債権放棄
5月13日の枝野官房長官の発言。
『金融機関が原発事故以前の東電への融資の債権放棄などをしなければ(東電支援の枠組み策定について)国民の理解は到底得られない』(『こちら』)
彼が言おうとしていたことを勝手に憶測してみます。
あくまでも私の勝手な憶測です。
『3月11日の地震・津波による福島第一原発事故で東京電力は実質的に破綻してしまったはず。
資産 137,951億円、負債 108,130億円、資本勘定 29,822億円の会社(平成22年12月末)が、資本勘定を上回ると予想される簿外負債(被害者への補償、廃炉に係るコストなど)を発生させてしまったからだ。
したがってこの時点で東電に融資していた銀行の貸出債権はすでに大幅に毀損されていたはず。
そもそも銀行はそういったリスクを見込んでこれまでの貸出債権について金利収入を得てきたはずなので、これだけのことが起きても銀行が無傷というのであれば、いままで(東電が原発を運転していた過去40年間以上)銀行が得てきた膨大な金利収入はいったい何だったのかということになる。
実質債務超過に陥った東電を国民負担(財政支出、電力料金値上げ)で救う結果、すでに大幅に毀損されてしまっていた銀行の貸出債権さえも、国民負担で救うというのは、ロジックとしておかしい』
* * * * *
これに対する銀行側のロジックというのはこういうものでしょう。
『3月11日の時点で実質的に破綻してしまったというのであれば、株主価値がまずゼロとなり、そのうえで債権者は担保の有無、優先順位等にしたがって救済されていくべき話。
政府の言っていることは、株主には責任(減資、上場廃止)を求めずに、債権者に負担を求めるものであり、これは資本主義(株式会社制度)のロジックに反する。
さらに債権者についても、社債権者と銀行とを不平等に扱うものだ。
社債への投資という形で東電に資金供給してきた生損保と、貸出という形で資金を出してきた銀行をなぜ差別するのか。
東電向けの貸出債権を証券化して投資家に販売しているようなケースがもしあったとしたら、こうした金融商品へ投資する人は保護するのかしないのか』
* * * * *
(東電の『CDSスプレッド』推移)
水俣病を起こしたチッソに対する金融支援のときもそうでしたが、もともとある法律(民法、会社法)とは少し違った形で解決を図ろうとすると、すっきりとしない部分が一部出てきます。
『三方一両損です』
チッソに対する救済策策定のとき役所の幹部がこう発言していました(『こちら』)。
こうした枠組みの下では、関係者が自分の庭だけ綺麗にするということは出来なくなります。
それでは資本主義のロジックにそった、スパッと竹を割ったような外科手術的解決策は ― というと、それはそれで実は関係者の誰もが望まなかったりします。
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コメント
今回の処理で思ったのは、まずは東電が資産を吐き出してから税金を頼むべきだと考えていました。
東京電力に血の一滴まで出させて税金の投入を少なくする。そして株主も債権者も儲けるために自分で判断したんだしそれを税金で助けるのもおかしいという考えです。
東電の従業員は反発して辞めるかもしれないですが正直他に行くところあるの?とも考えますので結局折れるしかないと考えています。
決算期末も過ぎたし東電株を所有してる会社の損失は本業で返せとも思っていました。
こんな低い長期金利で何年やってるんだ?との思いもありますし。
破たん処理して国有化とか発電と送電を分けて資産売却して発電事業の新規参入や自家発電の工場から電力を買う仕組みを作れとも考えていましたが、何せ素人なのでどれが良いのか報道を見てると判断できなくなってきますの。
被害者救済のために国民負担が上がるのはどうしようもないとは思っていますが一番言いたいのは税金の投入を少なくする仕組みを支持したいです。
投稿: 名前が茄子 | 2011年5月15日 (日) 17時33分
名前が茄子様
おっしゃる通りで、まずは東電の徹底的なリストラが必要です。
たとえば週刊誌報道によれば東電は東京の聖路加タワーに豪華な接待用の「迎賓館」を所有しているとか・・
これは一例ですが、国民に犠牲を強いる前に東電は自らを律する必要があります。
すでに現状でさえ、日本の電気代は海外に比して高いのですから・・。
政府は「東電の資産売却状況などを監視する第三者委員会を新設する」としていますが、この第三者委員会がどの程度機能するか・・
水俣病を起こしたチッソに対する金融支援のときは、メインバンクである興銀がチッソの経営を監視しました。
「チッソが全国に持つゴルフ場の会員権をまず売って襟を正したらどうでしょう」
当時興銀にいた私はこう主張したのですが、大変な反発にあいました。
安易に公的資金を投入するとモラルハザードを引き起こします。
投稿: 岩崎 | 2011年5月15日 (日) 18時18分
>さらに債権者についても、社債権者と銀行とを不平等に扱うものだ。
>社債への投資という形で東電に資金供給してきた生損保と、貸出という形で資金を出してきた銀行をなぜ差別するのか。
電力債は一般担保付なので、貸し付けと差がつくのは当然だと思っていましたが・・・
投稿: 害債 | 2011年5月16日 (月) 00時56分
害債様
銀行の主張の基本は(彼らの主張のところの一番最初の文章で書きましたように)「債権者は担保の有無、優先順位等にしたがって救済されていくべき」ということだと思います。
運転資金見合いの短期貸付は東電のような会社であれば通常は無担保で行われています。
この場合は一般担保付社債に比して優先順位の面で劣後してしまうことは言うまでもありません。
長期の貸付金は以前に興銀などの長信銀が出していた時は、長期資金は長期信用銀行法で担保を徴して貸付を行わなければならないと義務付けられていました。
東電のような会社には融資技術的には「未特定物件担保留保」といった形にして長期信用銀行法の規制をクリアしながら融資していたと記憶しています。(この場合はおそらく一般担保付社債に比して劣後することになると思います)。
さて残された問題ですが、東電の場合、(1)特定の工場財団などに抵当権を設定して長期資金が貸し出されている場合があるのかどうか、さらにその場合、(2)一般担保付社債と、抵当権をすでに設定している債権者とのどちらが優先されるのか、(3)公募の一般担保付電力債のほかに私募社債形式で資金を調達しているケースがあるのかどうか、この辺は議論になりうると思いますが・・
いずれにせよ銀行の主張は「債権者は担保の有無、優先順位等にしたがって救済されていくべき」というもので、その結果、社債権者が優先的に保護されることになったとしても、それはそれで銀行として納得できるというものだと思います。
投稿: 岩崎 | 2011年5月16日 (月) 09時25分
>資本主義のロジックにそった、スパッと竹を割っ>たような外科手術的解決策は ― というと、それ>はそれで実は関係者の誰もが望まなかったりしま>す。
一国民としてはそれを望みます。
あくまで原則論どおりに処理し、税金投入なり料金値上げなりして欲しいものです。
そうでなければ、東電の株主・債権者・取締役・従業員は他人のリスクによって利益を得ることになります。
投稿: Nao | 2011年5月16日 (月) 18時49分
Nao様
私も同意見です。
三方一両損的な解決策は、実は役所が最も得意とするところです(別の日本語では、これを「調整」と言っているようです)。
しかしそういった「ガラス細工」のような解決策は年月の進展とともに、どこかでほころびが生じてきます。
それをこのブログの中で私は、「金融機関から見た水俣病」とのタイトルで、1回から(たしか)5回くらいまでにわたって、かつてシリーズにして書いてきました。
先日のテレビ(日経CNBC)でも、私は「そろそろ‘日本的なやりかた’に訣別しなければならない。震災・津波をまのあたりにして、そういう思いを強めている」と話しました。 関係者が集まって「調整」という形で意思決定していくと、一般の国民の声はなかなか反映されず、最終的なつけは税金なり値上げなりといった形で国民にしわ寄せされます。
それもこれから先、「国債償還のための重税」といった形で若い世代につけが回るという最悪なシナリオになります。
投稿: 岩崎 | 2011年5月16日 (月) 19時59分