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2013年3月30日 (土)

アベノミクスと高橋是清

前回の『経済学の本を読む』のブログ記事で何冊かの本を紹介しましたが、歴史的観点からアベノミクスにアプローチしようとしたのが、『こちらの寄稿文。

公研3月号「めいん・すとりいと」に収録されています。

著者の松元さんによれば、

『かつての井上デフレは旧平価での金解禁という円高とデフレ政策の併存であった。そして、その深刻な井上デフレから思い切った財政・金融政策によって日本経済を再生させたのが高橋是清の高橋財政であった』

        Photo_2_3

           高橋是清翁記念公園の是清像

なお松元さんは高橋是清に関する著作を何冊か書いており、このブログでも紹介したことがあります(『こちら』)。

        Korekiyo

彼の第1作、『大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清』 に続く2作目の『高橋是清暗殺後の日本』(第2章)には、「非伝統的金融政策」なるものが、戦前には高橋是清などによって一般的に行われていたことを説明しています。

『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』とよく言われますが、デフレ脱却に向けて戦前の先人たちがたどった道筋を現代的視点から学んでみるのも意味あることだと思います。

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2013年3月24日 (日)

経済学の本を読む

白川日銀総裁の退任会見(3月19日)。

翌日の日経新聞にかなり詳しく出ていました(『こちら』) 。

(問)グローバル経済では他国の政策の影響も無視できないが、学説は確立できていない。

(答え)私はもう教科書を書くエネルギーはないが、今の教科書には重要な章がいくつも抜けている。書き足す作業は若い学者や実務家にまかせたい。

* * * * *

ご存知の方も多いと思いますが、白川さんが日銀総裁になる直前に書いた教科書がこちら。

『現代の金融政策―理論と実際』

      Shirakawa

445ページの大著。値段も 6,300円もするので、買っても読まない恐れのある人は図書館で借りることをお勧めします。

* * * * *

さて日銀ですが、3月20日に黒田総裁以下の新執行部が就任しました。

このところタブロイドの夕刊紙にも日銀関連の記事がトップに踊っています。

街の本屋さんにも経済学や金融の本が並びます。

その中で幾つかご紹介すると:

浜田宏一 『アメリカは日本経済の復活を知っている』

私のブログでも何回か紹介しました(『こちら』『こちら』)ので、ここでは繰り返しませんが、この本の前半を読めば、アベノミクスが分かります。

       Hamada_3      

* * * * *

反対論も読んでおきたいところです。

野口 悠紀雄『金融緩和で日本は破綻する』

       Noguchi

この本はダイヤモンド・オンラインに2012年1月から11月にかけて連載された『経済大転換論』を基にしたもの。

本書の中で著者はデフレの要因のひとつに「新興国工業化」の影響を上げています。

そしてこれ(野口さんの主張)に対する反論として

「新興国工業化の影響は世界的なものであるから、日本だけが影響を受けるはずがない」

との主張を紹介して、この反論に対する反論を試みています。

具体的には本著135~141頁をご覧になって頂きたいのですが、米国がデフレに陥っておらずに、消費者物価が上昇しているのはサービス価格とエネルギー、農産物の値上がりがあったためと論じています。

そしてサービス価格の上昇の原因は家賃サービスの上昇、すなわち移民の流入であるとしています。

* * * * *

主要先進国の中で日本だけが長期にわたってデフレに苦しんできたのはなぜなのでしょうか。

上記の野口さんの説明に比して、日銀副総裁に就任した岩田規久男さんによるとこうなります。

「2008年秋口からの世界同時不況では、アメリカ、スウェーデン、スイスの三国は09年に6カ月から9カ月の期間デフレに陥った。

これら三国のうちスウェーデンは2%プラスマイナス1%のインフレ目標を設定している。

アメリカとスイスはインフレ目標を設定しないが、アメリカの中央銀行(FRB)はインフレ率が1%台に低下すると、「デフレになるリスクがあるが、FRBはデフレに絶対陥らないように、あらゆる手段をとる用意がある」と宣言している。

一方、スイスはインフレ率を2%以下に維持することを宣言しているが、「実際の消費者物価指数には上方バイアスがある(すなわち、統計上インフレ率が2%でも、実際のインフレ率はそれを下回る)」として、統計上のインフレ率の低下に対して慎重である。

これら三国はインフレに対して以上のような方針を宣言して、政策金利をゼロに設定し、徹底的な量的緩和を進めた(FRBは日本が2006年3月まで採用した量的緩和と区別して信用緩和と呼んでいるが、金融が量的に緩和するという点では変わりはない)。

その結果、アメリカは6カ月で、スウェーデンとスイスは9カ月で、デフレから脱却することに成功したのである」岩田規久男著『経済学的思考のすすめ』172~173頁)。

* * * * *

日銀副総裁に就任した岩田規久男さんは何十冊も本を出しています。

『経済学的思考のすすめ』は巷に出回っているシロウト経済学、俗流経済学をメッタ切りすることによって、経済学的思考を身につけようという本。

      Iwata_2 

たとえばハイパー・インフレについて。

「ハイパー・インフレをあおる人は少なくないが、それは日本には、デフレかハイパー・インフレしかないという極端な主張である。

現在の日銀の政策委員会メンバーに任せると、いったんインフレが起きると、ハイパー・インフレになるまで手をこまねいているしかなく、中期的に2%から3%のインフレを維持する能力がないというのであれば、その能力のある人に代えるべきである。

08年秋口からの世界同時不況にあって、アメリカ、イギリス、スイス、スウェーデンなどの中央銀行は市場からさまざまな資産を買い入れて、その保有資産を2倍から2.5倍に増やしたが、通貨の信認を失って、ハイパー・インフレになった国は一つもない。

むしろ、2%から3%のインフレの維持に成功しているのである。

それに対して、日本銀行の保有資産はリーマン・ショック後、最大でも10%程度しか増えていない。これでは、デフレから脱却することができないのは当然である」(岩田規久男著『経済学的思考のすすめ』175~176頁;注:この本は2010年10月に書かれたもの。現在では日本銀行の保有資産はもっと増えています)。

* * * * *

さて、この機会に日本経済全般について基礎から(手軽に)学んでおきたいという人には、こちらの本がお勧め。

塚崎公義『よくわかる日本経済入門』

               Tsukasaki

日本経済の問題を幅広く網羅していて図表も豊富。

「小泉構造改革は、一時的には景気にマイナスでも長期的な日本経済の活力になることを目指していたので、改革が景気を回復させたわけではありません。

景気回復の主因は、米国の景気拡大が続き、為替レートが円安で推移したため、輸出が伸びたことにあったのです」(本書53頁)

と明快です。

* * * * *

ちょっと毛色の変わった(失礼!)本としては、水野和夫、大澤真幸共著『資本主義という謎』

       Mizuno_2

水野さんは大阪経済大学大学院で現代日本経済特論を教えています。

(注:この講座は熊谷亮丸、水野和夫、西岡純子、そして私の4人が輪番形式で講義をするというスタイル。水野さんと私では180度違うので、受講生の方は混乱するか、かえって興味をもたれるのか・・)。

* * * * *

いずれにせよ私たち一人一人の資産を守り、より良い生活を送るためにも、経済に関して無関心ではいられません。

岩田規久男さんの言うように、日本ではシロウト経済学が花盛り(上掲書44頁)。

トンデモ本に時間やお金を費やすことなく、じっくりと勉強したいものです。

そういった意味でここでご紹介した本は、それぞれ主義や主張は違いますが、どれも一読に値する本だと思います。

* * * * *

ところでまったく別の話ですが、私のウェブサイトのデザインを変えました。

『こちら』です(今までと同じ写真が出てきた方はキャッシュメモリに残っているためなので、インターネットエクスポローラ上の更新マーク()を押せば新しいものに変わります)。

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2013年3月19日 (火)

キプロスショック

FXをやっていて基本「円安」になると賭けていた方は、急に円高になり一瞬にして証拠金を蒸発させてしまったかもしれません。

先週金曜日、銀行が閉じた後で、キプロス支援(およびこの関連でキプロスの銀行の預金者への課税案)が報じられました。

    Cyprus_2 

キプロスの預金者はATMに行って預金を引き出そうとしましたが、運よく引き出せた人は少数で、ほとんどの人は現金が枯渇したATMを見て、落胆しました。

月曜日(昨日)キプロスの銀行は一斉に休み。預金者にとっては実質的に「預金封鎖」の状況に。

火曜日(今日)には銀行は開くと報じられています(注:銀行がオープンするのは20日になるとの報道もあります)が、

「キプロスの銀行に預金している預金者も負担する」案が報じられています。

具体的には10万ユーロ超の預金については残高に対して9.9%課税される(要は押収される)、10万ユーロ以下は6.75%課税されるとの案です。

例えば1,000万円相当(8万1千ユーロ)の預金は(おろす間もなく)あっという間に67万5千円相当減らされ、9,325,000円相当にされてしまうということが起きようとしているということです。

キプロスの銀行の預金残高のうち、約半数はロシアの新興財閥(政権に密接な、オリガルヒと呼ばれる新興財閥群)などによる預金であるとも報じられていますが、いずれにせよ地中海に浮かぶ小さな島が世界の金融市場に予想以上の影響を与えることとなってしまいました。

    Cyprus2_2

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2013年3月15日 (金)

オトバンク

値段が高い(3,000円+税)ので、おそらく一般向けというわけではないのでしょう。

『ケースで学ぶ 実戦 起業塾』

冒頭(4頁)に出てくる「起業は決してギャンブルではない」という至言が目を引きます。

      Case

そしてこの本に出てくる最初のケース(『ケース1-1』)がオトバンクです。

* * * *

2004年に設立されたオトバンクは、非音楽の音声コンテンツにフォーカスしたサービスを提供する会社。

ウェブサイトは『こちら』です。

Oto

『ケースで学ぶ 実戦 起業塾』によると、この種の事業分野へは、

「少なくとも新規の企業で4社、株式公開企業の新規事業として2事業、出版社の関連事業として2事業がトライしている。

しかし、2010年7月現在、すでに半分以上の企業が撤退しており、残った企業の中でも、トップシェアを持つオトバンクと他社との差は大きく開いている」 (本書25-26頁)とのこと。

* * * *

ところで、オトバンクが提供する「新刊ラジオ」。

こちらで拙著「65歳定年制の罠」を取り上げて頂きました。

矢島雅弘さんの流れるような語り口が心地よく、ひじょうに楽しく聞くことが出来ます。

ぜひお聞きになってみてください。

『こちら』をクリックします。

Radio_2

するとこのページ(↑)が出てきますので、ラジオを聴くのボタンを押してみてください。

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2013年3月10日 (日)

ピーター・ドラッカーの意見

私の新作が先週末より書店に並びました(アマゾンは『こちら』)。

ご参考までに本の「はじめに」の一部を抜粋します。

* * * * *

いよいよ来月から日本ではサラリーマンの定年制度が変わり、65歳まで働けるようになります。「改正高年齢者雇用安定法」が施行になるからです。

しかしこれで安心できるのでしょうか。

かつて経営学者のピーター・ドラッカーは、

「65歳の定年退職が間違っていることは、だれの目にも明らかである」

と述べました。ドラッカーによれば、定年年齢として65歳が定められたのは、1世紀も前のビスマルク時代のドイツにおいてであり、これがアメリカに導入されたのは第1次大戦時であるとのことです。

「実際には、きわめて多くの高年齢者が、経済的にも心理的にも、たとえパートタイムであっても、65歳を過ぎてなお働くことを欲している」

ドラッカーはこう述べていますが、はたして日本の現状はどうでしょうか。

65歳を過ぎても「働かなくては経済的にやっていけない」、あるいは「働きたい」  ― こう考えている人が多いのではないでしょうか。

日本の場合「65歳定年時代」の幕開けは、実は年金支給開始年齢の引き上げに起因しています。

今までサラリーマンは60歳になると年金が受給できました。それがこれからは60歳になっても年金がもらえなくなります。だから再雇用により65歳まで働いてもらい、年金がもらえない期間をなんとかしのいでもらおう ― これが新制度の意味するところです。

もっとも日本のサラリーマンの現状は、「法律をつくって制度をいじれば何とかなる」という次元をすでに超えてしまっています。

そもそも60歳まで働けるかどうかさえ分からなくなってきているのです。

日本航空のような大企業でさえ経営破綻し会社更生法に追い込まれる時代です。日本電気、シャープなど、昨年1年間で63社の上場企業が早期退職者を募集。

募集人員は1万7000人を超えています。

会社に頼っていれば安泰という時代はとうの昔に過ぎ去ってしまっているのです。

もう30年以上も前になりますが、米国スタンフォード大学ビジネススクールに留学していたとき、教授の一人がこう語っていたのを思い出します。

「人間が生きていくのに必要なものは、家庭(home)だとか、健康(health)といった具合に、Hの言葉で表される。この中でもっとも欠くことができないもの。それは、希望(hope)だ」

これから先の人生に対する希望を失ってしまう ―。

村上龍の『55歳からのハローライフ』に収録された「キャンピングカー」という小説の一節に主人公がかつて大学のゼミをともにした仲間たちと定年後を語り合うシーンが出てきます。

「みんなこの先何もいいことなんかないって思っているんじゃないの」

何もいいことなんかない ― 実はこう思っているシニア世代が少なくないのです。

しかし・・・

* * * * *

ところで編集長のAさんが本書を読んで感想をメールで送ってくれました。

Aさんはわたしよりもずっと(?)若い別の出版社の編集長さんです。

以下、Aさんには無断で一部を抜粋します(Aさん、すいません。問題あるならこの部分削除しますのでご連絡ください)。

* * * * *

『いやはや、ここに書かれていることは他人事ではなく、先夜も同業者の友人と
「60過ぎたらどうしようか?」
と話していたところです。

・・無理矢理に選択肢を絞らずに、読者に自らの今後のことを緩やかに選ばせる雰囲気もこの本にはあって、とてもいい感じでした』

* * * * *

アマゾンにも「不思議なことにむしろ勇気の湧く一冊なのではないかと思います」との書評が載って(『こちら』)、著者としては嬉しく思います。

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2013年3月 9日 (土)

破竹の勢いの米国株

日本株が堅調なのはアベノミクスに加え、米国経済への期待が大きいことも影響しています。

昨日発表された米国の雇用統計。

失業率は7.9%(1月)→7.7%(2月)へと改善しました。

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     (10年間の失業率推移;出所:DOL)

3月5日に史上最高値を更新したダウはその後も上がり続け、今週1週間は「連日連騰」とまさに破竹の勢いでした。

Dow

      (今週1週間のダウ)

為替も96円になりましたので、米国株に投資していた人は株価と為替のダブルで収益を上げたことになります。

米国にしても日本にしてもこの勢いはいつまで続くのでしょうか。

ダウのPERは、12.7。

東証一部は、21.3。

日本株の方が期待先行の色彩が強く、企業業績がたとえ後追いであったとしても、きちんとついてくる(この先業績が良くなってPERが低くなる)ことがこれから重要になります。

ところで、WSJが面白い記事を掲載していました(『こちら』)。

米国企業の配当が史上最高のレベルに到達し、2013年は3,000億ドル(S&P500社)に到達するとのこと。

 [image]

 (出所:上述のWSJ記事)

米国の場合はこのように「好調な企業業績」とこれに伴う「多額の配当金」という裏付けのある株価上昇です。

それだけに、今のところこれといった大きな死角は見当たりません。

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2013年3月 8日 (金)

3月4日のヴェリタストーク

今週月曜日(3月4日)に日経CNBC「日経ヴェリタストーク」に出演したのですが、そのときの録画が日経新聞のサイトでご覧になれます。

『こちら』です。

3月4日の番組では、日銀の黒田新総裁候補が総裁就任後、どのタイミングで、どのような金融政策を展開するかについて議論しました。

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2013年3月 5日 (火)

6年前の景色

米国ではダウ平均株価が史上最高値に迫りつつあります。

一方の日本。

6年前の2007年6~7月(このときは安倍さんが総理を務めていました)。

日経平均は18,200円のレベルにあり、為替は1ドル=123円でした。

その後リーマンショックが2008年9月にあり、米欧の中央銀行は大胆な資産買い入れを実施、日銀はそれほどでもなかったことも一因となって、円高が進み、企業業績は悪化。

そして今年。

2月にトヨタは最近の為替などを勘案して決算の上方修正を発表。

今年度の営業利益見通しを1,000億円上乗せして、1兆1,500円としました。

「ようやく!」といった印象を持たれた方も多かったと思いますが、

2007年度の決算ではトヨタは営業利益2兆2,700億円を達成していました。

2007年にトヨタの株を1株8,000円で買って、その後の含み損に苦しんできた方も多いと思います。

アベノミクスが成功すれば含み損は改善していくようになります(しかし1ドル=123円ではさすがに欧米諸国、新興国の抵抗が大きいんでしょうね)。

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2013年3月 4日 (月)

日銀のBS(その2)

本日は衆議院で黒田総裁候補の所信聴取が行われました。

さて昨日の続き。

日銀が保有する国債119.9兆円のうち27.9兆円は国庫短期証券。

国庫短期証券と普通国債との関係ですが下記の表が分かりやすいです。

Photo_2

表はクリックすると大きくなります。

オリジナルは『こちら』

日銀が保有する国債は国庫短期証券を除けば、92兆円。

政府が発行し市場(日銀、民間銀行、その他)で保有されている普通国債の残高は3月末で709兆円と見込まれますので、日銀が保有するのは13%ということになります。

黒田総裁候補は衆議院で総裁に就任すれば、より長期の国債も購入対象とする(注:現状基金は残存1~3年のものを対象)ことを考える旨を発言。

それではそもそも709兆円の国債の残存期間はどのように散らばっているのかというと下記の通り。

Photo_5

表はクリックすると大きくなります。

オリジナルは『こちら』

これを見ると償還となっていない普通国債709兆円の6割以上が残存期間3年超であることが分かります。

基金はこの6割以上のところも対象に含めて購入していくべきというのが黒田候補の考えのようです。

白川総裁のもとでの日銀による資産購入計画を見てみましょう。

実は昨年の9月以降、日銀は資産購入を次のようなペースで強化してきました。

2012.9.19 +10兆円 これにより13年末の基金残高は80兆円。

2012.10.30 +11兆円 これにより13年末残 91兆円。

2012.12.20 +10兆円 これにより13年末残 101兆円。

黒田候補は現在の緩和策を十分でないと評価しましたが、3ヶ月で+31兆円の上乗せはかなりのハイペースであったと見ることもできます。

惜しむらくは、もう少し早めに取り掛かるべきであったのかもしれないことと、マーケットへの発信の仕方に工夫の余地があったのかもしれない―そんな印象を持ちます。

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2013年3月 3日 (日)

日銀のバランスシート

日銀のBS(バランスシート)についてはこれまでこのブログでも何度も書いてきました(たとえば『こちら』『こちら』)。

Boj_2

リーマンショック後BOEやFRBは資産を大幅に膨らませましたが、日銀はそれ以前の段階ですでに資産をかなり膨らませていたこともあって、「リーマンショック後の資産拡大」は他の中央銀行ほどではなかったわけです。

* * * * *

このことの評価は経済学者に任せるとして、市場の関心は今月20日以降の黒田新総裁をはじめとする日銀の新執行部のもとでの金融政策がどういったものになるかに移っています。

ここではまず現時点での日銀BSを見ておきましょう。

日銀のBSは「営業毎旬報告」で見ることが出来ます。

最近時のものは今年2月22日に発表された2月20日現在の数字。

『こちら』です。

(以下、単位は千円;下記はクリックすると大きくなります)

Bs1_2

Bs2

ここで国債120兆円は日銀券残高82兆円より多いではないかとの疑問がわくかもしれません。

日銀が保有する長期国債の残高を日銀券発行残高以下に抑えるとの「日銀券ルール」はどうなったのかという疑問です。

実は上記の国債残高には国庫短期証券を27.9兆円含んでおり、これを除く長期国債は92兆円です。

さらにこの92兆円のうち26兆円は「資産買入等の基金」で買い取ったものですので、66兆円が、国債買い入れオペ(旧名・輪番オペ;年間21.6兆円)で買い取った国債ということになります。

つまり、66兆円<82兆円ですので、日銀のロジックによれば日銀券ルールは守られていることになります。

(注)資産項目中の「国債」の内訳は、下記の長期国債、国庫短期証券に基金の長期国債、国庫短期証券を加えたもの

Bs3

「資産買入等の基金」の内訳

Bs4_2 

* * * * *

次に「資産買入等の基金」残高の推移と今後の資産積み上げ目途を見てみます(『こちら』です)。下記の図もクリックすると大きくなります。

Photo_2

これによると基金の残高は2011年12月末の42兆円から2012年12月末は67兆円へと、25兆円増加しました。

現行プログラムでは13年末は101兆円ですので、昨年末比、更に34兆円増加させることになっています。

* * * * *

さて現在のマーケットの関心事は、期待インフレ率2%を醸成させるために今度の日銀新執行部がどの程度、追加で資産を増加させると考えているかです。

これについてはこれから先もう少し報道されるようになってくるでしょうが、岩田規久男次期副総裁候補によれば、(あくまでも試算ですが)「日銀は当座預金残高を、現在の約44兆円の2倍となる80兆円くらいまで増やさないといけない」(『こちら』)とのこと(注:日銀当座預金残高推移は『こちら』)。

当座預金残高が2倍というとかなりのインパクトに感じますが、2012年12月末の当座預金残高は47兆円でしたので、80-47=33兆円。

つまりあと33兆円です。

これは実のところ現行プログラムの基金増加ペース(今年末は昨年末比34兆円)とあまり変わらない数字です(基金の残高増加が全額当座預金残増を見合いとするわけではありませんが・・)。

もちろん「現行プログラムとあまり変わりない」ということではマーケットは納得しませんので、新執行部は現行プログラムを上回る大胆な緩和策に4月中(4月は3-4日と26日の2回、政策決定会合が開催されます)にも打って出ることが予想されます。

その中身がどういったものになるのか、マーケットはアベノミクスの最初の試金石を固唾を呑んで見守ることになります。

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ダウ史上最高値更新になるか

米国ダウ平均株価の史上最高値(引値ベース)は、2007年10月9日につけた14,164.53ドル(取引時間内では同月11日の 14,198.10ドル。)

一昨日(3月1日)の引値が、14,089.66ドルですので、あと75ドルのところまで来ています。

ポイントは今週金曜日(8日)に発表になる2月の雇用統計(『こちら』を参照)。

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