と書くあたりが Apple らしいところです)。

アップルの本社ビルを正面から撮った写真です(↓)。

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上の写真で真ん中の緑の文字は、拡大すると下図のように住所の「One」を大きくしたものでした(↓)。

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電気自動車で有名なテスラの本社ビル(↓)。

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グーグルの本社ビル前の風景はユニークです(↓)。

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中にはこんな風景も見られます(↓)。

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グーグルなど新しい会社の初期の段階で投資してこれを育て上げてきたことで有名なクライナー・パーキンスのオフィスです(↓)。

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2010年10月18日 (月)

Prop 19

私はアメリカに計8年住みました。

駐在員として過ごしたシカゴでの5年間よりも、高校生、大学院生として過ごしたカリフォルニアの方が印象も強く、いまなお当時のアメリカ人たちとの交流も続いています。

さてそのカリフォルニアから11月2日を巡る話題を2つ。

11月2日の全米中間選挙の際、カリフォルニア州では州知事を選ぶ投票も行われます。

シュワルツェネッガー現知事は三選が禁止されている為、立候補できません。

知事選に立候補しているのは 民主党からは Jerry Brown 氏。

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彼は、後に大統領になるロナルド・レーガン州知事の後に、36歳の若さでその昔カリフォルニア州知事になったことのある人です。

(Brown氏の父親もカリフォルニア州の知事を務めました。父親のPat Brown州知事を打ち破って1966年カリフォルニア州知事になったのがロナルド・レーガンです)。

Jerry Brown 氏は1975年から83年まで8年間カリフォルニア州知事を務め、今回また民主党から州知事に立候補しています(今回は年齢36歳ではなく、その 2倍の72歳)。

一方共和党からは、eBayの前CEO の Meg Whiteman 氏(53歳)が立候補しています。

            480pxmeg_whitman_crop_2

ところで州知事が選ばれる11月2日。

この同じ日に、Prop 19 (プロポジション;住民投票 19 )に関する住民投票も行われます。

住民投票で過半の賛成が得られれば、the Regulate, Control and Tax Cannabis Act of 2010 が成立し、カリフォルニア州は全米で最初のマリファナ(大麻)の所持・消費等が合法とされる州となります。

具体的には:

(1)21歳以上の人が個人的に消費する目的でマリファナを所持するのは合法となる

(2)市や郡はマリファナの商業的栽培や販売を認可・規制・課税することが出来るようになる

(3)個人的に消費する目的で、州の住民は25平方フィート(2.3㎡ ; 0.7坪)の広さを上限として庭でマリファナを栽培することが出来る

以上のように、かなりのことが合法となります。

この Prop 19 を支持し推進している人の一人が、Oakland の Oaksterdam University (『こちら』)を創設した Richard Lee 氏。

もっともウェブサイトを覘いて分かるように、Oaksterdam University は日本ではとても大学としての認可が得られそうにもないところです。

Lee 氏によれば、アメリカは禁酒法時代を経験したが結局はアルコールを禁止できなかった。マリファナを合法化して課税すれば、1150億円ほどの税収が見込めるとのこと。

州知事に立候補している Brown、 Whiteman の両候補者はどちらも Prop 19 (マリファナの合法化)には反対の立場です。

ところが世論調査では Prop 19 の賛成派がどんどん増えていて、9月26日に発表された調査結果では賛成49%、反対42%と、なんと賛成が優勢の状況に・・。

『こちら』では、スタンフォード大学の医学部教授とリサーチフェローの2人が、賛成(フェロー)、反対(教授)に分かれて議論を戦わせています。

さて11月2日、州の住民はどのような審判を下すのでしょうか・・。

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2010年10月14日 (木)

日本のネット個人金融資産の8割は60歳以上(世帯主ベース)が所有

2010年3月末の個人金融資産残高は1457兆円(『こちら』の日銀「資金循環統計」をクリック)。

日本の総世帯数は49百万です(『こちら』)ので、1世帯あたりの金融資産残高は、29,714千円となります。

ところで、上記の個人金融資産残高は負債を含むグロスベースの数字。

負債の方は373兆円ですので、ネット資産は、1084兆円です。

すなわちネットの個人金融資産は1世帯あたり、22,122千円となります。

一方、総務省家計調査(平成22年5月14日発表、 『こちら』)では1世帯(2人以上)あたりの平均貯蓄残高は、16,380千円。

同じく負債が4,790千円、よってネットの個人金融資産は1世帯あたり、11,590千円。

2200万円(日銀資金循環統計)と、1200万円(総務省家計調査)の差はいったいどこから来るのか。

詳しくは『こちら』をどうぞ。

いずれにせよマスコミが報道する場合、

『個人金融資産残高は1457兆円』といった具合に単純化されてしまいます。

しかしこの1457兆円には例えば個人事業主(個人企業)の事業性資金も含まれています。

なお総務省家計調査によると、60歳以上の世帯は全体の約4割。これが日本の家計部門(2人以上世帯)の貯蓄(金融資産)全体の約6割を占めます。

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この数字はネットベース(負債を引いた後)で見るともっとラディカルなものとなります。

以下は2009年(平成21年)のデータ(総務省家計調査)を元に算出したものです。

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すなわち負債を控除した後のネットベースの金融資産でみると、「世帯主が60歳以上の世帯が日本全体の8割の金融資産を有している」との結果が出てきます。

(注:上の2つの図表では世帯割合などの数値で0.1%ほどの差異がありますが、下の表は私が日本の世帯数を上記の通り49百万として計算して作成したことに伴う若干の差だと思います。)

富が中高年に集中し、若者の生活が厳しい状況が統計からも見て取れます。

しかもこの富の世代間格差は年々広がってきています。

上記(『こちら』)の「ISSUE BRIEF」(国立国会図書館 調査及び立法考査局 調査企画課)のペーパーには5年前のデータが掲載されています(下記)。

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これと今日(2009年)のデータを比較してみると:

世帯主が60歳以上の世帯が日本全体の金融資産(ネット)を有している割合

5年前:74% →  現在:80%

世帯主が50歳以上の世帯が日本全体の金融資産(ネット)を有している割合

5年前:96% →  現在:100%

世帯主が29歳以下の平均金融資産残高(負債控除前)

5年前:351万円 →  現在:294万円

世帯主が30歳代の平均金融資産残高(ネットベース)

5年前:▲45万円 →  現在:▲160万円

* * *

なお上記の3つの図表はいずれもクリックすると大きくなります。

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2010年10月 7日 (木)

マイナス金利

マイナス金利とはどういうことでしょう。

たとえばあなたがみずほ銀行の普通預金に100万円を預金します。

金利は0.02%(『こちら』)。

1年預けて200円の金利が付きます。

これがもしマイナス0.02%だとしたら・・。

あなたの預金残高は1年後には金利200円が引き落とされて、999,800円になっています。

(たしか銀行の金利は年2回に分けて払われるはずですので最初の金利の複利効果がありますが、議論を単純化するため、ここでは無視します)

銀行に預けていて、マイナス金利がつき、その結果、預金を減らされるのだったら、

「預金なんかしないで現金で持っている・・」

そう思う人も多いのでしょう。

個人であればたしかにタンス預金が増えそうです。

しかし企業が多くの現金を社内に抱え、いちいち現金で決済するのは現実的ではありません。

逆にマイナスの金利が付くのであれば、企業の中には積極的にお金を借りて、事業の拡大のために借りた資金を使うところも出てくるかもしれません。

なにせ今日借りた100万円は1年後に 999,800円にして返せば良いのですから・・。

このようにマイナス金利の下ではお金が市中に回り始め、積極的に景気を良くする為に使われていくことが期待されます。

* * *

実はマイナス金利はかつて日本でも出現したことがあります。

読者の中には、日経新聞の2003年1月25日付けのこの記事を覚えておられる方もいると思います。

「金融機関が短期の資金を融通し合うコール市場で24日、利息をもらうのではなく、利息を払ってお金を貸す「マイナス金利」の取引が成立した。

短期金融市場の中核とされるコール市場でマイナス金利が出たのは初めて。

欧州系銀行の東京支店が外銀2行に対して、計150億円をマイナス0.01%の金利で貸す契約を結んだ。

こうした異例の事態が起きた背景には、円と外貨を一定期間交換する外為取引 (為替スワップ)でマイナス金利が恒常化していることがある。

信用力の低い邦銀は市場から外貨を調達するのが難しいため、市場金利より高い金利を外銀に払って円と外貨を交換する。

外銀はこの金利差分の利息をもらって円を調達できることになる。

今回、コール市場でマイナス金利を提示した欧州系銀行は0.08%程度のマイナス金利で円を調達しているという。このためマイナス0.01%で貸しても0.07%程度の利ザヤをかせげると判断したようだ。(抜粋)」

日銀のホームページには、

日本銀行ワーキングペーパーシリーズとして、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたペーパーが掲載されています。

その中のひとつのペーパーが、『量的緩和政策下におけるマイナス金利取引:円転コスト・マイナス化メカニズムに関する分析』というもの(詳しくは『こちら』)。

以下にこのウェブサイトに載った要旨を掲載します(青字部分;少々読みにくいので読み飛ばして下さって結構です)

本稿は、2001年3月に導入された量的緩和政策の下で恒常的に観察される、為替スワップ市場における外銀の円転コストのマイナス化メカニズムを明らかにすることを目的としている。

主な結論は以下のとおりである。

(1)外貨市場での調達コストと為替スワップ市場を介した外貨調達コストの間で無裁定条件が成立する下では、外銀の円転コストは、外銀の円市場における調達コスト(リスクフリー・レート+信用リスク・プレミアム)に、邦銀に対する信用リスク・プレミアムの内外市場間格差を加味したものとなる。

(2)最近の円転コストのマイナス化現象は、ドル市場における邦銀の信用リスク・プレミアムが、円市場対比で大きいことに起因している。

(3)この邦銀に対する信用リスク・プレミアムの内外市場格差は、1990年代前半から既に存在していたが、円リスクフリー・レートが低下するに連れて顕現化し、最近の円転コスト・マイナス化の主因となっている。

(4)ただし、円転コストがマイナスに転じた場合でも、リスクフリーの日銀当座預金との裁定が制約なく行われれば、本来速やかにゼロに戻る。しかし、日銀に対するクレジット・ラインの設定等、外銀の当座預金保有額に制約があり、十分に裁定が働かないため、円転コストはマイナスのまま推移している。

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さて上記文章を読み疲れた方は

マイナス金利に関する国会のやりとり(下記)をどうぞ。

今年3月1日、衆議院財務金融委員会の議事録で山本幸三議員のウェブサイト(『こちら』)から転記します。

○山本(幸)委員 あなた(注:白川総裁のこと)は、名目金利がゼロから下には行けないと言ったけれども、スウェーデンは去年の八月、マイナスの金利をやったんだよ。

知っていますか。

○白川参考人 スウェーデンがマイナスの金利を入れたということでございますけれども、これは、結論から申し上げますと、知っております。

 これは、先生は十分御存じのことではございますけれども、少し御説明いたしますと、スウェーデンの中央銀行に金融機関が預金を預けるとき、そのときの金利をマイナスにしたということでございます。

ただ、実際には、これはややテクニカルな話になりますけれども、スウェーデンの中央銀行は、資金が余りますとマーケットから資金を吸収するという操作も行っております。

したがいまして、実際に市場においてマイナスの金利がついているわけではございません。

 また、スウェーデンの中央銀行の総裁を初め幹部は、自分たちはいわゆるマイナス金利を導入したわけではないということを今一生懸命説明しておりまして、今先生がおっしゃったような意味でマイナス金利を導入したわけではないというのがスウェーデンの中央銀行の説明だと思っております。

マイナス金利については、このように国会でも議論されており、今後も議論が続くと思います。

* * *

ところでいままでの話は全て名目金利の話です。

本当に重要なのは実質金利の方。

こちらは多くの国でマイナス金利になっていますが、日本はプラスの実質金利でしかも結構高い水準にあります。

まず名目金利と実質金利の関係を式で示しておきましょう。

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実質金利の上では、主要国はマイナス金利ですが、日本だけがプラス金利。

先ほどの山本議員と日銀総裁のやりとり(今度は読みやすくするため、数字はアラビア数字を使い、・・・で示したところを一部カットしました)を下記に抜粋します。

○山本(幸)委員 ・・・政策金利、日本では・・0.10。アメリカはゼロから0.25。・・・英国は0.50。ユーロ圏は1.0。・・・

これでいくと、日本は0.10・・・。そして、最新の消費者物価上昇率はマイナスの1.3ですよ。・・・0.1引くマイナスの1.3はプラスの1.4%ですね。

これが日本の実質金利。

アメリカ、0.12マイナスの最新の消費者物価上昇率2.6、これでいくとマイナスの2.58じゃないですか。

イギリス、0.50マイナスの3.5%、マイナスの3%。EU、0.34マイナス0.9、マイナスの0.56。

主要国みんなマイナスですよ。

日本だけがプラスの1.4だ。

これじゃ世界一高いんじゃないですか、日本銀行総裁。

○白川参考人 ・・・実質金利を下げていくということも、実は名目金利を低い水準にし、この水準を粘り強く維持する、

あるいは資金を潤沢に供給するということを通じて物価に最終的には影響を与え、そのことを通じて実質金利を下げていくという努力の結果でございます。

そういう意味で、私どもは世界で一番低い名目金利を維持することを通じて、最終的に実質金利の面でもこれを引き下げていくという努力を今重ねております。

* * *

下記は主要国の中央銀行のバランスシート規模の推移です。

日銀が量的金融緩和を一所懸命やっていた時、日銀だけが突出してB/Sを膨らませていました。

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「せめて2005年~2006年のレベルにまでこの水準を引き上げて欲しい」

こう考えるのは私だけでしょうか。

今年7月、内閣府がまとめた年次経済財政報告(『こちら』)に、日銀当座預金残高推移と政策金利推移のグラフが載っています(下記)。

これを見ると日銀にはまだまだやれることがあるように思えてなりません。

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2010年10月 6日 (水)

日銀による追加緩和

5日午後1時半過ぎに日銀による追加緩和が発表されると円は急落。1ドル83円99銭になりました。

しかし直ぐに約1円ほど値を戻し、午後11時50分現在83円02銭(下図)。

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日銀が量的金融緩和政策を止めたのが2006年3月。

それまでの間(例えば2005年1月~2006年3月)、実質実効為替レートはかなり円安に動いていました(下の青線;詳しくは日銀の『こちら』のサイトの為替のところをクリックしてみてください)。

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そしてこの時、日経平均は11,500円(2005年1月)~15,600円(2006年3月)のレンジにありました(下図)。

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昨日の午後、市場は率直に日銀の追加緩和を好感しましたが、その後の動きを見る限り、市場は更にもう一段の追加緩和を求めているものと思われます。

日銀の政策についてマスコミ関係のAさんと議論していたら、Aさんいわく、

「あの時(2008年3月)、武藤総裁案に民主党が同意していたら、いまの日本経済はもっと良かったんじゃないですかね」

8月30日のブログ(『こちら』)にも書きましたが、

「パーティーが盛り上がった時にパンチボウルを取り上げるのが中央銀行の仕事」ですが、

私は、国民や企業が脱水症状に陥ってふらふらしている時に、水を差し出すのも中央銀行の役目だと思っています。

日銀には会議室で統計数字を見て議論するだけでなくて、もっと街に出て世の中の状況を見て欲しいし、市場との対話も積極的に行って欲しいと思います。

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2010年10月 2日 (土)

介護付き老人ホーム

「ある日突然ポックリ死ねたらいい。そうすれば誰にも迷惑をかけないから」

このように言う70代、80代の方は少なくありません。

多くの場合、彼ら(彼女ら)は、自分たちの親や義理の親の老後を苦労して面倒みてきた人たちです。

それがどんなに大変であったか、実体験として熟知しているだけに、

自分はこういった面倒を自分の子供や嫁にかけたくない

― こう考えているようです。

しかし実際には思い通り「ポックリ死ぬ」ことなど出来ないケースがほとんどです。

高齢になって転んで骨折して体が思うように動かなくなった場合、子供や嫁の世話になるのではなくて、介護付き老人ホームに入るとか、プロの介護士による在宅介護を選択 「せざるをえなくなる」 ことが少なくありません。

この時、「老後の面倒をみることの苦労を自分が経験して熟知しているだけに、子供や嫁に迷惑をかけたくない」

と考えて介護士の世話になることを選ぶ人もいれば、一方で、別の理由でプロの介護スタッフに面倒をみてもらう人もいます。

例えば面倒をみるのが実の子の場合、感情のすれ違いがあった時などに、実の子供だけに「逃げ場が無くなる」ことを指摘する人がいます。

Aさんは現在自宅に24時間、専門の介護士を住み込ませて介護してもらっていますが、この介護の人が気に入らなくなったり、喧嘩してしまったりして、すでにこれまでに何人もチェインジしてきたといいます。

これが実の子供ではチェインジするわけにはいきません。

介護はプロの専門家に頼み、一方で、子供や孫にも出来るだけ頻繁に会いたい・・こう考える高齢者が増えてきています。

では介護付き老人ホームに入るにはどれくらいのコストがかかるのでしょうか。

公立の施設に入れればコストはさほど心配せずに済みます。

しかし全国の公立施設の待機者数は、

昨年12月の時点で42万1000人(『こちら』)。

現実には公立に入居するために何年も待たなくてはいけない、あるいは要介護4か5でないと入れないといった状況にあり、私立の施設を選ばざるをえません。

その私立の介護付きホームのコストですが、大きく分けて、入居一時金と月額利用料から成り立っています。

例えば85歳で入居して95歳まで利用することになった場合、

入居一時金1000万円、月額利用料25万円のケースでは、

10年間のコストは、1000+(25×12×10)=4000万円となります。

上を見たらキリがありません。

富裕層向けに作られたサクラビア成城のホームページを覘いてみましょう。

『こちら』です。

入居一時金は最多価格帯で1億1200万円、そのほかに介護一時金900万円、生活サービス一時金700万円、月額利用料は23万円プラス水道光熱費その他(食費など)。

上記のように10年間入居するとして、総額はざっと1億5000万円(10年間入居の場合、入居一時金等の一時金は25%ほど返ってきます)。

逆に入居一時金ゼロ、月額利用料も15万円程度といった比較的安価なところもありますが、居室が極端に狭かったり介護スタッフの数が十分でなかったりするところもあります。

要は予算との相談になってくるわけです。

それを踏まえたうえで以下に介護付き老人ホームの選び方のポイントを上げておきましょう。

(1)場所をどこにするか。都会か田舎か

介護付き老人ホームを経営する側にたって考えてみると分かることなのですが、施設の土地代はバカになりません。

よって田舎の方が割安になるのですが、入居者の立場になって考えてみると、子供や孫から離れてしまうといった難点も無視出来ません。

一人暮らしの時は、がんばって何とかやってきた高齢者の方も、介護付き老人ホームに入ると、ある種の団体生活になることから、急にストレスを感じたり精神的に不安定になってしまいます。

そのような場合、何と言っても心の落ち着きになるのは子供や孫が訪問してきてくれることなのです。

(2)居室の広さ、日当たり、風通し

この辺はマンションを選ぶ感覚と同じです。

広さは22㎡位は欲しいところです。

狭すぎると「病室」といった感じになってしまいます。

規約上、施設側が居室を変えることが出来るようになっているケースもあり、入居前には重要事項説明書を熟読することが肝要です(これもマンションを購入する場合と同じですね)。

(3)敷地面積と建物面積との関係

ある程度余裕を持ってゆったり建てられている方が落ち着きます。

実際に介護が必要になってくると、だんだんと外出が難しくなってきます。

施設から庭などの自然が見れるのか、あるいは、近隣の住宅しか見えないのかで

入居者の気分は随分と違ってきます。

また駐車場のスペースが十分にない場合、子供や孫が訪ねて来にくくなります。

(4)介護スタッフの充実度

実はこのポイントが一番重要な点かもしれません。

客観的な数字で充実度を知ることが出来ます。

重要事項説明書の「介護に対する職員体制」の欄の数字を見ます。

例えば上記のサクラビア成城の場合、ホームページから重要事項説明書を見ることが出来ます。

3頁目に「介護に対する職員体制」の欄があり、ここに 「1.5:1以上」と載っています。

これは、要介護者等1.5人に対して直接処遇職員(介護・看護)1人以上(常勤、週40時間換算)の職員体制をとっていることを意味します。

当然のことながら、左側の数字(1.5にあたる)が小さければ小さいほど、介護スタッフは「充実している」 ことになります。

1.5のところは「サクラビア成城」だけでなく、週刊ダイヤモンド(2007年11月10日号;『こちら』を参考)でランキング1位になった「ゆうらいふ横浜」など、入居一時金3000万円未満のところでも探していくと結構あります。

逆に入居一時金が比較的高くてもこの数字が2.0だったり、2.5のところも少なくありません。

介護スタッフ1人がみる要介護者の数が多ければ多いほど、スタッフにとっては職場環境がハードになっていることが予想され、その皺寄せは介護の質になって出てくることが予想されます。

(5)介護スタッフにとって働きやすい職場か

自分が職を探している介護スタッフの立場に立って老人ホームをチェックします。

年収はいくらか。

パソコンで「求人」と打ち込んで検索して、職探しの要領でネットを辿っていくと、目的の老人ホームの求人ページに行き着くことが出来ます。

すると、その老人ホームの年収が幾らなのかを知ることが出来ます。(その他、採用に関する諸条件を知ることが出来ます)。

スタッフがあまりに安い年収で雇われていると、その皺寄せは入居者への対応となって出てきてしまいます。

介護スタッフの離職率は、重要事項説明書に「前年度1年間の退職者数」といった項目がありますので、これらのデータで知ることが出来ます。

当然のことながら離職率の高い職場は要注意です。

職員の勤務形態(勤務時間帯、夜勤の状況)なども重要事項説明書に記されていますし、従業員に対して健康診断を実施しているかどうかといった福利厚生の情報も重要事項説明書や求人のホームページで知ることが出来ます。

要は、介護スタッフにとって働きやすい職場になっているのか、あるいはスタッフが薄給で極限に近い労働を強いられているのか

― この違いは非常に重要です。

(6)退居者の情報

この情報も重要事項説明書に出ています。

退居した人が自宅に戻ってしまうケースが多い場合は要注意です。

(7)入居一時金の償却年数

入居一時金の「償却」とは、老人ホームの取り分のことを言います。

減価償却とは違います。

オフィスや店舗用不動産を借りる時に使われる「償却」(退去時に敷金・保証金から差し引かれる額)に近い概念です。

例えば1000万円の入居一時金が初期償却10%、以降5年で均等償却の場合、入居時に100万円がホームの取り分になります。

2年してホームを退去する場合、100万円+(900万円÷5年)×2年=460万円がホームの取り分となり、入居者(退去者)に戻るのは、残りの540万円だけです。

入居一時金の償却(特に初期償却)を巡ってトラブルが多くなっているとの報道もあります(2010年9月21日、朝日新聞)。

老人ホームのなかには入居一時金の初期償却が100%のところもあります(90日間のクーリングオフ後に退去した場合、入居一時金は一切返ってきません)。

一方でサクラビア成城のように初期償却ゼロで期間15年間での償却としているところもあります。

ホームの性格(介護型か、自立・混合型か)などによって違いはありますが、入居一時金については初期償却15%以内、償却期間は5年以上というのが一つの目安になるかもしれません。

なお余談になりますが、私は老人ホームのM&A案件を検討したことがあります。

その時は買い手側のアドバイザーだったのですが、売り手のアドバイザーから渡された資料を見てびっくりしました。

資料に記された収支予想の数字が非常に良かったのですが、何と入居者が平均4年で亡くなるか、退去するとの前提で収支が組まれていたのでした。

一方で入居一時金の初期償却率は20%、5年償却でした。

つまり入居者の回転率を高めて、どんどん収益を上げるとの発想の基に収支予想が組まれていたのです。

買い手のアドバイザーとしてこの案件を却下したのは言うまでもありません。

またこんな老人ホームの世話にはなりたくないと思いました。

(8)運営母体の経営基盤をチェックする

運営母体の経営基盤はしっかりしているか、逆に極端に収益志向に傾いていないか、などをチェックします。

数多くはありませんが、母体が三井、三菱、住友といった財閥系の名のあるところですとやはり安心出来ます。

(9)食事はおいしいか、風呂は週何回入れるか、普通の風呂か、器械浴か

食事は入居者にとっては大きな問題です。

実際に訪れて入居者が食べているものと同じものを出してもらって食べてみると良いと思います。

施設によっては自前のキッチンを備えているところ、外の給食サービスを利用しているところなどいろいろですが、何れにせよ食事の美味しさは重要です。

風呂についても、器械浴のほうがスタッフにとっては楽ですが、入居者の身になってみると、きちんとした湯船につかりたいとの希望を持つようです。

(10)実際に訪れてみる

一番重要なのはこれです。

私は興銀の審査部に5年間在籍していましたが、相手の企業がお金を貸して良い会社か、あるいは貸してはいけない会社か、幾ら資料を取り寄せて分析してみても、結局のところ、「実査」(実際に会社に言ってみること)に勝ることはありませんでした。

良い会社は、会社の門をくぐった瞬間、あるいはオフィスの扉を開けた途端に、ピーンとピアノ線を張ったような前向きの緊張感を感じさせます。

ポジティブな雰囲気が訪問者に伝わってくるのです。

逆に駄目な会社は暗くて、わざとらしい・・・。

工場長が無理に従業員に話しかけたり(従業員の方は慣れないのでしらけた応対をします)、工場内のごみを拾ったりしながら銀行員を案内してくれます。

こういった会社では、見えないところで従業員同士が固まっておしゃべりしているような場面に遭遇することもあります。

同じように、介護付き老人ホームを実際に訪問してみると、施設に入った瞬間にある種の「空気」を感じることが出来るかもしれません。

介護のスタッフは生き生きと余裕を持って働いているか、それとも疲労困憊でいらいらした素振りを見せているか。

入居者が部屋に閉じこもったまま出てきていないようなところも要注意です。

施設に入った瞬間に病院のような「空気」を感じるところも敬遠した方が良いかもしれません。

* * * * *

以上、介護付き老人ホームについて長々と書いてきました。

「私の親はまだまだ元気だから心配ない」

こう思っている人も多いと思います。

しかし介護の問題はある日突然やってきます。

その時のためにある程度の知識は身につけておいた方が良いと思います。

親の介護で汗をかくことは、自分自身の介護が必要になった時に 「より良い選択が出来る」 ことにつながって行きます。

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2010年10月 1日 (金)

シャガール

10月です。

ピンクリボン運動で Yahoo! のページがピンク色になっていますが、東京タワーも綺麗にピンク色にライトアップされていました。

      20101001

ところで今日のウォール・ストリート・ジャーナル日本版『【肥田美佐子のNYリポート】米投資家が日銀に提言:円高克服のカギはデフレ脱却にあり』。(『こちら』です)。

だんだん日本のデフレは日本だけの問題ではなくなってきました。

ご関心ある方は是非とも上記をクリックしてご覧になってみてください。

話は大きく変わりますが、

「シャガール ロシア・アヴァンギャルドとの出会い」展。

東京(東京藝術大学大学美術館)での開催は、残すところあと10日(10月11日まで)。

展覧会ではシャガールのドキュメンタリー映画も上映しています。

『こちら』です。

シャガールがパリ・オペラ座の天井画を描いている時、上手く描けなくて涙を流して泣き出したといった話も出てきます。

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