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2011年4月17日 (日)

決算承認

東京電力だけでなく電力会社全般の社債発行が滞り始めていると言います。

今年4月に予定される電力債の発行は、4年4カ月ぶりにゼロとなる見通し(『こちら』)。

* * * * *

ところで電力会社の社債で思い出されるのは、その昔(1987年~92年)、私が興銀の審査部にいた時のことです。

当時、社債を発行する電力会社の決算を興銀審査部が「承認」していました。

その頃は企業が社債を発行する際、起債会という、受託銀行と引受幹事証券会社からなる組織で事前に調整することが行われていました。

そして電力債の発行に際し興銀は代表受託として関与することが多かったのです(電力債の50.6%を興銀が代表受託;平成4年度発行分の数字)。

受託銀行の役割にはいろいろなものがありましたが、社債権者(投資家)保護の観点から発行体(たとえば東京電力)の決算を承認することも、その役割の一つでした。

興銀の中でその業務を担っていたのは、電力会社に対して融資などの営業を行う営業部や社債発行を手伝う証券部、資本市場部ではありません。社債権者(投資家)保護の立場に立つことが出来る(中立的な)審査部でした。

ということで、私は毎年決算時になると電力会社の経理部長や経理担当役員から決算の説明を受けていました。

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なにゆえそんな昔の話を書いたのかといいますと、今から20年以上前の当時でさえ、福島第一の着工(1967年)、営業運転開始(1971年)からは、すでに20年以上経っていたということです。すなわち福島第一の設計は今から見ると「昔の昔の話」になるのです。

福島第一、1号機の原子炉設置許可申請が提出され、設置許可が取得されたのが、1966年。着工が67年です(『こちら』)。

これは東京オリンピック(1964年)の2~3年後で、インターネットもパソコンもなく、コンピューターの性能も現在とは比べものにならない低水準の時代です。

現在であれば器機の設計によく使われるCADCAMもまだ世に出るか出ないかといった時代でした。

ちなみ大事故を起こしたチェルノブイリ原発の営業運転開始が1977年(『こちら』)。福島はその6年も早くから営業運転が開始されていたことになり、チェルノブイリよりもそれだけ設計が古いということになります。

たとえば東芝の佐々木社長によれば、

「最新の原子炉は外部電源がなくても72時間の冷却が可能な技術が確立されている」

といいます(『こちら』)。

45年ほど前に設計された原発をそのまま使い続けるのであれば、最新の技術に照らして何が劣るのかといった視点からの安全性チェックが必要でした。

九州電力のウェブサイトからの抜粋です(オリジナルは『こちら』)。

原子力発電所の耐用年数はいつまでなのですか。

答え 

原子力発電所の寿命を法令などで定めたものは無く、国及び事業者が実施する定期検査において設備の健全性を確認し、次の定期検査まで運転が認められる仕組みになっています。  

原子力発電所は、運転開始後30年を経過するまでに、高経年化対策として、長期間の運転を仮定して機器などの高経年化に関する技術的な評価を実施し、それ以降10年間に実施する具体的な保全計画をつくり、保守・点検を実施していきます。  

さらに以降、10年を越えない期間ごとに再評価を行い、長期間の運転が可能かどうか確認していきます」

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東京電力の有価証券報告書(127頁)を見ると減価償却等明細表が載っています(『こちら』)。

(平成21年4月1日~平成22年3月31日)

機械装置の期末取得価額:13,536 (単位10億円)

このうち原子力発電設備(福島第一だけでなく東電の全ての原発)

  期末取得価額:4,310 (単位10億円)

    当期償却額:        82 (単位10億円)

   償却累計額:     3,839 (単位10億円)

    期末帳簿価額:    471 (単位10億円)

    累計償却率:       89.1%

原子力発電関連の機械設備の9割近くの償却をすでに終えてしまっており、当期の償却額はたったの820億円で取得価額の1.9%。

設備の利用状況という観点からすれば非常に効率の良い運営がなされていたわけですが、やはりここまで古い機械設備を目一杯引っ張って使っていくことで問題ないのかどうか、債権者や投資家の目をもって決算書を見てもやや不安になってくるところです。

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なお冒頭お話した起債会はもはや存在せず、受託銀行としての業務も大きく変わりました。すなわち1993年10月の商法改正により、商法に基づく受託業務は、次のものに分離され、すでに「募集の受託会社」は廃止されています『こちら』)。

■当初事務の代行
■期中事務代行
■社債管理会社業務

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やはり45年という歳月の長さを実感せざるをません。

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