沈まぬ太陽
昨晩テレビで映画「沈まぬ太陽」をやっていたので見ました。
約10年ほど前に山崎豊子さんの「原作」を読んだときには、私は率直に国民航空という会社組織の非情さに憤り、逆境にもめげず自らの信念を貫き通す主人公(恩地元)に共感したのを覚えています。
10年後の今、映画となったものを見るとまた違った感想を持ってしまいました。
カラチ、テヘラン、ナイロビと海外赴任を繰り返す主人公。
小説を読んだときは「ひどい人事だ」と一緒に憤慨したものですが、昨日映画を見たときには、本社で社内権力闘争に明け暮れたり、役人を接待したりしているよりは、途上国に赴任している方が「ずっと幸せなのでは」と思えてきました。
私自身、夏は40度、冬は体感温度がマイナス60度(年間温度差100度!)にもなったシカゴに5年ほど駐在したり、出張ではオーストラリアの奥地(西豪州ダンピア)、サウジアラビア、ビルマなど各地に行きました。
実際に海外を訪れるとわかることですが、日本から遠く離れた山奥で日本製のシャンプーや調味料を懸命に売り込んでいるメーカーの駐在員も数多くいますし、人件費が安いということで、会社が中国やフィリピン、ベトナムの僻地に工場を作り、そこの工場管理を任されているという人もたくさんいます。
私が訪れた西豪州ダンピアは砂漠やジャングルを越えて行きつく小さな海岸の町で、海にはサメがいます。
天然ガス開発にかかわる欧米のエンジニアたちがそこで働いていましたが、たとえばシェルでは「若いうちにこうした僻地で何年か経験を積む。ある日突然本社の中枢に呼び戻されることも少なくない」といった話をしていました(『サバイバルとしての金融』)。
国民航空の社風、それは本社勤務やニューヨーク、サンフランシスコ勤務などが良いコースとされ、一方海外の途上国に赴任となると左遷と烙印される ― そういった社風だったのでしょうが、そういった企業の末路は知れています。
現に世界はもうそういった時代ではないことは、大前研一さんの著作を紹介する先月の「ブログ記事」でも書いた通りです。
なお小説の主人公(恩地元)のモデルとなった小倉寛太郎さんは72歳ですでに他界されています。
彼が1999年に東大駒場祭で講演した時のスピーチは『こちら』 。
小説の登場人物と実在モデルとの対照表などもひろく出回っています(たとえば『こちら』)が、こういった表が出回ること自体がいかにも国民航空らしい気がしてきます。
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