トッド・ハリソンの 「ウォールストリート」
以下(青字)はトッド・ハリソンの著作『ウォールストリート 強欲こそが、正義か!?』からの引用です。
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(1992年)・・・社(モルガンスタンレー)の業績は急上昇していたし、私も仕事に慣れ、顧客との人間関係も広がっていた。
休暇シーズンになり、私はボーナスの言い渡しの場に自信を持って臨んだ。
「よく聞け」と彼(上司)は切り出した。「ウォール街は万人向きの職場ではない。君はいい奴だし皆に好かれている。だがこの仕事は君には向いていないかもしれない」。「(君は)何かをやって見せなければならないし、それはすぐにでなければならない」
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私がウォール街で這い上がっていく間に何かを学んだとすれば、それは何かを生み出す者が儲け、まねするだけの者は消滅していくということだった。全くのダーウィン的適者生存の世界、強者だけが生き残っていける世界である。
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この本は日本のアマゾンのレビューアーの評価は低いのですが(『こちら』)、アメリカではまずまずの評価を得ています(『こちら』)。
日本のアマゾンの評価が低いのはそれなりに分かるような気もします。たしかに本書では、大学を出て投資銀行に入った著者がどのようにして優秀なトレーダーになっていったのか、その道筋がきちんと描かれていない(ある日突然有能なトレーダーになってしまったかのような印象)など、物足りなさが残ります。
またオプション取引に関する丁寧な記述もなく、読者は分かったものとして、そして細かい点は無視して、次に読み進まなくてはなりません。
投資銀行のバイスプレジデントを副社長と訳すなど、翻訳にも問題があります。
にもかかわらず本書は私にとっては面白い読み物でした。記述にはスピード感があり、トレーディングフロアの緊迫感も伝わってきます。
といっても本書の最初の4分の1くらいは、だらだらとした記述が続き、また最後の20頁くらいはややしつこいといった印象。
面白いのは著者がモルスタでそれなりのポジションを得て、ガレオン(Galleon Group)に移籍、さらにクレイマー・バーコヴィッツ(Cramer Berkowitz)に移り成功を収めていく過程です。
それにしても本書でも描かれているように、トレーディングというのは調子が良いときは波に乗れるのですが、ひとたび逆方向に風が吹き、向かい風になるとどんどん悪くなる・・。トレーダーや投資家は誰もが一度は暗い深淵を覗き込むような思いをするものです。
それが嫌な人はポジション・テイカー(Positiopn taker)となって投資の世界に足を踏み入れるべきではありません(あるいはきわめて限られたポジションしかとらないことです)。
ときおり「貯蓄から投資へ」とか「金融リテラシー」といった軽い言葉が行き交っているのを目にしますが、投資をすること、あるいはポジションを取ることは、たとえそれがちょっとした株式投資であっても、やがては怖さを実感することに繋がります。
火傷をしてはじめて炎の怖さを知るといいますが、いずれにせよ他人が「貯蓄から投資へ」と勧めるのを軽々に信じてはいけません。(もっとも人類は炎を扱うことで他の動物に勝ってきたのですが・・)。
なお著者のトッド・ハリソン(『こちら』)は(本書のなかにも出てきますが)いまではMinyanvilleの創業者としての方が有名です。
『こちら』がMinyanvilleのウェブサイトです。
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