先ほどのブログ記事(『こちら』)にコメントを頂きました。
「岩崎さんは、積極緩和に賛成との立場ですか?反対との立場ですか?
私は、野口氏の言うように構造改革をしないと、潜在成長率が低いままで一時的に景気はよくなるかもしれないが、またすぐに戻ってしまうとの立場です。
よろしければ、お考えをエントリーください」
以下、思いつくまま、私の考えを書いてみました。
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この問題は、単純に「積極緩和はデフレに効くか」との質問に置き換えて考えてみるとよいと思います。
おそらく答えは「ある程度は効く」というものでしょう。
(注)「ある程度」とは控えめに言ったものですが、浜田教授の言うように「デフレは貨幣的な現象なので金融政策で解決できる」との主張(『アメリカは日本経済の復活を知っている』)には説得力があるように思います。現状超過準備に0.1%の金利が付くこともあり、金融機関が日銀に持つ当座預金残高が必要以上に積み上がり、市中に回っていかない(「マネタリーベースの増加」→「マネーサプライの増加」のルートに必ずしもなっていかない)という難しさもありますが、これもいろいろな金融政策手段を講じることによって相当程度解決可能だと思います)。
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現状を見ると、安倍政権になって株価は高くなり、円安にも向かって、企業経営者は一息ついています。
これがこの先、賃金上昇に向かうには時間がかかるのでしょうが、先日、あるゼネコン会社の社長の話を聞きました。
「すでに現場では職人さんの確保が大変になってきている」とのこと。
一部では日給を上げることも現実に起きています。
(注:もっともこれが財政支出によるものか、積極緩和によるものかは議論があるところです。市場全体ではおそらくは財政支出の影響の方が大きいのでしょう。しかしマンション建築を得意とするこのゼネコン会社の場合、財政支出よりもインフレ期待でマンション需要が活発化していることによる影響の方が大きいのかもしれません)。
もちろん野口さんの言うように「積極緩和は構造改革の力を弱める」ことも事実でしょう。
政府の借金や中央銀行の緩和で企業がeasy に利益を上げるようになれば、ゾンビ企業が蔓延り、本来望まれる価値の創造(イノベーション、生産性向上)への努力がおろそかになるかもしれません。
ただ日本の現状はどうでしょうか。
大学生が就活に忙しく、まともな学問が出来ない、あるいは若い人がいつまでも派遣社員待遇のため給与も低く結婚さえ出来ないという、いまの日本の状況をどうみるかという視点も私は必要だと思います。
要は、正しいことを言っていれば、それでいいという状況は「過ぎてしまった」のではないでしょうか。
積極緩和にはマイナス面も多々あるのは十分承知の上で、
「少しでも効果があるなら、副作用ある薬でも飲んでみた方がいい」
というのが私の意見です。
放っておいても、身体は悪くなるばかりですから・・。
もちろん野口さんの言うように構造改革は重要です。
しかし弱っている身体が再起不能になってしまっては手遅れだと思うのです。
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もうひとつ加えるとすれば、私は政府(役所)のいう成長戦略には懐疑的です。
昔MOF坦というのが金融機関にありましたが(注:いまでも形を変えてあるかもしれません)、大企業にもMETI 坦があります。
こうしたところに精力を傾けても市場からは乖離していきます。
そこから出てくる成長戦略にもあまり期待できません。
政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)では、民間議員から「政府が産業政策への関与を強めることに警戒する声が出た」とのことで、
楽天の三木谷浩史社長は記者団に対し「特定分野・産業への国家の資金の流入はモラルハザードを生むのではないか」と述べたと報じられています(『こちら』)。
政府(役所)主導の成長戦略よりも、
むしろ進めるべきは規制緩和。
先日、ある企業の社長と話していました。
合理主義者の彼はコストがかかるとして、黒塗りの社用車は全廃、自分もハイヤーさえ使いません。
移動にはもっぱら黒塗りのMKタクシーを利用しているのですが、海外出張の時、MKで成田に行けても、成田からの帰りに使い慣れたMKタクシーを使おうとすると利用できないと憤っていました。
千葉のタクシーを使わないといけない規制になっているのだそうです。
規制は競争を制限し、創意工夫の芽を摘みます。
既得権者だけが得をするという構図を改めないと他国との競争に負けていってしまうと思います。