消費増税と社会保障の一体改革
本日、消費増税と社会保障の一体改革が閣議報告されました。
昨日のブログ記事にあった『消費税増税(5%→10%)により税収は約13兆円増えます。しかしこのうち社会保障の「充実」に回るのは1%分の2.7兆円。年金分はそのうち6000億円にすぎません』との表現について、
読者の方から『年金分(1/3→1/2)は消費税1%分くらいはあったのではないか』とのご指摘を頂きました。
ちょっと分かりづらいのですが、社会保障の「充実」としてカウントされている年金の6000億円とは:
最低保障機能の強化
具体的には、
・低所得者への加算
・障害基礎年⾦への加算
・受給資格期間の短縮
のことです(詳しくは『こちら』の別紙2の工程表4~5頁、別紙3の基本的枠組み2~3頁をご覧ください)。
基礎年金の国庫負担増(1/3→1/2)はたしかに消費税1%分に相当するのですが、これは社会保障の「充実」ではなく「機能強化」との位置づけ。
「充実」と「機能強化」は同じではないか、という疑問もわきます。
この辺は霞が関文学に任せることにして、そもそもの経緯を追っていきましょう。
実は、基礎年金の国庫負担増(1/3→1/2)は、その昔、2004年に決められました(当時の法律「年金制度改正法」で2009年度までに実施すると決められました)。
今から8年前、小泉内閣のときのことです。
なぜ2004年にそんなことが決まったのかというと、その理由は、もっと昔、1985年まで遡ります。
この年の年金改正で、厚生年金、国民年金、共済年金に共通する制度横断的な「基礎年金制度」が設立されました。
その後、国民年金の未納・未加入者が保険料を支払っていないことが問題化。
きっかけとなったのは、年金CMに起用された女優の方が年金保険料を払っていなかったというニュース。
その後、政治家も払っていないことが次々に発覚。
2004年当時、ヒット曲「だんご3兄弟」をもじって「未納3兄弟」などという言葉も流行しました。
そしてこのとき、未納・未加入のために生じている国民年金の赤字は、厚生年金、共済年金が肩代わりして埋めることが決まりました(そもそも1985年の基礎年金制度設立の目的が実は国民年金の財政支援にあったようです)。
しかし厚生年金、共済年金にしてみれば、「なんでおれたちが国民年金の赤字を埋めるんだ?」ということになってしまいます。
そこで、このとき厚生年金、共済年金を説得するため、基礎年金財源の国庫負担を増やすことが決められたと言われています。
こうして、2004年の「年金制度改正法」を受け、2009年6月、「国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律」が成立しました。
この法律の名前。
「・・の一部を改正する法律等の一部を改正する法律」とダブっていますが、キーボードを打ち間違えたわけではありません。
ほんとうにこのようにダブっている名前の法律です(平成21年法律第62号)。
この法律では、
(1)2009年度から国庫負担2分の1を実現するための所要の措置を講ずる
(2)2009年度、2010年度については特例的な繰入金を活用し、2分の1との差額を負担する
(3)その後は税制の抜本的な改革により2分の1を恒久化する
(4)恒久化までは臨時の法制上・財政上の措置を講ずる
といったことが決められました。
以上のような経緯で、基礎年金の国庫負担増(1/3→1/2)は、2009年度以降、実施されてきています。
政府の説明によれば、2009年~2011年度までの基礎年金国庫負担増は、特別会計の剰余金といった埋蔵金を充てて何とかやりくりしてきたとのことです。
しかし2012年度予算では国庫負担分が確保できているのは36.5%分のみであるとして、50%を維持すべく「年金交付国債」を2兆6000億円発行することにしました。
以上が政府の説明です。
もっとも国民の目線からすると、お金には色が無いわけで、「この分のお金はこれを財源にする」と言われても、なんか急にお金に色が付き始めた感じになり、分かりづらくなります。
いずれにせよ、消費税増税による税収増のうち消費税1%分は、このように基礎年金の国庫負担増(1/3→1/2)に充てられることになります。
しかし繰り返しになりますが、これはすでに8年前、小泉政権時に決まっていたことで、2009年度から実行されてきていることですから、現政権としては、消費税増税で社会保障の「充実」を図るという「充実」部分には入れにくいということなのかもしれません。
本日の閣議報告の報道では、基礎年金の国庫負担2分の1を「恒久化」と謳っています(新聞報道ベース)。
現段階ではあくまでも臨時財源、これが消費税増税によって安定財源化するので、「機能強化」、しかし便益を受ける国民からするとこれは社会保障の「充実」ではない、
というまさに「霞が関文学の金字塔」、言い換えれば「国民には分かりにくい表現」になっています。
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