ツイスト・オペレーション
昨日何人かの方からお電話を頂戴しました。
「TBSラジオ『生島ヒロシのおはよう定食・おはよう一直線』で岩崎の本のことを話していたよ」
この番組、月曜から金曜の朝5時~6時30分に放送しています・・・みなさん結構早起きなんですね。
生島さん、拙著をご紹介頂き有難うございます。
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さて昨晩は日経CNBC『日経ヴェリタストーク』に出演しました。
トピックスは、ツイスト・オペレーションについて。
ツイスト・オペレーションとはFRBが保有する米国債の中身をより期間の長い国債に入れ替えることにより長期金利の低下を狙う政策のことです。
FRBがこの政策を発表した時(9月21日)、私はちょうど米国にいました。
なぜ、QE3ではなくてツイスト・オペレーションだったのか。
ある米国人いわく「QE2は、一般の人に対しては金持ちから貰うチップの額が増えたくらいの効果しかもたらさなかった」。
QE2(2010年11月3日~2011年6月)によってFRBは6000億ドルの国債を追加購入し、マーケットに資金を供給しましたが、マネーが向かった先は、商品相場であったり、株式相場でした。
すなわち資産の価格が上昇したのです。
この結果、資産を持っていた金持ちは潤いましたが、持っていない労働者や一般の消費者にはマネーが回らず、失業率は9.1%と高止まり(25歳未満の若年者の失業率は18%)、
一般の人たちにとっては「金持ちから貰うチップの額が増えたくらいの効果しかもたらさなかった」というわけです。
今回のツイスト・オペレーションはQE2とは違います。これによって長期金利が低下することが期待されます。
そうすれば、消費者の中には住宅ローンを借り換えることができる人も出てくるでしょう。
こういった人たちには住宅ローン金利負担が軽減するという直接的な効果が期待できるのです。
また、QEとは違ってツイストにはさほどの副作用はありません。
イールドカーブの傾斜が緩くなる(フラットに近づく)ので、金融機関は長短ミスマッチ(短期で調達して長期で運用する)ことによる鞘稼ぎが難しくなる-こういった点が指摘されるくらいです(これも副作用といったものではありません)。
【注1】ここでちょっとアメリカの住宅ローンについて説明を加えますと、住宅ローン市場では:
住宅価格-住宅ローン=ホームエクイティ
という関係になっています。
住宅購入に際して、ローンによるファイナンスがカバーする率の高かった人(たとえば95%もローンでファイナンスして住宅を購入した人)は、住宅価格が下落することによりホームエクイティはマイナスになっています。
このため長期金利が下がっても借り換えができません。
すなわち一番困っている人はツイスト・オペレーションの恩恵を受けることが難しいという事情があります。
【注2】米国の失業率推移は米国労働省の統計で見ることができます(『こちら』)。
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さて一部ではアメリカの失業率が「予想に反して悪い」、あるいは「一向に改善しない」と報じられています。
しかし昨年11月のFOMCの段階で、FRBは2011年の失業率を8.9%~9.1%と予想しました(『こちら』)。
すなわちアメリカの失業率は 「予想に反して悪い、あるいは一向に改善しない」のではなくて、「予想通り悪い」のです。
そしてFRBは、既に昨年11月のFOMCの段階で、「失業率は2013年までは高止まりするだろう」と予想しています(『こちら』)。
リーマンショックはそれまでの資産バブルがはじけることで起きました。日本のバブル崩壊の後遺症は20年以上も続いています。
米国もそう簡単には治らない。少なくとも2013年くらいまではかかるだろう(これでも全治5年です)・・・
すでに昨年の段階でバーナンキはこういった診断を下していたのです。
だからこそFRBは今年8月のFOMCで低金利政策を「少なくとも2013年半ばまでは続ける」と決めたのです(『こちら』)。
バーナンキとしてはこのようにコンシステントな政策を展開しているのですが、市場の期待はもっと高いところにありました。
このため先週の米国株式市場は大幅に下落。
それでは今後はいったいどういうことになっていくのでしょう。
私は今後の市場動向次第では11月か12月のFOMCでFRBはQE3を行うことを宣言することもあり得る(3~4割の蓋然性)と見ています。
これから先、仮に世界経済を負のスパイラルに入り込むのであれば、たとえ副作用はあったとしても誰かがこのスパイラルを断ち切らなければならない、バーナンキはこう考えるのではないでしょうか。
なお『日経ヴェリタストーク』は9月26日(月) 24:00~24:15、9月27日(火) 18:30~、19:06~に再放送されます。
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