浜岡原発
ここ1~2週間ずいぶんとたくさんの本を読みました。
この本はずいぶんと売れているみたいで、アマゾンによる売り上げランキングは「一時的に在庫切れ」であるにもかかわらず、現在順位が第 7位。
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ではこの本の評価はと言うと、これは一言でいうと、「アマゾンのレビュー評価によく現われている」といえます。
星5つと高く評価する人が多い反面、星1つ、トンンデモ本だとする評価もあるのです。
私自身のこの本の読後の感想はこのブログ記事のあとの方で書きます。
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ところで話は少しそれますが、広瀬隆さんというと私には『赤い盾』の著者としてインプットされています。
『赤い盾』が出版されたのは1991年。この本は、著者が再構築したロスチャイルド家の広範にしてかつ詳細な家系図に特徴があります。私は本書を読んでみて「実に丹念によく調べ上げられている」と驚嘆しました。
当時、私は興銀の審査部に所属していて、資源開発のプロジェクト・ファイナンスの審査を担当していました(1987~1992)。
審査案件の中には、金鉱山開発や、ダイヤモンド鉱山開発のプロジェクトもあり、このため De Beers やロスチャイルドについて数十冊の本を読みました。
(誤解の無いよう念のために書きますが、審査の要諦はキャッシュフローの評価・査定であり、『赤い盾』などの本を読んで審査しているわけではありません。
ただし当時の金鉱山開発やダイヤモンド鉱山開発のプロジェクト審査にあたっては、De Beers やロスチャイルドについて出来るだけ多くの客観的な情報を集めておくことが必要なのも事実でした)。
その後、私は興銀時代にいろいろな形でロスチャイルドと接点を持つに至りました。
ロンドンの本社を訪れ、有名な「赤の部屋」に案内されたこともあります。
「毎朝、ここで金価格が決まるのだよ」
と案内してくれた幹部は話していました(もう20年近く前の話です)。
アドバイザー案件ではロスチャイルドと競合したことも何回かあります。
ブラジル政府が通信の周波数帯の一部を民間に売り出すに際し、ブラジル政府のアドバイザーを求めていた時。
この案件では私は首都ブラジリアまで出かけて行ってがんばったのですが、「ブラジルがポルトガルから独立する際にこれを金融面でサポートしたのはロスチャイルドだから」といった事情もあり、
ロスチャイルドに敗退しました(詳しくは『こちら』)。
なぜこんなことをくどくど書いたのかと言いますと、私自身が金融の世界で仕事をしてきた関係上、ロスチャイルドとはそれなりに接点があり続けてきました― そして私が知るロスチャイルドは、広瀬さんが『赤い盾』で描き出したロスチャイルドのイメージとはやや違っていることを指摘したかったからです。19世紀ならいざ知らず、少なくとも現在においては、やや違っていると思います。
広瀬さんの『赤い盾』の記述は、一つ一つは(おそらくは)正しいものであり、「よくぞここまで調べられた」と敬服する次第ですが、全体として見た場合、「ロスチャイルド関連の会社が一つの見えない糸で繋がっており、今なお世界で非常に大きな影響力を持つ」といったイメージを読者に与えるとすれば、それは行き過ぎであるように思います。
確かに19世紀の世界ではロスチャイルドがベアリングとともに世界を2分するほどの大きな力を持ったのは事実でしょう。しかし 20世紀も終わりに近づいてくると、ゴールドマンやモルガン、ソロモンなどを前にして、こと金融の世界においては、ロスチャイルドの存在感は薄くなっていったように思えます。
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このように私は、今となっては『赤い盾』についてやや批判的に見ているものですから、同じ広瀬さんの『原子炉時限爆弾』についても、
「よく調べ上げたものだ」と驚嘆しつつも、この本が与える全体的な印象については同じようにやや批判的に読みました。
金融と違って、原子力に関しては私はシロウトですが、『原子炉時限爆弾』について、ひとつひとつのピースはたとえ断片としては正しくても、それが積み上げられていって、全体として一つの主張をなす時、論理にやや飛躍があるように思えたのです。
アマゾンの評価が分かれるのも恐らくはそのようなところから来るのではないでしょうか。
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こう述べたにもかかわらず、私は一人でも多くの方が『原子炉時限爆弾』をお読みになるのをお勧めします。(と言っても私の知人のA氏が「都内の本屋を10店近く探したけど、どこも完売でした」と言っていました)。
それは仮に東海大地震が起きたとき、浜岡原発はほんとうに大丈夫なのかが心配だからです。
一説には「大陸プレート型の大地震が起きる場所と予想されているところに建っている原発は世界で浜岡だけ」とも言われています(『こちら』)。
3月24日の朝日新聞で、静岡県知事の川勝平太さんが次のように語っています。
「東海地震の想定は、マグニチュード8.0。・・・ 津波の高さは10メートル以下・・・。 今回の地震が起きた時、一番知りたかったのは、福島原発の揺れの数値です。・・・
(静岡県の浜岡原発の)揺れの許容度は800ガル(ガルは加速度の単位)で、実際には1千ガルまで耐えられます。
09年8月11日の駿河湾沖地震では、浜岡原発の5号機だけが426ガルと、他号機の倍以上も揺れました。・・
・・ところが、(今回の地震について)保安院も東電も、揺れのデータをほとんど出さない。福島第一原発3号機は507ガル、6号機は431ガルという以外、明らかにされていません。1号機、2号機、4号機、5号機の数値がなぜ公表されないのか。」
新潟県の柏崎刈羽原発では、今後起きると想定される地震による最大の揺れの強さ(基準地震動)は、最大2300ガルに引き上げられています(『こちら』)。
はたして浜岡は、これから起きると予想される東海大地震による強度の揺れに耐えられるのでしょうか。
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(浜岡原発の写真;中部電力のウェブサイトより)
なお浜岡原発については、社民党の福島瑞穂党首が今年3月17日夜、首相官邸を訪れ、東海地震の予想震源域にあることから、これを停止させるよう申し入れています(『こちら』)。
さらに浜岡原発に関してはこれまでに、今年1月の火災(『こちら』)や2009年12月の3号機での放射性廃液漏れ(作業員29人が被曝)(『こちら』や『こちら』)などの事故も伝わってきています。
2009年8月の駿河湾地震(マグニチュード6.5)の際には、浜岡原発 5号機の起動領域モニタの動作不能が発生しました(『こちら』)。
これはクラスA不適合事象、すなわち、原子力安全や電力供給に影響を与える可能性のある不適合、社会的に影響が大きいと思われる不適合でした(『こちら』)。
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仮に、今回のようなマグネチュード9.0クラスの地震が東海地方を襲っても浜岡は大丈夫なのかどうか、これに対する中部電力の対応をまとめたペーパー(『こちら』)を読んでも必ずしも安心できないと感じるのは、私だけでしょうか。
安心してもいいと言うのであれば、安心できるような材料を提示して頂きたい、上述の静岡県知事の疑問にも答えて頂きたい、このように思います。
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【参考】広瀬隆さんの今回の福島第一の事故に関するコメントは『こちら』(YouTube動画のインタビュー;1時間17分)。
東海地震の提唱者として知られる石橋教授(神戸大学都市安全研究センター)による衆議院予算委員会公聴会での発言録(2005年2月23日)は『こちら』。
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コメント
福島原発があの惨状なのだから浜岡原発が安全とは到底思えません。
投稿: peace68 | 2011年6月21日 (火) 21時47分