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2010年10月 7日 (木)

マイナス金利

マイナス金利とはどういうことでしょう。

たとえばあなたがみずほ銀行の普通預金に100万円を預金します。

金利は0.02%(『こちら』)。

1年預けて200円の金利が付きます。

これがもしマイナス0.02%だとしたら・・。

あなたの預金残高は1年後には金利200円が引き落とされて、999,800円になっています。

(たしか銀行の金利は年2回に分けて払われるはずですので最初の金利の複利効果がありますが、議論を単純化するため、ここでは無視します)

銀行に預けていて、マイナス金利がつき、その結果、預金を減らされるのだったら、

「預金なんかしないで現金で持っている・・」

そう思う人も多いのでしょう。

個人であればたしかにタンス預金が増えそうです。

しかし企業が多くの現金を社内に抱え、いちいち現金で決済するのは現実的ではありません。

逆にマイナスの金利が付くのであれば、企業の中には積極的にお金を借りて、事業の拡大のために借りた資金を使うところも出てくるかもしれません。

なにせ今日借りた100万円は1年後に 999,800円にして返せば良いのですから・・。

このようにマイナス金利の下ではお金が市中に回り始め、積極的に景気を良くする為に使われていくことが期待されます。

* * *

実はマイナス金利はかつて日本でも出現したことがあります。

読者の中には、日経新聞の2003年1月25日付けのこの記事を覚えておられる方もいると思います。

「金融機関が短期の資金を融通し合うコール市場で24日、利息をもらうのではなく、利息を払ってお金を貸す「マイナス金利」の取引が成立した。

短期金融市場の中核とされるコール市場でマイナス金利が出たのは初めて。

欧州系銀行の東京支店が外銀2行に対して、計150億円をマイナス0.01%の金利で貸す契約を結んだ。

こうした異例の事態が起きた背景には、円と外貨を一定期間交換する外為取引 (為替スワップ)でマイナス金利が恒常化していることがある。

信用力の低い邦銀は市場から外貨を調達するのが難しいため、市場金利より高い金利を外銀に払って円と外貨を交換する。

外銀はこの金利差分の利息をもらって円を調達できることになる。

今回、コール市場でマイナス金利を提示した欧州系銀行は0.08%程度のマイナス金利で円を調達しているという。このためマイナス0.01%で貸しても0.07%程度の利ザヤをかせげると判断したようだ。(抜粋)」

日銀のホームページには、

日本銀行ワーキングペーパーシリーズとして、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたペーパーが掲載されています。

その中のひとつのペーパーが、『量的緩和政策下におけるマイナス金利取引:円転コスト・マイナス化メカニズムに関する分析』というもの(詳しくは『こちら』)。

以下にこのウェブサイトに載った要旨を掲載します(青字部分;少々読みにくいので読み飛ばして下さって結構です)

本稿は、2001年3月に導入された量的緩和政策の下で恒常的に観察される、為替スワップ市場における外銀の円転コストのマイナス化メカニズムを明らかにすることを目的としている。

主な結論は以下のとおりである。

(1)外貨市場での調達コストと為替スワップ市場を介した外貨調達コストの間で無裁定条件が成立する下では、外銀の円転コストは、外銀の円市場における調達コスト(リスクフリー・レート+信用リスク・プレミアム)に、邦銀に対する信用リスク・プレミアムの内外市場間格差を加味したものとなる。

(2)最近の円転コストのマイナス化現象は、ドル市場における邦銀の信用リスク・プレミアムが、円市場対比で大きいことに起因している。

(3)この邦銀に対する信用リスク・プレミアムの内外市場格差は、1990年代前半から既に存在していたが、円リスクフリー・レートが低下するに連れて顕現化し、最近の円転コスト・マイナス化の主因となっている。

(4)ただし、円転コストがマイナスに転じた場合でも、リスクフリーの日銀当座預金との裁定が制約なく行われれば、本来速やかにゼロに戻る。しかし、日銀に対するクレジット・ラインの設定等、外銀の当座預金保有額に制約があり、十分に裁定が働かないため、円転コストはマイナスのまま推移している。

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さて上記文章を読み疲れた方は

マイナス金利に関する国会のやりとり(下記)をどうぞ。

今年3月1日、衆議院財務金融委員会の議事録で山本幸三議員のウェブサイト(『こちら』)から転記します。

○山本(幸)委員 あなた(注:白川総裁のこと)は、名目金利がゼロから下には行けないと言ったけれども、スウェーデンは去年の八月、マイナスの金利をやったんだよ。

知っていますか。

○白川参考人 スウェーデンがマイナスの金利を入れたということでございますけれども、これは、結論から申し上げますと、知っております。

 これは、先生は十分御存じのことではございますけれども、少し御説明いたしますと、スウェーデンの中央銀行に金融機関が預金を預けるとき、そのときの金利をマイナスにしたということでございます。

ただ、実際には、これはややテクニカルな話になりますけれども、スウェーデンの中央銀行は、資金が余りますとマーケットから資金を吸収するという操作も行っております。

したがいまして、実際に市場においてマイナスの金利がついているわけではございません。

 また、スウェーデンの中央銀行の総裁を初め幹部は、自分たちはいわゆるマイナス金利を導入したわけではないということを今一生懸命説明しておりまして、今先生がおっしゃったような意味でマイナス金利を導入したわけではないというのがスウェーデンの中央銀行の説明だと思っております。

マイナス金利については、このように国会でも議論されており、今後も議論が続くと思います。

* * *

ところでいままでの話は全て名目金利の話です。

本当に重要なのは実質金利の方。

こちらは多くの国でマイナス金利になっていますが、日本はプラスの実質金利でしかも結構高い水準にあります。

まず名目金利と実質金利の関係を式で示しておきましょう。

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実質金利の上では、主要国はマイナス金利ですが、日本だけがプラス金利。

先ほどの山本議員と日銀総裁のやりとり(今度は読みやすくするため、数字はアラビア数字を使い、・・・で示したところを一部カットしました)を下記に抜粋します。

○山本(幸)委員 ・・・政策金利、日本では・・0.10。アメリカはゼロから0.25。・・・英国は0.50。ユーロ圏は1.0。・・・

これでいくと、日本は0.10・・・。そして、最新の消費者物価上昇率はマイナスの1.3ですよ。・・・0.1引くマイナスの1.3はプラスの1.4%ですね。

これが日本の実質金利。

アメリカ、0.12マイナスの最新の消費者物価上昇率2.6、これでいくとマイナスの2.58じゃないですか。

イギリス、0.50マイナスの3.5%、マイナスの3%。EU、0.34マイナス0.9、マイナスの0.56。

主要国みんなマイナスですよ。

日本だけがプラスの1.4だ。

これじゃ世界一高いんじゃないですか、日本銀行総裁。

○白川参考人 ・・・実質金利を下げていくということも、実は名目金利を低い水準にし、この水準を粘り強く維持する、

あるいは資金を潤沢に供給するということを通じて物価に最終的には影響を与え、そのことを通じて実質金利を下げていくという努力の結果でございます。

そういう意味で、私どもは世界で一番低い名目金利を維持することを通じて、最終的に実質金利の面でもこれを引き下げていくという努力を今重ねております。

* * *

下記は主要国の中央銀行のバランスシート規模の推移です。

日銀が量的金融緩和を一所懸命やっていた時、日銀だけが突出してB/Sを膨らませていました。

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「せめて2005年~2006年のレベルにまでこの水準を引き上げて欲しい」

こう考えるのは私だけでしょうか。

今年7月、内閣府がまとめた年次経済財政報告(『こちら』)に、日銀当座預金残高推移と政策金利推移のグラフが載っています(下記)。

これを見ると日銀にはまだまだやれることがあるように思えてなりません。

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コメント

最近は、日銀の金融調節の本ばかり読んでいます。中央銀行バランスシートが日本だけ縮小してると聞いた時にはビックリしました。

日本の財政赤字も財務省が日本だけ違う水準で計上してる、という話も聞きました。
日本の現状は人災ではないか?とも思ってしまいます。
彼らは国の事を考えてない、と思うしかありません。

投稿: 名前が茄子 | 2010年10月 7日 (木) 01時04分

名前が茄子様

「彼らは自分の組織のことをまず第一に考えている」・・このように私も思うことがあります。

戦前の日本陸軍と日本海軍もそうだったと聞きます。

そして大新聞は不思議と日銀に批判的な記事は書きません(勉強不足? それとも記者クラブ制が原因?)

外資系で働いているアナリストたちも日銀出身者が多く、非公式ルートで日銀時代の同僚から「情報収集」(インサイド・インフォーメーションにならない範囲、例えばこちらから『為替介入』と発言してみて相手の顔色を窺うとか・・)をしているといった話も聞きます。

いずれにせよ日銀は象牙の塔から出て、もっとマーケットと対話すべきです。

「かつて行っていた量的金融緩和をどう評価しているのか、なぜ現在の政策のほうが優れていると信じているのか・・・」

市場はそういった日銀の言葉を求めているのであり、国会での議論も、もう少し「噛み合った」議論が行われることを国民は期待しています。

その昔、日銀の局長と飲み屋でたまたま会い、議論したことを思い出します。

彼はこう言っていました。

「いろいろみんな言うけど、日本では人々がパンを求めて行列しているなどということは無いから・・」

しかしいまは違います。

1日(金曜日)のお昼頃、上野公園を歩いていましたら、「・・教会」と書いた垂れ幕のもとで(もしかしたら新興の宗教団体かもしれません)、公園に集まってくる人々に対して無料での食事の「ほどこし」が行われていました。

まだ人々が集まってきている途中だったのですが、列で待っている人たちの数はゆうに100人は超えているようでした。

投稿: 岩崎 | 2010年10月 7日 (木) 09時28分

岩崎 日出俊様

私が最近思うのは、
日本国民は馬鹿では無いので判断できる頭はありますが、ただその判断するための情報がゆがめられたりすると頭が混乱してしまう。
ということです。

私は企業の売り上げを増やす事をしないと景気と雇用は改善しないと考えていますが、財政赤字で縛られてしまいます。
「では政府発行紙幣はどうなのか?」
という話をすると一笑されてしまいます。
でも昔は中央銀行が無かったから政府が紙幣を発行してたんですが議論にもなりません。

中国を見てても景気が良いのは財政支出と元の固定レートを維持するためにお札を印刷してるからだと考えています。
日本では信用創造が銀行の預貸率を見ても期待できないのでお札を増やすしかないと思います。

本当はやれることがあるのにやらない日本経済は自爆だと思っています。

投稿: 名前が茄子 | 2010年10月 7日 (木) 18時44分

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