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2012年5月30日 (水)

「人を突き動かし、考えさせるもの」

村上龍の最新エッセイ集、『櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている。』

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メンズジョーカーで連載していたエッセイを中心に18点の作品を収めています。

村上龍のエッセイ集としては以前に『逃げる中高年、欲望のない若者たち』を読んだことがありますので、私にとってはこれが2冊目。

そう言えば『逃げる中高年、・・』に関しては、村上龍作品を愛する読者から次のような書評がアマゾン書評欄に載ったのが印象的でした。

「かつての村上龍は輝いていた。 僕は日本で唯一の天才だとさえ思っていた。 それが今や、テレビで経済番組の司会なんかやってやがる。 誰がそんな村上龍を見たいのか、未だに理解ができない・・」

たった1冊のエッセイ集であっても読み手によっていろいろな捉え方があるという例なのでしょうが、私としてはエッセイはあくまでもエッセイ。

気楽に読めばよいと思って本書も読みました。

最初の収録作品は「婚活ブームとこの国の未来」。

以下、その一部を抜粋します。

「・・ある調査によると、50歳未満の男性では年収400万以下が8割強だという。一般的な女性が求める年収500~700万の男は、全体の5パーセント以下らしい。」

「・・今の世の中で、結婚して子どもを作ろうというモチベーションを持ち実行できるのは、年収で言うと約500万円以上、全体の5パーセントほどの非常に恵まれた人たちだけということになる。」

こういう実態がなぜメディアから伝わってこないのかと、村上龍の矛先は大手既成メディアにも向けられていきます(注:この先については本書をご覧になってみてください)。

そして結論。

「人を突き動かし、考えさせるのはシンパシーではない。怒りだ。」

村上龍のファンならずとも一読の価値ある文章が続きます。

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2012年5月27日 (日)

日刊ゲンダイ

先週1週間海外(ロンドン)に行っていました。帰国途中体調を壊し、昨日から寝たり起きたりの生活をしています。

留守にしている間、何人かの方から日刊ゲンダイ(5月23日)で「自分年金をつくる」の書評を見たとのメールを頂戴しました。

5月15日の夕刊フジに続いて日刊ゲンダイでも取り上げてもらったということは、やはりこの種の問題に対する人々の関心が高いのだと思います。

その関心の高さに本書が十分応えきれているかどうか、著者としては内心忸怩たる思いがありますが、取り急ぎ書評の方をご紹介させていただきます。こちら(↓)です。

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(画像の上でクリックすると約2倍に大きくなります)

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2012年5月21日 (月)

フェイスブックのビジネスを理解する

上場公開日の翌日(19日、土曜日)。

フェイスブックの創業者マーク・ザッカ―バーグ(28歳)とプリシラ・チャンさん(27歳)の結婚式がカリフォルニア州パロアルト(スタンフォードのある町)で行われました。

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2人はハーバード大学のパーティーの際にトイレの順番を待つ列で出会ったとか・・。

彼女はハーバード卒業後、カリフォルニア大学のメディカル・スクールに進み、先週月曜日(14日)に卒業したばかり(彼女が卒業した日はマーク・ザッカ―バーグ28歳の誕生日でもありました)。

* * * *

さて18日(金曜日)のフェイスブックの株価。

当初28~35ドルと設定されていたレンジが上場3日前の15日(火曜日)には34~38ドルに変更されて、結局のところ公募・売り出し価格はレンジ上限の38ドルに。

初値は42.05ドルで、その後すぐに45ドルの高値をつけますが、取引開始後約30分(NY時間12時)で38ドル近くまで下落。

引け値は38.23ドル。

以上がフェイスブック上場前後の値動きでした。

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【1】フェイスブック株を買うには

野村、大和、日興などの証券会社に電話1本すれば買えます(その証券会社にまず口座を開く必要がありますが・・)。

ただし証券会社によっては最低取引単位(例:100株とか100万円とか)を設けているところもあります。

また手数料が高め。

マネックスなどのネット証券では通常1株から買えます。手数料も25ドル20セント(マネックスの場合)なので約2,000円。

つまり約5,000円(1株約3,000円プラス手数料2,000円)あれば1株ですがフェイスブックの株を買えます(まぁ、1株だけだと手数料がもったいないし、買ってもあまり意味ありませんが)。

【2】フェイスブック株は買いか

これについては5月10日付の私のブログ(『こちら』)をご覧ください。

【3】そうは言っても英語のSECへの登録資料など読むのが大変だ

最低限、フェイスブックのビジネスを理解してから株式を購入するかどうか判断すべきでしょう。

たとえばあなたは以下の質問に答えられるでしょうか。

①先行していたFriendster(02年開始)やMyspace(03年開始)に、フェイスブックはなぜ打ち勝つことができたのか。

②プロダクト的には「グーグル+」(グーグル・プラス)の方が優っていると考えられているが、なぜフェイスブックの方が(今のところ)強いのか。

③フェイスブックのなかの膨大な情報はグーグルで検索できないのか。

④フェイスブックの広告のひとつ、「スポンサー記事」とはどういう仕組みか。友人がつける「いいね」がどう広告の付加価値を高めるのか。

この辺の質問にすらすら答えられるようですと、あとは数字です。

過去12カ月の収益をベースにすると現在の株価収益率(PER)は88倍。

これから先の収益見通しをどう読むか、たとえば今後12カ月が過去12カ月の4倍になると想定すれば、予想収益をベースとする株価収益率は22倍になってきます。

なお上記①~④の回答は『徹底解析!!Facebookというビジネス』 (洋泉社)という本にすべて載っています。

この本はフェイスブック上場の5月18日に発売になったもの(偶然の一致なのでしょうね)。

日本での他のフェイスブック本はフェイスブックの使い方とかビジネスへの応用について書かれたものが多く、フェイスブックというビジネスを理解する上ではあまり役立ちませんでした。

そういう意味でフェイスブック株の購入を検討している方はこの本をまず読んでみることをお勧めします(①~④にすべて答えられた方は、十分わかっている方なので必要ないかもしれません)。

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2012年5月20日 (日)

ちょっと前の話ですが

先週火曜日5月15日付の夕刊フジで拙著「自分年金をつくる」が紹介されていました。

こちら(↓)です。

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2012年5月17日 (木)

巧妙な会計処理(Accounting Ingenuity)

世界の金融関係者にとってもっとも有名なスピーチと言えば、Accounting Ingenuity(巧妙な会計処理)と題された David Einhorn のスピーチでしょう。

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2008年5月21日。

このスピーチを聞いて、David Einhorn の通りに相場をはっていれば、あなたは巨万の富を手に出来たか、あるいはその半年後に起きるリーマンショックの難を事前に回避できたでしょう。

実は David Einhorn については私のこのブログでも何度か書いてきました。

2008年5月21日のこのスピーチを受けて、生き残りをかけたリーマンブラザーズと David Einhorn との壮絶な戦いが繰り広げられるのですが、そのことを書いたのが 2008年6月6日付のブログ(『こちら』)。

この時点で私は「今のところ、リーマンが勝利しそう」とブログでコメントしたのですが、当時市場で一般的に信じられていたこの読みを覆して、見事にDavid Einhorn が世紀の戦いに勝利したのは金融史に残るひとこまです。

今回のユーロ危機に関しても David Einhorn がある夕食会に招待されて話題を呼んだことをかつて私のブログで紹介しました。今から2年以上前、2010年3月1日付のブログ記事です(『こちら』)。

さてリーマンを破綻に追い込んだ David Einhorn のAccounting Ingenuity(巧妙な会計処理)というスピーチは2008年5月21日の Ira W. Sohn Investment Research Conference で行われたスピーチです。

Ira W. Sohn はウォール街のトレーダーでした。

若くしてがんで亡くなったこのトレーダーの死を受け、同僚たちが1996年に始めたチャリティ会議がこの Ira W. Sohn Investment Research Conference です。

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誰でもこの会議の入場券を買って聴衆となって世界のトップトレーダーたちのプレゼンテーションを聴くことができます。

入場券は最低でも1500ドル(12万円)。

ここで得た収益金はすべて小児がんを患う子供たちを助けるTomorrows Children's Fund (『こちら』)に寄付されます。

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第17回目の年次会議にあたる2012年の会議は実はいまから数時間前に終わったばかり。

ニューヨークの現地時間5月16日リンカーン・センターのAvery Fisher Hallで開かれました。

今年はダメでも来年こそ行ってみたいと思われる方は『こちら』のサイトから登録してみてください。

さてすでに1000億円近くの個人資産を稼ぎ出したDavid Einhorn(フォーブスのリストは『こちら』)。

彼がどんなスピーチをするのか、そのプレゼン資料はどんなものなのか、見てみたいという人も多いでしょう。

なかんずくリーマンを破綻に追い込んだ伝説のスピーチ。

Accounting Ingenuity(巧妙な会計処理)と題されたあのスピーチとプレゼン資料はどんなものであったのか・・。

幸いなことに今では日本にいながらこのスピーチの全文を見ることができます(プレゼンで使われたスライドも見れます)。

『こちら』です。

もうひとつ。

数時間前に終わったばかりのこの会議でDavid Einhornが何を語ったのか、気になる方も多いと思います。

137本のスライドを使ったDavid Einhornの今年のプレゼンは15分間で終わりました。

アップルについてはDavid Einhornは相変わらず強気で、時価総額1兆ドルになる(株価は今の約2倍の1000ドル近く)との見通し(詳しくは『こちら』)。

一方、アマゾンについては否定的で、この株は謎(riddle)だとコメントし、創業者兼CEOのジェフ・ベゾスはバットマンなのかと聴衆に問いかけるひとこまもあったとか(『こちら』)。

すでに今年の Ira W. Sohn Investment Research Conference の模様(とくにDavid Einhorn のスピーチ)については全米のメディアが一斉に配信しています。

とりあえずはロイターのこの記事(『こちら』)とフォーブスのこの記事(『こちら』)をお読みになってみると参考になるかと思います。

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2012年5月13日 (日)

皇居東御苑

皇居ランニングの際に大手門が開いていたので中に入って皇居東御苑(『こちら』)を散策してきました(御苑のなかは走れません)。

広さ21万㎡というので東京ドーム4つ半分。

木々の緑が鮮明で鳥の鳴き声も聞こえます。

都心の真ん中にこんなに静かなところがあることを知りちょっと驚きでした。

松の大廊下というと、浅野内匠頭長矩の吉良上野介義央への刃傷事件(1701年「元禄14年」)の場所。

この事件がやがて赤穂浪士討ち入りへとつながっていきます。

この松の大廊下跡も東御苑内にあります。

東京に住んでいながら皇居東御苑にはまだ行ったことがないという方にとって、東御苑は一度は訪れてみる価値ありの場所だと思います。

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2012年5月10日 (木)

フェイスブックのIPO

「フェイスブック株の購入を当面手控えるべき理由」

といった米経済紙ウォールストリートジャーナルの記事(『こちら』)が日本語でも配信されて話題を呼んでいます。

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  (画像の上でクリックすると大きくなります)

10年ほど前は、米国の投資銀行では

「米国の企業がIPOするときは無理をせず安めの値段で市場に入ってくることが多い。その方が第2次、第3次の資金調達のとき容易になるからだ」

と言われていました。

これを裏付ける資料も幾つか読んだのを覚えています。

しかし上記記事にあるように昨今ではそれが必ずしもそうではないようです。

つまり米国のIPO市場も日本のように創業者が出来るだけ高値を狙うようになってきたのかもしれません。

もう一つのポイントは市場で第2次、第3次の資金調達を考える必要がなくなってきたのかもしれないということ。

フェイスブックのように、IPOする前から投資家やファンドを相手に十分な資金調達をしてしまっている場合、そして今回のIPOで1兆円程度の資金を調達する場合には、

なおさらのこと第2次、第3次の株式市場での資金調達は当面考慮にいれなくてもいいのかもしれません。

フェイスブックはIPO前の段階で3,400億円以上の資金を集め、会社が保有する現預金、有価証券(市場性高いもの)は3,100億円を超えています。

日本ではとうの昔にIPO株が儲かるといった時代ではなくなってしまいました。

ビックカメラのようにマーケットに出た(株式公開した)後、しばらくしてからIPO前の過去にまでさかのぼって決算の訂正を出し(『こちら』などを参照)、結果、株価が半値以下に下がってしまったような例もあります。

こうしたこともあって、証券会社のセールスからかかってくるIPO銘柄紹介の電話に対して疑心に思う投資家も増えてきました。

ということで、「さてIPO直後のフェイスブック株を買うかどうか」ですが、少なくともSECに登録されたプロスぺクタスを見て判断した方が良いと思います。

『こちら』です。

なおヤフーファイナンスUSAの頁を開くとすでにフェイスブック株価の頁が立ち上がっています。『こちら』です。

これを見ると公募予想株価28~35ドルに対してアナリストのターゲット株価の平均はMean 40ドル、Median 44ドルです。

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2012年5月 8日 (火)

過剰反応

GW連休明けとはいえ昨日の日経平均261円安は過剰反応だったのかもしれません。

週末明けの昨日のニューヨーク市場ではダウ平均株価は29ドル安(マイナス0.23%)。S&P500の方は0.48のプラスに転じました(下図はS&P500の昨日一日の動き)。

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フランスの選挙結果はかなり前から予想されていたことですし、欧州の経済問題が長引くのも予想されていたものです。

『こちら』のロイター記事が昨日の米市場の状況を伝えています。

欧州問題ですが、先日ご紹介したNYタイムスの記事(『こちら』)のように、

米国では:

The huge bailouts, started in the administration of George W. Bush and continued by President Obama, worked.  

The banks were bailed out, and the survivors were forced to recapitalize.

一方、欧州は:

Too many regulators in Europe accepted that argument and delayed efforts to force banks to raise more capital.

金融政策の方もバーナンキが大胆なQE1、QE2を実施したのに対して、欧州は小出しでした(ちなみに日銀も同じように慎重スタンスでした)。

先日の日経CNBC「日経ヴェリタストーク」で松元大さんは以下のような趣旨の話をしていました。

「米国やドイツ、そして日本は自分たちの力で財政再建できる力を持つ国だ。 

一方、フランス、イタリア、スペインなどでは単独で財政再建できるだけの力を残念ながら持っていない」

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2012年5月 6日 (日)

皇居ランニング

久しぶりに皇居ランニングをしました。

1周約5キロ。

以前にくらべて距離表示のプレートが増えていて、約100メートルごとに県の花のプレートが埋められたりしていて、楽しく走ることができます。

帰ってきてサイトを調べたら、皇居ランニングに関する幾つものサイトがあるのに驚きました。

概要をざっと知るには『こちら』 。

県花のプレートの位置や距離表示プレートの位置は『こちら』が参考になります。

   Photo
写真は県花プレートの例。『こちら』のサイトから拝借しました。

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2012年5月 5日 (土)

フランス大統領選挙

オランド対サルコジの決選投票が明日行われます。

昨日のブログ記事でも書きましたが、欧州の経済は米国に比してかなり悪くなっています。

フランスも25歳未満の失業率が 21.8%。米国は 16.4%です。

詳しくは下表をご覧ください。

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   (表の上でクリックすると大きくなります)

もっともこの表をよく見ると、ギリシャ 51.2%、スペイン 51.1% といった数字も目につきますから、フランスはまだましな方かもしれません(EU 27ケ国全体の平均値が 22.6%)。

「イタリアでは失業率が高いと言っても、正規に雇用されているAさんが月~水に働き、木・金は、Aさんの家族や友人のBさんがAさんの代わりに働く(Bさんがもらう失業手当はAさんと分ける?)といったことも行われているようです」というのは、あるイタリア通の話。

数字の裏にはいろいろな事情があり、実態は数字より少しはましなのかもしれませんが、それにしても数字が悪すぎます。

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2012年5月 4日 (金)

米国と欧州

ここ1年間の米国と欧州の比較。ニューヨーク・タイムスの記事です(『こちら』)。

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上の図 (【注】図の上でクリックすると3倍以上に大きくなって文字が読めるようになります) で明らかなように、欧州に比べて米国の政策がうまく機能したと述べています。

ずは今晩(日本時間)米国で発表される雇用統計に注目。米国の雇用者増は16万人を超えるかどうか・・。

..............................................................................

各社予想 米4月民間部門雇用者数

JPモルガン         +15.0万人
ドイツ証券          +17.5万人
バークレイズ・キャピタル +16.0万人
HSBC            +16.7万人

市場コンセンサス +16.5万人
前回         +12.1万人
..............................................................................

【追記】11万5千人で予想を大幅に下回りました。

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State Dinner

野田首相がクリントン国務長官主催の夕食会でスピーチをしたと聞いて、えっと思ったのは私だけではないでしょう。

昨年10月、韓国の李明博大統領が訪米した時はオバマ大統領主催の晩餐会が催されました(米国のホワイトハウスが出している『こちら』の頁に詳しく載っています)。

大統領主催の公式晩餐会はステート・ディナーと呼ばれます。

詳しくは『こちら』をどうぞ。

なおステート・ディナーに関しては The Whitehouse History Association が小冊子を出していて、ネットで公開されています(『こちら』)。

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上の画像はこの小冊子から取ったもの。画像の上でクリックすると大きくなり、文字が読めます。

かつて週刊朝日に船橋洋一さんが寄稿し、日本の歴代首相訪米時の米国大統領によるステート・ディナーをまとめていました(『こちら』)。それによると:

 ●歴代首相 訪米公式晩餐会

1965年  佐藤栄作  ジョンソン   

1967年  佐藤栄作  ジョンソン   

1969年  佐藤栄作  ニクソン   

1973年  田中角栄  ニクソン   

1975年  三木武夫  フォード   

1977年  福田赳夫  カーター   

1979年  大平正芳  カーター   

1981年  鈴木善幸  レーガン   

1987年  中曽根康弘 レーガン   

1999年  小渕恵三  クリントン   

2006年  小泉純一郎 ブッシュ

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2012年5月 3日 (木)

投資信託を選ぶうえでの基準

投資信託を選ぶうえでの基準は何ですか、という質問をよく受けます。

しかし私はこの質問には「ちょっと待ってください」とまず答えるようにしています。

そもそも投資信託を購入すべきかどうか、自分で株式や債券を購入したり、外貨預金を設定したりした方がよいのではないか、あるいは何もしないで円預金で持っているのが、結局は一番賢い運用法なのではないか、そういった点をよく考えてみる必要があるからです。

残念ながら日本の中央銀行総裁は、市場との対話に熱心なバーナンキではありません。

バレンタインデーの日、マーケットはやっと日銀も動いてくれるかと期待して、株価(日経平均)はその後1,000円近く上がり、為替も円安に振れたのですが、結局は期待外れに終わりました。(株価も為替も元の水準に戻ってしまいました)。

ということで、こういう時には実は何もしない(=円預金で持っている)のがもっとも賢い投資方法かもしれないのです。

しかしどうしても投資信託を購入したいという方は次の点に留意してみてください。

(1)トラックレコード

投信の運用者の実績、とくにあなたが買おうとしている投信の過去の運用実績。

過去1年間、3年間、5年間の実績はどうであったか。

きちんとリターンをあげてきているか(基準価額はあがってきているか)。

なおここで注意が一つ。

分配型の投信の場合、過去からの騰落率の数字は税引き前、分配金再投資考慮後の数字であったりします(小さな字でそう書いてあることがあります)。

しかしあなたは税金も払いますし、分配金を再投資に回すことも通常はできません(分配金で同じ投信を買えばまた販売手数料を取られます)。

パンフレットの数字を鵜呑みにせずに自分なりに買おうとしている投信の実績(トラックレコード)を把握してください。

(2)セールスの人が勧める投信にはご注意

セールの人は通常販売手数料の高い投信を勧めます。

彼ら(彼女たち)は間違っても「ETFがいいですよ」とか「ノーロード型(販売手数料ゼロ)の投信がいいですよ」なんて言いません。

たとえば銀行の各支店は支店長が隣の支店や同クラスの支店と競争させられます。

これはどれだけ収益を上げるかの競争で、この結果、窓口の人やセールスの人にも出来るだけ手数料収入を上げるようにといった指導が行きわたります。

このため、いきおいセールの人は販売手数料の高い投信をあなたに勧めることが多くなります(そういった傾向になります)。

先日八重洲ブックセンターでの講演で、退職金のうち1,000万円を投信の購入に回すと、買ったとたんに(その投信が販売手数料3%のものであれば)、970万円になるとお話ししましたら、

「びっくりしました」「衝撃的でした」といったメールをその後頂戴しました。

実は販売手数料のほかにも目に見えない形で信託報酬が取られています。

目に見えないとはどういうことかと言うと、信託報酬は毎日毎日、基準価額から引かれているのです。つまり基準価額を計算する上では日割ベースの信託報酬額を引いてから基準価額を算出しているのです。

FP(フィナンシャル・プラナー)の人は通常こういったことを教えてくれません。

FPは(証券会社や銀行が広告を載せる)マネー雑誌に寄稿したり、証券会社のセミナーで講演したりしているケースが少なくありません。(もちろんそんなことには関係なく100%投資家の立場に立ってアドバイスしてくれるものと期待するのですが、さて・・)。

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2012年5月 2日 (水)

日本の投資信託市場の現状と今後

昨晩は日経CNBCテレビ「日経ヴェリタストーク」に出演しました。

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(1)米国と比較して日本の投信市場の特徴

1つは米国に比べると、日本の投信市場はまだまだ成長の余地が高いこと(別言すれば未成熟なこと)。

日本の投信残高は60兆円で、米国は930兆円。

日本は米国の16分の1です。

20年前に比べても米国は16倍になりましたが、日本では1.4倍にしか増えていません。

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日本の市場規模が米国に比しかなり小さいことについては下記の理由が考えられます。

 ・ 401K市場が米国で発達していること。

 ・  日本は低金利、株安が続いたこと。

日本の投信市場の2つ目の特徴は、日本では毎月分配型が全体の70%を占めること。これも異例です。

3つ目は日本では通貨選択型など仕組みが複雑なものが多いこと。

(2)毎月分配型投信の問題点

問題点の1は誤解されやすいことです。

つまり個人投資家の方々のかなりが分配金=配当金(もしくは利息)と誤解しています。

しかしながら多くの場合、分配金>運用益の関係にあります。

日経新聞(12年1月27日)によると、野村総研が毎月分配型投信735本を調べたところ、昨年1年間に期間中の運用益以上の分配金を出していた投信は93%にあたる700本に上ったとのことです。

問題点の2は、分配金に税金がかかること。

3は、分配金として支払われてしまうと、その分、再投資が行われない(複利効果が望めない)ことです。

* * * *

番組ではこのほかにボラティリティー・パズルなどについても触れました。

詳しくは再放送をご覧ください。

5月2日(水) 18:30~および、同日19:06~の2回にわたって再放送されます。

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2012年5月 1日 (火)

年金論争

最近公的年金に関する論争が目につくようになりました。

ポイントは(1)公的年金制度はこのままいけば破綻するのかどうか(2)世代間の不公平は存在するのか、存在するとした場合、それは容認できるのかといった2点に帰着すると思われます。

政府部内でも省庁によって見方が違うようです。

今年1月に内閣府の経済社会総合研究所が発表した試算では、国民年金や厚生年金などの公的年金を「もらえる額」から「支払った額」を差し引いた「生涯収支」を世代間で比較。

これによると1955年生まれ(57歳)世代以上で収支がプラスになる半面、それ以下の世代で収支がマイナスになり、若い世代ほど不利になる結果となりました(詳しくは『こちら』の原典をご覧ください)。

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  (図の上でクリックすると大きくなります)

これに対して厚労省は4月24日に開かれた社会保障審議会(厚労相の諮問機関)年金部会で「現役世代の生活水準の向上などの要素も世代間の比較では考慮すべきだ」と強調。

内閣府経済社会総合研究所試算に用いた保険料や受取額を現在の価値に引き戻す際の指標にも疑問を示したとのことです(詳しくは『こちら』の記事をどうぞ)。

さて冒頭の(1)と(2)の対立点をひじょうに分かりやすく提示してくれているのが『日本でいちばん簡単な年金の本』

第4章で朝日新聞の太田啓之記者と学習院大学の鈴木亘教授にそれぞれインタビューをして、2つのまったく異なる見解を載せています(ほんとうは2人が対談する形式にした方が面白かったのでしょうが・・・)

ちなみにこの『日本でいちばん簡単な年金の本』。題名どおりひじょうに分かりやすく書かれている良書です。

週刊誌大サイズのムックですので見やすく、各項目が見開きの頁でまとまっていますので、事典的に使うことができて、私は重宝しています。

さて論点の(1)。

鈴木教授によれば(注:『日本でいちばん簡単な年金の本』第4章より抜粋)、

「国民年金と厚生年金の積立金の合計額は、06年には149.1兆円」

それが「2012年度初めには109.1兆円まで減る」

「このペースで取り崩していけば、単純計算では2025年に積立金はゼロになってしまう」

(日本経済が名目で2%程度で成長して、インフレも1%ほどになった場合)「この前提で試算しても、厚生年金の積立金は2033年、国民年金の積立金は2037年に枯渇してしま」

これに対して太田記者。

「鈴木氏が予測の主な根拠とする07~10年度は、・・運用環境が最悪だった時期だ」(週刊文春4月26日号『年金「大誤報」にダマされるな』)

「「年金破綻」は、日本そのものの破綻。そうならないように、どうやってやりくりするか、という問題設定以外、本来ならありえません」『日本でいちばん簡単な年金の本』第4章)

次に論点の(2)。

鈴木教授によれば、公的年金の「世代別損得計算」をしてみると、1940年生まれと2010年生まれの差額は、5,460万円から 5,930万円(鈴木亘著「年金は本当にもらえるのか」56頁)。

これに対して太田記者は「世代間格差を縮めるとすれば、高齢者の年金を、彼らが生活できないくらいに削り取ることにな」ると反論(『日本でいちばん簡単な年金の本』第4章)。

一方鈴木教授は、貧しい高齢者に関しては低所得者対策として「また別途やる」との立場。「全体としての対策と、低所得者への対策は分けて考えなければいけない」と主張しています(『日本でいちばん簡単な年金の本』第4章)。

* * * * *

2人はそもそも世界観が違うように思います。

太田記者によれば、

「年金制度は、現役世代みんなで力を合わせて生産した経済のパイの一部を、働けなくなった高齢者に、年金という形で分け与える、「世代間の仕送り」です。核家族化が進み、家族による高齢者の扶助が難しくなり、社会扶助に移行してくる中で要請された、という歴史的な経緯もあります」(前掲書4章)

さらに、

「現在年金の給付を受けているお年寄りが若かった頃はまだ様々な社会基盤も整備されていませんでしたし、今よりエンゲル係数も高かった。そうした社会状況の中で、自分の保険料を払い続けながら親の扶養もするという「二重の負担」を払ってきた彼らと、私たち現役世代、どちらがより「生活の苦しさ」、が大きかったでしょうか?」(前掲書4章)

となります。

これに対して鈴木教授は、

現存する5460万円から5930万円もあるという世代間格差が「たとえ、世代間の助け合いという理念の下の制度であったとしても、本当に許容されるべきものなのでしょうか」(「年金は本当にもらえるのか」60頁)と疑問を呈します。

そして、

「世界最速で」進む日本の少子高齢化のもとで、現役世代が高齢者を支えるという方式では、2023年(今から11年後)には「2人の現役で1人の高齢者を支える時代に突入して」しまうと警鐘を鳴らします(「年金は本当にもらえるのか」51頁)。

* * * * *

以上、2つの異なった見方をご紹介しました。

* * * * *

ところで、日本の金融資産(借金控除後のネットベース)の8割は「60歳以上が世帯主の世帯」が握ります(『こちら』)。

いまの若い世代がいかに社会インフラの恩恵を受けているとはいえ、派遣で給与も増えず、結婚しても子供も作れないという人も少なくありません。

若い世代が将来に希望を持てる社会 ― こうした社会を構築していかないことには、社会全体から活力が消えていって、「守り」の社会になっていってしまうことが懸念されます。

* * * * *

ただでさえシロウトには分かりにくい年金。

しかしながらあと40年もすれば全国民の約4割が65歳以上になります(『こちら』)。

公的年金に関する論争が切っ掛けとなって、われわれの年金に対する理解が一段と深まるとすれば、結構なことだと思います。

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