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2011年3月23日 (水)

汚染者負担の原則

政府は22日、東京電力の原子力発電所の事故で被害を受けた周辺住民らへの損害賠償について、

「国も負担する方向で検討に入った」

とのことです(3月23日、読売新聞 『こちら』 )。

一般に、企業が環境汚染を引き起こしてしまった場合、「汚染を除去し環境を復元すること」や「被害にあった方たちに対して補償する」ことは、

「汚染を引き起こした企業が負担する」 ことになります。

これを Polluters Pay Principle(汚染者負担の原則;略してPPPの原則)といいます(『こちら』を参照)。

しかし原子力発電の場合には「原子力損害の賠償に関する法律」(『こちら』)が定められていて、この法律にそって誰がどこまで負担するかが決められることとなります。

所管官庁という言葉があるのかどうか、詳しいことは私にはわかりませんが、この法律を読むと、文部科学大臣に主たる権限と責任を課していることがわかります。

文部科学省のウェブサイトには、原子力損害賠償制度について説明してくれているページがあります(『こちら』)。

下の図(クリックすると大きくなります)は、このウェブサイトに出てくるものですが、原子力損害賠償制度の概要を要領良くまとめています。

Photo_2

要は(非常に簡単に言ってしまいますと)、

「PPPの原則が適用されますが、万が一の場合は政府がバックアップしますから、国民のみなさんは安心してください」

ということなのでしょう(『安心』と言っても、起きてしまった被害に対する補償という意味での安心に過ぎないのですが・・)。

* * * *

PPP原則の適用に際して、水俣病を引き起こしてしまったチッソの場合には次の2点が論点となりえました。

(1)チッソは、戦時中、陸軍の要請でアセトアルデヒドを生産し、それによって水俣湾が汚染された

( → 国に言わせれば、戦時中の生産量よりも戦後の生産量の方が圧倒的に多い。それに、汚染してまで生産しろとは言っていないはず。だから「チッソはPPPの原則から逃れることはできない」ということになります)

(2)PPPの原則を適用した結果、チッソが補償金の支払不能の状態になってしまった

( → 国、県、金融機関が一体となってチッソに対して金融支援を実施)

今回の原子力発電事故の場合では、あらかじめ原子力損害賠償制度が制定されていますから、(2)の問題は生じないか(たとえ生じたとしても)政府による出動は比較的スムーズに行われると思います。

(1)の問題は、そもそも原子力発電がどこまで国策に基づいて行われているかによって、たとえば国と東電との負担割合が決まってくることになるという「微妙な問題」かと思います。

いずれにせよ、損害賠償を東電が負担するということは、東電の株主がまず負担し、(万が一)それでも足りなければ、債権者が負担することになります。

国が負担するということは、国民の税金でこれを負担するということを意味します。

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コメント

記者も混乱しているのだと思いますが、同日の朝日の記事によると、電力会社の賠償額が1200億円を超える場合に、越えた分を政府が援助するとしています。(少なくともそう読める)合わせて、「賠償額が兆円単位に膨らむ」という財務省幹部もコメントを載せていました。
阪神大震災の復興対策費の総額が3兆2千億ですから、原発の損害補償だけで兆円単位となると、国家の支出の総額がいったいいくらになるのか。
原発地域からの非難は政府が指示したことですから、避難者の生活支援や補償の費用は当然国が支払うことになるはず。「野菜を出荷するな。食べるな」と声明を出したのも政府ですから、こちらの関係者への補償も生じる。国には金がありませんから、国民の個人資産をいかに巻き上げるか、という選択肢が現実味を帯びてくるのではないでしょうか。

投稿: 神保町 | 2011年3月24日 (木) 11時10分

神保町様

3月25日の朝日新聞、オピニオン欄 『原発賠償 国は負担するな』(九州大学副学長、吉岡斉)に、1200億円との関係について丁寧に説明されています。

なお吉岡さんの主張にはもっともな部分もありますが、東電としては『国策で原発を作った。だから国が面倒をみろ』と主張するのだと思います。

昨日出たニューズ・ウィークの記事などを見ると、とても東電1社では負担しきれない、そんな規模の損害ではないという気がしてきます。

投稿: 岩崎 | 2011年3月25日 (金) 09時08分

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