米国債 (政府債務残高上限問題)
今回のブログ記事のタイトル、「米国債」と書いたところで、編集者の方の顔がちらりと脳裏に浮かびました。
「今度の本(注:『こちら』)は岩崎さんの書き下ろしなんだから。それもマネー本としては実質初でしょ。ブログで事前にばらすのは、(少なくともこれ以上は)やめてくださいね」
と言われていました。
たしかにこれまでリーマン恐慌やDCF法の解説などに関連させて投資の本を書いたことはありましたが、正面から投資について書くのは今回が初です。
しかし今日のブログは本のコンテンツとはあまりかぶりませんので、大丈夫です(と、これは編集者の方へのメッセージです)。
さてムーディーズのウォーニングに加え、今度はS&Pが米国債格付けを引き下げ方向で見直すと発表(『こちら』)。
S&Pの説明はこのブログ記事の末尾につけましたが、そもそも両格付け機関が問題視している「米政府の債務上限問題」って何なのでしょう?
現在、米国の債務残高は14兆3000億ドルと法律で定められています。
2011年5月16日、米国財務省は政府債務残高が法定上限に達した旨を発表、現状、米政府は新たな資金調達が出来ない状態を強いられています。
このため米政府は議会に対して政府債務残高の上限を引き上げるよう要請していますが、下院多数党の共和党は財政赤字削減の合意前の政府債務上限引き上げに反対しています。
5月16日、ティモシー・ガイトナー財務長官は、当面の非常措置により8月2日までは資金繰りがつくものの、
それまでに政府債務残高の上限が引き上げられない場合は、米国政府はデフォルトとなり、米経済が破局的な状況に陥ると警告しました。
8月2日までに与野党が合意に達し、議会が政府債務残高の上限を引き上げないと、
米国政府による債権者への支払い、つまり米国債保有者への利払いや納入業者への代金支払い、さらには一部の公務員の給与支給までもが(たとえ一時的にではあるにせよ)ストップしてしまうことになります。
これに類似する例では、今年の4月、米連邦政府が一時閉鎖(シャットダウン)する可能性が出てきて、ぎりぎりのところで回避されるといった事態も起きました(『こちら』)。
米国ではこのように時おりショック療法的なことが行われます。
カエルに電気ショックを与え、カエルがこれによりシャキッとするようなものです。
一方、日本の場合、カエルは当初常温の水にいますが、徐々に熱せられ、その水温に慣れていきます。
そして熱湯になったときには、もはや跳躍する力を失い飛び上がることができずにゆで上がってしまうという、「ゆでガエル状態」になりつつあります。
S&Pにしろムーディーズにしろ、現状米国債はAAAで、これを格下げの方向で見直すといったようなことを言っているだけです。
一方、日本国債はAA-(S&P;弱含み)、Aa2(ムーディーズ;格下げ方向で見直し中)。
米国債より3ランク下(AAA → AA+ → AA → AA-)です。
とは言うものの、米国で8月2日までに問題が決着するのかどうか、目が離せなくなってきたのも事実です。
電気ショックが強すぎると、カエルは一時的であるにせよ気を失ってしまいますから・・。
(S&Pの説明)
今回の措置は、債務上限をめぐる政治的議論のダイナミクスにより、今後90日以内に米国の長期格付けを引き下げる可能性が少なくとも50%あるというわれわれの見方を示すものである。
短期格付けについても、現在の状況が米国の信用力に著しい不透明感をもたらすというわれわれの見方を反映し、クレジットウォッチとした。
われわれが2011年4月18日に「AAA」としている長期格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げて以来、米国の財政スタンスやそれに伴う政府債務の上限問題に関する政治的議論はますます混迷を深めている。
数カ月に及ぶ議論にもかかわらず、両党は基本的な財政政策について依然として大きな隔たりがある。
その結果、債務上限の引き上げに関する短期的な合意を困難にする著しい政治的なこう着状態に陥るリスクが高まっていると考える。
そのため、われわれは3カ月以内に米国の格付けを引き下げる可能性がある。
われわれは今後3カ月以内に、議会と政権が債務負担の高まりに対して信頼に値する解決策を見出せず、予測可能な将来にそれを達成できない見込みだと判断すれば、米国の長期格付けを1ノッチあるいはそれ以上引き下げ、「AA」のカテゴリーとする可能性がある。
われわれは依然として、米国債がデフォルト(債務不履行)となるリスクが高まっているとはいえ、そのリスクは小さいと考えている。しかしながら、短期間であっても米国債の利払いを予定通りに実施できなければ、米国の長期および短期格付けを「選択的債務不履行(SD)」に変更する可能性がある。
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