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2011年1月 3日 (月)

お金の流れが変わった!

昨年末から引いていた風邪が抜けず、本を読んだりDVDを見て休みを過ごしています。

いくつか読んだ本のうちで面白かったのは大前研一『お金の流れが変わった!』(『こちら』)。

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私のように金融や投資に携わってきた者の目から見ると、この本に書かれていることには必ずしも賛成できないところもあり、特に最終項の『日本経済再成長の処方箋』には首を傾げたくなる部分もあります。

また細部では誤植もあります [たとえば184頁、(原子力で)『三菱重工はGE、日立はアレバと組んでいる』など]。

にもかかわらず、この本は世界の現状を鋭く切り取ってみせてくれます。

若干のマイナス面など気にならないほどの多くの『価値』を読者に与えてくれる本、ということでお勧めの1冊です。

タイトルの『お金の流れが変わった!』は著者が以前から指摘しているホームレスマネーのことであり、それ自体にはあまり新味はありません。

むしろそこから見えてくる世界の現状把握にみるべきものがあります。

アメリカ、中国、EUの3極の現状・・・

と同時にロシア、インド、ブラジル、インドネシア、シンガポール、タイ、トルコなどの新興国が大きく胎動、そして躍進していく現状を本書では豊富な事例をもって浮き彫りにしてくれます。

特にトルコに関する記述は、頁数的にはあまり割かれていませんでしたが、アラブとトルコの関係、EUや米国とトルコの関係などについて非常に的確に記されていると思いました。

個人的な話になってしまいますが、私は昨年1週間ほどトルコ・イスタンブールのリッツで過ごしました(『こちら』)。

この時の経験ですが、ホテルに入るにはチェックイン時のみならず、1週間滞在している間、毎回毎回、空港のボディーチェック並みのチェックを受けます。(アタッシュ・ケースも毎回エックス線チェックを受けます)。

私は宿泊客なのでチェックイン後1日か2日もすればガードマンたちとはすでに顔見知りになっているのですが、それでも彼らは私に向かって毎回、

『ソーリー(すまないね)』

と言いながら金属探知機のバーを潜るように誘導します。

実はホテルのロビーにはリッツが雇っているガードマンの3倍くらいの人数の大男たちがうろうろとしていました。

彼らもまた耳にはイヤフォンをつけ小声でマイクに向かって話している、一見してガードマンと分かる人たちでした。

このときこのホテルではハマスとイスラエルの秘密会談が開かれていたようです。

私がイスタンブールに滞在している間には、イスラムの過激派による自爆テロで市内の病院に駐車していた車が爆破され何名かが死傷するという事件も起きました。

大前氏が指摘するようにトルコはいつの間にか「中東の盟主」になってしまっており、今やトルコは欧米が一番頼りにしているイスラム国家でもあるのです。

したがって正式な会議・会談のみならず非公式なアラブ・イスラエル間や欧米・アラブ間の「接触」もイスタンブールで行われることが少なくありません。

こういったトルコの独特の立ち位置については日本のマスコミではほとんど報じられていません。

そしてトルコと言えば経済的にはドイツとの近さ。

本書の「トルコにはドイツに住んだ経験がある人、ドイツ語が通じる人がたくさんいて、中国なみに人件費が安い」との記述には思わず膝を打ちました。

本書は世界経済の現状を「ボーダレス」「サイバー」「マルチプル」といった3つのキーワードで分析してみせますが、もうひとつ「不動産」の視点も重要だと指摘しています。

リーマンショックで世界の不動産市況は下落したとはいえ、風光明媚で気候が温暖な地の不動産の供給には限りがあります。

欧州や米国、ロシアの「そこそこ」の富裕層はポルトガルやクロアチアの海岸沿いやトルコ・イスタンブールのボスポラス海峡沿いに別荘を買います。

この結果、これらの地の不動産はリーマンショックにもかかわらず、10年~20年の期間で見れば高騰してきています。

(次の2枚の写真はボスポラス海峡に面するこの種の別荘を海峡を行く船から撮影したものです)

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いま世界で起きている大きな地殻変動。それは一言でいうと新興国の台頭です。

いまや世界のどんな中小国に生まれても経営者の知恵と才覚と戦略によって企業は世界の表舞台へと躍り出ることができます(この辺は拙著『M&A新世紀』でも書きました)。

世界1位のビール会社インベブはベルギーの会社でキリンの6倍強の時価総額を誇ります。2位のSabMillerはもともとは南アフリカの会社(キリンの3倍強)。

日本の百貨店である三越、伊勢丹、阪急、阪神、高島屋、大丸、松坂屋をすべて足し合わせても時価総額は1.33兆円でユニクロ(1.37兆円)以下ですが、そのユニクロとてスエーデンのH&Mやスペインのザラの半分以下でしかありません。(スエーデンやスペインは決して欧州の大国ではありません)。

いまから60年前にインドの田舎町で生まれたミタルが作り上げた鉄鋼会社は新日鉄の3倍もの時価総額を誇るに至っています(以上、時価総額はすべてFT500をベース)。

世界最大の非鉄金属・鉱山会社はブラジルのヴァーレ、世界1位の化学会社はデュポンやダウ、BASFではなくて、サウジの会社です。

こうした世界の大きな地殻変動と無縁なところにいる現在の閉ざされた日本。

日本の新聞だけを読んでいては新興国のきちんとした情報さえまともに入ってきません。

日本は、いまはそこそこ居心地の良いぬるま湯なのでしょうが、たとえばあなたが日本の銀行や郵便局(ゆうちょ銀行)に預けている預金は本当に安全なのでしょうか。

いずれそういった状況ではなくなりますよ、と著者の大前研一氏は『お金の流れが変わった!』で警鐘を鳴らしている・・・

そういったように私は読みました。

 

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