日本の原発は下図のような形で展開されていますが、
西側(関西電力、四国電力、九州電力)の全原子炉は加圧水型原子炉(PWR)となっています(注:ウィキペディアの記事をベース。個々の詳しい検証はしていません)。
北海道電力の全原子炉も加圧水型原子炉(PWR)です。
一方、東北電力の全原子炉は沸騰水型原子炉(BWR)。
東京電力や中部電力も、福島第一、福島第二、柏崎刈羽、浜岡など沸騰水型原子炉(BWR)が中心となっています(詳しくは『こちら』)。
要は本州の西側と九州、四国、北海道は三菱重工、
本州の東側は東芝、日立という線引きです。
昨晩関係者から聞いた話では、ゼネコン(建設会社)も、基本的には、西は大成、東は鹿島、大林と分かれるのだとか・・(注:すべて検証している訳ではないので間違っていたらコメントください)。
このような形で綺麗な線引きが行われている - これにはもちろん戦後の技術導入に関する経緯が関係しているのだと思われます。
しかし同時に、やはり国(政治家・役所)が相当程度細かいところまで関与してきたのかもしれません。
ここ数日の新聞記事にも電力会社と政治家、学者、評論家などとの関係を記すものがかなり出てきました(『こちら』や『こちら』。中日新聞は社説を掲載)。
真偽のほどはわかりませんが、もしも仮に競争の原理を取り入れないで原子炉のプラントメーカーを決めたり、評論家を巻き込む目的でテレビCMを放映したとすれば、当然のことながらそのコストは消費者が負担することになっていきます。
では日本の電気料金は国際的にみてどうなのでしょうか。
電気料金の国際比較を行うデータはいろいろありますが、ここでは国際エネルギー機関 (IEA:International Energy Agency) の最新統計データを見てみましょう。
2010 Key World Energy Statistics です。
この42頁をご覧になってください。
単位はUS$/kWh。
まず産業用電気。カッコ内は日本を100とした場合の数値。
日本:0.1578 (100)
米国:0.0684 (43)
英国:0.1350 (86)
フランス:0.1067 (68)
次に家庭用電気。同じくカッコ内は日本を100とした場合の数値。
日本:0.2276 (100)
米国:0.1155 (51)
英国:0.2060 (91)
フランス:0.1592 (70)
やはり我々は高い電気料金を強いられていたということでしょうか・・。
特に産業界は高い電気料金で国際的に競争していかなくてはならないのだとしたら大変です。
* * * *
さて話が二転三転してしまい恐縮ですが、17日の読売、昨日の日経新聞夕刊などでも書かれてきた原発賠償機構について話を進めます。
当然のことながら、これは電力会社としては機関決定したものではなく東京電力は適時開示資料でこれを明確に否定しています(たとえば『こちら』)。
ただ報道されているベースで内容を見ますと、たとえばこんな下りがあります(毎日新聞記事からの引用)。
『負担のあり方は、政府内や金融機関で意見が分かれている。
特に、東電の社債も持つ金融機関は、過大な賠償負担で東電の財務体質が悪化することを懸念しており、年1000億円規模の返済で10~15年、計1兆5000億円程度を賠償の上限にするよう求めた。
しかし、公的負担を抑えたい財務省が反対し、返済総額の上限は設けずに東電を存続させながらできるだけ多くの負担をさせる方向で調整している』
要は正式に決定していなくとも水面下ではいろいろな議論がなされているということでしょう。
かつて水俣病を引き起こしたチッソに対する金融支援策定に、私は興銀時代に関与した経験がありますが、
今回のスキームといい、あるいは上述のような議論といい、当時私たちが役所の方たちと交わした議論を思い出さずにはいられません。
読者の方の中には、チッソと東電とでは企業の大きさ、影響力が全然違うではないかと思われる方も多いかもしれません。
しかしチッソという会社は戦前は、ドイツのI・G・ファルベン、アメリカのデュポンと並び称せられる世界3大化学会社の一つであったと言われています。
チッソは戦前には、興南(現在の北朝鮮にあります)に世界有数の電気化学コンビナートを築きましたが、終戦により、全財産の8割にあたる海外資産を失いました。
さらに財閥解体を受けて、当時の国内の主力であった日窒化学工業が独立して、残された日窒水俣工場としての再出発を余儀なくされ、現在に至っています(ちなみに独立した方の日窒化学工業は現在の旭化成になっています)。
なお余談ですが、もう一方の敗戦国であったドイツのI・G・ファルベン。
こちらも1939年までにドイツの外貨の90%、輸入高の95%を稼ぎ出していた巨大会社でした。
そしてこの会社も、戦後は、アグファ、バイエル、ヘキスト、BASFへと分離されることを余儀なくされました。
終戦後 アメリカ政府高官は 「 I・G・ファルベン社の巨大生産能力、その徹底した調査能力、巨大な国際的つながりがなければ、ドイツの戦争遂行は考えられなかったし、実現することもできなかった 」 と語った、と伝えられています(以上『こちら』など参照)。
このようにチッソはかつては東電と並び称されてもけっして見劣りすることのなかった名門中の名門会社だったのです。
それが今では債務超過額726億円に苦しむ会社となっています(『こちら』。なおチッソは1978年に上場廃止。現在はグリーンシート銘柄)。
ところで水俣病患者の認定基準を巡っては、これまでにいくつもの裁判が起こされてきましたが、患者とされてきた方たちへの補償責任をチッソがはたすことを可能にするため、国と金融機関とは協力しながらチッソを存続させてきました。
言うまでもないことですが、金融機関が行う融資というのは、資金を貸し付けた先が事業を行い、その事業から上がるキャッシュ・フローで貸付金が返済されるという前提で行われています。
補償金のための融資が難しいのは、融資を行う金融機関にとっては返済原資が見えないからです。
今回議論されている原発賠償機構は、こうした水俣病救済のときの議論も踏まえた上で、資本主義の原則、汚染者負担の原則を守りながら、「補償を全うさせるための仕組みづくり」の議論かと思われます。
具体的には:
・東電の徹底的リストラによる資金捻出
・経営陣の責任
・株主責任
という形で議論がなされていくと思います。
最終的には、補償をまっとうさせるためには、「より高い電気料金」あるいは「税金」という形で国民が負担する部分も出てくるかと思います。
国民負担を強いてまで、東電の社債を持っている社債権者を保護するのか、あるいは東電に融資している金融機関を保護するのかといった点についても、場合によっては議論の俎上に上ってくるかもしれません。
いずれにせよ、国際的に見てもおかしくない「仕組み・枠組み」が策定されることを望みます。