QE3の可能性
米連邦準備理事会(FRB)は次回、9月20日(火)と21日(水)の2日間にわたって催される連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和第3弾(QE3)に踏み切るかどうか、あるいは少なくともこのことを示唆するかどうか、― マーケットでは引き続きこの点が大きな関心事です。
まずは8月26日に米国ワイオミング州ジャクソン・ホールで行われた米国連邦準備理事会 (FRB)年次会合におけるバーナンキ議長によるスピーチをどう解するかです。
昨年のこの会合は、バーナンキ議長が量的緩和第2弾(QE2)を示唆、会合に参加していた日銀の白川総裁は日本での対応協議のため急遽帰国の途につくなど、なにかと話題の多いものでした。
今年のバーナンキのスピーチは、というと全文は『こちら』のとおり。
かつてのJPモルガンでの同僚、中西 健治さん(現在は参議院議員)が彼のブログ(『こちら』のウェブサイト)で、分かりやすく解説していますので、以下にその一部を引用します。
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『バーナンキ議長の26日のスピーチではQE3に関する示唆が全く無い一方で、9月のFOMCを二日間の開催にしてFRBが持つ様々な緩和策を十分に検討するということが盛り込まれました。
市場関係者はこれを、9月のFOMCでFRBがQE3を決断すると勝手に解釈したりもしているようです。
ところが、8月30日になると8月9日のFOMC議事録が公表され、実は9月におけるFOMCの 二日間開催が8月9日の時点で既に決定されていたこと、
更にFRBが考慮している追加緩和策は時間軸効果(これは既に8月9日に発表済)、買い入れ資産の量の増大や長期化(短期債券を売却 して長期債に入れ替え)、超過準備金に対する金利の引き下げなどであることが明らかになりました。
また、現在のアメリカ経済が直面している問題への対策、即ち景気回復策としては、金融政策は有効ではないという意見がFRB内部にあることも示されました』
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話が少しだけ脱線しますが、私がモルガンの投資銀行部でM&Aなどを担当していた時、中西さんはスワップとかデリバティブのチームを率いていました。彼は若くしてモルガンのMD(マネージング・ダイレクター)となり、当時、JPモルガンが『I work for JP Morgan』と題する世界的広告キャンペーンを展開した時、日本から選ばれた3人のうちの1人となりました。
朝、日経新聞を開くと中西さんの顔が紙面全面に大きく載っていたのを記憶されている方も多いと思います。
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話を戻します。
8月30日になって8月9日のFOMC議事録が公表され、実は9月におけるFOMCの 2日間開催が8月9日の時点で既に決定されていたことが分かると、
市場では「なんだ、8月26日のジャクソン・ホールでのスピーチは実は(QE3に関しては)新味の無いものだったのではないか」との声が広がりました。
と同時に「いやいや、8月30日になれば明らかになる “8月9日で決まった9月FOMC2日間開催の事実” を敢えてバーナンキが8月26日に開示したことに意味がある」
という解釈(たとえば『こちら』)や、「バーナンキは(市場のexpectation を鑑みるに)これを言わざるを得なかった」などの解釈も出回りました。
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さてQE3の可能性を考えるうえで、一番のポイントは足元の景気動向、人々の景気に対する見通し、消費動向などをどう金融当局が判断するかです。
この点に関して、ジャクソン・ホールでのバーナンキのスピーチのほかにもうひとつ見るべきものがあります。
前回(8月9日)のFOMCの会議です。
まずは8月9日の会議のプレスリリースですが、『こちら』です。
そしてこのときの詳細な議事録(8月30日発表)が、『こちら』。
すでに何度か報道されたように、このときの会議のポイントは下記を決定したことです。
「委員会は景気回復を促進し、インフレを長期的にFRB の責務に一致した水準とするため、FF目標金利を0~0.25%に据え置くことを決定し、経済資源の活用度の低さ、中期的にインフレが抑制されていることを含む経済状況が、少なくとも2013 年半ばまでFF目標金利を異例の低水準に据え置くことを正当化する」(To promote the ongoing economic recovery and to help ensure that inflation, over time, is at levels consistent with its mandate, the Committee decided today to keep the target range for the federal funds rate at 0 to 1/4 percent. The Committee currently anticipates that economic conditions--including low rates of resource utilization and a subdued outlook for inflation over the medium run--are likely to warrant exceptionally low levels for the federal funds rate at least through mid-2013. 注: 和訳は『こちら』から引用しました)
そしてこの決定は賛成7名(Ben Bernanke, William C. Dudley, Elizabeth Duke, Charles L. Evans, Sarah Bloom Raskin, Daniel K. Tarullo, Janet L. Yellen)、反対3名(Richard W. Fisher, Narayana Kocherlakota, Charles I. Plosser)のもとに行われました。3人の委員の反対が出たのは、1992 年以降のFOMCでは初めてとされています。
たとえば反対票を投じた一人、コチャラコタ氏( Presidet of Federal Reserve Bank of Minneapolis;彼は15歳でプリンストン大学に入学し、19歳で卒業、24歳で経済学博士となった)は、
QE2を決めた2010年11月に比して、(2011年8月は)「インフレ率は上昇し、失業率は下がった」との判断のもとに反対の一票を投じています。
(議事録では次のように表現: Mr. Kocherlakota’s perspective on the policy decision was shaped by his view that in November 2010, the Committee had chosen a level of accommodation that was well calibrated for the condition of the economy. Since November, inflation had risen and unemployment had fallen, and he did not believe that providing more monetary accommodation was the appropriate response to those changes in the economy.)
(コチャラコタ氏)
9月のFOMCでバーナンキがQE3に踏み込むには、これら保守派の委員たちが大きな壁となることが予想されます。
・QE3によって引き起こされるであろうインフレの問題を過小評価してはならない
・そもそもQE2によって供給されたドルは新興国でインフレを引き起こし、資源価格の上昇を招いただけで、米国の実体経済に対する効果はあまりなかったのではないか
こういった点が指摘される一方で、「2,500万人の米国人がフルタイムでの仕事を見つけることができないでいる」(ニューヨークタイムス紙;『こちら』)という現実があります。
これ以上の金融緩和は副作用の方が大きくなり効果はあまり期待できないのか、あるいは、何らかの手を打たないと、米国経済はもっと悪化してしまうのか、この辺のところをFOMCがどう判断するか、― 答えは2週間後に明らかになります。
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