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2013年3月24日 (日)

経済学の本を読む

白川日銀総裁の退任会見(3月19日)。

翌日の日経新聞にかなり詳しく出ていました(『こちら』) 。

(問)グローバル経済では他国の政策の影響も無視できないが、学説は確立できていない。

(答え)私はもう教科書を書くエネルギーはないが、今の教科書には重要な章がいくつも抜けている。書き足す作業は若い学者や実務家にまかせたい。

* * * * *

ご存知の方も多いと思いますが、白川さんが日銀総裁になる直前に書いた教科書がこちら。

『現代の金融政策―理論と実際』

      Shirakawa

445ページの大著。値段も 6,300円もするので、買っても読まない恐れのある人は図書館で借りることをお勧めします。

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さて日銀ですが、3月20日に黒田総裁以下の新執行部が就任しました。

このところタブロイドの夕刊紙にも日銀関連の記事がトップに踊っています。

街の本屋さんにも経済学や金融の本が並びます。

その中で幾つかご紹介すると:

浜田宏一 『アメリカは日本経済の復活を知っている』

私のブログでも何回か紹介しました(『こちら』『こちら』)ので、ここでは繰り返しませんが、この本の前半を読めば、アベノミクスが分かります。

       Hamada_3      

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反対論も読んでおきたいところです。

野口 悠紀雄『金融緩和で日本は破綻する』

       Noguchi

この本はダイヤモンド・オンラインに2012年1月から11月にかけて連載された『経済大転換論』を基にしたもの。

本書の中で著者はデフレの要因のひとつに「新興国工業化」の影響を上げています。

そしてこれ(野口さんの主張)に対する反論として

「新興国工業化の影響は世界的なものであるから、日本だけが影響を受けるはずがない」

との主張を紹介して、この反論に対する反論を試みています。

具体的には本著135~141頁をご覧になって頂きたいのですが、米国がデフレに陥っておらずに、消費者物価が上昇しているのはサービス価格とエネルギー、農産物の値上がりがあったためと論じています。

そしてサービス価格の上昇の原因は家賃サービスの上昇、すなわち移民の流入であるとしています。

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主要先進国の中で日本だけが長期にわたってデフレに苦しんできたのはなぜなのでしょうか。

上記の野口さんの説明に比して、日銀副総裁に就任した岩田規久男さんによるとこうなります。

「2008年秋口からの世界同時不況では、アメリカ、スウェーデン、スイスの三国は09年に6カ月から9カ月の期間デフレに陥った。

これら三国のうちスウェーデンは2%プラスマイナス1%のインフレ目標を設定している。

アメリカとスイスはインフレ目標を設定しないが、アメリカの中央銀行(FRB)はインフレ率が1%台に低下すると、「デフレになるリスクがあるが、FRBはデフレに絶対陥らないように、あらゆる手段をとる用意がある」と宣言している。

一方、スイスはインフレ率を2%以下に維持することを宣言しているが、「実際の消費者物価指数には上方バイアスがある(すなわち、統計上インフレ率が2%でも、実際のインフレ率はそれを下回る)」として、統計上のインフレ率の低下に対して慎重である。

これら三国はインフレに対して以上のような方針を宣言して、政策金利をゼロに設定し、徹底的な量的緩和を進めた(FRBは日本が2006年3月まで採用した量的緩和と区別して信用緩和と呼んでいるが、金融が量的に緩和するという点では変わりはない)。

その結果、アメリカは6カ月で、スウェーデンとスイスは9カ月で、デフレから脱却することに成功したのである」岩田規久男著『経済学的思考のすすめ』172~173頁)。

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日銀副総裁に就任した岩田規久男さんは何十冊も本を出しています。

『経済学的思考のすすめ』は巷に出回っているシロウト経済学、俗流経済学をメッタ切りすることによって、経済学的思考を身につけようという本。

      Iwata_2 

たとえばハイパー・インフレについて。

「ハイパー・インフレをあおる人は少なくないが、それは日本には、デフレかハイパー・インフレしかないという極端な主張である。

現在の日銀の政策委員会メンバーに任せると、いったんインフレが起きると、ハイパー・インフレになるまで手をこまねいているしかなく、中期的に2%から3%のインフレを維持する能力がないというのであれば、その能力のある人に代えるべきである。

08年秋口からの世界同時不況にあって、アメリカ、イギリス、スイス、スウェーデンなどの中央銀行は市場からさまざまな資産を買い入れて、その保有資産を2倍から2.5倍に増やしたが、通貨の信認を失って、ハイパー・インフレになった国は一つもない。

むしろ、2%から3%のインフレの維持に成功しているのである。

それに対して、日本銀行の保有資産はリーマン・ショック後、最大でも10%程度しか増えていない。これでは、デフレから脱却することができないのは当然である」(岩田規久男著『経済学的思考のすすめ』175~176頁;注:この本は2010年10月に書かれたもの。現在では日本銀行の保有資産はもっと増えています)。

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さて、この機会に日本経済全般について基礎から(手軽に)学んでおきたいという人には、こちらの本がお勧め。

塚崎公義『よくわかる日本経済入門』

               Tsukasaki

日本経済の問題を幅広く網羅していて図表も豊富。

「小泉構造改革は、一時的には景気にマイナスでも長期的な日本経済の活力になることを目指していたので、改革が景気を回復させたわけではありません。

景気回復の主因は、米国の景気拡大が続き、為替レートが円安で推移したため、輸出が伸びたことにあったのです」(本書53頁)

と明快です。

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ちょっと毛色の変わった(失礼!)本としては、水野和夫、大澤真幸共著『資本主義という謎』

       Mizuno_2

水野さんは大阪経済大学大学院で現代日本経済特論を教えています。

(注:この講座は熊谷亮丸、水野和夫、西岡純子、そして私の4人が輪番形式で講義をするというスタイル。水野さんと私では180度違うので、受講生の方は混乱するか、かえって興味をもたれるのか・・)。

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いずれにせよ私たち一人一人の資産を守り、より良い生活を送るためにも、経済に関して無関心ではいられません。

岩田規久男さんの言うように、日本ではシロウト経済学が花盛り(上掲書44頁)。

トンデモ本に時間やお金を費やすことなく、じっくりと勉強したいものです。

そういった意味でここでご紹介した本は、それぞれ主義や主張は違いますが、どれも一読に値する本だと思います。

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ところでまったく別の話ですが、私のウェブサイトのデザインを変えました。

『こちら』です(今までと同じ写真が出てきた方はキャッシュメモリに残っているためなので、インターネットエクスポローラ上の更新マーク()を押せば新しいものに変わります)。

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